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サバイバルゲーム番外編 「高原愛子ちゃんの1日」前編

これは、youtubeに投稿されている幽々子奪還編のIF物語です。時間軸的には今は無き公安0課IFに近いものです。


幽々子奪還での戦いから数か月。時期は11月に入った所から始まります。


とある理由で女装して学校に1週間通わなくてはならなくなった愛人。そこでは、本編では関わりが少なかった人物や敵対していた相手との友好関係が見れます。他にも、みんな大好き愛子ちゃんの見どころが沢山詰まっていますのでお楽しみ下さい。


他にも、人気投票1位のメヌエットも多く出てくるヒロイン達よりちょこっと優遇しておりますのでメヌエット推しの視聴者様は、もっと楽しめるかと思います。


更に、本編ではほとんど出番の無いデルタフォースに所属するノワールが勿体ないのでこの作品を使って最初で最後の大舞台を用意してあげました。


前半は愛子ちゃんの日常が、後半にノワール&メヌエットのイチャラブ、更に白熱したバトルもいくつか書かせて頂きました。


誤字や表現のおかしな部分が多々あると思いますが、これが自分の今の限界勘弁して下さい・・・・しかもなろうでは、1回の投稿では7万文字が限界らしいので前編、後編と分けさせて頂きます。今現在後編は制作中なのでもうしばらく掛かると思われますが、何が何でも1月中には完成させるのでそちらの方もよろしくお願いします。



前置きが長くなってしまいましたがどうぞお楽しみください。


「ひぃいい・・・・11月とは思えない寒さだな」



聞きなれたような聞きなれない様なアニメ声と共に白い息が空に舞う。

俺、高原愛人・・・・ではなく、高原愛子は東京都千代田区にある軍事学校に向かうおうと家を出た。

どうしてそんな所にドンパチする危険な学校があるかと言うと、一番の理由は警察庁が近いと言う事。

世間では今だ公にされていないこの学校の管理がしやすいとか、様々な理由があるらしいが俺にはどうでもいい事だ。


そんな事は置いといて、どうして俺が女装して学校に向かう事になったのかと言うと・・・・・・。



時を遡ること数時間。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ギャハハハ!!お、お前マジで愛人なのか?似合いすぎだろォ!」



「フフ。とても似合ってますよ?愛人君。いえ、愛子ちゃん」



大きな口を開けて大笑いする男一人に、天使の様に美しい女性が一人微笑む。



「もうこの子になる事は一生無いと思ってなのに・・・」



腰まで伸びたマロンブラウンの髪に手を通しながら呆れる俺。髪は面白いくらいサラサラとしていて、一つの突っかかりもなく、指の間を抜けていく。



「自業自得だろ。お前が選択科目を変装にすっからこうなるんだ」



詳細は長くなるから省くが、うちの学校では拳銃やら刀やらを扱う危ない所だ。そんな学校にも選択科目が存在する。普通は物理もしくは生物といった2択しかないが、軍事学校ではなんと6種類もある。

その内の一つとして変装技術というものがあった。


話によると、選択率が創立以来ずっとワースト1位を維持する超絶不人気な科目らしい。原因としては変装自体に興味がある生徒が少ないと言う事だそうだ。


そんな俺は、幽々子奪還作戦で日本に来た時にした女装が大成功した事もあって、少なからず興味があった。当の本人は朝に弱いのでまだグーグー寝てるけど。


あ、別に女装に興味があるって訳じゃないからそこら辺勘違いすんなよ?・・・・あの時、完璧な変装がどれ程の効力があるのかは身を持って体験した。もしかしたら、今後何かの役に立つかもしれないからな、学んどいて損は無いだろう・・・・と、そんな気持ちで選んだんだが・・・。


これがミスチョイス。確かにある程度変装技術を学べたのだが、愛子ちゃん以外まともに出来やしない。

だらしないサラリーマンだったりオタク系男子をやってみたがあっさり見破られる。


そうして日々の勉強の成果を確かめる為に、1週間変装して学校に通う事になった。ただ変装するだけでなく、学校の手伝いもあって偽造学生証だったりアリバイだったりを作って貰うガチっぷり。


しかも教師以外に変装がバレた場合は、勉強不足とされ、きっつーい補講を受けさせられるのだ。

だからこそ、失敗は許されない。それで変装センス0の俺は、仕方なく愛子ちゃんになる事を決心した。


愛子ちゃんになる為にはカツラやらシリコンおっぱいだったりと色々準備をしていく必要がある。だが、最も重要なメイクばかりは俺一人ではどうしようもないので、長い事お世話になっている大人の女性、十六夜咲夜に頼んだ。


それなのに何処かで情報を聞きつけたであろう篝も一緒に俺の家に来た。どうせ咲夜さんが呼んだんだろうけど。


てかどうして公安0課の1式さんが朝から女装する男を拝みに来てんだよ、山ほど仕事あるんだから仕事行けよ・・・・・今度篝の給料下げて貰える様に四季映姫に頼んでみようかな。あいつ篝の事嫌いだし案外行けるかもだ。



咲夜さんにメイクをして貰った俺は、一通り支度をして鏡の前に立つ。


鏡の前に立った俺は、自分で言うのはあれだがとびっきり可愛い。咲夜さんにして貰ったメイクのお陰で俺は、童顔美少女に大変身。


自分で言うほど悪かったハズの目つきは、咲夜さんの手によって全体的に大きく見せる様になっていて、髪の色と同じカラーコンタクトをする事でクリッとした可愛らしい瞳に。


薄くファンデーションをして、薄ピンクのチークで軽く頬を叩けばあら不思議。完全な女の子の完成だ。

改めてメイクの凄さを感じたね。なんせ冴えない俺でも超絶美少女になれるんだから。


メイクはどうにかなったが、次の問題は声だ。可愛い顔して低音男ボイスだったら気持ち悪いったらありゃしないからな。とは言っても、俺は変声術とか習ってないし女声だって出来ない。その為、どうしても道具に頼るしかない。


それで使用したのがサロ〇パスを小さくした肌色のシートっぽい奴だ。コイツは喉に貼るだけで声が女声になる女装の為だけにあるような代物で、シリコンおっぱいと一緒に要求したら案外あっさり貰えた。


そのサロ〇パスモドキを喉に貼ったらあら不思議、可愛いアニメ声になるんだから驚いたね。一応2回目の変声だったからそこまでインパクトなかったけど。


後はシリコンおっぱいと下着をつけ、ワイシャツとリボンを着たら、藍色のブレザーを羽織ってスカートを履く。足の切り傷なんかを隠すために黒タイツをするんだが、ようやく生え始めたすね毛が再び剃られた時は涙が出たね。何か大切なものがなくなった不思議な気持ちになったよ。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




そうして今に至る訳だが・・・。


11月だからってちょっと舐めてた。普段はズボンを履いてるから足が寒いなんて思う事は殆ど無かったが、今は震えるくらい寒い。冷たい風が黒タイツを貫通して肌を撫でてくるし、スカートはひらひらして股間はすうすうしてヤバい。冬の女子は大変だなぁ~。


寒さを紛らわせる為にも、足早に歩く。迷路の様な住宅街をスイスイ進むと世界有数の電気街に出る。

立ち並ぶ建物の看板には様々なアニメキャラが描かれていたり、スーツを着た老若男女がせっせと職場に向かう姿が目に映る。俺とは違うが、学校の制服を着て仲良さそうにお喋りしながら歩く学生もチラホラ見える。


そんな中俺は一人ぼっち歩いて行くんだが、妙に視線を感じる。初めは気にしてなかったが人が増えてから明らかに人目を引いてる。もしかして女装がバレてる!?


っと思ったのも束の間、声は聞こえないものの、読唇術で周りの人達が何を言ってるのかを理解する。

大抵の人は「あの子可愛い!!同じ歳かなぁ?」「うぉおお!超絶美少女発見。超ドストライクなんですけど」「デュフフフ、3次元なんてクソ食らえと思っていたでござるが、ここも捨てたものではないでござるな」


なんて事をみんな言ってる。褒められて悪い気はしないが男である俺には嬉しいのかそうじゃないのかよく分からない不思議な感じだ。


男女問わず人目を集める愛子ちゃんは恥ずかしさに耐えながら電気街を進んでいくと・・・・。



「どけどけぇぇぇぇ!!」



大声で叫びながら後ろからサングラスをした男が走ってくる。声に驚いた人達はみんな男に道を譲るように端っこによる。その時に見えたんだが、奥の方でおばあさんが倒れているのが見えた。恐らく老人を狙ったあるぼったくりだろう。ここ数年で治安が悪くなった日本では珍しい事でもない。ニートの時代は銃撃戦のニュースなんてあまり無かったが、今では1週間に1回は見るくらいの頻繁で起きている程だ。


だからか、ひったくり程度じゃ驚く人は少ない。「ああ、またか・・・」なんて言ってる人もいる。


とは言え、ひったくりも立派な犯罪、窃盗罪になる。あのおばあさんがケガでもしてたら更に重い強盗致傷罪にだってなりえる。


俺だって今は学生だが、いずれは治安維持を主にした職種に付くんだし、見逃す訳には行かない。


「能力ある者は、それを正しく行使する責務がある」なんて言葉があるくらいだ。俺にはあの男を止めるだけの能力を持ってる。道を誤った人間を、正しい道に戻すのも能力ある者の責務だ。


いつまでたっても道を譲る気配を見せない俺を、周りの人はヒヤヒヤとした顔で見つめる中、俺はゆっくりと男の方へと向きを変える。



「どけって言ってんだろがァ!」



そう言って男は付き飛ばそうと右手を伸ばした。俺はその右手首を左手で掴み、右手は男の胸倉を掴んで回転する。首と右肩の間には男の腕が伸ばされ、背中は背負う様にピッタリと相手の胸にくっ付ける。

後は走って来た勢いを使ってお辞儀をするように投げる。


__背負い投げ_


男は一回転すると、鈍い音と共に地面に叩きつけられる。相手が頭を打たない様に投げたので大きなケガにはならないだろうが、受け身を取れていなかったので肺の中の空気が一気に放出されたてしばらく痛た苦しい感覚に襲われるだろう。現に男の顔は痛みに歪んでいる。


教科書の手本の様に綺麗に決まった背負い投げに満足した顔をしていると、辺りが静寂に包まれる。


__ヤバい!つい反射的にヤっちまった。目の前で綺麗な背負い投げする美少女とか完全におかしな奴だと思われた!!


静寂に耐えかねて逃げ出そうとした瞬間・・・・。



「すご~い!!めっちゃカッコいいんだけど!」



「可愛いだけじゃなくて強いとかマジエクストリームスペシャルパーフェクト天使なんだけど!!」



「デュフフフ。格闘系美少女。これは売れる匂いがするでござる!!」



沢山の指笛と共に賞賛の声が電気街に絶えず流れる。さっき奥で倒れていたおばあさんと一緒に俺の元に警察官が向かってくる。



「犯人の確保にご協力ありがとうございます!お怪我はありませんか?」



帽子を取って頭を下げた警察官は、心配した様子で俺の事を見る。俺は何処もケガしてないが、ぶん投げた犯人の方が心配だ。ケガとかしないように細心の注意を払って投げたとは言え、不測のダメージとかあるかもしれない。



「おr・・・私は問題ないんですが、こちらの男性の方が心配です・・・。コンクリートに打ち付けてますから何処かケガとか。」



そう言って仰向けの男の方を見ると、何故か顔を赤くしてマジマジと何かを見ていた。振り向いた事に気付くと急にそっぽを向いて口笛なんか吹いてる。


俺には何が何だか分からないが、周りは分かっている様子で「マジ最低なんですけど。人間のクズだわぁ~」「クッソォ!羨まし・・・ゲフンゲフン。ぶっ殺すぞテメェ!!」「我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者etc 。イクステ〇ション・〇イッ!!」


などと罵倒されている。警察官も鬼の形相になってるよ怖い怖い。そんな中、おばあさんが優しい声で俺に話しかけてくれる。



「本当にありがとうねぇ~。何かお礼しないと・・・ちょっと待ってねぇ」



そういって犯人からかばんを取り上げると、中をゴソゴソと漁りだした。俺は別にお礼が欲しくてやった訳じゃないのでそこはきっぱりと断る。



「気にしないでください!別に大したことじゃないですから!!」



「いいからいいから!」



「いやホント大丈夫ですから!!」



おばあさんは、握りしめた札を渡そうと俺の手を掴んで握らせようとするのでそれを合気道の要領でおばあちゃんの手から抜け出す・・・が、中々諦めないおばあちゃんは、再び俺の手を握ろうと迫ってくるのでまた同じようにする。


傍から見るとミッド撃ちみたいに見える第1回報酬受け取り攻防戦を繰り広げていると・・・・。



「お話の途中すみません。規則で記録しなければならないので何か身分を証明出来るものとかありますかね」



申し訳なさそうに警察官が身分証明を出来る物の提示を要求してくる。どうしたもんか・・・保険証とか財布にあるにはあるが、名前が高原愛人のままだし、流石にこれを出すのは不味いな。かと言って変に誤魔化して後々調べられて偽造とバレたら面倒な事になりそうだし。


しばらく考えた結果、俺は学生証を提示することにした。これなら名前が高原愛子になってるし顔写真も事前に撮ったものがしっかりあるので証明になるだろう。もし偽造がバレたら0課の奴らにどうにかして貰おう。


渡された学生証を見た警察官は「なるほど。どおりで・・・」と小さく声を漏らしながら確認していく。軍事学校の存在は公にされていないが、公安職の人間には大体伝わっているので不審がられる事は無い。

数は少ないが、軍事学校の学生が銃刀法違反で捕まったりする事もあるが、その時は学生証を見せれば注意程度で済む。ただし、後から学校からの特別指導(物理)が入るので皆一般人に見られないように気を使っている。


俺が背負い投げが出来る事に納得した様子の警察官はそのままチェックしていくと、ある所で驚愕の表情になる。顔をプルプルと震わせながら何度も学生証と俺を交互に見た警察官は・・。



「す、すみません。失礼を承知で申し上げさせていただきますが・・・その」



「はい?何か問題でもありましたか?」



何故か怯えたように震える警察官はビクつきながらも口を開ける。



「この・・・・所属の枠に記載されているこ、公安0課・・・さ、3式と言うのは」



「ああ・・。はい、そのままの意味なんですが・・・。」



そう返すと更に驚愕の表情をした警察官は失禁しそうなくらい白目を剥ける。


うちの学生証には最後の方に所属先の枠がある。学生でも、俺のように公安に所属していたり、機動隊に所属してる奴も少なからずいる。まだ正式な入隊は年齢的な問題で出来ないので、研修生と言う形にはなるが。



「あ、ありがとうございました・・・・。後日、感謝状を贈らせて頂きます」



そういって返された学生証を財布に入れる。ひったくりを捕まえただけで感謝状貰うなんていくら何でも大袈裟過ぎるだろ。まぁーどうせ上の申請で弾かれるだろうから口は出さないけどさ。


それからは再びおばあさんとの第2回報酬受け取り攻防戦を繰り広げた俺は、時間が無い事に気付いて逃げるようにその場を離れた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




電車に乗った俺は、ここに来てようやくゆっくりする出来た。あのおばあさん、見た目に反して意外と足が速いもんだから結構本気で逃げた、数%程脚力強化するくらいにね。


ラッシュの時間なだけあって電車内は職場に向かう人達でいっぱいだ。それにも関わらず、運よく席に座れたんだが隣の学生が妙に体をくっ付けてくるような気が・・・。そのせいで俺は左右の男からサンドイッチ状態で居心地が悪い。


かといって文句言っても人混みで仕方なく、なんて言われたら何も言い返せないから仕方なくそのままの状態にしておく。まぁ、隣の奴は顔赤いし、明らかに目が泳いでるし、目があった瞬間そっぽ向いて口笛吹き始めるし、確信犯だな?コイツ。まぁ、美少女の隣に座れてうれしい気持ちは分からんでもないが、その隣にいるのが実は男だなんてことを夢にも思ってないんだろうな。知らない方が幸せな事があるとは良く言ったもんだ。


サンドイッチにされている間暇だったのでスマホでツイッターを開いてTLを見ていると見覚えのある者が写っている写真と共につぶやかれていた。



__超絶美少女がひったくり犯に制裁。In秋葉原!!__


なんて言葉と共に見覚えのある美少女が背負い投げしている写真と、苦笑いしてる顔写真の2つがアップロードされていた。2枚目は恐らく警察官と話をしてる時に前から撮ったものだろう、盗撮とはいえ、綺麗に撮ったものだ。肖像権で訴えたろうか!


