お嬢様って大体護衛に連れていかれる
先輩と本屋に行く約束をした放課後までの時間はあっという間に流れた。
流れたと言っても俺は授業はほとんど寝て、試験前夜に一夜漬けするタイプだからいつものことなんだが……。
俺のクラスのSTが終わると、外でずっとスタンバってたのかと思わざるを得ないような速さで先輩が俺の席にやってきた。
「はぁ…はぁ…さぁ、行くわよ」
心無しか息が上がっているように見える。まさか自分の教室からここまで走ってきたのか?
あの本はそれほど大切な本だってことなんだな。それにしても少々汗もかいていて艶かしいな……。
「あまり本屋は詳しくないので先輩が行きたい本屋でいいですよ」
「そ、そう?なら隣町にオススメの本屋があるからそこに行きましょう」
「それは全然構いませんけど本屋なら近くにもあるはずでしょう? なんでわざわざ遠くまで?」
俺が純粋に不思議に思い、質問すると先輩は聞き取れるギリギリの声量で少し照れながら
「だって……そのほうが長く一緒にいられるから……」
「ふぅん……ま、俺は暇なんで全然いいんですけどね」
「あら? 放課後に遊ぶような友達がいないなんて可哀想な高校生活ね」
先輩に言われたくないんだが……と思いつつも、言葉にしたら可哀想だと思い口を紡ぐことにした。
「まぁ橘くんの高校生活の話なんてどうでもいいのよ。早くしないと日が暮れちゃうから急ぎましょう」
隣町までは意外と距離があり、徒歩ではとてもじゃないが時間がかかってしまうので、俺たちは電車で行くことにした。
電車だと15分ぐらいか。
電車の中で沈黙が続くと辛いので、俺は疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
「そういえば、なんで先輩がお嬢様向けとかいうどの層狙ってるのかよく分からないような本読んでたんですか?」
「うぇっ!? なんでその事知ってるの! まさかあの後見たの……!?」
「そ、そのまさかですが……」
そんなに動揺することもないはずなんだが……
「ま、まぁ橘くんには知ってもらっていてもいいかもしれませんね。いや、逆にそっちの方が好都合かも」
「は、はぁ?」
「実は私、前川グループっていうある程度名の知れたグループの次期トップなのよ。所謂お嬢様っていうやつね」
「はぁ?」
先輩が? お嬢様だと? しかし、前川グループってやつは聞いたことがある。
確か、お菓子メーカーから始まり、今では様々な事業に手を出しては成功しているっていう日本有数のグループだったはず。
先輩がそこのお嬢様だなんていきなりは信じにくいが、確かに今までの落ち着いた(というよりも冷たい?)から見てもそう言われても不思議じゃない。
「まだ正直信じきれませんけど、先輩は冗談言うようなタイプじゃないですよね」
「そうよ。前川グループたる者嘘をつくな、真実を話せってのが家の家訓でね」
「まじかぁ、お嬢様の彼氏とかなったとしたら荷が重すぎるんですが……」
てことは付箋の貼ってあった『令嬢たる者、己に相応しき人物を婿に取れ』って完璧に俺をその婿にしようとしてるじゃないですかー。恥ずかしいじゃないですかー。
「な、なによ! そこまで言わなくてもいいじゃない!」
「言いすぎたかもしれないですね、そこは謝っておきます。すみません」
「いきなり素直になられるとこっちが悪いことした気分になるわ」
お嬢様かぁ、凡人の俺ら一般人からすれば憧れの的だが、お嬢様はお嬢様なりに苦労するんだろうな。
「あ、そういやお嬢様とかなら護衛みたいなのっていないんですか?」
「護衛? 護衛はいるけど登校する時だけなの。下校の時はある程度自由を与えられているのよ、GPSで位置は知られてるけどね」
「へぇ、やっぱりそういうところはきちんとしているんですね。というかお嬢様みたいな人が一般人の男と出掛けて大丈夫なんですか?」
「多分ダメね、お父様が異性の交友関係には厳しい人なの。でも、位置情報だけじゃ流石に気付かないでしょ。盗聴器でもない限りね」
そう言う先輩の制服の襟が少し光った。俺は少し気になり
「先輩、ちょっと止まっててもらってもいいですか」
そう言って先輩に近づいて襟に向かって手を伸ばす。
「えっ、えっ? 橘くん、こここういう事は人目のつかないところの方がいいんじゃ? べ、別に私はここでもOKなのだけど……」
何かを勘違いしている先輩が可愛らしい反応をとっているが、その事よりも光ったものの正体が気になった俺は先輩には悪いが無視をした。
その光っていた物を取ると、それはボタン型で、裏を見ると機械の基盤らしき物が見えた。
あれ、これってもしかすると……
「せせせせ先輩っ! ここここれ! 盗聴器! 盗聴器ですよ! 土曜日の夕方6時に眼鏡の探偵が似たようなのガムで犯人につけてるの見ましたもん!」
俺は動揺しながらそれを先輩に見せる。
「ととと盗聴器!? 嘘……この制服にずっと付いてたってこと!? じゃあ今の会話も聞かれて……」
そう言いかけた先輩の声を遮るように車掌の車内アナウンスが響く。
「次は、○○〜○○です」
その声と共にドアが開く、ホームでは妙にガタイのいい男が2人並んでいた。
その2人は車内に乗ると同時にこちらに向かって猛ダッシュしてくる。
「えっ? なんか凄いのが走ってきてるんですけど」
「や、やばいわ……。あれは護衛の西森と東森よ。もしかしたら私を……」
先輩が言い終わる前に西森と東森は先輩の腕を掴んで、そのまま電車から降りて走り去って行ってしまった。
残された俺は人目を憚ることも忘れ、電車で1人驚愕の声を上げた。
4ヶ月以上も更新の手を止めてしまい申し訳ないです。理由としては別のことに夢中になっていた事と新シリーズの構想を考えていたからです。
ファンタジーものを書きたいのですがどういうストーリーにするのがいいか考えていたら4ヶ月も経っていました(言い訳すんな)。
また更新していくのでどうぞよろしくお願いします!




