今更ながら過去の話をしてもいいですか?
過去の話をしよう。そう、それは麻希と初めて出会った日の話だ。
しかし、あくまで俺目線の初めてであって、麻希にとっては2回目だったというのは後で本人に聞いた話だ。
あの日、俺はいつも通り授業を終え、ノートやら教科書やらを鞄に詰め込んでいた。
俺は部活には入っていないから毎日学校が終われば真っ直ぐ家に帰る。
でもあの日は違っていた。
なぜかというとある手紙を貰ったからで、朝登校すると、俺のロッカーに入っていた。
そしてその手紙を読んで察するに、それはラブレターだった。よかったよ、果たし状じゃなくて。
しかし、名前が書かれていなかったから誰かは特定することができなかった。まぁ、書かれていたところで女子との関わりはあまりないから分からないと思うが…。
そしてそこには、放課後屋上に来てくださいと書かれていたってわけで、俺は真っ直ぐ家に帰ることは出来なかった。
俺は重い足取りで屋上への階段を上っていった。
その時の俺は、振った後の相手の悲しむ顔を見るのが憂鬱で仕方なかった。
なぜなら俺は、人様と付き合えるような奴じゃないからだ。
しかし、階段には無慈悲にも終わりが存在する。
俺は屋上へと繋がるドアの前で、1度短いため息をつくと、決心をしドアを開いた。
そこには、茶髪のポニーテールで、あどけなさの残る顔立ちと貧相な胸が相まって少し幼く見える女の子がスマートフォンで身だしなみを確認しながら待っていた。
その時の俺の気持ちを今の俺が代弁するとしたら『可愛い』、この一言に尽きるな。
その女の子は俺が来たことに気付いたからなのか少し顔を赤らめながらこちらに向かってきた。
そして片手で胸をそっと撫で下ろし、決心したかのように話しかけてきた。
「待っていました、橘先輩。名前も書いていなかったのに来ていただきありがとうございます。私は1年の胡桃沢麻希と言います。単刀直入に言います。私と付き合ってください!」
その少女、胡桃沢麻希はかなり単刀直入に言ってきた。それにしても単刀直入だな。はじめましてなんだからもう少し何か喋ってもいいと思うが…。
「えっと、まぁそれはひとまず置いといて、申し訳ないんだけど俺は君と会ったことを覚えてないんだ。いつ出会ったのか教えてくれないか?」
俺がそう言うと
「は、はい! 私と先輩が出会ったのは、私の入学式の日です」
入学式か。なんてベタな出会いなんだ。
「私は、この学校の説明会とかそういうのに行ってなくて、校内の地図が分からずに困っていたんです。もう少しで入学式に遅れてしまうって言う時に、遅刻してきた先輩が体育館まで連れて行ってくれたんです。あの時の私からしたら、先輩はヒーローに見えました」
そういえば、入学式の日は寝坊で遅刻したんだったな。なるほど、そう言われればそんなこともあったような気がする。
「なるほど、少し思い出したような気がするよ。でも、それで好きになったのか?」
「はい。私はその時、先輩に一目惚れしました」
一目惚れ…。なんていい響きなんだろうか。長い時間をかけて惹かれ合うというシチュエーションも悪くはないが、やっぱり1番は一目惚れだろう。そういえばそんな米があったな。
「教えてくれてありがとう。でもごめん、俺は君とは付き合えない」
俺がそう言うと胡桃沢麻希は少し涙目になりながら
「ど、どうしてですか…? もしかして彼女がいたりするんですか…。そうですよね、こんなにかっこいい先輩になら彼女ぐらいいますよね…」
「1つ言っておくが俺に彼女なんていないぞ。勝手に勘違いをされては困る。別の理由だよ」
「どんな理由ですか? 教えてもらえませんか?」
「悪いけどそれは言えないんだ。勘弁してもらえないか?」
理由に関してはあまり他人に話すようなものじゃないからな。悪いがこれで勘弁してもらいたい。
「無、無理です…。理由も教えられずに、折れるほど私は軽い気持ちで恋をしていません。なので…先輩にOKをもらうか、理由を聞くまでは諦めませんから…」
意外な返事だった。
俺は何回か告白されたことがあるが、みんなこう言うと素直に諦めていった。
俺がものを言う前に、その言葉とともに胡桃沢麻希は走り去ってしまった。
はっきりとは見えなかったが、彼女の目には涙がためられていた。
また俺は女の子を泣かせてしまったのか。こんな自分がつくづく嫌になる。
これが俺と麻希の出会いだった。
お久しぶりになってしまいすみませんでした。
最近リアルが忙しいのとこの話をどういう風にどのタイミングで書こうか悩んでいたらこんな時期になっちゃいました。
これからもよろしくお願いします!




