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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【逢魔時 夕】短編集

鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰〜(若返りの薬にはご用心)

作者: 逢魔時 夕

 なろうでは初の短編です。また、苦手な一人称で話の大半が書かれております。

 至らぬところが多いと思いますが、楽しんでいただけたらと幸いです。


=====================================

★原作登場人物★


白雪姫

 雪のように白い肌、血のように赤い頬や唇、黒檀の窓枠の木のように黒い髪を持って産まれ、その身体的特徴をもって「白雪姫」と呼ばれた王女。

 七歳の時、既に継母であるお妃よりも美しく育ったがために、それを妬み憎んだお妃に謀殺されそうになる。

 紆余曲折を経て、王子のプロポーズを受け、結婚した。


継母

 綺麗なことを鼻にかけ、高慢で、器量で人に負けることが嫌い。

 問いかけると何でも答えてくれる不思議な鏡を持っている。

 継子の王女が自分よりも美しいことに我慢ならず、三度も王女を謀殺しようとし、最期にはその報いで真っ赤に灼けた鉄の靴を履かされ、祝宴の最中王女らの目前で死ぬまで踊り続けさせられる。


魔法の鏡

 継母であるお妃が持っている不思議な鏡。いわゆる魔鏡の類である。

 問い掛けに対して何でも答えてくれるが、嘘は絶対つかないため、その内容は全て真実である。


狩人

 お妃から白雪姫の殺害を命じられた人物。

 しかし白雪姫に同情し、彼女を逃した。(もっとも猟師は自分の手にかけるのが忍びなかっただけで、末は獣に食べられるだけだろうと考えていた)


七人の小人

 行くあてのない王女に対し、「家の世話をし、料理を調え、ベッドをつくり、洗濯をし、縫ったり繕ったりして、何もかもきちんと綺麗にしておいてくれる」ことを条件に家に居ることを諒承する。


王子

 毒リンゴを食べて身罷った王女をガラスの棺ごとタダで貰い受ける。

 王女にプロポーズし、盛大な結婚式が執り行われた。

【introduction:三人称視点】


 アンネリーゼは、上流貴族の家庭に生まれた。


 稲穂のように黄金色に輝く豪奢で艶やかなプラチナブロンドの髪、深く透き通った蒼玉色(サファイアブルー)の瞳。

 小ぶりな鼻と薄く小さな唇が、きめ細やかで白磁のようにすべやかな肌というパレットの上に完璧な配置で並んでいる。


 見目麗しい美貌をもって生まれたアンネリーゼは、家族や侍女、執事など屋敷に住まう誰からも「美しい」と賞賛されて育ってきた。

 そんなアンネリーゼが美に対して絶対の自信を持つようになったのは、自然な流れだったのだろう。


 アンネリーゼは、その国の王に見初められ妃となった。

 その王は、前妻を亡くしており、心の折り合いがついた頃にアンネリーゼと出会ったのだ。

 王には、前妻の忘れ形見であるスノーホワイトという娘が居たが、その時のアンネリーゼは子供が居る居ないについてはさほど問題だとは思っていなかった。


 だが、月日は流れスノーホワイトが七歳になった頃、彼女は遂にアンネリーゼよりも美しくなってしまった。


 黒檀(こくたん)のように黒く艶やかな髪は肩ほどにまで達し、雪のように白い肌との美しいコントラストを生み出している。

 翡翠色に輝く大きな瞳は、可愛らしく見開かれ、小ぶりな鼻と薄く小さな唇が美しい形で配置されている。


 日を追う度に美しさを増していくスノーホワイトは、王の前妻にそっくりだったからなのか、或いはただ単純に彼女が美しいからなのか……王の寵愛は次第にスノーホワイトに注がれるようになっていた。

 アンネリーゼにとっては、嬉しくない話だったが、それ以上に許せなかったのはスノーホワイトがアンネリーゼ以上に美しくなっていくことだった。


【this volume:アンネリーゼ視点(一人称語り)】


「――鏡よ鏡、世界で一番美しいのは(だぁれ)?」


 わたくしは、美しい彫刻によって彩られた豪奢な姿見に尋ねました。

 鏡に話しかけている光景は、友達のいないコミュ障な少女がクマの人形に語りかけているように、悲しい光景に見えるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。

 この鏡は、魔法の鏡なのです。……えっ、またまたご冗談をって?

 実は、わたくしも最初はこの鏡が魔法の鏡だと聞いても信じることはできませんでした。何しろ、この鏡は王宮を訪れたアラビア風の行商人(なのに、口癖が「儲かりまっか?」)の男が持ち込んだものなのです。見るからに怪しい男が、見るからに怪しい物をわたくしにお買い上げ頂こうと熱心に話を続けるのですから、信じろと言われても無理があります。


『これは、嘘は絶対に口にせぇへんため“真実を語る魔法の鏡”と呼ばれとる摩訶不思議な鏡やで。有名な魔女の宝やったもんを魔女を捕まえた異端審問官が回収し、更にそれを盗賊が盗み出し、闇市場に横流しされたのをウチが購入したっちゅう紆余曲折を経たもんとなりまっせ。……信じてへんよね、絶対にウチの話、信じてへんよね? ならば、実演して見せまひょ』


