不注意で先輩の本を川に落としちゃうことってあるよね?
「ふぁ〜ぁ」
今、俺は絶賛学校に登校中なのだが昨日は夜遅くに麻希からの電話(といっても今流行りのSNSアプリの通話だが)で、学校での愚痴やらなんやらを聞かされて寝たのが夜中の4時を回ってしまった。だからマジで眠い、超眠い。
覚えておけよ、麻希。食べ物の恨みは恐ろしいとはよく聞くが、高校生に限っては睡眠時間の方が大事まである。俺ちょっと軽めの恨み抱いちゃったかもしれない。
そして、眠いせいで不機嫌な俺に追い打ちをかけるように、隣のカップルが朝からイチャイチャしてやがる。
普段の俺なら、お幸せにと願いながら登校するのだが、今日の俺はなにせ寝不足。
隣からの甘い空気を吸うのも嫌なので俺は目を覚ます目的も兼ねつつ、少し走ることにした。
「しかしカップルが多すぎやしないか……?」
今は6月。少し学校の雰囲気に慣れてきた新入生がその雰囲気に呑まれ、付き合いだす季節だ。
その半数以上が来月に待ち構えている夏休みで自然消滅したり、別れたりするんだがな。
そんなカップル達を眺めながら走っていると、前を歩いていた女子とぶつかってしまった。
俺は勢いがついていたのでそのまま後ろに転び、前の女子は本を読んでいたらしくその手からは本が落ちる。
そして、運悪く横に流れていた川にそのまま落ちていってしまった。
なんて不運なピタゴラスイッチなんだ。
「ごめん。俺がちゃんと前を見ずに走ってたから……」
俺がそう言うと、その本の主はゆっくりと振り返った。
その本の主は、前川花香里だった。心なしか、その顔には怒りが込められているように思えた。
「あら、橘くんじゃない。こんな朝から人様に迷惑をかけて恥ずかしくないの?大変迷惑だわ!」
やっぱり先輩怒ってたよ。そりゃそうか。本が川の中に落ちたんだからな。
「本当にすみませんって。許してくださいよ。お詫びに同じ本を買いますから」
「あの本は私の大好きな作家さんの本なのよ。まったく……」
先輩は何か言おうとしていたが、ハッと何かを思いついたかのように手をポンと叩き、さっきまでの怒った顔が少し和らいだように見えた。
そして、少し咳払いをしつつ
「少しマイナーな作家さんだから橘くんじゃ見つけられないかもしれないわね。そうよ、うん。見つけられないわ。だから、私もついて行ってあげるわよ。うん、それがいい」
先輩はかなり早いペースでそう言うと、じゃあ放課後ねと吐き捨てて走っていってしまった。
意外に先輩も積極的に来るんだな。まぁ、期限は1年だ。あまり悠長にもしていられないんだろう。
しかし、あまり期待をもたせない為にもあまりデートとかそういう類いはしないようにしようと思っていたんだがな。
現実はそう上手くはいかないってことか。
俺もこのまま学校に向かおうと思ったが、ふと、川に落ちた先輩の本に目がいった。
この川は下に降りる用の階段がついているので、下に降りることは可能だ。
俺は階段を降り、興味本位でその濡れた本を手に取った。
本には先輩のイメージとは異なるピンクの花柄の模様が描かれたブックカバーが取り付けられていた。先輩も可愛いところあるじゃないか。男って生き物はそういうギャップに弱かったりするもんだ。
そのブックカバーを取り、本のタイトルを見るとそこには『社長令嬢のすすめ〜未来を担う令嬢のあり方〜』と書かれていた。
なんて面白くなさそうな本なんだ。てっきり、ミステリー小説とかそういうのを読んでいると予想していたんだが……。
そして、その本には付箋がつけられていた。
気になり、そのページを開いてみると、そこには『令嬢たる者、己に相応しき人物を婿に取れ』と書かれていた。
なぜ、先輩がこんなページに付箋をつけているんだろう。
俺は不思議に思ったが、そろそろ学校に向かわないとまずいので川を後にした。
その本は近くにあったコンビニのゴミ箱に捨て、俺は学校へと急いだ。
今まではあまり長い話は書きませんでしたが、ここらで少し長い編に入ろうかと思います。
これからもよろしくお願いします!




