『ばっ、ばかぁ』だと?この先輩っ、可愛い。
次の日、俺は学食で買ったパンをどこで食べようか迷っていた。普段は友達と中庭で食べているのだがその友達が休みで、仕方なく1人で教室で食べようと思って戻ると知らない女子達が俺の机を陣取って駄弁っていた。おい、ふざけんな女子共! 俺はどこで食べればいいんだ?
数分間色々な所を見て回ったがどこも空いていなかった。はて、本格的にどうしようか。流石に昼ご飯を食べないとやっていけないぞ。
ふと、胡桃沢の事が浮かんだが昼ご飯の邪魔をするのは少し気が引ける。うーむ、どうしたものか。
そういえばクラスの奴が屋上が開いているという話をしていたな。この学校『私立小此木山高校』の屋上は立ち入り禁止になっている。昔は開放していたようだが、PTAから苦情を言われたらしく閉鎖されていた。
しかしそいつの話によればここ最近誰かが鍵を作ることに成功し、開いたらしい。誰だよ、その天才。マジグッジョブ。
その話を信じ、最後の賭けをしてみることにした。ここが無理だったらトイレで食べよう。
一ーふぅ、ここが屋上へ続くドアだ。よし! 開けるぞ俺! いかなる結果になろうとも全てを受け入れるのだ!
ドアノブに恐る恐る手をかけてみるとドアノブが動いた。そしてそのまま奥に押しやると、開いた。
「うおぉぉぉ! よっしゃー! これでやっと昼ご飯が食べれるぜ! ありがとう知らん奴!」
俺は湧き上がる興奮を抑えることが出来ず、叫んだ。かなり大きな声で。
そして、食べようと思い目の前を見た瞬間、綺麗な黒髪が目の前で靡いた。
やっべぇぇーー。人居たよ、そりゃそうだよな。噂になってるぐらいだもん! 俺が10秒前の行動を後悔しているとその綺麗な黒髪の主が口を開いた。
「あら? うるさい男が来たものね。私が食べている途中にそんな貧相な声で叫ばないでくれるかしら。耳に毒よ、毒」
おいおいおい。流石に叫んだ俺も悪いと思うけどさ、毒は無くないか? 毒は! せめて耳が痛いからとか、少し静かにしてくれませんかとかあるだろ。なんだよ毒って、冷酷な人だなぁ。見た目からして先輩かな? 後輩のような幼さはないし、同級生でこんな人はいなかった気がするし。
「あはは……、すみません。昼ご飯を食べる場所が無かったので見つかって嬉しくてつい……」
「昼ご飯を食べる場所が見つかったぐらいであんなに叫んでたの? おめでたい人ね。いや、残念と言った方が正しいかしらね、頭が」
あれ? 今とても辛辣なワードが聞こえた気が? ま、まぁ今回の件は俺にも非があるだろうし快く受け止めよう。アドバイスなんだ、これは。そうだろ?
「ま、まぁそれは置いといて。先輩はなぜこんな場所で1人で食べているんです?」
1人でここに食べに来た俺が聞くような質問ではないと思うが、気になったから聞いてみることにした。すると、彼女は持っていた箸を落とした。気のせいか頬も少し紅くなった気がする。
「なななななななんでもいいじゃない! 私は静かな場所で食べたいだけよ!」
ははーんさてはこの先輩、ぼっちではなかろうか?
「先輩そんなに動揺しちゃってどうしたんですかぁ? もしかして先輩って所謂ぼっちだったりしますぅ?」
俺が少し煽ったような口調で言うと彼女は目に少し涙を浮かべ、顔を耳まで真っ赤にして答えた。
「ばっ、ばかぁ。私がぼっちなわけないじゃない! 私はただ心から分かり合える友達がいないだけなのよ!」
だからそれをぼっちと言うんでしょう先輩。それにしても今の『ばっ、ばかぁ』は男心になかなかくるものだったな。胡桃沢の『せーんぱいっ!」にも勝らずとも劣らずって感じだ。
「冗談ですよ先輩。少しからかっただけですって。あ、自己紹介がまだでしたね。俺は2年の橘恭助です。先輩は?」
「からかうのはやめてください橘くん。私は前川花香里です。以後お見知り置きしなくて結構です。橘くんとは会うつもりはないので、一生」
「あはは」
先輩があまりにも紅い顔で言うので笑ってしまったじゃないか。
「面白い冗談ですね。普段もこんな調子だったら先輩もぼっちにならなくて済むんじゃないですか?」
俺が気を使って(というよりもからかって)アドバイスをすると先輩は
「だから私はぼっちじゃありません!」
と頬を膨らませた。
多分誤字脱字はないと思います…