 胡散臭い語りでしたが、行商人が鏡に尋ねると驚いたことに鏡が語り出したのです。

 行商人は当たり前な質問から、コアな質問まで試してみました。コアな質問については合っているかどうか分かりませんでしたが、行商人の言っていることが本当だと思い、即払いで鏡の代金を支払いました。


 ――さて、話を戻しましょう。


「――鏡よ鏡、世界で一番美しいのは(だぁれ)?」


『女王様、ここでは、貴女が一番美しい。ですが、スノーホワイト様は、その千倍も美しいです』


 以前は、この鏡もこの問いかけに対して『女王様、貴女こそ、お国で一番美しい』と言ってくれたのです。その度に私は安心することができました。

 ですが、最近はスノーホワイトの方が美しいと言うのです。

 わたくしの中ではストレスがフォルテ・フォルティッシモです。しかし、こうなることが分かっていてもわたくしは尋ねずにはいられないのです。


「本当に、スノーホワイトはウザいですわ。あの女は、どんどん美しくなっていくのですもの。以前は、“舞踏会にて輝く一輪の白薔薇”とまで言われたわたくしも、今ではあの女のおかげで二番手ですわ、二番手! いっそ、あの女を殺せばわたくしは一番に返り咲ける。狩人に追わせて射ち殺して頂きましょうか? 或いは、毒の林檎(りんご)を美味しい林檎と偽って食べさせてしまいましょうか? 或いは、無実の罪を被せて首を刎ねて差し上げましょうか?」


『……女王様、それはハートな国の女王様の方だと思います』


 鏡がわたくしのジョークに耐えきれなかったのか、ツッコミを入れてきました。

 この鏡は、質問に真実で答えるだけの鏡だった筈ですが……きっと、魔法的な何かがあったのでしょう。あの胡散臭い行商人も詳しくは知らないと言っていましたし……なんで、自分も分からないような鏡を私に売りつけたのでしょう? ……多分、買ったはいいが、処分に困ったのですね。

 まあ、買って良かったと思っているのでクーリングオフはしませんし、あれ以来あの行商人を見たことが無いのでできませんが。


「最後のはジョークですわよ。……でも、スノーホワイトを許せないのは本当ですわ。憎くて憎くて殺してやりたいと思っていますわッ!」


 わたくしにとっての唯一のアイデンティティが美しさなのです。それを奪われたとなれば、わたくしの価値は一体どこにあるのでしょう?


 ――その時、ふと妙案が浮かんできました。


「そうですわ。今の私とスノーホワイトを比べるからいけないのですわ。……三十代はお肌の曲がり角といいますもの。いくらアンチエイジングを頑張っても、やっぱり限界はありますわ。対して、スノーホワイトはどんどん美しくなっていく上り坂――悔しいけど、下っていくだけのわたくしでは、絶対に勝てませんわ」


 自分で言えば言うほど惨めになっていきますが、やっぱり年には勝てません。

 “舞踏会にて輝く一輪の白薔薇”と呼ばれていた私ですが、それは遠い昔のことなのです。


「……ですが、かつてのわたくしならば憎っくきスノーホワイトよりも美しいという確信がありますわ。――鏡よ鏡、私が七歳の頃と今のスノーホワイトでは美しいのはどちら?」


『……残念ながら、時代が離れているため判断できかねます』


「――そこをなんとかならないのかしら?」


『やつがれは、“真実を語る魔法の鏡”――百パーセントの保証がなければ絶対に断言は致しません。やつがれにもブランドというものがあります。グレーゾーンな話も、製作者の糸が反映される統計も参考にはしないのが、やつがれのプロ意識なのです』


「……魔法の鏡にもプロ意識があるのね。……というより、貴方の一人称はやつがれなの? 初めて知ったわ」


 やつがれとは、男性の謙称です。かなり古風な言い回しで、わたくしの周りにも実際に使っている方は全くいらっしゃいません。

 ちょっとだけレアさを感じました。


『しかし、女王様のお考えは非常に興味深いですね』


 魔法の鏡が自主的に感想を語り始めました。最早、ただの会話になってしまっています。

 魔法の鏡は更に続けました。


『魔女が扱う秘薬に、若返りの力があるものがあるそうです』


「――若返りって……そんなの無理じゃないの?」


『やつがれは、“真実を語る魔法の鏡”――百パーセントの保証がなければ絶対に断言は致しません』


「……わっ、分かったわ。そこまで言うのなら信用するしか無いわね。……それで、材料は何が必要なの?」


『満月の夜に飛ぶ青い蝶の鱗粉、オオキナカサタケの傘、崖の上に咲く金色の花、ローレライが住まう泉の水です』


「……なんだか胡散臭いものばかりね。本当にそんな材料で若返りの薬なんて出来るのかしら?」


『やつがれは、“真実を語る魔法の鏡”――』


「三度も同じことを言わなくて良いわよ。えぬぴーしーのむらびと? じゃあるまいし」


 わたくしは、魔法の鏡が真実しか語らないという事実を信じて、人知れず材料を集めようと決意しました。


「スノーホワイト、目にものを見せてやりますわ」



 歩きやすい丈の短いドレスに着替えたわたくしは、カゴを右手に虫取り網を左手に静寂に包まれた王宮を脱出しました。

 王宮の者達に知られれば、笑い者にされると思ったのです。


 今夜は、幸運なことに満月でした。王宮から少し進んだ森の中で、青い蝶が飛び回っています。


「――えっ、えいッ!」


 わたくしは必死で虫取り網を振り回しますが、貴族の生まれで今までにナイフよりも重いものを持ったことのないわたくしには、飛び回る青い蝶を捕まえることなどできる筈もありません。


