あざとい後輩っ天使ですよね。憧れます。
あざとい後輩が大好きです。
「せーんぱいっ!」
超あざと可愛い後輩の胡桃沢麻希が教室の前方にあるドアからあざとく俺を呼んでいる。
胡桃沢は俺の一個下の高校1年生で、噂からすれば学年で5本の指に入る美少女らしい。ふむ、確かにそれは同意できる。少しあどけなさを残した顔立ちで『せーんぱいっ!』と言い寄られて落ちない男はいないだろう。すこし貧相な胸が一定層から受け入れられないようだが、俺からすればバッチグーのベリーグッドマンだ。
「なんだ? 俺は生憎忙しいんだよ。用があるなら手短に頼む」
「用ってなんですか? まさか……女性の方と帰るつもりじゃないでしょうね!」
胡桃沢がうるうるとした瞳で俺に問いかけてくる。
いいねいいねその目! ちょっと意地悪したくなるな!
「胡桃沢には関係ないことだろ? 分かったら1人で帰るんだな」
「え……なんでいつものように否定してくれないんですか……。本当に女性の方と帰るんですか?」
胡桃沢は更に瞳をうるうるさせている。心なしかさっきまでの元気もなくなっているようだ。
「人には知られたくない秘密が1つはあったりするんだよ」
「い…いやです。先輩はぼっちのままでいいんです……。他の女性の方となんて帰っちゃいけないんです……」
胡桃沢はとうとう泣き出してしまった。
しまった。胡桃沢が泣き出すとは思わなくてちょっと調子に乗ってしまった。女の子に涙を流させるなんてなんて事をしているんだ俺は……。
「な、泣くな胡桃沢。嘘だから、ちょっとした冗談だから、な? だから今日も帰ろうぜ」
俺は胡桃沢を宥めた。胡桃沢の俺に対する好意は正直あざとすぎるぐらい表に出ているので俺も勘づいている。しかし、俺には胡桃沢を幸せにする事はできないだろう。そう、俺には。
「胡桃沢?答えてくれよ。なぁ、麻希ちゃん!」
俺が下の名前『麻希』を呼ぶと、胡桃沢の頬がみるみると紅くなっていく。ふーん、こんなにあざとい胡桃沢でも下の名前で呼ばれると恥ずかしいんだな。
「な、なんですかもう! そんなことで許してもらおうだなんて先輩は甘いんですから」
胡桃沢は紅くなった頬をプクーっと膨らませて少し拗ねていた。拗ねた顔も可愛いなぁ、胡桃沢は。
「すまなかったって。どうしたら俺は許してもらえるんだ?」
「デ、デート」
俺が聞き取れる限界の小さな声で胡桃沢はそう答えた。
デートとはまた大きく出たな。俺達は付き合っていないのに『デート』という単語を使うなんて好きですって言ってるようなもんだ。そこら辺のラノベの主人公は『デート』という単語を聞いても相手が自分に好意を持っているなんて微塵にも思わないが、俺は違う。なんたって3次元だから。
「ごめん、聞き取れなかった。なんて?」
またしても俺は悪戯心で聞こえなかったフリをした。
「だ、だーかーら! デートですよデート! お詫びとして今度の土曜日に私とデートしてください!」
うーん、土曜日か。土曜日は生憎家族で外食の予定があるんだが。でもまぁご飯なんて1人でも食べれるし、思春期真っ只中の妹も俺がいない方がいいだろう。よし、その誘い受けて立とう!
「今週の土曜日なら予定何もないから全然構わないぞ」
「本当ですか! やったー!先輩との初デート! えへへ、先輩大好き!」
なんだ今の笑顔! まるで天界から天使が俺の元に舞い降りたような笑顔だったぞ。正直胡桃沢はこの学校一なんじゃないだろうか。
「それとー、せ・ん・ぱ・い? 土曜日ならって日曜日は予定でもあるんですか?」
胡桃沢が今度は悪魔のような天使の笑顔で問いかけてきた。
おいおい勘弁してくれよ。あるに決まってんじゃないか。日曜日は『劇場版 ご注文はわかさぎですか?』の公開日なんだよ!
ブラコンの妹が大好きです。