ついに出会ってしまった二人②
前川花香里は落とした注文用紙を慌てて拾い、顔を赤くしながら続けて言った。
「そそそそれに、隣の方はどちらかしら? 彼女? 彼女なのね。そう、いい気味じゃない! リ・ア・充!」
「違いますよ。こいつは胡桃沢麻希、後輩です」
「そんな嘘には騙されないわ……! リア充はすぐそう隠したがるのよ。なに? 私みたいなぼっちに気でも使ってくれているの? ありがとうね!」
なぜか先輩は目に少し涙を浮かべている。なぜだ、俺と胡桃沢はただの先輩後輩という関係だと説明したはず。それに、もし彼女だろうが先輩にはなんの影響もないはずなんだけどな。
「いやいや、信じてくださいよ。ほんとにそんな関係じゃないんですから!」
「そ……そう。なら信じましょう」
やっと先輩が信じてくれた直後だった。麻希がとんでもないことを言いやがった。
「いえいえ、先輩は私と付き合う予定ですよ! このカフェのいい雰囲気を味方につけて告白するつもりでした」
え? 告白するつもりでしただと? いやいやなにサラッとえげつないこと言ってるんだよ後輩ちゃん! というか最近グイグイきてないか。少し前まではそういうオーラはバンバン出てたけど言葉にはしてなかっただろ。
俺が脳内で色々考えていると
「この男はやめておきなさい! この男は妹とデキているという噂がたっているの。そんな男と付き合うのは危険よ」
「ええぇぇ!? 先輩まで何言ってるんですか? そんな変な嘘教えないでくださいよ! 俺は妹に手は出していないですよ。というかなんで妹がいるって知っているんです?」
「それは学校にいる情報通が教えてくれたの」
でたよ情報通! 今度依頼しようと思ってたけど絶対にしてやらん。変な嘘を校内で流しやがって。
いや、待てよ。俺に妹がいるって知っているのは凪咲だけなはずだ。あいつが情報通なのか? いや、違うと思うが……。どっちにしろ凪咲がこの噂に関わっていることは明白だろう。今度会ったら洗いざらい吐かせてやる。
「情報通の言っていることなんて信用しないでくださいよ。ほら、麻希も信じるんじゃないぞ」
一応先輩と麻希には釘を刺しておいたから大丈夫だろう。
「あら? 橘くんは胡桃沢さんのことを下の名前で呼ぶぐらい仲がいいのね。それはそうだわ、だって2人でカフェに来るぐらいだもの」
心なしか先輩が怒っているように見える。どうしてだ。今の発言に先輩が怒る要素はなかったはずだ。情報通関連のことでは怒らないだろう。なら、麻希と呼んでいることか? いや、それに先輩が怒る理由はないはずだが。
そういえばさっきから麻希が静かだ。そのことを疑問に思い、麻希の方を見ると、先輩と睨み合いをしていた。無言の威圧だ。
いやいや、待ってくれ。どうして麻希まで怒っているんだ。先輩が怒る理由も分からないが、麻希が怒っている理由はもっと分からないぞ。というか、こいつらの喧嘩の仕方怖すぎだろ! まだそこら辺のヤンキーの喧嘩の方がマシだぞ! 言葉を交わす喧嘩よりも交わさない喧嘩の方が怖いって。この空気の中でいるのは胃痛だからやめてくれ。
「先輩が私のこと下の名前で呼んだらいけないんですか? あなたには関係ないことじゃないですか?」
「かっ、関係なくなんかないっ!」
痛いところを突かれたのか先輩はさっきよりも多い涙を目に浮かべ、子供のように反論している。
「どこが関係なくなんかないんですか?」
「そっ、それは……その、そんなのずるい……」
「ずるい!?」
俺がそう言うと先輩は凄いことを言ってしまったことに気付いたようで口を抑え、顔を真っ赤にしている。
かくいう俺は、もう少し傍観者になってやろうと思っていたが、あまりの衝撃に口を挟んでしまった。ずるいってあのずるいなのか。あの他人のことが羨ましい時とかに使うあの? マジですか先輩。あなたも麻希と同じなんですか。
俺に好意を持っているんですか!?
「あの、先輩? もしかして俺のことが好きとか……」
「そそそそうよ! 私は橘くんが好き、いや、大好きなの! 悪いかしら!?」
「いや、悪くはないですよ。人から好かれるのは悪くないですし」
「え……まさかのライバル出現ですか? そうならないように早めに告白しようと思ってたのに……。で、でも先輩は私が貰います!」
やめろ麻希。
そんな言葉で刺激したら……
「いいえ、橘くんを貰うのは私です!」
麻希がそう言ったらそう言ってくるに決まってるだろ。誰が目の前で好きな人を貰う宣言されて黙って見過ごすかよ。
その後も少しの間、2人は言い合っていた。これ以上2人が争っているのを見るのが心が痛む。俺自身は悪くないが、原因は俺にある。そこで俺はある解決策を持ちかけた。
「なら先に俺を落とせた方が俺を貰う権利を得ることにしよう。期限は1年。どうだ?」
俺が問いかけると
「それでいいでしょう、先輩と付き合えるのなら!」
「私もそれでいいわ。橘くんは渡さないから」
2人は承諾してくれたようだ。
俺は本気で2人と付き合う気はない。誰かを幸せにすることなんて俺にはできない。だからこれは時間稼ぎだ。いくら恋愛をしたくないからといって2人を傷つけることはしたくないからな。
しかし、どこかで2人に期待しているところもある。この2人なら……俺を変えてくれるんじゃないか。
こうして、あざとい後輩とキツい先輩にサンドイッチされる日々が始まった。
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やっとタイトル回収できました…