初デートに事件はつきものです。
先日の昼休みの惨劇から3日。今日は胡桃沢とデートだ。デート場所は知らない。胡桃沢は『私が誘いましたから私がデート場所を決めるのは当然です!』と、何故か胸誇らしげにドヤ顔をしていた。まぁその理論は間違ってはいないだろう。あれだよ、あれ。晴れて付き合った時に、告白した方がリードしなきゃいけない気になるあれ。
そんな恋愛あるあるに自分で共感していると、現在時刻は11時。あれ? 集合時間は11時のはずだが……。
前に友達複数人と胡桃沢で遊びに行った時は15分前には来るような奴だったから、遅れるなんてことはないはずなのだが。しかも俺とのデートだし。
胡桃沢が集合時間になっても来ない事に疑問を抱いていると、ふと駅の方が騒がしいのに気付いた。聞こえてくる声から察するにガラの悪いヤンキーが女子高生に絡んでいるようだ。
ん? 女子高生? まさかまさかまさか胡桃沢が絡まれてたりして……
何故だか分からないがとてつもなく嫌な予感がする。俺には他人の危機を察知するとか、周りの空気の流れを読むなんて超能力はないはずだがこの予感は明らかにおかしい。まるであの時のような……
嫌な予感に身体を操られているかのように俺は走り出した。どうか無事であってくれ胡桃沢。まさかお前なわけがないよな? ただ寝坊してるだけだろ? お前にしてはおっちょこちょいな事だ。
一一だんだんと声のする場所に近づいてきた。よし、もう少しだ。
声のする場所に辿り着いた俺の目に映ったのは…
「ちょっとやめてください。はなしてください。私は今から先輩とのデートなんです」
この声の主を俺は知っている、胡桃沢だ。おいまじかよ。どうやら嫌な予感は当たってしまったようだ。
胡桃沢はヤンキー4人に囲まれていた。1人目のヤンキーはよく映画とかドラマで見るような釘バットを武装していた。うわぁ、痛そう…。
2人目はメリケンサック。メリケンサックなんて武装して、警察に捕まらないのか?あんなの某格闘ゲームでしか見たことないぞ…。まぁ格闘ゲームでもあんなの反則だけどな。
3人目はナイフ。形状から見てよく凶器に使われる果物ナイフだな。
4人目は素手。このメンツの中で素手というのは逆に強キャラ感が漂ってくるぜ。
さて、どうしたものか。胡桃沢を助けないという手はない。どうにかして絶対に助け出す。しかし相手は武装したヤンキー3人(+1人)だ。一筋縄ではいかないだろう。うーむ……。
俺が悩んでいるとヤンキーの1人が胡桃沢の腕を掴んだ。
「きゃっ、やめてください! 私の全ては先輩にあげるんです。だから…んだから……」
胡桃沢は今にも泣き出しそうな声で……
その瞬間俺はそのヤンキーの元に走り出していた。俺は別に喧嘩が強いわけでも、何か格闘術を習っているわけでもないので正直怖い。今にも逃げ出したいぐらいだ。
でもよ、自分の事をこんなに思ってくれている女の子が目の前で困っているのに、助けない男はいないだろ?
そして俺はそのヤンキーを不意打ちで殴った。
「お前らぁぁ! 俺の後輩に何してくれてんだ! 絶対に許さないからなぁ!」
「先輩! 怖かったよぉぉ。先輩なら絶対に助けてくれるって思ってましたぁぁ」
俺に会えて安心したのか胡桃沢は泣き出してしまった。とても怖かったのだろう。しかし胡桃沢、そんなに俺に期待してくれるなよ。
俺はまた1発、素手のヤンキーにパンチを繰り出す。俺は力が特別強いわけでもないので溝落を狙った。そして命中。そのまま素手のヤンキーは倒れ込んでしまった。
あれ? 強キャラ感がしていただけかよ。とんだ雑魚キャラじゃないか。
そんな事を考えていると釘バットのヤンキーが襲いかかってきた。
「なんだぁお前。俺達の仲間に手出しやがってよぉ。俺達キレちまったわ。無事に帰れると思うなよ?」
などと、雑魚キャラが言うセリフ第一位を言いながら釘バットを俺の肩めがけて振り下ろしてきた。
やっべぇ。流石にこれは避けないと肩が一生使えなくなるかもしれない。正直よけられるかは分からないが俺は右に走ってみることにした。
すると、すんなり釘バットを避ける事ができた。なんだこいつら、実は喧嘩慣れしていないのか? それならそれで都合がいい。こちらから行かせてもらうぞ!
「俺の後輩に手を出して置いて、お前らこそ無事に帰れると思うなよ!」
俺はまたしても溝落にパンチをお見舞いした。しかし、釘バットのヤンキーは苦しんではいたが、さっきの素手の奴のようには倒れなかった。
「ならばこれをくらえ!」
俺は急所にキックをお見舞いした。流石にこれは堪えた様で、釘バットのヤンキーはその場に倒れた。よし、後はメリケンサックと果物ナイフか。次はメリケンサックにしよう。ターゲットを決めると俺は目にも止まらぬ速さで走り出した(後日、胡桃沢が言っていたが目にも止まらぬ速さではなかった)。
まずは相手を眩ませる為に顔を殴った。そして相手が怯んだ隙に急所に飛び膝蹴りを2発お見舞い! メリケンサックのヤンキーはその場に倒れ込んだ。すまんなメリケンサック。その、あれだ。とても痛かっただろ?
とうとう後は果物ナイフのヤンキーだけになった。果物ナイフは今までの武器に比べて殺傷力が高いから気を付けなきゃな。
「いざ尋常に、勝負!」
まずはさっきしたように顔を殴った。果物ナイフのヤンキーは少し痛がっていたようだが、さっきの奴ほどは効いていないようだった。
次に溝落に蹴りを3発入れた。蹴った時に思ったのだがこの果物ナイフはかなり体を鍛えている様で、全く効いていなかった。
やばいな。こいつ、強い。こんなに鍛えているのなら素手の方がいいだろうに。なんで果物ナイフなんだ? 俺がそんな事を考えていると横から胡桃沢の叫び声がした。
「先輩、危ない!」
その声と同時に果物ナイフのヤンキーの
「死ねぇぇぇぇ!!」
という叫び声が聞こえてきた。
「え?」
次の瞬間、果物ナイフが俺の腹を捉えた。そしてそのまま俺の腹に貫通した。
「おいおい嘘だろ? まだ俺の人生短いんだぞ。こんなところで死ぬなんて……」
腹からの大量の流血によって俺の意識は遠のいていく。
あぁ、俺は死ぬのか。ふとこんな事を思った。
「先輩! 嫌です! 死なないでください!」
薄れゆく意識の中、泣きながら駆け寄ってきた胡桃沢が目に入った。
「馬鹿な奴だな、泣いたらせっかくの可愛い顔が台無しだろうが」
言い終えた途端にいきなりヤンキーの『グハッ』という声が聞こえた。
「ねぇ、こんな場所で死ぬなんて嘘だよね、恭助」
その声の主は俺の一番の、最高の親友だった。
俺はそのまま意識を失った。
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