 ――その時でした。私の前にマスケット銃を背負った狩人が現れたのです。

 その狩人は、王宮にもよく出入りしている人物で、わたくしとも面識がありました。

 スノーホワイトの暗殺を考えた時に、真っ先に思い浮かんだのはこの狩人でした。


「――あの……お妃様ですよね。こんな森の中で一体何をしておられるのですか?」


「いっ、色々あるのよ。私がここにいる事を誰にも言ってはいけないわ。もし、言ったら一族郎党皆殺しにしてやるからッ!」


 わたくしは、必死でまくし立てますがカゴを右手に虫取り網を左手にという装備では威厳の欠片もありません。


「分かっております。我が家名に誓って絶対に口外しないことをお約束致しましょう。……何やら事情がお有りのようですね。蝶を捕まえるのですか? ――差し支えなければ、お手伝い致しますが」


 わたくしが青い蝶を捕まえたいのだと察した狩人が、紳士的な態度で提案をしてくれました。

 きっと、青い蝶を捕まえようと飛び跳ねていたのを見られてしまったのでしょう。顔が熱くなるくらい恥ずかしいですが、見られてしまった以上仕方ありません。


 ここで、強情を張って最後まで蝶を捕まえるために奮闘することもできました。そうすれば崩れ続けている女王としての威厳も少しは回復するでしょう。

 しかし、折角狩人が提案してくれているのです。その好意に甘えてもいいかもしれないとわたくしは考えました。


「……それなら、お願いするわ」


 虫取り網を受け取った狩人は、ものの数分で数十匹の青い蝶を捕まえて見せました。


「――これでよろしいでしょうか?」

 

「そうですわね。これなら、青い蝶の鱗粉を沢山取ることができそうですわ」


 わたくしは、青い蝶の鱗粉をカゴの中に入れていた小瓶の中に入れると、捕まえていた蝶を放してあげました。


「――あっ、ありがとうございますわ。貴方のおかげで必要なものが一つ手に入りました」


 狩人は、お礼を言うわたくしを見ながら少々赤くなっていました。

 お礼を込めて微笑んだ筈なのですが、何か失敗してしまったのでしょうか?


 わたくしは、オオキナカサタケの傘を得るために、この森の奥へと進んでいきます。


「(……お妃様ってあんなに輝かしい微笑みを浮かべるお方だったのですね。いつもお怒りで、仏頂面でしたから……普段からあのように微笑まれていれば評判が良くなるのに)」


 ――遠くから、何やら狩人の独り言が聞こえたような気がしますが、きっと気のせいでしょう。



 わたくしは、月の光だけを頼りに森の中を進んでいきました。

 とがった石があったり、(いばら)の中を進む以外に進む道が無かったりとアクシデントが起きました。わたくしは自宅である貴族邸宅と王宮での生活しかしたことが無いのです。


 それに、森の脅威はそれだけではありませんでした。

 薄暗い森の中を飢えた狼が徘徊しています。黒光りする爪を持つ熊も狼ほどではありませんが、ごくたまにエンカウントするのです。


 当然、わたくしには対抗手段がありません。武器といえば虫取り網くらいですが、その攻撃力はナイフ以下です。これでどう対処しろと言うのでしょうか?


「……マスケット銃を持ってこれば良かったわ」


 先込め式で連射はできませんが、最新鋭の武器です。といっても、わたくしも持っているだけで使い方は分からないのですが。


 血に濡れて、血に飢えた狼がわたくしの前に現れました。

 徐々にわたくしの方へと距離を詰めてきます。


 ――これは、絶体絶命ですッ!


 ――その時でした。突如、鶴嘴(ツルハシ)を持った小男が森の奥から現れ、狼の一匹に振りかざしたのです。

 その狼は絶命し、残った二匹はその衝撃で逃げていきました。


 その小男は、小人(ドワーフ)でした。妖精の一種で、彼らは山の中で金や銀などの鉱物を採掘する仕事を行って生計を立てていると本で読んだことがあります。

 といっても、妖精である彼らは基本世俗とは関わりません。金や銀を換金して、食料を得ては行きますが、基本的に人間の事情には関わらないようにしているそうです。


「助かりましたわ。命を助けて頂き、ありがとうございます」


『気さしねでいい。慣れねばんげけんどば一人であさぐのは危険だ。それさ、森のばんげはさんびかきや俺のえさ来らどいい。そこで話ば聞こう』


 「慣れない夜道は危険だ。それに森の夜は寒いから俺の家で話を聞こう」ということでしょうか?