しかもたった20分しか経っていないにも関わらず、既に2万リツイートという驚愕の数字を叩き込んでる。そのTLに向けられたリプには「ヤベェ、マジぐぅシコなんですけどwww」「クッソww特定はよ」「俺も背負い投げされたい(切実」


といった感じのが何百件もある。ホントマジで勘弁してくれ、さっきから震えが止まらねぇよ。


憂鬱な気分のまま電車を降りた俺は、東京駅から学校に重い足取りのまま進む。


内堀通り辺りまで来た所で、ちろちろ俺と同じ制服の人達が見え始めた。ここでも人目に晒される俺は、若干顔を下に向けながら進んでいると、前にいる人に気付かずぶつかってしまう。その衝撃で尻餅をついた俺が痛みに震えていると。



「大丈夫?何処かケガとか・・・」



そう言って手を差し伸べたのは・・・・ゲッ!神崎拓斗!!


頭脳明晰、容姿端麗で誰もが憧れる公安0課に所属する一人、俺より一つ上の2式の名を持つ男だ。同じ藍色のブレザーの内側は、肌色のカーディガンとワイシャツ、そこにチェストホルスターの紐が見えたので恐らく懐には、切り詰められたウィンチェスターM1873が収められているんだろう。


かくいう俺は、いつも使う「Beretta Two」ではなく、同じ9パラ撃つことの出来るH&K社のUSPコンパクトを携帯している。ポリマーフレームを使われた銀色のスライドに、丁度手中に収まるグリップは()()でも使いやすくおススメなんだと・・・・皮肉かね全く。


ちなみに今回はブレードは持って来ておらず、代わりに同じ銃を2丁持って来ているので火力面での問題はない。因みに太ももの付け根にあるホルスターに2丁共に収められている。スカートの中を覗かない限り見えないので一般人にもバレてないはず・・・・ない・・・ハズ。


「あ、ああ。___いや!!だ、大丈夫ですっ!」


ついいつものノリで返事をしてしまった俺は慌てながら伸ばされた手を掴み、立ち上がる。拓斗は頭に?を浮かべるような顔をしているが気付かれた様子じゃない。



「ならよかった。見ない顔だけど・・・」



俺と同じペースで隣を歩く拓斗は、俺の顔をじっと見てそんな事を言ってくる。コイツとは何だかんだ結構いるのであまり見られると変装がバレそうで怖い。



「えっと・・・・今日からこの学校に編入するので・・・」



1週間だけだけどな。因みに愛子ちゃんは高原愛人の従妹という設定にしてある。ご本人である愛人は任務で海外の方に行ってる事になってるので、学校以外でも安易に出られない。外出は必要最低限にする必要があありそうだ。



「そういう事か、この時期に編入とは珍しい事もあるもんだね。知ってるとは思うけどこの学校は物騒だからケガには気を付けてね。特に君には跡の残るダメージは致命的だからね」



紳士的態度で「それじゃあ僕はここで失礼するよ。少し急ぎの用事があるから」と一言残して走り去っていく。流石イケメン、女子に対する接待が丁寧だ。俺じゃなきゃ落ちてただろう。どこぞの誰かが命名した伝説の女たらしも見習いたいものだ。


そんな事を思った瞬間、スマホのバイブレーションが鳴る。確認してみると、丁度その命名者からのお電話だった。国際電話は高いからあまりおススメしないんだがな・・・まぁ、着信側の俺は1円も払わなくていいからどうでもいいけど。



「あーもしもし」



口元を隠し、声量も抑えて話しかける。スマホからは久しぶりに聞いた可愛らしい声が耳に入る。



「・・・・・え~っと・・・どなた様しょうか?」



あ、そう言えば今の俺は声も変わってるんだった、俺に電話掛けたらきゃわいいアニメ声の女の子(男)が出たらそりゃ誰だコイツってなるわ。何故か言葉は丁寧なんだが電話越しでも怒ってるのがわかる。ヤキモチですか?可愛いなおい。



「俺だメヌ。今は事情があって女装してる。だから手短に頼む」



「あ、愛人!?・・・・そ、そうですか。女装するだけの事情とはなんでしょうね」



含み笑いをしながらそんな事を言う。


俺が今通話しているのは、イギリスに居た頃、仕事で護衛任務を受けた時に知り合った。


_メヌエット・ホームズ_


あの有名な名探偵、シャーロック・ホームズの子孫。この子もその血を引いていて、未来予知にも近い推理力を持っていて、12歳という若さで大手企業の相談役を受けたり、難事件の捜査に協力したりするくらいの天才だ。


しかも金髪碧眼ロリの美少女というおまけ付き。ゆういつの欠点と言えば性格に難ありってところくらいだ。


そんな天才美少女とは、イギリスから離れてもちょくちょく連絡を取ってる。大体はどうでもいい雑談がメインだが、たまに有力な情報をくれたりするから機嫌を損ねるような事はしたくない。



「そちらも大変そうなので手短に説明します。今日実家帰りする為に日本に向かうのですが、泊まり場所が無くて困っているんです」



「実家帰り?ローマが故郷じゃねぇのか。そもそも、お前くらいのお金持ちが泊まる所ないって、そこら辺のホテルに泊まればいいじゃねぇか」



可愛い声に反して汚い言葉遣いには目を瞑って貰うぞ。女の振りしてストレスがMAXなんだ、軍事学校の学生じゃない人との会話くらい普通にしないとやってられん。



「私の所でも色々ありまして、少しでも節約できるものなら節約したいのです。なので今日1日愛人のお宅でお世話になりたいんですが」



「お前が節約か、いい心がけだ。部屋が空いてるには空いてるが、あまり大人数だと無理だぞ」



「安心してください、今回は私とSPの二人だけなので。それでは許可も頂けたことですし、ここらで切らせてもらいます。フライトも近いので・・・・女装姿、楽しみにしておきますね」



そう言い残して電話を切られた。今日に限って面倒事が重なるぜ全く。





教室に向かわず、最初に向かったのは職員室。流石軍事学校の教師というべきか、扉を開けちゃいないのにヤバいオーラがプンプンするぜ。



「失礼しまぁ~す・・・」



そーっと扉を開けて入った職員室は、よく見る机がいくつもくっ付けられ、奥に気品の高い校長の席がある、ここだけ見れば普通の職員室なんだが、机の上やら壁やらにコルトパイソンやらRPGなんかが立て掛けるから恐ろしいったらあらりゃしない。



「えーっと、あなた、クラスの方は・・・」



俺の担任教師である射命丸文先生が困り顔で言ってくる。他の教師もみな見覚えのない俺を不思議そうに見てくる。十六夜咲夜という一人の教師を除いて。吹き出しそうになってるのを必死に堪えてる。クソッ!マジ早く帰りてぇ!!



「あ、あの・・・・高原・・・愛人・・・です」



「・・・・はいぇ?」



そう答えると、数秒口をポカンとさせ・・・・



「えええええええぇえっぇぇぇぇぇええ!あ、愛人君なんですか!?確かに今日は変装技術のテストとは聞かされていましたけど・・・ええ!!」



文先生の叫びと連鎖して職員室内の教師全員が「えEEEEEEEEEE!!」と驚きの表情をする。咲夜さんはとうとう耐えきれなくなったのか、盛大に吹き出してる。


教員達が俺のあまりの変貌っぷりに驚いていると、奥にある校長室から校長と篝が出てきた。篝が俺の存在に気付くと、いつもの深い堀の入った強面を一瞬でクシャクシャにして大笑いしてる。クッソ!今すぐその大きな口に9パラをぶち込みたい!!


俺の姿を見ても穏やかな表情のまま近づいて来た校長は・・・・



「おやおや、とてもお似合いですよ?愛人君」



一瞬で俺の事を見破りやがった!!ここでの騒ぎは防音の校長室には届いてないハズなのにどうやって・・・。



「見た目が変わっても君の元の姿は変わらない。立っている時の重心、体の筋肉比であったり輪郭であったりは誤魔化せませんからね」



口に出さずとも、俺の疑問を感じ取った校長はそう答えてくれる。流石軍事学校の校長やってるだけある。他の人を騙せてもこの人だけはいくらやっても騙せる気がしないぜ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




朝のHR中、先生の指示があるまで廊下で待機する俺。あらかた連絡事項を話した文先生は、最後の仕上げと言わんばかりに・・・・。



「今日はこのクラスに編入生が来てます!皆さん仲良くして下さいね!」



先生の一言で教室内が一気に騒がしくなる。壁越しなのでハッキリ聞こえはしないが、「編入生!イケメンだったらいいなぁ~」「この時期の編入生と言えば美少女って相場が決まってんよ!!」「てか愛人の奴今日休みなのか?」「どうせいつものサボりだろ」


なんて聞こえてくる。いますよ?その愛人君。美少女になっての登場だけどな。



「それじゃー入って来てくださーい!」



文先生の合図を受け取った俺は、静かに引き戸を開けて教室に入った瞬間、大歓声を浴びさせられる。


「キタコレぇぇぇぇぇぇ!!」「俺、彼女と結婚するんだ・・・」「キャアァァァァお人形さんみたい!!」なんて言葉のマシンガンが俺に向けて掃射される。少し歩くだけで大歓声起こせるな愛子ちゃん。愛人は歓声の一つも聞こえないのに。


先生は俺の姿を見た瞬間、口元を抑えてクスクス笑いながら。



「そ、それじゃぁ・・・ププ。自己紹介の方よろしくお願いします」



その言葉と同時に爆音の歓声は一瞬で止み、完全な静寂に包まれる。みんな俺の言葉を待っているようだ。



「え、えっと・・・・。北海道にある札幌軍事学校から来ました。高原愛子・・・です。分からない事ばかりで皆さんに迷惑をお掛けすると思いますが、よろしくお願いします」



軍事学校は日本にあるもので3つある。北海道、京都、そして東京。前の学校は荒れ地になっちまったからな。その代わりとして新しく建てられたのがここだ。



「はいは~い!質問いいですかぁ~!」



元気よく手を挙げた女の子に、俺は笑顔で返答する。それで周りからはおぉぉぉ・・・なんて声が漏れてる。



「高原って事は、もしかして愛人君と何か関係があったりするんですか?」



その質問で文先生は「あ、忘れてました!」と小さな声で言うと・・・



「その事なんですが、愛子さんは愛人君の従妹さんですね。問題の愛人君は今海外の方に派遣されているので1週間程学校の方は欠席になります」



「マジかよ!愛人の野郎こんな可愛い従妹までいたのかよ!!今度あいつの靴箱にクレイモア入れとこ」



ちょっと待て、それは洒落にならんからやめろ。いくら銃弾を躱せる俺でも爆弾は専門外だ!


それからも沢山の質問が上がるが、授業が始まるので休み時間の間に色々聞いてくれと言い残して文先生は教室を後にする。


空席に座った俺を待っていたのは、数分の休み時間ではなく質問の雨だった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




質問のガトリング砲が収まる頃にはもう昼休みに突入していた。愛子ちゃんのキャラを貫き通す為、50分ある授業を4時間寝ずに頑張ってノートを書いた。普段は2時間ほど寝るから昼休みは食事に専念できるんだが、今は食欲より眠気の方が強い。だが、そんな俺の気も知らない周りはガンガン話しかけてくる。


既に隣のクラスでも噂になっている様で、引き戸の向こうからこちらを見つめる視線は数え切れない。


「ねぇねぇ!愛子ちゃんと愛人君ってどんな関係なの?」



「ただの従妹ですよ。たまに会うだけの関係です」



「北海道のほうではなんの学科だったの?」



強襲科(アサルト)でした。今回もそちらにお世話になろうと思ってます」



この学校には普通の学校でいう所の部活の様な物がある。前の学校に比べて数は少なくなって今では3つ。


強襲科(アサルト)魔術・霊力科(ヴィザード)救護科(アンビュラス)


大まかに分けてこの3つ、ここから更に分けていくと数は結構なものになる。前に所属していたシーカーリウスは強襲科に分類される。



強襲科(アサルト)は銃器・刀剣をメインに最前線で戦う為の技術を学ぶ学科だ。銃ならその構造、射撃基礎云々。刀剣なら剣術やら体術やらを叩き込まれる。


魔術・霊力科(ヴィザード)は文字通り魔術に関する技術を学ぶ。魔術を併用するのに使用する魔力は、比較的男より女の方が高い事から入ってる男女比は3対7と女子の方が高い。一概に魔術といっても全てが攻撃に使用するものでもない。味方を支援する魔術だったりもある。


救護班(アンビュラス)は戦闘技術よりケガした兵士を治療する技術を習う学科だ。ここら辺に関しては無知なのでどんなことをするのかは良く分からない。



「愛子ちゃんは強襲科(アサルト)だってよ!やったぜお前ら!!」



「クソ・・・救護科(アンビュラス)やめて俺も強襲科(アサルト)に移ろうかな・・」



なんてあちらこちらから聞こえてくる。寝させてもらえ無さそうだし、せめて飯だけでも食べたいな。そう思った時、一人の女の子が人混みをかき分けながらこっちに向かって来た。



「はいはいどいたどいたぁー。愛子ちゃん!お昼はまだよね。良かったら一緒に学食食べない?」



人間ジャングルを掻き分けて現れたのは、俺の幼馴染である博麗霊夢だ。クラスに一人はいる委員長タイプの女の子で、男に引けを取らない程気が強い。霊夢を怖がる人も多いが、それなりに顔立ちは整っていて可愛いのでM男子を中心に人気のある女子の一人だ。


俺は霊夢に半ば強引に連れていかれる様に学食に連れていかれる。食券を買って頼むタイプの学食で俺は、いつも頼むハンバーグ定食(490円)の食券を購入する。



「愛人もいつもそれ頼むのよね。流石従妹ね!」



俺が買った食券を見た霊夢は笑いながらそんな事を言う。危ない危ない、今回は良かったがいつもの癖で愛人と同じ事をしてしまっては、疑われる可能性がある。今度は気を付けよう・・・。



「そうなんですかぁ~。えっと・・・その」



「あ、そう言えばまだ自己紹介してなかったわね。私は博麗霊夢。適当に霊夢でいいわよ・・・。でも愛子ちゃんとはどっかで会った気がするのよね・・・・愛子ちゃんは何か心当たりあるかしら?」



うん。知ってるよ?


