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35位の青春  作者: wizard-T
9/9

エピローグ

「おいしいですねこれ」

 治郎はマイペースで麺を口に運んでいる。どんなに空腹でも僕らみたいにがっついたりせず、きっちりバランスの取れたペースで食事をしている。

「渉二君、どうですか」

「うまいなこれ」

 そして渉二は淡々と麺をすすっていた。真っ赤なカウンター席が際立つラーメン屋で、いかにも体育系な男二人といかにも学級委員長的な優等生っぽい男一人が座を囲んでいると言う構図はどうにもミスマッチだ。いや僕ら2人はともかく、治郎と言う存在をこのお店がお客として想定しているか否かと言ったら多分否だっただろう。

 渉二の目は赤かった。おそらく、あの時泣き放題に泣いたのだろう。でも同じく泣いたはずの僕の目は、大して赤くなっていなかった。


 あれからひと月が経つ。区間15位、総合16位。それが僕と東京地球大学が残した数字だった。この記録は永遠に消えない。そして同時に、渉二と倭国大学が残した区間20位、総合19位と言う数字も永遠に消える事はない。とは言え、これで何もかもおしまいな訳じゃない。

「亘……」

「3年後、続けるにせよやめるにせよ、とりあえずはやってみようじゃない。新しい戦いは今日から始まってるんだ。何か困った事があったら言ってくれよ、僕と浅野ができる範囲で何とかするよ」

「じゃあそのなるとくれよ」

「ああいいよ」

 僕の丼からなるとを箸で取って行く渉二の顔は、高校時代の時のそれと何も変わっていなかった。目から赤さも取れ、本当にかつての渉二に戻っていた。ひと月前のちょうど今頃見た、高校のユニフォームを着ながら僕を置き去りにして行く渉二と。僕にも渉二にも、まだまだ時間はある。むしろこれからが勝負だ。

「にしてもねえ、亘君も本当にラーメンが大好きになったんですねえ、うちの大学がゴールする直前にこんな物をよこして来るなんて」

「まあまあ、個人的な戦いが終わった直後だったし、何がしたいかと考えたらね」

 僕が1月3日浅野によこしたメールの入ったスマホを、薄笑いを浮かべながら右手に握りしめて僕らに見せつける浅野に釣られるように、渉二もまた笑った。僕も大声で笑った。おすすめの店だよと言いながら、この1年間でこれが3回目の来店だと言う事をごまかすついでに。まあ、今日の事もあったから今後はお金があればもっと通おうと思いたくなったけど。

 木目の目立つ壁に隅っこに置いてある、タイトルしか知らない様な漫画本の並んでいる棚。そんな中で食べるラーメンは、とりあえず実にうまい。来年もまた、この店で食べたいと思った。できれば3人一緒に。ダニエル先輩も神原監督もなしで、3人だけで。

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