 わたくしは、小人(ドワーフ)さんの家に行くことにしました。

 寒いのでそろそろあったまりたいと思っていましたし、わたくし一人では巨大なキノコの傘を見つけられるとは思えませんでした。


 鶴嘴を持ち、重そうな袋を担いだ小人(ドワーフ)さんに案内され、わたくしは一軒の小さな家に辿り着きました。


『スープじゃ。温まりますし』


 小人(ドワーフ)さんは、温かいスープを出してくれました。温かい野菜のスープは冷え切った体に染み渡っていきます。


『それで、何の用があって慣れね森ば歩いていたのだ?』


「わたくしは、オオキナカサタケの傘を探しておりますの。この森にあるとどこかで読んだ気がしたので、足を運んでみたのですわ」


『オオキナカサタケの傘か……へば、俺が持っていら。良がたきや持ってあべどいい』


 なんと、小人(ドワーフ)さんはオオキナカサタケを持っていたのです。

 わたくしは、小人(ドワーフ)さんのご厚意に甘えて(ここまで甘えっぱなし)オオキナカサタケを頂きました。


「あの、今はお礼が出来るほどのものを持っておりませんが……」


『気さしのぐていい。森では困っていら人さ手こば差し伸べらのは当然だかきやの』


 本当に、小人(ドワーフ)さんはイケメンです。

 こんなに善意で動ける人はそれほど多くはいないでしょう。

 小人(ドワーフ)さんの案内されて、森の外に戻ることができました。

 わたくしは、小人(ドワーフ)さんに何度も頭を下げてお礼を言うと、王宮へと戻りました。


【intermission:三人称視点】


 小人(ドワーフ)の仲間である六人の小人(ドワーフ)が戻ってきていたようだ。

 美しいご婦人が何度も頭を下げている光景を見ていた彼らは、ニヤニヤと笑いを浮かべている。


『あんさ美しいご婦人ど一体何ばしていたんだ?』


『ご婦人が狼さ襲私れていたかきや追い払い、その後さ探し物ば手こ伝っただげだ。ご婦人さ優しぐすらのは紳士の嗜みだべ?』


 別に他意があったとか、下心があったとかそう言う訳では無い。

 だが、狼に襲われている美しいご婦人を見かけた時に自分でも気づかないうちに身体が動いていただけだ。


 盛り上がっている六人の小人(ドワーフ)を捨て置き、小人(ドワーフ)は寒々しい空の下、七人の小人(ドワーフ)のシェアハウスへと戻っていく。

 その表情は、一つの事をやり遂げた達成感と充実感に溢れていた。


【this volume:アンネリーゼ視点】


 崖の上に咲く金色の花は、王宮から少々離れた場所にあるそうです。

 朝になればわたくしが王宮にいない事を不審がる者が現れてしまいます。そうなれば、わたくしの作戦は台無しになってしまいます。憎っくきスノーホワイトからは嘲笑されてしまうでしょう。そんなことになれば、ストレスがフォルティシシシモです。

 崖の上に咲く金色の花を探すのは明晩にして、わたくしは王宮に戻りました。


「――鏡よ鏡、世界で一番美しいのは(だぁれ)?」


『女王様、ここでは、貴女が一番美しい。ですが、スノーホワイト様は、その百倍くらい美しいです』


 駄目元で尋ねてみましたが、やはり一番美しいのはスノーホワイトのようです。

 分かっているのですが……やっぱり聞いてしまって勝手にヘイトを高めてしまいます。


『……女王様、昨晩は大変だったようですね』


「本当にただの会話になってしまっているわね。はぁ、もうツッコミは入れませんわ。……青い蝶の鱗粉とオオキナカサタケの傘は、狩人と小人(ドワーフ)さんのおかげで手に入れることができましたわ。――後二つですわ。後二つで、わたくしは美しかった頃のわたくしに返り咲けるのです。……貴方の言うことが虚言で無ければ」


『やつがれは、“真――』


「四度も同じ事を言わなくて良いわ。いい加減聞き飽きたわよ。耳にタコができそうだわ」


 わたくしは、四度目になる魔法の鏡の台詞を遮りました。確かに、ちょっとだけ疑ってしまったわたくしに非があることは否めませんが、それでも全く同じ台詞をくどくどと聞かされる拷問をされる筋合いは無いと思います。


 急に眠気に襲われたわたくしは、そのまま重力に任せて天蓋付きベッドの上に倒れました。

 昨晩、森から戻ったのは二時頃でした。それからですから、最終的な就寝は三時頃だった筈です。普段二十一時就寝のわたくしにとっては、明らかに睡眠時間が足りていません。


 運の良いことに、今日は外せない仕事が入っている訳でもありません。部屋で休んでいても問題は無いでしょう。

 寧ろ、わたくしのことを嫌っている方々にとっては平穏な時間になるのでは無いでしょうか? ……自分で言っていて悲しくなってきますが、結局自業自得なので誰にも文句は言えません。


「――鏡よ鏡、今から午睡を取りますわ。三時に起こして下さらないかしら」


『やつがれは、目覚まし時計ではありません。……て、もう寝ちゃいましたか。仕方ありませんね。やつがれは“真実を語る魔法の鏡”――正しい時間に起こして差し上げましょう』



 昨晩に引き続き、夜の王宮を飛び出したわたくしは、昨晩よりも長い時間をかけて隣国との国境付近に着きました。

 何故、一歩間違えば領域侵犯で訴えられそうな場所にまで足を運んだかというと――この場所が、金色の花が咲く崖だからです。


 魔法の鏡が言った通り、崖の上には金色に輝く花が咲いています。

 目当ての花は見つかりましたが、ここからが問題です。


 わたくしは、虫取り網でさえ満足に扱えないほど運動神経の悪さに定評があります。

 貴族として甘やかされて育ってしまったので、舞踏会で踊るために仕込まれたダンスくらいはできますが、それ以外の運動はさっぱりなのです。


 さて、ここで問題です。金色の花は、ほぼ直角の崖を登った上にあります。当然わたくしは、ロッククライミングの経験はありません。

 では、わたくしはどうすれば金色の花を手に入れられるでしょう?