と、心の中で言いつつ俺は「すみません。ちょっと心当たりありませんね」と返しておく。


幽々子奪還作戦前日に、この姿で警察庁周辺を偵察していた時、後輩を走らせてる霊夢と偶然ばったり会った事がある。幸い、霊夢はそのことを鮮明に覚えていないらしい。



「そっかぁー。それじゃ気のせいk____」



「お!噂の編入生ちゃんじゃないですか!霊夢さんもども~」



俺達の会話の横から入って来たのは、公安0課の5式、四ノ原明人だ。チャラい感じの男だが、こう見えても一人のお嬢様に仕えてる執事。日本と何処かのハーフと聞かされている。特徴的な金髪と宝石の様な碧眼は、うちの学校でも有名だ。性格さえ良ければ結構モテそうだが、お嬢様以外の女には興味ないんだと。


実力は公安0課に所属するに値する・・・・訳でもない。何か特別な力や能力を持っている訳でない。むしろ正面からの殴り合いでは並程度の実力しかない。これだけ見れば0課に入るだけの力があるとは思えないが、コイツの強さは殴り合いによる実力ではなく、戦略を建てる思考力だ。


何度か0課の仕事で手を組んでいるが、コイツの建てる作戦には常に隙が無い。そして、常に不測の事態に対するリカバリーも忘れていない。明人が作戦に参加した場合の成功率は0課だけに関わらず、常に脅威の100%。


故にADSランキングでついた二つ名が・・・・


__無能の神童__


神童と呼ばれるに値する実力を兼ね備えている。0課の作戦でも、必要がない限り自ら戦いの場に身を投じる事は無い。一言で言えば指揮官タイプなのだ。最も敵に回したくない相手であるが、味方である時の安心感は絶大だ。


そんな指揮官様が、珍しく女子に興味を示した。まぁ、俺なんだが。



「いやぁー。噂通り凄い別嬪さんですね。まぁ、お嬢には及びませんけど」



「相変わらずね。お嬢様に対する愛はもう信仰レベルじゃない?あんた」



やれやれっと言った様子の霊夢は、食券をおばちゃんに渡して食事を受け取る。俺も食券を渡し、ハンバーグ定食を受け取る。ここのハンバーグは、学食の域を超越してるので週4で頼んでる。



「明人~・・・・あんたは席を取ってきなさい。食事は私が持っていくから」



人混みをかき分けて現れたのは、俺と同じ栗色のロングヘアーの少女。彼女が、四ノ原明人が仕えるお嬢様、あかねお嬢様だ。



「わかりましたー。それじゃ僕はここら辺で、また会いましょー!」



そう言い残して空いてる席を探しに俺達から離れた。俺達も4人分の空席に向かい、パイプ椅子に腰を下ろした俺は、いつもの癖を抑えて丁寧に定食に手を付ける。ガッツリ食いついたら女の子の気品が無くなっちまうからな。いくら腹が減っていても、ゆっくり食べよう。


箸で一口サイズに切り分けたハンバーグを口に運ぼうとすると、新たな来客が現れた。もう何なんだよ、いい加減ゆっくりさせて欲しいんだけど。



「こんにちわー!霊夢さん。お隣良いですか?」



「あらしずく、こんにちわ。私は別に構わないけど・・・いいかな?愛子ちゃん」



「はい。私も構いませんよ」



「それじゃー失礼しまーす」と一言いって霊夢の隣に腰を下ろしたコイツは、篝しずく。苗字で分かる通り、あの篝の一人娘だ。


綺麗な黒髪は緩いカーブを描いて、肩に掛かる掛からないかの瀬戸際の長さ。いわゆるセミミディアムと言う髪型で、片方の髪は少し前に触覚を残して、残りは耳に掛けてるので男としてはドキっとするものではある。


長いまつ毛が元々大きい目を更に協調し、ナチュラルメイクで整えられた顔は、スーツを着させれば「しずく先生のイケナイ補習授業」的なタイトルのエッチな動画になりそうなお姉さん顔。


体だって16歳の癖にDカップという驚異的な大きさ。しずくの胸の大きさは、学年とわず巨乳で有名だ。さっき席に座った時の反動で_ボインぃ~っと音をたてそうなくらい揺れたしな。その瞬間を霊夢が野獣顔負けの目で見ていたのは秘密。


因みに学科は俺と同じ強襲科(アサルト)で、後輩でもある。しずくは銃より剣を好む奴で、ブレードを使う俺が良く相手をしてやったりするうちに懐かれた。


流石篝の娘なだけあって、実力は結構な物だ。今は俺の方が上だが、もう1年経てばどうなるか分かったもんじゃない。



「そう言えば霊夢さん。今日は先輩と一緒じゃないんですね?」



「ん?・・・ああ。アイツは、今海外派遣で1週間戻ってこないみたいよ」



「そうだったんですねぇ~。・・・・それで、こちらの超絶美少女さんは・・・」



「あ、そう言えばまだ紹介してなかった。彼女は高原愛子ちゃん。今日編入してきたばかりなの。因みに愛人の従妹よ」



「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!あ、あの目つきが悪くて根暗で頭が悪くて女たらしな先輩の従妹さんなんですか!?先輩にこんな美人な従妹さんがいるなんて・・・・」



おいお前。その目つきが悪くて根暗で頭が悪くて女たらしの先輩が目の前にいるからな。後で覚えてろよコイツ・・・。1週間後に先輩としてたっぷりしごいてやる。もちろん(パンッ!)拳で!!



俺は怒りを表情に出さないよう、苦笑いして誤魔化しておく。



「あ、一人で盛り上がってしまってすみません。私は1年の篝しずくって言います。先輩には強襲科(アサルト)の方でそこそこお世話になってます」



「大丈夫。気にしないでいいよ!これからよろしくね。しずくちゃん」



お互い軽く自己紹介をした俺達は、適当に雑談なんかしながらハンバーグ定食を口に運ぶのであった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



食事を終え、午後の授業が始まった。だが、午前の授業でも昼休みでも一睡も出来なかった俺は、耐えきれなくなってついウトウト・・・・。周りは微笑ましい感じで俺を見ていたが、隣にいた拓斗がペンで突いて起こしてくれた。俺は小さくお辞儀して礼を伝えると、小さく笑って答える。相変わらずだぜお前は。


何とか残りの授業を睡魔との戦いに耐え、ようやく勉強が終わる。ここからは振り分けられた学科によってやる事が変わる。


荷物を整えた俺は、誰よりも早く強襲科の訓練場である巨大体育館に向かう。柔道場から射撃場、筋トレ道具に何から何まで整えられた完璧な訓練場。その大きさは脅威の1000メートル。200人以上の生徒が入っても十分なスペースがある。



防弾ガラスの自動ドアを通り抜けた瞬間、鉄と硝煙の匂いが鼻孔をくすぐる。最初の頃は慣れなかったが、もう半年近く通ってれば、実家の匂いより落ち着くよ。


まだ誰もいないこの間に俺はそそくさと更衣室前に行くき、ゆっくりと扉を開けて中を確認する。流石に本物の女の子達と一緒にお着換えするのは、今の俺には刺激が強すぎる。だから誰も来ない内にさっさと着替えてしまおうという算段だ。


全体的にピンク色の更衣室は、無数のロッカーと、軍事学校らしい弾痕がいくつもある。この学校では爆破後のクレーターだろうが弾痕があろうが誰も気にしない。それだけ頻繁に見るものという訳だ。


誰か来る前にさっさと着替えてしまおうと、ブレザーを脱ぎ、戦闘用の防弾ブレザーを新たに着る。


訓練では、防弾性のある制服、もしくはジャージでなくてはならない。いくら訓練とは言え、銃を使用する以上、最低限の準備をする必要がある。


とはいえ、防弾性の装備を着こんでも当たれば死ぬ程痛い。それは俺が何度も身を持って体験してるから間違いない。だから極力被弾しないように気を付ける。


元々着用していたブレザーにも防弾性能があるにはあるが、訓練で使うと汚れる。だから訓練用と学校生活用で分ける。もちろんスカートも同じだ。


テキパキと着替えを終えた俺は、荷物をロッカーにしまい、ブレザーのボタンを外してUSPを確認する。ついでに胸に違和感を感じるのでワイシャツの中に腕を突っ込んで整える。シリコンとはいえ、今の技術は発展しているもので、本物に近い感触だ。触った事ないけどね、本物のおっぱい。


あらかた準備を整えた俺は、一足早く体育館に向かう。その間、更衣室に向かっているであろう男子生徒の集団とすれ違う。同級生もいれば、他クラスの奴もいる。



「あれが噂の天使か・・・」



「同じ強襲科(アサルト)だったんだ!よし、今日はいいとこ見せる為に頑張っか!!」



「てかデけぇ・・・・あれで動けんのかよ」



うん。それは俺が一番気にしてるから。普通に歩く分には何の問題も無いんだが、訓練みたいに激しく動いたらどうなるか・・・。最悪ポロリするぞ、それも見えるポロリじゃなくて落ちるポロリの方な。



それからだんだん人が増えて行ってすれ違う度に軽く話をしたりしていると、いつの間にか射撃場についた。体育館の先にあるのが射撃場なんだが、話に夢中になって通り過ぎちまったみたいだ。


__折角だし、試し撃ちでもするか。


使い慣れたBerettaとは違い、今回は殆ど撃った事のない銃だ。訓練とはいえ、ヘマすれば命を奪いかねない。ちょっとやそこらで何とかなる問題じゃないと思うが、何もしないよりはマシだろう。


太ももから1丁のUSPコンパクトを取り出す。人型のシューティングターゲットに銃口を合わせるのと同時に、安全装置(セーフティー)を解除し、引き金を絞る。


_パァンッ!と乾いた音と共に手中で小さく跳ねる。女性でも使いやすいと言われるだけあってBerettaよりも反動が小さく、扱いやすい。


規則正しく引き金を絞る。16発撃ち終えると、スライドが下がって弾切れ(ホールドオープン)の状態になり、足元には9パラの空薬莢が散らばっている。空になったマガジンを落とし、懐から次のマガジンを装填する。


カチャっと音を鳴らして元通りになったスライドを確認し、再び安全装置(セーフティー)を掛けた俺は、USPを太もものホルスターに戻し、ターゲットを横目に射撃場を後にする。



16発中9発が頭部に、残る7発は胴体や首と言った場所に着弾していた。普段の俺ならアウトな結果ではあるが、使い慣れてない銃+()()の俺にしては上出来な方だ。実戦では数ミリのズレも許されない俺の戦い方では、試射は毎日欠かさずやらなければならない。1日でも欠かせば、それを取り戻すのに3日も掛かるのだから。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



試射である程度時間を潰した事もあって、俺が体育館に向かう頃には多くの生徒が集まっていた。丁度体育館に入ったタイミングで、奥にある教官室から一人の男が現れる。角刈りの筋肉質な男は、誰が見ても鍛え抜かれた体である事がわかる。愛子ちゃんでは初めて出会うその男の名は・・・・。



前は強襲科副顧問。今は強襲科担当主任、新崎文也教官だ。実は俺と教官は、因縁の関係である。


過去に咲夜さんに失礼な態度を取ったことにキレた俺が喧嘩を売った相手だ。結果は満身創痍になりながらもなんとか勝利を収め、一件落着と思われたが、敗北の逆恨みで殴り掛かって来た所を咲夜さんお得意の全身関節外しによってしばらく休息を取っていた。


その時の件は、校長からの厳重注意を受けて終わった。前に担当主任をしていた教官がとある事情で辞職してしまった今、副顧問であった新崎教官が担当主任になった訳だ。


最初の頃は気まずいったらありゃしなかったね。お互い目を合わせる事なく、必要な時以外会話する事が無かったから、強襲科内では様々な噂があった。


実は新崎教官の隠し子が俺説なんかあった。あれには怒りを通り越して笑ったね、もちろん全否定したぞ。



「もう時間だな。さて、お前らの中でも既に知ってる奴が多いだろうが、今日この強襲科に新人が入った。高原愛子、前に出ろ。」



100人近くいる体育館の中で、なんの迷いもなく俺を見る。よくもまぁ~教官室から出てきて、こんな大人数の中から数秒で俺を見つけ出せたもんだ、この学校はこんな奴しかないなホント。


名指しされた俺は、人混みの間をスルリスルリと・・・・は行かず、本来は無いハズの胸の存在を忘れて数人の肘やら腕に偽乳をぶつける。その都度に顔がニヤけるのが横目で分かるが、気にしない。


苦戦しながらも何とか教官の横まで来た俺は、強襲科に所属する全員の前に立つ。



「初めましての方は初めまして。今日編入生としてやってきた高原愛子と言います。慣れていない環境と言う事もあって皆さんにご迷惑をお掛けすると思いますが、精一杯頑張りますのでどうぞ、よろしくお願いします!」



最後に散々練習した愛子ちゃんスマイルで自己紹介を締めくくる。それと同時に大音量の拍手と口笛が広い体育館に響き渡る。このスマイルを会得する為に俺がどれだけ苦労した事か・・・・毎晩カツラ被って幽々子とにらめっこ状態でほぼ毎日やってたんだからな。これだけの成果が無いと練習した甲斐がないってもんだ。



「と、言う訳で、何かと分からない事があるだろうからその時は遠慮せず周りに聞くといい。」



「わかりました!新崎教官!」



「お、おう・・」



本日2回目の愛子ちゃんスマイル。それも零距離からのコイツ(ゼロ・アイコスマイル)の威力は絶大だぜ!あの新崎ですら頬を赤らめた。愛子ちゃんになってから珍しい事ばかりだ!