「――そんなもの、無理に決まっているわ。とりあえず来てはみたもののやっぱり無理よ。……こうなったら、王宮の者達に全てを打ち明けて助けを求めて手伝ってもらう……いえ、それだとスノーホワイトに知られてしまい嘲笑されてしまいますわ。それに、わたくしをよく思っていない方々は滑稽だと嗤うでしょう。……では、いっそのこと諦める……折角ここまで来たのに諦めるなんて選択肢、選べる筈ありませんわ」


 もし、わたくしが若返りの薬を作るために材料を集めていると知ったら、誰もがわたくしを嘲笑するでしょう。

 だからと言って、このまま引き下がるかと問われれば、それは絶対にできません。


 ここまで協力して頂いた狩人と小人(ドワーフ)さんのこともあります。

 ここで諦めたらお二人に申し訳が立ちません。


 わたくしが、どうするべきか悩んでいると、白馬に乗った王子が東の方から現れました。

 そういえば、この場所は隣国との国境に位置しており、どちらの国の持ち物にもしないという取り決めがなされていました。

 隣国の王子が、この場所を通りかかっても別に問題はありません。


 しかし、護衛も付けないとは王子も無用心です。まあ、わたくしも護衛をつけていないので、人のことをとやかく言える立場ではありませんが。


「――こんばんは、ご婦人(マダム)。こんな夜更けにどうなされたのですか?」


「……隣国の王子様ですわね。貴方こそ、こんな夜更けにどうなされたのですか?」


 隣国の王子は、かなり行動的(アクティブ)な方だと耳にしたことがありますが、やはり護衛も付けずに一人で国境付近に現れたのは不自然です。


「王宮に閉じこもっていると運動不足になりがちなので、私はこうして相棒のパティと散歩をしているのです。……ところで、ここはどこでしょうか?」


 どうやら、白馬はメスだったようです。パティは、パトリシアの短縮形で女性の名前として使われます。

 と、そんなことはどうでもいいのです。隣国の王子は、運動不足の解消のために白馬と共に散歩をしているそうです。そして、主従揃って方向音痴のため、国境付近に迷い込んでしまったそうです。


 ……本当に、この王子と白馬は大丈夫なのでしょうか? そして、黙って護衛も付けずに王宮の外に出してしまう兵士達も何を考えているのでしょうか?

 他国のことながら心配でなりません。


「ここは、国境の不干渉区域ですわよ。……本当に城に戻れるのかしら?」


「まあ、だいたい朝方には城に戻れているのでそれほど問題はありません。兵士達も明日の朝には戻って来るだろう程度に思っていると思います」


 どうやら、方向音痴でもちゃんと城には戻れるようです。それで、兵士達も干渉せずに放置したのですね。……兵士の皆様、思わず阿保だと思ってしまい、申し訳ありませんでした。


「ところで、ご婦人(マダム)はこちらに何をしにいらっしゃったのですか?」


「……崖の上に金色の花が咲いていますわよね? わたくしは、あの花が欲しいのですが、崖を登れないのでどうしようかと思案していたのですわ」


 隣国の方だからわたくしのことを知らないと思ったからでしょうか? わたくしは、金色の花を手に入れたいと思っていることをごく自然に王子に伝えてしまいました。

 狩人に打ち明けた時に、たかが外れてしまったのでしょうか? 打ち明けることに抵抗が少なくなりつつあるように感じます。……相変わらず、スノーホワイトや王宮の者達に明かしたいとは思いませんが。


「あの花ですね。……分かりました――パトリシアッ!」


 王子が手綱を引くと、パトリシアは「ヒヒーン」と鳴き、直角に近い崖を登っていきます。

 物理法則、何それ美味しいの? という感じで、崖を登ったパトリシアから王子は降りると、金色の花を一輪摘んでパトリシアと共に戻って来ました。


「これで良かったでしょうか?」


「――はい、これで間違いありませんわ。ご好意、感謝致しますわ」


「いえいえ、私も場所を教えて頂きましたから。こちらこそ、お役に立てて何よりです」


 わたくしは、王子から金色の花を受け取ると、最後の材料のあるローレライが住まう泉を目指して歩き始めしました。


【intermission:三人称視点】


 王子は、日が昇り始めた頃、ようやく自国の王宮に辿り着いた。

 パトリシアを、王宮専属の馭者(ぎょしゃ)に任せた王子は、そのまま自室へと戻った。


 いつもと同じ散歩になる筈だった。そう思って王宮を出発した筈だった。しかし、終わってみればいつもとは違う散歩になっていた。


 あの国境付近で出会ったご婦人の事が頭から離れないのだ。

 王子は、今まで舞踏会で多くの貴族令嬢と出会ってきた。彼女達は、皆美しい美貌を持っていた。……当然、あのご婦人よりも若く、肌艶も美しさ優っていた……筈だ。


 それなのに、あのご婦人の事が頭から離れないのは一体何故だろうか? 大人の女性の色気があったからという訳では無さそうだ。それならば、この国にも同じような色気を持つ女性貴族はいる。


 ――王子は結局その理由に至ることはできなかった。


 ご婦人――アンネリーゼが輝いているように見えたのは、若返りの薬を得るために奮闘する中で、様々な場面で助けられ、自分でも気づかぬまま、自然と心を解きほぐされていったからだろう。

 アンネリーゼは、スノーホワイトが年を追うごとに美しくなっていると知り、彼女に対して嫉妬心を抱いた。自分のアイデンティティである美を奪われたアンネリーゼは、その嫉妬心から仏頂面な表情をするようになり、折角の美貌が台無しになっていた。


 アンネリーゼは、未だスノーホワイトに対して恨みを抱いているが、それは自分でも気づかぬまま少しずつ和らいでいるのだ。

 最初はどんな手を使っても殺したいほど恨んでいた相手だったのに、今は自分でも気づかぬまま一人のライバルとして見て、若返った美貌で真っ向から勝とうとしている。


 ――少しずつ、負の感情を持つことなく純粋に美を求めていた少女の頃のアンネリーゼに戻りつつある。

 王子は、そんなアンネリーゼの姿を見て、自らも気づかぬまま恋をしてしまったのだ。


「……あのご婦人の名前、聞いておけば良かった」


 唯一の失敗は、王子がアンネリーゼの名前を聞かなかったことだろう。

 彼女は隣国の貴族のご婦人なのだろうが、隣国にも貴族は沢山いる。その中から、彼女を探すなど、舞踏会で片方のガラスの靴を落としていったシンデレラを探すくらい難しい事だ。


「――だが、絶対に諦めない。必ず見つけてみせる」


 だが、王子も絶対に諦めたくは無かった。――まずは、隣国の王様に働きかけてみよう。

 そのために、隣国に話をつけられるようにこの国の王である父親に隣国の王に謁見出来るよう頼んでみることにした。


【this volume:アンネリーゼ視点】


 昔、見る者を虜にしないではおかない美女が居たそうです。絶世の美貌を誇った彼女は、多くの男達の面目を失わせてしまいました。

 裁きの場に出された彼女は、恋人の裏切りに絶望していたこともあって、死を願うが叶えられず、修道院へと送られました。道中で、最後の思い出に岩山から恋人がかつて住んでいた城を見たいと願い出て、岩山の上からライン川へと身を投げたそうです。

 その後、水の精霊になった彼女は、船頭を魅惑し、舟が川の渦の中に飲み込まれてしまうと言われています。


 これが、ローレライ伝説です。水の精霊である彼女は、半人半魚――人魚の姿をしていたとされています。

 そして、いつしか彼女の名前であるローレライが、人魚全般を指す言葉へと変わっていきました。


 ローレライが住まう泉は、このローレライ伝説とは全く関係ない場所です。


 この地のローレライは美声で歌を歌い、歌に引きつけられた男を水の中に引き摺り込んで殺すそうです。

 水夫限定では無いところも、ローレライ伝説との大きな差だと思います。


 わたくしは、恐る恐る泉の方へと近づいていきました。

 男を引き摺り込むそうですが、女だから引き摺り込まれないという保証はありません。


 泉のほとりに辿り着くと、そこには三人の人魚が魚の部分だけを水の中に沈めて日光浴をしながら、美声を披露していました。

 散々「――鏡よ鏡、世界で一番美しいのは(だぁれ)?」と聞いてきたわたくしですが、流石にローレライの美貌には敵いません。負けた筈なのに、全く悲しくなりませんでした。寧ろ当然のように受け入れている自分がいます。


 魔法の鏡は人間限定で判断してくれていたのですね。

 魔法の鏡の気遣いに、人知れず嬉しさを感じたわたくしでした。


「あら? 人間の匂いだわ♪ 珍しいこともあるものね。私達のことを怖がって誰もこの泉には寄り付かないのに」


 草むらに隠れていたわたくしですが、やはりローレライを騙すことはできなかったようです。

 観念したわたくしは、草むらから出ました。


「あら、なんとも美しい方ですね。……そう身構えなくてもとって食ったりはしませんよ♪」


 正直、殺されるかと覚悟していました。

 ローレライ達もわたくしが殺されると思っていたのを悟ったのか、安心させようと殺意が無い事をアピールします。

 そこで、ようやくわたくしは安心しました。


「ところで、貴女はここに何をしに来たのですか?」


「わたくしは、この泉の水を少し分けて頂きたいと思っておりますの。勿論、無理にとは――」


「あら、そんな事なら構いませんよ。どうぞ、お持ち下さい♪」


 意外なことに、ローレライ達は簡単に了承してくれました。本当は、もっと交渉に時間がかかるか、拒否されて殺されると思っていたので、あまりにもあっさりととんとん拍子に話が進んでしまったので拍子抜けでした。

 ご好意に甘えて、泉の水を瓶に入れ栓をしました。


「――ところで、この泉の水を何に使うのですか?」


 当然の疑問です。寧ろ、今まで手伝って下さった方々が何故質問しないのか不思議なくらいでした。

 水を分けて頂きましたし、ローレライに語っても噂が広まることは無いでしょう。

 わたくしは、包み隠さず話すことにしました。


「わたくしは、昔の美貌を取り戻してどうしても勝ちたい相手がいます。そのために、若返りの薬を作りたいのですわ。……若返りの薬を作るのには、この泉の水が必要だと聞きましたわ」


 ローレライは、心底不思議そうな顔をしていました。

 何か変なことでも言ったでしょうか?