自己紹介が終わってから出欠確認を済ませると・・・。



「よしお前ら、まずはいつも通りアップしろ。一通り終わったら誰か呼べ。以上」



新崎教官はそう言い残して再び教官室に戻ってしまう。初めてだったら戸惑うだろうが、ここ(強襲科)ではいつも通りの事だ。大体の強襲科でやるメニューは、アップ、筋トレメニュー、射撃訓練&徒手格闘、最後に模擬戦、が大体いつもやる訓練だ。


基本的に新崎教官は最初のアップと筋トレの時は現場に居ない。だが、当然と言うべきか、射撃訓練や徒手格闘の時は真面目に指導してくれる。教官である以上当たり前の事なんだけどな。



最初のストレッチはいつも拓斗と一緒にやるんだが、その拓斗は俺がいないので既に他の男子とペアを組んでいる。ボッチが体育の授業で「は~い!皆さん2人で一つのペアを作って下さいねぇ~」と言われた時と全く同じ状況に置かれたので、どうしたものかと悩んでいると・・・。



「愛子ちゃん!俺とストレッチしようぜ!」



「いやいや!こんな薄汚い男子共に清楚で完璧天使な愛子ちゃんを汚させなんてしないわ!私としましょう!」



「___ヤろうぜぇっ!!」



俺は数秒と経たずに大量の生徒に囲まれる。まさに人間ジャングル状態!あと最後の奴ただのセクハラだからなそれ。


だが、そんな人間ジャングルもある人物の一言で一瞬にして散る。



「・・・・・道。開けて貰えますか?先輩方・・・・」



学生とは思えない尋常じゃない殺気が奥から放たれ、それと同時に発せられた言葉で目の前ジャングルは、一瞬にして林道に変わる。その人間林道の先にいるのは・・・・。


どす黒い笑顔をした篝しずくさん。その手には近未来的な太刀が握られている。俺が普段使用するブレードの2倍の長さはある刃に、(しのぎ)には青い蛍光色の光が一定間隔で流れる。


しずくが持つ太刀は、一言で言えば俺が使用していた高周波ブレードの太刀Ver。しかも使用制限があったマスタングとは違い、常に最高切れ味の状態を維持できる化け物兵器。


_真正・政宗_


最高状態の真正・政宗の一撃は、あの戦艦大和の装甲を軽々と切断し、高速振動による空気摩擦で発生する摂氏300度以上の熱を使った衝撃波は、数m先の牛肉を一瞬でステーキにする威力を持つ。


近・中距離を扱えるしずくの武器は、接近戦を得意とする俺にとって滅茶苦茶やりにくい相手だ。なんせ刃と刃を合わせただけであっさりこっちの武器が切れるので防御が出来ない。相手に回避以外の選択肢を与えないしずくの武器は、同じ剣を使う者なら誰もが相手をしたくないと思うだろう。


そんな化け物を手に持ったしずくさんの前に立ちはだかる度胸のある者が、ここに居る訳もなく・・・。



「先輩!私と一緒にストレッチしましょ!」



可愛いくも、恐ろしい後輩と一緒にストレッチをすることになりました。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「先輩って体硬いですね。あちこち柔らかいのに・・・・」



地面にお尻を着けた俺は、股をV字に広げ、手を伸ばして体を倒す。背中でしずくがゆっくりと押して呻きながらも、関節を伸ばしていく。俺よりあちこち柔らかいのはそっちだろうに。


本人は気にしてないだろうが、背中に押し付けられるDカップの柔らかい感触が今の俺には、背中に銃口を突きつけられてる時と同じくらい怖い。本能のままに行動したら、しずく&愛子のカップリング+愛子ちゃんふたなり説が浮上しちゃうからな、そうなったらしずくの面子がガタ落ちだ。


一通りストレッチを終えた後は、自衛隊から引っ張ってきたであろう筋トレメニューをこなす。と言っても、過度労働(オーバーワーク)を避ける為に多少だが軽いものにはなってる。


10キロ走とかいつもは無い重み(おっぱい)があるせいで無駄に疲れるし、転ぶしで大変だった。胸が邪魔で地面が見えねぇんだよ!


うさぎ飛びに関してはスカートだったからか、前にいる奴らからの視線が半端じゃなかった。どうせタイツでロクに見えなかっただろうけど。いや、その前に強襲科(アサルト)の女子達に裸絞(チョークスリーパー)で白目向いて泡吹いてたり、関節技(アームロック)で腕を外されそうになってる奴らで一杯だったから中を覗けてたかすら分からん。


多くの犠牲者(男子)を出して筋トレを終えると、生徒の一人が教官室に行って新崎教官を呼ぶ。



「徒手格闘がしたい奴は柔道場、試射したい奴は射撃場に来い。1時間後に体育館でくじ引きで模擬戦を行う」



新崎教官の一言で全生徒は体育館を後にすると、半分が柔道場に行き、残りは射撃場に足を運ぶ。


一応試射は事前にしておいたし、またやるのもあれなので、愛子ちゃんボディーを慣らす為にも柔道場に向かう。


この学校は政府の支援をたっぷり受けて予算があるからか、体育館同様に柔道場もバカでかい。四角形に敷かれた赤畳の枠が8つもあるこの柔道場は、50人近くいても余裕があるくらいだ。


柔道場と言っても、俺達はスポーツ(柔道)をしに来た訳ではない。実戦で使用するCQC(近接格闘)の技術を向上させる為に来たのだ。


一言にCQCといっても、自衛隊格闘術・合気道・システマ・etcと、沢山の流派や武術が存在する中、俺達が習っているのは合気道・自衛隊格闘術の二つだ。理由は、新崎教官がそれしか知らないからと、とてもシンプル。


暴発防止の為、ここに居る全員が携帯している銃を外して、ブレザーを着用している者はそれも脱ぐ。俺も2丁のUSPコンパクトのホルスターを外して、ブレザーも脱ぐ。


ワイシャツになった俺は、みんなと一緒に武術を行うにあたっての準備運動にあたる。といっても大半が受け身の練習なんだが。柔道場内は、畳を叩くパンッ!っと音でいっぱいになる。冬にこれやると手のひらが乾燥してるからか、めっちゃ痛いんだよな・・・。


受け身の練習も終わった所で、寝技の乱取りから始める。


寝技の乱取りとは、寝技のみで自由に技を掛け合う簡易的な試合の様な物だ。片膝付いた状態から向かい合い、抑え込んでも良し、絞め技をするもよし、関節技を仕掛けてもよし。男女別で分けられた俺は、当然女子の枠に入れられる。



「最初は愛子ちゃんかぁ~!お互い手加減はなしだよ!」



「あはは・・・ケガしない程度によろしくね?」



片膝立ちで向かい合った俺達は、まず様子見といった感じで組み手争いをする。実戦じゃ組み手なんて気にしてられないが、お互い素手で対峙した場合は、どれだけ自分に有利な組手が出来るかで技への流れが決まる。


しばらく組手の取っ組み合いが続くが、このままでは埒が明かないと判断した俺は、片膝の状態でズリズリ動いてる時に、不自然の無いように畳に突っかかった風に見せて体制が崩れた様に見せる。



「・・・・あ__」



「隙ありぃ~!!」


体制が崩れた隙を逃さずに一気に仕掛けに来た。だが、伸ばされた手が届く前に、畳に腕を付いた俺は、そこを支点にして半回転し、相手の首めがけて両足を伸ばす。


ハサミが棒状の何かを切る様に、足で首を挟む。そして膝を折り曲げると、足と足の間に逆三角形の空間ができ、そこに相手の頭がある状態になる。


後は足に力を入れ、エビぞりの状態になりながらも、折り曲げた足の足首を掴んで絞めの強さを底上げていく。相手の顔面は俺のお尻に押し付けられてるせいで口、鼻による呼吸が出来ず、更に両足によって頸動脈を締め上げてるので苦しいったらありゃしないだろう。


その光景を見た男子共は、「羨ましい・・・」「ご褒美かよッ!!」「そこ変われェェェェ本田ぁぁぁぁ!!」


なんて聞こえてくる。ここには変態しかいないのかッ!!


数秒して降参の合図であるタップで、俺の太ももを数回叩く。



ヒフ(ギブ)ッ!ヒフ(ギブ)アッフぅぅぅ~!」



三角締めといっていいのか分からない技を解くと、顔を真っ赤にして息を整える彼女が・・・・



「愛子ちゃん強すぎぃ~!」



「そんな事ないよ。私はまだまだ・・・・」



へんに褒められても恥ずかしいので、適当にあしらった俺は、さきの乱取りで注目してしまい、休憩する暇さえ与えられず、多くの生徒たちの乱取り相手をした。


女子は脳筋の男子とは違って腕力ではなく、テクニックで攻めてくるので今までと違ってやりにくかった。しかも女子の体はあちこち柔らかいし、この姿で胸を触る事に抵抗がある俺の気持ちなんて関係無しにグイグイくるから恐ろしいったらありゃしない。


そして今回の件で俺は新たな発見をした。



____お尻は武器になる



・・・・・・と言う事だ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



きっかり1時間後に体育館に戻って来てそうそうくじを引かされる。


四角い箱に数字が書かれた紙が入っていて、同じ数字同士の生徒が模擬戦を行う。極力実戦に近づける為に、使用する銃弾はよくあるゴム弾ではなく実弾。刀剣を主に使う者は、鞘に納めたまま、もしくは刃を潰してある剣を使用する。


防弾性のない部位による銃撃は禁止、どちらかが降参もしくは意識喪失で勝敗を決する。一件危険に見えるだろう。いくら模擬戦とはいえ、実弾を扱う以上死の危険が付きまとう訳だからな。


だが、ここに居る奴らは数メートルの距離を狙った場所に当てられない程下手くそじゃない。それどころか下手な軍人や警官より戦闘慣れしている、狂戦士(バーサーカー)ばかりだ。


それでも死の危険がある以上、全員が相手を射殺しない様に全神経を研ぎ澄ます。


対戦相手を決めるこの時から全員が臨戦態勢に入ってる事もあって、既に体育館はピリピリした空気。プロ意識が芽生え始めているいい証拠だ。



運がいいのか悪いのか、俺が引いた数字は1。最初も最初だ。


装備の最終確認を終わらせた俺は、灰色のフローリングで出来た床に、防弾ガラスで囲まれた闘技場の中心に立つ。広さ的には縦横20m程で、戦闘に不自由ない広さになってる。


防弾ガラスの向こう側にいるスタンド用の椅子に腰かける生徒達の方に目をやると、みんな手を振ったり何か叫んでいるのがわかる。読唇してみると・・・・



「愛子ちゃん頑張ってぇ~!!」



「負けるな愛子ちゃぁぁぁぁん!」



「・・・・・・・・()れッ!!」



等々、軍事学校らしい応援があるが、まぁー慣れてしまえば気にもならなくなる。てか毎回最後の奴ルール分かってんのか?殺しちゃったらルール違反だから。


一応応援してくれているみたいなので、少し笑って小さく手を振る。するとワールドカップで自国のチームがシュートを決めたかの様に_バッ!っと盛り上がる。笑顔で泡吹いてぶっ倒れてる奴までいる。ちょくちょく泡吹くなここ(強襲科)



数分して一人の男が中心に向かって歩いてくる。俺と同じ防弾性のある制服を着用し、背中には鞘に納められてる剣。ブレザーの内側に見えるサブウェポンはワルサーP38。フランスで有名な怪盗、アルセーヌ・リュパンが使用していたと言われる銃でもある。


四季映姫に聞いた話では、フランスの対外治安総局DGSEに所属するエージェントにアルセーヌ・リュパンの血を引いた人物がいるなんて事を聞いた事がある。しかもフランスと日本のハーフで、俺の一つ上である18歳、さらに結構な別嬪さんなんだと。認識的にはシャーロック・ホームズの子孫であるメヌエットと同じようなもんかな?



ざっと全体を見渡したが、特に確認した以外の武装は確認できない。



「まさか最初っから愛子ちゃんと当たるとはね。女の子だからって容赦しないぜ?」



背中から引き抜いた剣の先を俺に向けながら言う。ちゃんと刃引きしてある事を確認した俺も、ポケットから取り出した、チタン合金を混ぜて作られた防弾手袋を装着する。手袋だからって侮っちゃいけない。大抵のライフルが使用する5.56mmNATO弾すら防ぐ防弾性、滅茶苦茶痛いけど。第二関節までしか覆っていないので細かい作業も容易に出来る構造だ、判りやすくいえばフィンガーグローブって奴だ。


その後は、両太ももに括りつけられた2丁のUSPコンパクト取り出し、右の銃はしっかりと相手に銃口を向け、左は肘を折り曲げて防御よりの構えを取る。


どこぞのデルタフォースの奴らと同じ戦闘スタイル、ガン=カタだ。



「そっちこそ、女子だからって侮らないでね?ケガしちゃうから」



男の子が言っていいセリフじゃないが、今は女の子の設定だからセーフ。互いに構えを取り、数秒してスピーカーから新崎教官の一言で開戦した。



「______始めッ!!」



合図とほぼ同時にUSPの引き金を絞る。マズルフラッシュと共に射出された銃弾は、真っすぐ相手の胸に飛んでいくが、当たり前の様に回避される。


__ま、当然っちゃ当然か。


あらかじめ銃口を向けているのだから射線はまるわかり。避けられない方がおかしい。


小さく体を傾けて銃弾を避けた相手は、地面を蹴って一気に距離を詰めてくる。その距離約1m。


上段からの振り下ろし、斬り上げ、中段の水平切りを躱し、あるいはUSPのアンダーバレルで受け止める。銃対剣の近接戦闘。本来であれば銃を持つ側が不利な状況だが、ガン=カタを使う俺にとっては最も丁度いい交戦距離だ。それは相手も同じだが・・・。



突き出された剣先を銃でずらし、その後に反対の銃で発砲。それも読まれていて躱される。お互い一瞬の油断も許されない攻防が繰り返される。


(マズいな・・・・このままじゃ残弾が・・・)


ガン=カタは、長期戦になればなるほど不利になっていく。その理由は銃の残弾によるもの。薬室に込めれば16発と多い装弾数を持つUSPでも、いずれは弾が尽きる。そうなれば攻撃力は激減する。


弾切れを起こした銃によるガン=カタなど、刃を失った柄だけを握って振り回すのと同じぐらい攻撃力がないのだ。故に、ガン=カタでの弾切れは敗北を意味する。



そんな矢先に最後の1発を撃ち、2丁とも弾切れ(ホールドオープン)状態になる。


それを好機と見た相手は、更に追い打ちをかける。弾が無くなった以上、俺は防戦一方になる。だが、もちろんそうなるであろうと踏んでいた俺は、振り下ろされる剣を二つの銃をクロスさせ、その中心で刃を受け止める。


この状態ではどんなに力を加えても、腕を交差させている以上刃が届く事は無いし、二つの銃で挟んでいるので容易に軌道変更も出来ない。もちろん、両腕を使っての防御なので攻撃する事は出来ない、()では・・・。


頭上で停止している刃を、強引に左脇に誘導する。互いにスペースの出来た右側に俺は、近かった距離を更に回転しながら詰め、相手の顎を狙った一回転肘打ち。腕の長さ程の距離がいる裏拳とは違って肘打ちはほぼ零距離でも出来る。



「__うおッ!」



驚きの声を上げつつも、顎への肘打ちをギリギリ回避する。だが、剣の自由を奪われてからの不意の打撃だった事もあって体制を崩す。


この隙にリロードしてもいいが、した所でさっきの近接戦になるのが落ちだ。なので、俺は銃を手放し、体制が崩れた相手の懐に、姿勢を低くして更に距離を詰める。


剣を持つ方の腕を左手で掴み、右手も同じ腕の脇下を通して、相手の腕を右腕と自分の首で挟んで固定する。そっから半回転し、お尻を突き上げながらお辞儀するように体を倒す。


朝にやったものは相手の胸倉を掴んで投げるものだったが、今回は腕のみを掴んで投げる___



_一本背負い_



剣を巻き込まない様に気を付けながら地面に叩きつける様にして投げる。本来柔道の投げ技は受け身を取れるようにするのが当然だが、実戦での投げ技は相手の意識を刈り取る為の技。受け身は取らせない。


と言ってもあんまり勢いよく叩きつけたらそれはそれで、頭がカチ割れて死亡。なんてこともあるので強すぎず、弱すぎない程度に抑える。



ドンッ!__っと鈍い音を立てるのと同時に相手はピクリとも動かなくなった。


目をグルグルと回しているが、投げ技による外傷もないし、予定通り意識だけ刈り取る事に成功した。



「意識喪失の為、勝者ッ!高原愛子!!」



新崎教官による勝利宣言が闘技場に響き渡る。ガラス越しからでも聞こえてきそうな程盛り上がってる客席では、スタンディングオベーションやら謎の度上げがされてる。更に3人程笑顔で泡吹いて保健室に運ばれてる。もうツッコまんぞ・・・。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「マジ勘弁してくれよ・・・・」



「ここまで来てウジウジしないで下さいまし。さぁ、行きますよ?」



俺の胸辺りまでの身長の少女と共に、俺はキラキラ輝く客船に続く橋へと足を踏み出していく。




_____時は少し遡って。






「・・・・・。随分とお早いんじゃないですか?メヌエットさんや・・・・」



訓練が終わる頃にはもうお月様が顔を出して辺りは暗くなっていた。戦闘服から制服に着替え、寄り道する事なく家へ一直線に向かった。


普段とは違う体験、生活や体だった事もあり、いつも以上に疲れての帰宅。だが、その家で待っていたのは金髪碧眼美少女とその隣に座る幽々子。



「あ、お帰りなさぁ~い!愛人君にお客様来てるよぉ~」



「お邪魔してます。あ・い・こ・さん♡」



リビングへの扉を開けて直ぐ美少女スマイル。いつ見ても可愛い女の子なんだが、その可愛い笑顔と共に見せる意地悪な瞳は止めて頂きたい。絶対死ぬまで弄られる・・・。



「随分とお早いんじゃないか?メヌエット」



取り合えず家にいる時ぐらいはいつもの俺でいたいので、テキパキと女装を解く。あ~やっぱりあのアニメ声よりも、この低い声の方が落ち着くぜ。



「この後にもまだ用事がありますからね?」



そういうメヌエットは、いつもに比べて何処か大人っぽい感じがする。元々子供っぽい顔だったんだが、化粧をしてる事もあって普段に比べて大人っぽくなってる。髪型もいつものサイドアップじゃなくて、ポニーテールになってる点もそう見える理由の一つだろう。


何よりメヌエットが纏ってる深紅のドレスがマッチして妖艶な雰囲気が漂ってる。イギリスに居た時にも、パーティーの警護として似たようなカッコを見た事があるが、あの時とは何かが・・・・あ。胸が大きくなったのか。物理的にも大人になったんだな、お兄さんは嬉しいよ。



「・・・・・んで、その手に持ってるスーツはなんだ?」



「あ、これはあなたの分ですよ?」



何となく察してはいたが、やっぱりそうなるのか。


丁寧に畳まれていたスーツを、目の前で広げて見せる。見た目は何処にでもあるスーツなんだが、所々に施されてる金色の刺繍や、高そうなオーラを放つネクタイが高価な物である事を物語ってる。



「この後の用事って奴に俺も来いと・・・・。ただでさえ女装してメンタル的にも身体的にも疲れてるってのにぃ!?」



「お姉様の許可なら頂いてますから」



メヌがお姉様と口にすると、幽々子が頬に手を当ててクネクネしながら・・・・・



「お姉様・・・・んっもう!メヌちゃんは可愛いなぁ~。あ、私の事は気にしないで行ってらっしゃーい!」



お姉様と言われた事がそんなに嬉しかったのか、あっさりと許可を出しやがった。クソッ!こっちの気も知らねぇで!


結局はんば強制的にスーツに着替えさせられ、メヌエットの用事とやらに連れていかれて今に至る。






夜の豪華客船に乗る為、右腕をがっちりホールドするメヌエットと共にタラップを渡る。若干関節を決められてる感が否めないがそれを忘れさせてしまう程柔らかく、生暖かい感触が肘から伝わる。


何かと思って視線を肘に移すとそこには、小さいながらも着実に成長してきているメヌのお胸に思いっきりめり込んじゃってる俺の肘があるじゃないですかぁ~。しかもメヌの身長は俺の胸程度しかないので、胸元を見下ろす形になる俺はそこにある谷間が見えてしまう。


慌ててそっぽを向くが、メヌエットはお見通しと言わんばかりに小さく微笑む。わざとだなコイツ。俺の反応を見て楽しんでやがる・・・・知ってるか?これでもメヌは12歳なんだぜ?もう13の可能性もあるけど。



「フフンッ!どうですか?私も成長しているんですよ」



胸の事を言っているのか、自慢気にドヤ顔して俺の事を見てくる。うわぁーウゼェ、何度見てもこのドヤ顔は俺のイライラ度を上昇させる何かがある。疲労が溜まっててイライラしやすいってのもあるかもだけど。


成長しているかどうかは置いておいて、谷間を見てしまった時に気付いたが、ぱっと見ただのネックレスかと思っていた物が、実は銃弾に綺麗な紐を括り付けただけの物騒な物だと今更ながら気づいた。



「成長したかは知らんけど、まだそれ持ってたんだな」



俺が指摘すると、メヌエットはドヤ顔から少し目を見開いて驚いた表情をする。そして、その銃弾を片手で握りしめると、嬉しそうに口を緩ませながら・・・・



「・・・・・。当然です、なんせ、50万以上したネックレスですから!」



心の底からの笑顔ってのはきっとこの事を言うんだろう。この笑顔を見れただけでも、ソイツをあげて良かったと思うよ。


メヌエットが大事そうに握っている銃弾ネックレスは、ロンドンに行くメヌを見送る際に、色々世話になった事に対するお礼として即席で作ったものだ。9ミリ弾にナイフで俺のイニシャルを掘っただけのアクセサリーというのも難しい物。本当はちゃんとしたものをあげたかったが、本人はそれで喜んでるから良しとしよう。


因みに50万以上したってのは、空港で銃弾が引っ掛かった際に、手放す選択肢の無かったメヌエットが口止め料として払った額なんだとか。世の中大抵の事はお金でどうにかなっちゃうんだねぇ~。


メヌエットの満面の笑みを見ていると、気恥ずかしくなったので話題転換する。



「そういや、こりゃなんなんだ?多分豪華客船でのパーティーとかそんなんだろうけど」



真っ暗な空とは対照的に、目の前の客船は煌びやかな照明で高貴な感じが滲み出てる。同じタラップを渡る人間もみな服装がセレブのそれだ。頭にターバンを巻いた黒人が多く見えるが、彼らもどうせ人気ナンバーワンのナン生産工場の社長とか、高級車で学校に行くのが恥ずかしい息子の為に電車を買うお金をポンっ!っと出せちゃう石油王だったりそんな落ちだろう。



「そう言えばまだ説明していませんでしたね。今回はアメリカの大統領、ドナルド・トランプ大統領主催の晩餐会と言う名の社交界ですね。日本の安倍さんもいらっしゃっるハズですよ?」



「ちょ、ちょっと待てよ?・・・どうしてそんな大物も大物。国のトップが集まる様な所に俺は来てるんだよ!?お前も何で招待されてるんだ?」



安倍さんとかって言ったらもう日本の一番偉い人じゃないですか!四季映姫なんて手も足も出ない様な人ですよ?しかもアメリカのお偉いさんまで来てるだって!?確かにドナルドルさんと仲いいのはニュースで知ってはいるけどさ。



「ここに来てる人はみなそのような人達ばかりですよ。前を歩くあの方は有名なチェーン店のお偉い人ですし、向こうの方とか有名な石油王ですよ?」



「お、おう・・・。もういいや。何も考えない事にするよ」



「因みに私はホームズ家というのと、世界で有名な武器メーカーの令嬢でもあります。愛人が使ってるグローブだったり、ブースターだったりは私の妹が経営する会社から出して貰ってます」



ほぉ~メヌエットって妹居たんだな。ぽいぽい凄い装備を渡してくれるのは、妹がその装備達を作ってくれてたからなのか。



「お前に妹なんていたんだな、初耳だぜ。きっとその妹さんも性格悪いんだろうなぁ~」



ゴスッ_肋骨に響く重い肘打ちに苦虫を噛み潰したような顔になる。組んでる腕に掛かる関節技が更に強くなっていく。このままだと俺の右腕があらぬ方向へ向いてしまうのでやめてぇぇぇ!



「ヴェネは私とはまた違った子ですよ。日本のアニメで言う所の・・・ツンデレって奴ですね。あ、もちろん姉の方が大きいですからね?」



恐らく略称だろうが、ヴェネというらしい妹はツンデレキャラっと・・・。最後の大きいは聞かなかったことにしよ。





船に乗る直前に、銃を預かる形で没収されてようやく船の上に立つことが出来た。国のトップが二人もいる事もあって、帯銃している警備員が多く見える。物騒でやだなぁ~、こんなんでゆっくりご飯とか食べれないわぁ~


人の波に流される様に歩くと、船尾楼甲板に設けられてるナイトプールに行き着く。温水なのか、ほのかに立ち込める湯気と、水中に煌めく照明が夜景にマッチして幻想的な空間になっている。水着姿でゆったりと泳ぐ人もいれば、水に浸かりながら談笑に花を咲かせる人もいる。


プールサイドには、畳まれたパラソルと共に白いデッキチェアが複数あるが、肌寒いこの季節に水着姿でくつろぐ人はいない。それでも、チェアに腰かけて話をする組はいくつかある。


近くには色とりどりのワインやらカクテルを提供しているお洒落なバーもある。まぁ、未成年の俺達には関係ないもんか。



「綺麗な所だな。前にお前と行った所とはまた違った感じがするよ」



幻想的なプールを前に俺は、過去にメヌエットと共に向かったダンスパーティーの夜を思い出す。あの時もこれに負けず豪華な物だったが、このプールの様にインパクトのあるもんじゃなかった。植物に興味の無かった俺でもちょっと感動したあの花園は中々の物だった。聖と出会って戦闘をした事の方が衝撃的だったから印象薄いけど。



「何を言ってるんですか。まだプールしか見ていないのに全てを知ったような事を・・・・フリーダム・オブ・ザ・シーズ はこれからですよ?」



このプールだけでもとんでもないのに・・・・・この後どんな凄いもんを見せられるのやら。最初は嫌々だったが、予想以上に綺麗な所で見惚れちまった。今では他の所も見たくなってちょっとウキウキしてる自分がいる。


しばらくして人混みをかき分けながら入ったロビーなんだかホールなんだか分からん場所に着く。500mはあるであろう大広場の天井には、ダイアモンドらしき透明な宝石が無数に着いたシャンデリアがいくつもあり、等間隔に建っている6つの柱にはビッシリと黄金の装飾が施されていて少し眩しい空間だ。


オーケストラの演奏に合わせて踊る人や、グラスを片手に立ち話をする人、純白のテーブルクロス上に並べられた豪華な食事に手を付ける人と、沢山の人達で賑わっていた。その中でも一際目立つ集団があった。



「あれは・・・・。大統領達じゃねぇか」



ドナルド大統領とうちの総理大臣が片手にドリンクを持って談笑している。その顔は、普段テレビの向こうで見る国の今後を語る真剣な表情とは違い、親しい友人と話すように楽しそうだ。大統領の方も同じ、楽しそうに話している。


その周囲には、イヤホンマイクを付けた数人の黒服達が、雰囲気を崩さない様に自然な形で護衛している。アメリカ側のSPと、日本のSP。その中に知った顔があった。



「なぁーメヌ。ちょっと話をしてきていいか?ちょっと見知った顔が居たからさ」



見知った顔が誰なのか理解した瞬間、何処かホットしたような表情になる。なんで見知った顔があるだけで警戒するのか俺にはちょっとわからんな。見知った顔というフレーズは、女にしかわからない何かがあるのだろうか。