「貴女は、今のままでも十分美しいと思いますが……それでも、その方に勝つために若返り薬が必要なのですね。……一つだけ忘れないで下さい。過ぎたるは猶及ばざるが如し――美貌が行き過ぎた故に、命を捨てざるを得なかった方もいらっしゃったのです。美しさだけが全ての指標ではありません。それだけはお忘れにならないで下さい」


 確かに、あまりにも美しいが故に妬まれて命を狙われることもあります。

 それは、わたくしがスノーホワイトを本気で殺そうとしていた状況そのものでした。


 美しさは指標の一つに過ぎ無いかもしれません。ですが、それでもわたくしは若返りの薬を諦める訳には参りません。


 今までに沢山の方々が力を貸して下さいました。わたくしは、わたくしのためだけではなく、彼らのためにも絶対に若返ってみせます。それが、わたくしにできる唯一の恩返しだと思うのです。



 日が昇る前に王宮の自室に戻ったわたくしは、材料を全て机の上に並べました。


 満月の夜に飛ぶ青い蝶の鱗粉、オオキナカサタケの傘、崖の上に咲く金色の花、ローレライが住まう泉の水――二夜の出会いと出来事の全てがこの四個の材料に凝縮されているように感じます。……きっと気のせいでは無いのでしょう。


「――鏡よ鏡、……この後はどうすればいいの?」


『ローレライが住まう泉の水を鍋に入れ、火にかけます。満月の夜に飛ぶ青い蝶の鱗粉、オオキナカサタケの傘、崖の上に咲く金色の花の三つを入れて掻き混ぜます』


「――分かったわッ!」


『――お待ち下さい。まだ分量の説明が終わっていません』


 魔法の鏡が分量の説明をしようとしていましたが、わたくしは既に水の中に三つの材料を投入してかき混ぜてしまいました。

 紫の煙が鍋から噴き出して、わたくしを包み込んでいきます。



「あれ……目線が少し低いような気がしますわ」


 気がつくと、いつもよりも目線が低いように感じました。

 魔法の鏡で姿を確認するために立ち上がろうとしますが、なかなかうまく立ち上がれません。

 何故か、さっきまで来ていたドレスがぶかぶかになっていました。


 なんとか立ち上がり、姿見に近づいて行きます。

 すると、そこにはぶかぶかなドレスに着られた五歳ほどの小さな女の子が不思議そうにこちらを見つめ返しているではありませんか?


「……鏡よ鏡、……これは一体どうなっているの?」


 幼い少女のような声が耳朶を打ちました。わたくしの口から発せられたことに驚きを隠すことができません。

 真実を尋ねるのは恐ろしかったですが、それでも事実確認をせずにはいられませんでした。


『……女王様は確かに若返られました。ましたが……量を間違えたので若返り過ぎてしまったのです。今の女王様の年齢は、五歳でございます』


 あの時、慌てずに最後まで魔法の鏡の話を聞いていれば、そのまま適齢期に若返ることができたのでしょう。

 最後の最後で、わたくしは失敗してしまったのです。


「お義母(かあ)様、一体どうなされたのですか?」


 騒ぎを聞きつけたスノーホワイトがわたくしの部屋に飛び込んで来ました。

 正直一番見られたくなかった相手です。若返りに失敗したわたくしを嘲笑うのでしょうか?