「別に構いませんよ。それでは、お話が済んだ頃にこの船のVIPルーム、206号室に来てください。適当にくつろいでますので」



そう言い残してホールを後にするメヌエットを見送り、俺はその人物に近づく。そうすると、向こうも俺に気付いたようで、少し笑って見せる。



「珍しいな。お前はこういう所に来る奴じゃないと思ってたんだがな」



深い堀が入ったいかつい顔を二ッ!っとして笑う。周りと同じく黒い礼服を着用しているが、隠しきれないオーラが漏れている。周りのSPも只者じゃない事は分かるが、コイツは一人ずば抜けて違う。


その正体は・・・・・公安0課1式、篝だ。


恐らく総理の護衛として来たのだろう。じゃなきゃコイツもここに来るような奴じゃないからな。



「そっちと似たような理由でね・・・。相手は総理じゃなくて、色々頭のネジが抜けた女の子だけど」



「まぁ~た新しい女に手を出してんのか?いい加減にしねぇとそろそろ後ろから刺されるぞお前」



「新しい女ってなんだよっ!!てかどういう意味だ?後ろから刺されるって・・・・」



俺がそう言うと、篝はやれやれと言った様子で・・・



「まぁ。お前は漫画によくいる鈍感系ってのは知ってるから今更か」



近くにいるSPに、「少し話をしてくるからここは頼む」と一言残して、篝は少し離れた所にある黄金の装飾が施された柱に背を預けながら、グラスを傾ける。



「それにしても、あんた程礼服がに合わない人はいないな」



180後半はある高身長に、程よく付いた筋肉が礼服を盛り上げる。顔さえ良ければ決まっていたんだが、なんせ顔面凶器だ。ギャップが凄い。



「それはお前も一緒だろうが・・・・」



何ともバツが悪そうに言う。確かに俺も人を馬鹿にできる程決まっている訳じゃないが、そっちよりはマシだと思ってるよ。


それから雑談にふけっていると、背後から近づいてくる影に気付かずに抱きつかれる。それと同時に、むんにゅり_と背中に水風船の様に柔らかい感触が伝う。ブルーベリーの様な甘酸っぱい香りに交じってアルコールの鼻を刺す匂いもする。



「ひぃさしぶりぃ~!!愛人くぅ~ん」



「うぉ!な、なんだ!?てか酒クセェぇ!」



俺の背後から抱きいて来た人の正体は・・・・・



「お前も来たのか、ノワール」



「ほぇ~?・・・あ!篝さぁ~んじゃないですかぁ~」



主に対テロ作戦を遂行するアメリカ最強の特殊部隊、第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊。


通称デルタフォース。


そこに所属する一人が目の前で酔っ払ってるノワールだ。初めての出会いは、イギリスで起こったテロに巻き込まれた時。あの時はお互い名前すら分からなかったが、市民の安全の為、俺の友人である早苗さんを助ける為に協力し合った仲だ。


ノワールがデルタフォースである事は、つい最近知ったばかりなんだが何だかんだ仕事で会う機会が多くてそこそこ親しい間柄になった。


恐らく、篝と同じ様に護衛としてこの客船に来たんだろうけど・・・・。大丈夫かこの人、思いっきり酔っ払っちゃってるけど。



「酔っ払うまで飲んで・・・。仕事の方は大丈夫なのか?」



俺と同じ事を思っただろう篝は心配そうに聞くが当の本人はヘラヘラとした様子で・・・



「だいひょうぶでしゅよ~!だって私お酒にちゅよいですから!」



もう一度言うが、彼女は酔っ払っている。呂律も回ってない事からそれは明らかだ。


遠目からでもサラサラしている事がわかるカーボンブラックの黒髪ツインテールに、み空色の瞳。普段は出来る女と言う感じでキリっとしているんだが、酔っ払っているせいで台無しである。


それでも、深藍色のタイトドレスを纏ったノワールのスタイルは、ボディーラインを協調するドレスの効果もあってハッキリとわかる。


大きすぎず、小さすぎない、俗に言う美乳を見せつける様に開けられた胸元には、メヌエットには決してない深い谷間があり、ピッタリと張り付くドレスがよりその美乳を際立たせる。


滑らかな曲線を描く様に引き締まったウェスト。見せつけるかのように亀裂から露になる肉付きの良い太ももが艶めかしい覗く。


酔っ払っていても、美人である事には変わりないので色々元気のいい男子である俺にはちょっと遠慮したい人だ。俺のムスカが反応してしまうんでな。


なので俺は、酔っ払いを篝に押し付けるようにしてその場を後にする。そんな俺を見て何か言っているが、オーケストラの音楽にかき消され、尚且つノワールからチューを迫られてその対応に難儀している様子で追いかける余裕はなさそうだ。



大広場から逃げるように退散した俺は、客室のある階へと向かった。


流石豪華客船というべきか、廊下もかなり凝っているものだった。


長々と続く廊下を彩る壁掛けランプ。雪の様に白く、光が反射してキラキラと輝く大理石の壁。長い廊下に敷かれたレッドカーペット。


タッ_タッ_っと音を立てて長い廊下を進んでいると、目的の部屋を見つけた。


206の数字を確認した俺は、金ぴかの扉を数回ノックする。「どうぞ」の言葉を聞いた俺は、ドアノブを捻って室内に入る。



VIPルームなだけあって中はとても綺麗な所だった。茶色と白を基調とした部屋は、仄かな明かりで優しく照らされて落ち着いた雰囲気。縦横数mはある大きな窓ガラスの向こうは、色とりどりの照明で彩られたプール全体が見え、それが夜の海とマッチして素晴らしい景色だ。



「もうお話はお済みになられたのですか?」



声の主は、軽く4、5人が寝っ転がれる程広く、見るだけでふっかふかだと分かるベットに腰を降ろしていた。


丁度足を組み替えるタイミングでメヌエットを視界に捉えてしまった俺は、今まで見て来た太もも達に比べて一回り小さいものの、アクシデントではあるが顔をうずくめた時の柔らかさを思い出してしまう。


幼い少女の太ももというのは、大人の太ももとはまた違ったエロスがある。ソースは俺。


常人であるなら、足の組み換えの際に一瞬だけ見えたおパンツに気付かなかったかもしれないが、そこはさすが俺。人間を辞めかけてるだけあってバッチリ見えましたッ!!


赤のレース。幼い顔して大人っぽいおパンティ~履いてるじゃないのぉ~。前にも似たような下着を見た気がするけど。


他人が見ていれば明らかにお巡りさんここでぇ~す。な、展開だが生憎この場には俺とメヌエットしかおらず、当の本人に気付いた様子はない。


メヌエットは何故かうっとりとした表情をしていて、化粧とは別に顔が赤くなってる。大広場で出会ったノワールからした匂いも仄かにする。



「・・・・お前。飲んだなぁ?」



ベットの隣に置かれている1本の瓶。鏡の様に周りを写す黒のガラス。白いラベルが貼られているその瓶の名は・・・


__ロマネ・コンティ。


世界1高く取引されると言われてるそれは、1本数百万は下らない超高級ワインだ。ブランド物に関する知識が少ない俺にも、コイツの凄さは知っている。


ただ、クソ高い物の割に美味しくないと言われてるのも知ってる。ロマネ・コンティの良さが分かる人は、ある程度ワインを飲み続けた人にしか分からないんだと。メヌエットにそれの美味しさが理解出来るのかは定かではない。



「大丈夫ですよ・・・。私、こう見えてお酒に強いんですよ?」



「さっきも似たような事を言う酔っ払いがいたんだけど・・・」



大広場で聞いた様なセリフを言うメヌエット。ただ、本当に強いのか、少し顔を赤くして酔っているものの、ノワールの様に酔っ払った様子ではない。



「そもそも、12歳の子供が酒なんて飲むもんじゃねぇぞ?」



「むぅ~。私は子供じゃないですぅ!」



頬をぷっくりと膨らませて言う可愛らしい顔は、子供以外の何でもないんだが・・・。


これ以上口にさせない為にもと、テーブルに置かれたグラスとワイン瓶を預かろうとメヌエットの前に立った時、不意に船が揺れて体勢を崩す。咄嗟に手を付こうとした俺は、メヌエットをベットに押し倒す様に覆いかぶさったしまった。


柔らかいベットに腕が沈み、鼻息が肌で感じられる程の距離に顔が近づく。超近距離から見るメヌエットの表情は、普段見る幼い感じはなく、完全に大人のそれだった。透き通った白い肌は、酒のせいか、はたまたこの状況のせいか分からないが、真っ赤に染まっている。


照れる様に笑ったメヌエットは・・・・



「今日は随分と積極的ですね・・・・・お隣は大統領のお部屋ですから、悟られない様に声を抑えなければいけませんね?」



イタズラっぽく笑うメヌエット。それを見た俺の高まる心臓。


このまま大人の階段を登ってしまうのか。


過去の俺は、人生初の相手がまさか12歳の少女になるとも思っていないだろう。そもそもこれは法的に大丈夫なのか・・・そんな思考が回り始めた時、それを打ち消すかのように・・・・・



____唇が重なる



初めての体験する接吻。


それはあまりに唐突で、驚きの連続だった。


女の子の唇は、俺が想像していた以上に柔らかく、暖かい。唇から伝ってくる熱が、体全体に澄み渡る様に広がり、心臓が爆発する勢いで鼓動しているのが分かる。この鼓動が、俺の唇を通って伝わるんじゃないかと思う程に。


数秒の静寂。それを破ったのは2度目の揺れ。最初の物より明らかに大きいそれは、俺の興奮を静まらせた。


片手でメヌエットの肩を掴み、ベットに押し付ける様に離れる。離れた唇から、俺とメヌエットを繋げる様に透明な糸が引く。


立ち上がった俺は、顔を真っ赤にしながら口元を裾で拭う。まさかファーストキスを12歳の少女でするとは夢にも思っていなかった。この揺れが無かったら、その先にすら発展していたかも・・・。



「続きは・・・・・いいんですか?」



「遠慮させて貰う・・・・・まだ犯罪者にはなりたくないんでね」



若干解けたネクタイを結びなおし、部屋を後にしようと扉に向かう。その途中で部屋全体を見渡せるキッチンの端っこに一握り程度の大きさをした物を放り投げて置く。


子供のくせに酒まで飲んじゃうし、せめて酔いが冷めるまでは退散させて貰うぜ。12歳の女の子と性行為でもしてみろ、犯罪者を追う側の人間から逃げる側になる。当然バレたら一発刑務所行きだ。



「愛人・・・・知ってますか?バレなきゃ犯罪じゃないんですよぉ~」



「どうしてお前がそのネタを知ってる・・・・」



どこぞのアニメネタを使ってきたメヌエットを置いて部屋を後にする。バレなきゃいいってもんじゃねぇぞ?特に俺みたいな奴は嘘が下手くそだからな。隠そうとしても大体バレる。部屋のエロ本も毎日の様に隠す場所を変えてるのに、幽々子の簡単な誘導尋問にあっさり引っ掛かって見つかるのでそこら辺はもう証明されてる。


メヌエットを押し倒した時に感じた違和感をすっかり忘れて大広間に向かう。念の為メヌエットがいる部屋の扉に携帯型赤外線センサーを仕掛けておいたので誰かが出入した際は俺のスマホに通知が来る。キッチンの方にも小型カメラを放り投げて置いた。一応メヌエットの護衛として来てるからな、仕事はちゃんとこなすさ。


因みにメヌエットが何をしているのかカメラで確認した所、大の字になって寝てる。なんとも女の子らしくない下品なおねんねだ。



夜飯を食べ損ねていたのを思い出して大広間にやってきたが、相変わらずの盛り上がりにビビりながらテーブルに並べられた料理をバイキングの要領で取っていき、皿が一杯になった所で空いてるテーブルの席に着く。


トリュフやステーキ。チャーハンにフォアグラなどが使われた高級料理の盛り合わせを一人黙々と食していると、向かい側の席に一人の女性が腰を下ろした。その瞬間、ブルーベリーの様な甘酸っぱい香りと共に強くなったアルコール臭が俺の鼻孔を刺激する。


その女性は、ヒック_と可愛い様な見っともない様なしゃっくりを繰り返し、顔をヘニャァ~とトロけた様な表情をしながら・・・・



「愛人きゅんはよく食べるねぇ~・・・・ヒック!このまま1杯どうぉ~?」



「未成年に酒を勧めるな・・・ったく。何でこんな人がデルタフォースなんてやってんだろ」



未成年に一切の自重なく飲酒を進めてくるノワール。アメリカでもMDA(最低飲酒年齢)は21歳からだろうに。


真っ白なテーブルクロスの上でうつ伏せの状態になって俺を見上げつつ、ワインの入ったグラスをゆらゆらと揺らす。あ~もうお姉さん?・・・・うつ伏せになってるせいでパッカリ空いた胸元からテーブルに押し付けられる上乳が丸見えですよ。もしこれが漫画の世界なら絶対にむにゅーって擬音が出てることだろう。



「そういや今日はいつもの相方が見当たらないな。一緒じゃないのか?」



「蒼斗くんといつも一緒って訳じゃないからねぇ~。今回は別の任務に当たってると思うよぉ~」



チッ!相方の方が入ればこの酔っ払いを押し付けられるのに・・・・どうしてこう肝心な時に限っていないのやら。


飯を食べながら適当に酔っ払いの相手をしていると、顔面凶器こと篝さんがこちらに向かってくる。アヒェ~とか言ってヘラヘラ笑ってるノワールを見ると、それはそれは深い溜息をついて・・・・



「こりゃダメだな・・・・悪いが愛人。この酔っ払いを何処か適当な部屋にでも連れてって寝かせてやれ。このようすじゃ仕事にならない所か邪魔になりそうだ」



食事を終えた俺は、特にやることも無いので篝の頼みを受けるつもりだが・・・・



「それは構わねぇけど、大統領の護衛はどうするんだ?・・・・多分ノワールが一番戦力になりそうだけど」



「その当たりのカバーは俺がする。向こうのSP達にも話は通しておいたから気にするな」



おでこに青筋を浮かべながら、「この貸しは高く付くぞ・・・ノワール」とただでさえ恐ろしい顔がもう恐怖を通り越して笑えて来る。この時、少しだけノワールに同情したが自業自得なので一瞬でその同情は消え去った。


「了解・・・」の一言を残して酔い潰れてるノワールに肩を貸す形で大広間を進む。こうやって密着すると甘酸っぱい香りが何倍にも感じられるが、その分アルコールの強烈な匂いも強くなるので結局±0だ。


当の本人はにへらぁ~と脱力しているので全体重が俺に掛かる。それに関しては何の問題も無い。純粋な力にはそれなりに自信があるし、ノワール自身も胸に大きな手榴弾を抱えてる割に軽い。


だが問題はその手榴弾だ。俺にがっつりもたれかかる様にしてるのでその手榴弾が俺の脇腹に思いっきり押し付けられてるのだ。ホント、俺にとってはピンが抜けた手榴弾より怖いね。この手榴弾(おっぱい)は。



そんな気品の欠片もないノワールと共に大広間を後にする。途中で人影が少なくなって来たのでおんぶに切り替えて客室が並ぶ階の廊下を進む。


背中に感じる感触を極力無視して股の中心が盛り上がりそうになるのを必死に抑えつつ、眠りに落ちかけてるノワールに話しかける。



「おい酔っ払い・・・・部屋は何処だ?」



そう尋ねると、俺の肩に顎を乗せてウトウトするノワールは、睡魔に負けそうなのか囁く様に呟く。



「214・・・号・・・しつぅ・・・・」



そう言うと、カクンっと音を立てる様にダウンした。こりゃ完全に落ちたな。まるで自分の部屋番号がダイイングメッセージみたいになっててちょっとツボッたのは内緒。


214号室となると、階層的にはメヌエットと同じなので恐らくノワールの部屋もVIPルームなんだろう。どうしてたった1日2日程度しかいない客船でわざわざウン十万もする部屋をチョイスするのか。そこら辺金持ちの気持ちが俺には分からない。まぁ、貧乏性ってのもあるかもだが。



また真っ白な大理石と、レッドカーペットが引かれた廊下を進んでいると、ゴゴゴっ__と先ほどメヌエットの部屋にいた時の揺れを感じる。さっきのより断然大きいぞ・・・この揺れ。照明が点滅したくらいだ。ただの波で揺れたって訳じゃなさそうだ。そもそも、こんな大きな客船がちょっとやそっとの波じゃビクともしない、だからこそあの時感じた揺れに違和感を感じた。それよりもインパクトの強いものが続いたせいで忘れてたけど・・・。


大きな揺れに態勢を崩すが、ノワールを負ぶってる事もあって何とか踏みとどまる。このままぶっ倒れたら俺はともかく、ノワールは受け身が取れずに頭をぶつけて死亡なんて事になったらシャレにならんからな。


揺れが収まり、再び歩みを進めようと一歩踏み出した瞬間、耳をつんざく様な警告音が廊下に響き渡る。あー何だか嫌な予感がしてきた。



「あ~もうなんだよ・・・・こういう時ぐらいゆっくりさせてくれよ」



今日1日の出来事から思わず俺の願望がポツリと漏れるが、ピーピー鳴り響く警報でかき消される。特にアナウンスもないので一体何が起こったのかすら俺には分からないが、ロクなことじゃないのだけは分かる。


そして、その予感は見事的中する。


俺が上がってきたエレベーターからゾロゾロと現れた黒人の集団。その全員が頭にアラジンと魔法のランプに出てくる白いターバンを巻いてる。そしてその手に持っている物を見て反射的に走り出してしまう。



「ホント今日は厄介事ばかりだなクソッ!!」



アカシアの木の様にオレンジ帯びた木目が特徴的なアサルトライフルの代名詞。


_AK47


卓越した信頼性と耐久性から「世界でもっとも多く使われた軍用銃」といわれる程有名な自動小銃だ。俺の仕事上、よく見る銃でもあるので若干トラウマになってたり・・・。


後ろで何か叫びながら追いかけてきてるのはわかるんだが、警報音がデカすぎて何言ってるのか聞き取れない。


ヒィィィ~っと声にならない声をあげながら全速力で走る俺。走る事によってスーパーボールの様にバウンドするノワールを無視してガンガン進む。あーっんむ!あーっんむ!なんて言って舌を噛んでそうだけど知らん。


そんな事よりもマズイ事態に陥ってるからな。ターバン集団との距離は50メートル程あるが一直線のこの廊下では、あのライフルで狙いをつけず乱射されただけで蜂の巣になるぞッ!


銃があれば難なく凌げる状況だが、愛しいのベレッタちゃんは船に乗る際に没収されてるし、何よりこのお荷物(ノワール)のせいで動きにくいったらありゃしねぇ!


本気でここに置いて行ってやろうかと思ったが、流石に見捨てて生き残ってたら生き残ってたで後味が悪そうなので勘弁してやろう。


走りながらノワールを背負い直した瞬間、背中から火薬の匂いと共にババババッ__と轟音が鳴り響く。白い大理石の壁が砕け、照明のガラスは粉々に・・・・高級そうなレッドカーペットは_ボスっと音を立てて抉れていく。


このままだとマジで撃たれかねないので近くの扉を俺が出せる本気の力で蹴り開ける。


219号と書かれた黄金の装飾が施された外開きの扉は、ッッバゴォォォンッ!!___と轟音と共に部屋の中に勢い良く吹き飛ぶ。その勢いで窓ガラスを粉砕し、黄金の扉は空中に放り出され・・・・数秒間をあけて___バシャァァァと水しぶきを上げてプールに落ちた。


一時的であるが、何とかターバン集団の射線から逃れる事が出来たが、結局時間稼ぎにしかならない。ノワールを置いて格闘戦に持ち込んだとしても、どうしても数的有利が働いてしまう。どんなに一個人の力が強大でも、数人程度ならまだしも、10人近い相手を同時にするとなるとどうしても対応できない状況が出てくる。


対人戦に関するプロであるノワールなら苦でも無いかもしれないが・・・・



「あはははぁ~・・・・世界が回ってるぅ~・・・キャハハハハ」



「・・・・・・」



こんな有様じゃ期待できないだろう。しかも問題はそれだけじゃない。この先にはメヌエットだっているのだ。スマホでカメラをチェックした所、銃声が鳴り響いて警告音までなっているにも関わらず未だに大の字で寝てる。眠り深すぎだろッ!!とツッコみたくなるが、勝手に動かれるよりジッとしてくれる方がいいから良しとしよう。


廊下から_ダダダダッと音を立てターバン集団が向かってくる中、俺が打った手は・・・・。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





「おい。ちゃんとその男を見てろよ?」



「ああ。わかってる」



頭の後ろで腕を組み、結束バンドで拘束されて跪いてる俺に2つの銃口が常に向けられる。10人近い数のターバン男達がVIPルームに入ってくるが、そこは流石最高クラスの部屋というべきが、10人居ても十分なスペースがある。


俺がターバン集団達に打った手。それは・・・・


__降参


の一手だ。流石にこの数相手に素手で戦いを挑んで無傷で済む自信が無い。最悪ベットでこれまた大の字にぶっ倒れてるノワールを人質にされでもされたらそれこそ打つ手無しのチェックメイトになる。


降参と一言にいっても、完全に負けを認めた訳じゃない。敵の油断した瞬間、攻めのタイミングを見極める為の行動。いわばブラフだ。


元々、「諦める」という選択が出来ない性分でね。そもそも、これ以上の修羅場を何度もくぐり抜けて来たんだ。この程度で音を上げる俺じゃない。



「ジーンとクリピーナ、後ジョージとスーザン・・・ついでにトーマスとコストルも目的のブツを取りに207号室に行け。その間俺はちょこっとつまみ食いさせて貰うぜ・・・」



「了解だ。俺らにも後でヤらせろよ?こんな上物な女は久しぶりだ」



そんなTHE・悪役な会話を終えたターバン集団から6人が部屋から出ていき、俺の監視をする輩2人。ベットに倒れてウヘェ~・・・なんて言ってるノワールの前に2人で計4人がこの場に残った。


この船の中で使う言語が日本語と英語が大半であった事で、このターバン集団が話してる言葉も理解できる。それで分かった中で「目的のブツを取りに207号室に行け」ってのが気になるな。


メヌエットを偶然の出来事であるものの、ベットに押し倒してしまった時に言っていた・・・隣は大統領の部屋だと。確かメヌエットの部屋は206号室だ。その隣だと必然的に前後の数字である207・205号室のどちらかが大統領が使ってる部屋なんだろう。


ターバン野郎達の言動からして恐らく207号室が大統領の部屋なんだろうが、一体何が目的で入ろうってんだ?大統領ご本人は、大広間にいるから命の危機はないが・・・。




「さぁーってと・・・・ここ最近ヤってなかったからな。ここらで一発出しとくか」



「俺達の為にも早くして下せぇよ?」



「安心しろマソップ。隊長は早漏で有名だからな。直ぐに俺達の番が来るぜ!」



「そりゃ安心だ!」



「ブフッ!!」



そんなトークを眼前で繰り広げられた事で思わず吹き出してしまった俺。それを見たターバン野郎達は、隊長と呼ばれる男を除いて大笑いする。



「ガハハハハハッ!た、隊長バカにされて・・・ひぃひぃ・・・ガハハハハハ」



「ッチ・・・・マソップ。もうソイツ殺せ。拘束する意味もねぇだろ、俺様が早漏だって事に笑った罰だ」



その言葉にヒヤッとしたが、そこで俺を監視していた一人の男が予想外のフォローを入れる。フォローと言えるか微妙なものではあるが・・・・。



「まぁーまぁー隊長。コイツ、そこの女の恋人っぽいですし、目の前で犯しまくってから殺しましょうや。そっちの方が普通に殺すより断然良いっすよ」



「ッフ!ソイツぁーいいアイデアだマソップ。この女をブチ犯しまくって絶望した所で殺すか!」



まるでNTR物のエロ漫画みたいな会話にこれまた吹き出しかけるが、これ以上は流石に本気で殺されそうなので苦笑いで乗り越える。ブチ犯される予定の彼女は、未だにピヨッてる。モン〇ンならきっと頭上に星が旋回している事だろう。


隊長ターバンの伸ばす手が、ノワールの美乳に沈む。「ダメですよぉ~・・・・らんぼうしちゃぁ~」なんて言いながら小さく「_ぁぁ」とか可愛い声で喘いじゃってますよ・・・。


実際俺は恋人なんて関係じゃなく、ちょっとした仕事仲間程度の関係なんだが・・・・それでも見ていて気分のいい物じゃないな。自分の友人が知らない男に乱暴されてる所を見るのはエ〇同人の世界だけで十分だ。


荒い呼吸をしながらノワールの美乳を揉みしだいていた男は、いよいよノワールのパツパツなタイトスカートの中に手を忍び込ませ始めた。


流石にこれ以上ヒートアップしてしまうと正気に戻ったノワールのメンタルに響きそうなので行動を起こそうとした次の瞬間。


バババババッ___バババッ・・・・


警告音が鳴り響いているにも関わらずハッキリと聞こえたその銃声は、ターバン集団が使用しているAK47のそれだった。



「・・・・・クリスピーナ。応答しろ!・・・・クリスピーナッ!」



隊長ターバンが大統領の部屋に向かった彼らに無線による連絡を試みるが・・・・・返ってくるのは_ザーっと流れるノイズだけだ。しばしの静寂が続いた後・・・



「隊長。俺があいつらの様子を確認してk・・・」



俺を監視していた1人が銃口を逸らしたタイミングで俺は、結束バンドを引きちぎりながら銃口を向けていた男に襲い掛かる。


左手で射線を俺から逸らし、手首をへし折る勢いで奪い取ったAK47のストックをフックの要領でターバン男の一人に叩き込んだ。


その瞬間、膝から崩れ落ちる様にしてカーペットに倒れこむ。ここまでに掛かった時間は1.4秒。


あまりに人間離れしたその速さに対応が遅れたのか、ワンテンポ遅れて思い出したかの様に俺に銃口を向けようとAK47を持ち上げる。隊長ターバンは、ベットに置かれたAK47に手を伸ばすが、その隙を逃す程俺も甘くない。


俺は奪い取ったAK47を水平に薙ぎ払うように射撃する。


ババッ_ババッ_バババッ


俺を監視していたもう一人のターバン男の太ももに1発、ライフルを破壊する為にマガジンの付け根に1発当てて破壊する。それを他の3人にも同じように行う。隊長ターバンにはノワールの美乳を堪能したつけで1発多めに打ち込んだ。


「クソッ!」っと毒づくきながら跪いた3人の後頭部にこれまたAK47のストックを叩き込んで意識を刈り取る。中々便利だなこのストック。素手で意識を奪うのは意外と大変なもので、強すぎると死んじまうし、かと言って弱いとただの打撃になるのでそこら辺の調整が難しかったりするのだ。リアルじゃ首トンして意識を奪うのは至難の業だし、それに比べてストックはテキトーにぶつけるだけで意識を奪える。今度俺も打撃特化のライフル作って貰おうかな。



「ど、どうしてだ・・・・お前は拘束されていたハズなのに・・・・」



隊長ターバンは俺の早業よりも、拘束具をあっさり破った事に驚いてる様子だ。まぁ、新品の洋服に付いてるタグファスナーみたいにあっさり結束バンドを引きちぎったから驚きもするわな。普通なら刃物でも使って切らないと取れないし。



「力には自信があってな・・・・・結束バンドじゃなくて鉄製のチェーンでも持ってくるべきだったな・・・・いやワンチャンそれも壊せるかも」



不敵な笑みを浮かべながらそんな事を言うと、隊長ターバンはまるで化け物を見ているかの様な表情で俺を見つめた。あーもうやめてその目、最近そんな感じの視線ばかり受けてきてちょっと悲しかったりするんだからさ。


その視線から逃げる様にしてAK47のストックで隊長ターバンの意識を刈り取る。ノワールとイイコトしようとズボンを下ろしていた事で、水玉のパンツを見せびらかす様にぶっ倒れている彼はとても惨めな姿だったのは言うまでもないだろう。


念の為大統領の部屋に向かっていたターバン集団を警戒していたが、何故かこっちに来る様子が無い。



「・・・・ホント面倒くさいの一言に尽きるな」



メヌエットから貰ったスーツを着くずしながらターバン男達の懐を弄る・・・が、ちょっとした弾薬と無線機しか持っていなかった。


AKを棍棒として振り回すのも悪くないが、襲われかけたにも関わらず未だにベットでヘラヘラしてるお荷物(ノワール)の事を考えると長物(ライフル)は持たない方がいいだろう。


このターバン集団は一体何が目的でこんな事をしているのか分からない。だが、きっと大統領達がいる大広間にも何らかの動きがあるハズだ。


向こうには国の精鋭達と篝がいるから、こんな感じの奴ら相手には問題ないだろうけど・・・・。何が起きてるのか理解しておきたい。


メヌエットの様子も気になったのでスマホで確認すると・・・・うん。まだ寝てるわ。今度はY字型で。バリエーション豊富な子だよ全く。


大広間に向かおうにも、安全確認が取れてない分絶対安全とは言えないので確認が出来るまでの間そこで寝ててくれよお嬢さん。


スマホをスーツの内ポケットに入れ、よだれを垂らして遠い何処かを見つめてるノワールに冷凍庫に入っていた氷を一つ手に取ると、それをノワールの透き通る様な薄卵色をした脇に突っ込む。