「かっ、可愛い♡ もう、我慢できない。もふもふさせて!」


 スノーホワイトはついに我慢できなくなったのか、わたくしを撫で回し始めました。


 後々知りましたが、スノーホワイトは極度の可愛い物好きだったようです。

 美しいというよりも可愛いの方にベクトルが向いている今のわたくしは、彼女にとってストライクゾーンだったのでしょう。


 一通り撫で回された後は、何時間も着せ替え人形にされてしまいました。そこに、メイド達が加わります。彼女達の場合は、行き過ぎた悪ふざけです。

 全てが終わった頃には、放心状態になっていました。



 あたしが五歳の女の子になってしまったことで、王との結婚は完全に破棄されました。

 色々検討された結果、あたしの立場はスノーお姉様の義妹ということになりました。


 なお、あたしとの結婚が破棄された後、王は三人目の妻を迎えました。

 かつてのあたしとは違い、まともな方なので、戸籍上の子供となったあたしとしても安心できます。


 そして、あたしは相も変わらずスノーお姉様の着せ替え人形にされています。

 王宮内では一時期、スノーお姉様の衝撃の趣味が明らかになったことで騒動が起きましたが、今では当然のことのように受け入れられています。

 あたしが五歳の女の子になったことも案外早い段階で受け入れられてしまったので、この国の順応力はおかしいのかもしれません。


「全く、スノーお姉様は本当に飽きないわよね。いい加減、もふもふするのをやめてほしいんだけど」


「だって、可愛いんだもん♡ こんなに可愛いアンネちゃんをもふもふしないなんてバチが当たるよ」


 しかし、もふもふされるのを受け入れているあたしもいます。

 案外、この生活も悪くは無いかもしれません。


「ねえ、スノーお姉様。あたしは、必ずスノーお姉様よりも美しくなるわ」


「そうね、アンネちゃんはきっと私以上の美人さんになると思うよ」


 あたしは、スノーお姉様よりがあたしより美しくなっていく度に嫉妬心を抱いていましたが、今ではそんな風に考えていたことがバカらしく思えてきます。

 スノーお姉様は、美しさなんてどうでもいいと思っていたのです。かつてのあたしは、独り相撲をして独りで怒っていたのだと思うと悲しくなってきます。


「――鏡よ鏡、世界で一番美しいのは(だぁれ)?」


『女王様改め、アンネリーゼ様。世界で一番美しいのは、スノーホワイト様でございます』


 戯れに聞いてみましたが、やはり世界で一番美しいのはスノーお姉様のようです。といっても、あのローレライ達には勝てないでしょうが。


『――ですが、世界で一番可愛いのはアンネリーゼ様でございます』


 今のあたしでは、世界で一番美しい者の座には座れません。

 ですが、失敗で手に入れた今の年齢の姿も嫌いではないのです。


「かっ、可愛いなんて言われたって。嬉しく無いんだからねッ!」


「きゃー♡ アンネちゃんがツンデレになった」


 今はまだ世界で一番可愛い女の子です。ですが、世界で一番美しくなる夢を捨てた訳ではありません。

 今度こそ、あたしは世界で一番美しい女性の座に舞い戻ります。


 ――今のあたしの夢は、スノーお姉様と二人で世界で一番美しい姉妹になることなのですから。


【introduction:三人称視点】


 昔々、ある国に二人の美しい姉妹がいました。


 黒檀(こくたん)のように黒く艶やかな髪に翡翠色に輝く大きな瞳を持つ美しい姉と、稲穂のように黄金色に輝く豪奢で艶やかなプラチナブロンドの髪に深く透き通った蒼玉色(サファイアブルー)の瞳を持つ対照的な妹の姉妹です。


 かつては険悪な仲だった二人ですが、紆余曲折を経て誰もが羨むほど仲の良い義姉妹となったのです。


 二人の世界で一番美しい姫の姉妹は、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

☆IFストーリー登場人物☆


アンネリーゼ

 白雪姫の継母。貴族出身で、昔から「美しい」と周囲に言われながら育ってきたため、自分の美に絶対の自信を持っていた。

 王に認められて結婚し、白雪姫の継母になるが、日々美しさを増していく白雪姫に嫉妬心を抱いている。

 紆余曲折を経て、スノーホワイトの義妹となった。

 本作の主人公格。一人称は、わたくし/あたし。


魔法の鏡

 「鏡よ鏡、」でお馴染みのアンネリーゼが持っている不思議な鏡。

 嘘は絶対に口にしないため“真実を語る魔法の鏡”という異名を持つ。

 王宮を訪れたアラビアンな行商人なのに、口癖が「儲かりまっか?」な人物が継母に売った事でアンネリーゼの持ち物となった。

 一人称は、やつがれ。


行商人

 回想に登場。関西弁を操るアラビア風の行商人。アンネリーゼに魔法の鏡を売りつけた。

 余談だが、色々と怪しい物を扱っており、彼の扱う商品の中には魔法の絨毯や擦ると魔人が現れるランプなどがある。

 

狩人

 スノーホワイトを殺そうと思案した際に真っ先に思い浮かんだ人物。

 青い蝶を捕まえる際にアンネリーゼに力を貸した。

 得物はマスケット銃。


小人(ドワーフ)

 妖精の一種で、山の中で金や銀などの鉱物を採掘する仕事を行って生計を立てている。

 全部で七人いることが確認されており、そのうちの一人が森の中で狼に襲われたアンネリーゼを助け、スープを提供した。

 津軽弁に似た独特の訛りで話す。


王子

 隣国の王子。隣国との国境で出会った。かなりの方向音痴。

 アンネリーゼが欲していた崖の上に咲く金色の花を手に入れ、彼女にプレゼントした。


パトリシア

 隣国の王子の白馬。性別はメス。


ローレライ

 泉に住む人魚のような精霊。美しさを求め続けるアンネリーゼに、美しさが全てでは無いと忠告した。

 元となったローレライ伝説は、ドイツのラインラント=プファルツ州のライン川流域の町ザンクト・ゴアールスハウゼン近くにある、水面から130mほど突き出た岩山のことであり、白雪姫が収録されている『グリム童話』が生まれた国という点で共通している。


スノーホワイト(白雪姫)

 雪のように白い肌、血のように赤い頬や唇、黒檀の窓枠の木のように黒い髪を持って産まれ、その身体的特徴をもって「白雪姫」と呼ばれた王女。

 可愛い物が大好きな、レズっ気のある女の子。


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 冬の童話祭2018参加作品となります。予想外に長い作品になってしまい。途中で短編という概念について考えさせられました。

 短編って、一話完結の作品のことですよね?


 感想等々お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  視点の切り替わりが分かりやすく、場面場面で感情移入しやすくなっています。  登場人物がそんなに多くないので、展開も複雑にならない分、ライトな感覚で読み進めることが出来ました。  言葉…
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