次の瞬間、黄色い声と共に飛び跳ねんばかりに体がビクンっと反応する。


「ひゃぁぁいっ!!・・・・にゃ、にゃにするんだよぉ~」



「いい加減酔いから冷めろバカ野郎っ!」



急な刺激に意識が覚醒したのか、先ほどの虚ろな様子は無くなったが酔いが覚めた訳じゃなさそうなので気休め程度にコップに注いだ天然水を差し出す。こんなになるまで酔ったのだからこの程度で覚めるとは思えないが、何もしないよりはいいだろう。


ノワールは「ありがとぉ~」と言って受け取った水をチョビチョビ飲んでいく。そして、これが意外な事に効果ありだった。



「いやぁ~ごめんね?・・・見っともない所ばかり見せちゃって・・・・えへへ」



酔いが激しい分、覚めるのが早い体質だったようだ。まだ顔が火照っちゃいるが意識自体はハッキリしてる感じだ。一応ここまでの記憶があるか確認をとると「おぼろげに覚えてはいるんだけどね・・・・あんまりハッキリとは思い出せないかなぁ~。夢から覚めた瞬間みたいな感じ!!」といっているのでセクハラによるメンタルダメージは大丈夫そうだ。



「よっと・・・・ってぁぁぁあああ!」



_ダキッ!___ムニュ~



やっと本当のノワールが戻りつつある事に喜び、荷物持ちからも解放されたぁ~と思ったら・・・・ベットから立ち上がろうとしたノワールは、意識はハッキリとしているものの体が追い付いてないのか千鳥足になりながら俺に抱き着いて来た。


吐息が掛かりそうな距離までお互いの顔が近づいた時に俺はノワールの瞳を覗き込む。その行動にノワールは「・・・はぅぅ~」なんて声を出して顔を赤く染めていたがそれを無視して覗き込む。


映画で良くあるキスをする前の妙な間が流れる中、確認が取れた俺は再びノワールを強制的におんぶする。「こ、今度はなにぃっ~!!」と驚きの声を上げてるがお構いなしだ。



「ジッとしてろって・・・・どうせまだロクに歩けやしないんだから」



ノワールの瞳を覗き込んでいて分かった。ハッキリと目を見開いちゃいるが、瞳が左右に細かく動いていた。これは水平性眼振という奴で、その場でグルグル回転すると、目が回る時なんかに起きる現象と一緒だ。


つまり、今のノワールは目が回った状態と一緒って訳だ。よく酔っ払うと世界が回って見えるなんて言うからな、きっとそれと同じもんだろ。



「ご、ごめんなさい・・・・迷惑ばかり・・・」



「全くだ・・・・おんぶはこれで最後にしてくれよ?」



ノワールを背負いながら219号室を後にする。おんぶされてるノワールは、恥ずかしさのあまりか顔を真っ赤にしながら俺のうなじ辺りに顔をうずくめてしまった。「・・・・恥ずかしいくて悶え死にそう」なんて心の声が漏れちゃってたりするが、そこは紳士な俺。何も聞こえなかったフリで通す。


酔っ払ってさえなければ普通の女の子なんだよなぁ~。ボディーラインなんてモデルのそれだし、女の子の夢袋はここまで嫌ってほど味わってるから言わずとも素晴らしい物なのがわかる。


ルックスだって軍人じゃなくてアイドルやってても違和感ない位整ってるし、酔ってさえなければ非の打ち所が無い美少女なんだよな、忘れてたけど。


そんな美少女をおんぶしながら穴だらけのレッドカーペットを進んでいく。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ぁぁああああ!!こいつら何処にでもいるじゃねぇかぁあぁぁ!!」



手ぶらの状態である今、逃げの一手しか打てない俺達は、篝もとい大統領達がいるであろう大広間に向かおうと歩みを進めていたが、まるで黒き悪魔・Gのごとく現れるターバン集団せいで中々辿り着けないったらありゃしない。


「あ、愛人くんっ!そこを左に曲がt・・・」



_ガリっ



「っっ~!!」



ノワールは何か手があるのか、指示を飛ばすがおんぶの状態では乗馬のごとく揺れる。それでノワールは俺にまで聞こえる勢いで舌を噛んだのだ。音だけでこっちまで痛くなってくるな・・・。



「・・・・・左に曲がればいいんだな?」



「(コクコク)」



涙目になりながら口元を抑えるノワールは、俺の問いかけにコクコクと頷く。


ノワールの誘導のもと進んで行くと、船の中とは思えない光景を目にする。


そこは、何処かの街並みをそのまま船内に移植したような場所だった。ガラス張りの天井からは神々しい月明かりが差し込み、煌びやかな装飾が施された数多の店が一直線に並べられている。


店はブランド品や宝石、一着何十万もするであろう洋服を売っているようだ。数百あるであろう店は、一つ一つが個性的なデザインで一見統一性が無いように見えるが、個性を出しつつ、この街並みを綺麗に見せようとする意思がそのまま店に現れている様でとても美しい。


店の一つ一つが宝石に見えるこれらを一直線に並べたこの場所はまさに___


__road of the (宝石の道)jewel


宝石の道という言葉が相応しい。これは決して大袈裟に言っている訳じゃない。本当にそう思えてしまうほど美しい場所なんだここは。



「ぉぉぉ・・・・・スゲェ」



思わず息を吞む美しい街並みに足を止めた俺は、後ろから迫ってくるターバン集団によって再び駆り立てるられる。全く空気の読めない奴らだな・・・お前らは。


迫ってくるターバン集団から逃げる様にして一直線の道を駆け抜ける。本来多くの人で賑わうであろうこの場所は、今では人影の1つも無い。いくつか店のガラスが割れているので、既にターバン集団の手が回った後なのだろう。



「はぁ~・・・・こんな事にならなきゃこの場所を普通に歩けたのになぁ」



走りながら心からの溜息を漏らす俺に・・・・



「上手くこの1件を片付けられれば、この場所を歩く事が出来るかもしれないよ?」



規模は大きいものの被害事態はそこまで大きくないので上手く片付けられればノワールの言う通りこの道を歩くことが叶うかもしれない。



「とは言っても、こんな輝いてる道を一人で歩くにはちょっと厳しいな・・・・」



きっとこういう場所は一人で来る場所じゃないだろう。もちろん一人で来るのが間違いとは言わないが本来、親しい友人や大切な家族。恋人なんかと一緒に来て、楽しく会話しながら買い物をする場所なんだろう。


だからボッチの俺には、こんな状況にならなくても来ることが出来なかったかもしれないな。独り身の俺にこの場所は少し眩しすぎる。



「・・・・・それなら・・・さ」



俺におぶられてるノワールは、何故か顔を赤らめながら・・・・



「この1件が片付いて、もしここに来れるなら・・・その時は私の買い物に付き合ってよ。それなら一人じゃないし、私も楽しく買い物が出来る。お互いwin-winな関係でいられるでしょ?」



遠回りにデートのお誘いを受けているような感じがしなくもないが、そこは紳士ィィィな俺。伝説の女たらしなんて不名誉な2つ名を付けられる俺の言葉選びは・・・。



「それりゃ悪くない提案だな。その時はよろしく頼むぜノワール。男らしくお金を出すことは出来ねぇけど」



なんせ俺は月給30万の庶民だからな。セレブのショッピングに付き合う時は財布を隠させていただきます、俺の生活の為にも。


そんな紳士の「し」の字も無いような事を思っている俺に対し、ノワールはこれまた思わずキュンっ_と来る可愛らしい笑顔で・・・・



「愛人くんにそんな紳士的エスコートなんて期待してないよ。ただ君は、私の隣を歩いてくれればそれでいいから・・・」



若干ディスられた感が否めないが、最後の言葉にちょっとときめいちゃったからメンタルダメージ的には±0だからセーフっ!



「ぉおおう・・・・と、とにかく。そんなwin-winなショッピングをする為にも頑張らなくちゃな!」



改めて士気が高まった所でどん底に叩き付けるかのような状況が俺達を襲う。


前方から後ろにいるターバン集団とはまた違う奴らに挟まれたのだ。流石にこの状況に冷や汗が流れる・・・が、眼前の敵を見てもなお、全てを吹き飛ばすかのような覇気の籠った声で・・・・・



「・・・・私に任せてっ!」



その言葉とほぼ同時にノワールが俺を踏み台にして高く飛び上がる。5~6m飛び上がったノワールは、そのまま目の前のターバン集団の中心に空中からの奇襲を掛ける。


ノワールは自分がスカートである事を忘れていらっしゃるようだ。幸い(というべきなのか分からないが)俺の位置からだけ深藍色のタイトドレスからチラっ_と覗く桃色のおパンツが見えた。なんか今までがっつりボディータッチしてきたせいでパンツの1つや2つ見た程度じゃなんとも思わなくなってきたな。



「___うぉりゃぁーっ!」



わずかに緑みを帯びた暗い青。鉄紺色のハイヒールによるラ〇ダーキックがターバン集団の1人に炸裂する。その瞬間、AKが宙に舞い、地面を滑る様にして数m吹き飛ぶと仰向けの状態で動かなくなる。


集団の中心にポツリと立つノワールに多くの銃口が向けられるが、誰一人と引き金を引かない。いや、引けないのだ。360度囲んでいるこの状況では、ノワールは避け様が無いので容赦なく弾丸が体を貫くだろう。


だがそれは、同時に味方も貫く可能性が高い。ターバン集団は同士討ち(フレンドリーファイア)を警戒して引き金を絞ることが出来ないのだ。


この状況になる事を予測して敢えて敵のど真ん中に突撃して行ったであろうノワールは、その場で踊るように敵を無力化していく。


仮に引き金を引かれても極力被弾しない様に体を動かし、時に銃口を逸らしながら、人間の急所を的確に攻めていく。


裏拳でこめかみに衝撃を与えて平衡感覚を奪って無力化したり、薙ぎ払う様な肘打ちを顎に打ち込んで脳震盪を引き起こしてダウンさせたり・・・・他にも素早く喉仏に一突きするだけでドったんばっタン人が倒れていく。


少し離れた場所からこの光景を見る俺は、まるで草刈り機に刈られていく雑草を見ている気持ちになる。


あっという間に数十人いたターバン男達は、みんな大の字になって大理石の地面に倒れこむ。これがアメリカが保有する最強の部隊に所属する一隊員の実力。


驚くべきなのは、これだけの芸当を何の支援(アシスト)も使わずに出来てしまう所だ。


俺は、能力を駆使する事で馬鹿力を引き出したり、銃弾を切ったり避けたり、時には弾いたりする事が出来るので超人に思えるだろう。


だが、逆を言えば能力を使用しないと超人になれない。下手すれば普通の軍人よりも弱いのだ。


日本が保有する数ある部隊の中で、1位2位を争うのが俺の所属する公安0課と、陸上自衛隊から引き抜かれたエリートの集まり。レンジャー小隊の2つだ。


結局の所、日本最強なんて言われちゃいるが公安0課とレンジャーの違いなんて能力の有無くらいだ。むしろ俺達から能力が無くなった場合、圧倒的にレンジャーの方が強い。俺達は人外の力があるだけで、人間本来の力は大したこと無い。


だからこそ、何の能力も使用せず、純粋なテクニックと経験だけであれだけの事が出来てしまうノワールの動きには、素晴らしいの一言だ。


当然、魔術が主流になりつつある今の世界でアメリカ最強なんて肩書きを付けるくらいだ。俺が知らないだけで他に強力なカードがあるのは確実だろう。


ノワールの集団戦闘による手際の良さに思わず感嘆の声を漏らして立ち尽くしていると・・・・



「・・・っよっと!・・・・・1丁で足りるかな?」



地面に落ちている1丁のライフルを拾い上げると、「後ろの敵は任せたよ?」と言わんばかりのウィンクと一緒に放物線を描いて飛んできたそれを片手で受け止める。


AK47の装弾数は30発。薬室に一発込めれば31発もある。それに対してこっちに向かってくる敵の数は、装弾数の約3分の1程度の11人しかいない。これだけ弾に余裕があるにも関わらず片付けられないなんて事はあり得ない。


これでも、日本最強の看板を背負ってるんだ。それに泥を塗る様な事はしないさ・・・・それに、ノワールが魅せてくれた事に対するお礼もしたいと思ってた所だ。



「ああ・・・・1丁で十分だ。むしろ多すぎる位さ」



不敵な笑みと共に振り返った俺は、AK47の銃口を迫りくるターバン集団に向ける。俺が銃口を向けている事に気づいた奴らは、進む足を止める事無くそのまま発砲する。


__ババババババババババババババババッツ!!


数えきれない銃声を轟かせるのと同時に、俺の視界から色が無くなり時速730m/sの速さで飛翔する銃弾は、水族館で悠々と泳ぐ魚のようにゆっくりと向かってくる。


俺に向かって放たれた銃弾の合計は33発。一人3発撃った計算になる。その中で俺に当たるもの、後ろにいるノワールに命中するであろう銃弾は半分もない。大半が明後日の方向に飛んで行ったり建物に向かっていったりだ。



「___弾はもっと大事に使った方がいい」



__ババババババババッ!__ババババババババッ!



マズルフラッシュと共に眼前の銃口から飛び出していった銃弾は、俺とターバン集団の中間辺りで奴らの放った銃弾と、俺が放った銃弾が衝突する。その瞬間、銃弾がビリヤードの様に弾け飛んだと思うと、その弾けた銃弾が他の銃弾にも衝突する・・・・それが連鎖した結果。


ターバン集団11人全員の太ももに1発づつ銃弾を撃ち込み、弾き返した銃弾をライフルの銃口に押し戻したり、VIPルームでやったようにマガジンの付け根に当てて破壊する。


当然、俺とノワールに命中する銃弾は全て相殺し、この美しい街並みに対する被害が最小限になる様に可能な限り相殺させ、残りは地面の大理石に着弾させる。ノワールとまたここを歩く時に店がボロボロになると見栄えが悪くなるからな。既に地面がボロボロなのはちょっとアレだけど。



フゥ~っと少し長めの息を吐いて持っているライフルの弾倉を確認する。



残り6発。街並みを守るためとは言え、少し撃ちすぎたな。もうちょっと計算出来ていれば後3~5発は節約出来はず・・・・。要反省だなこりゃ。


武装を完全に破壊された挙句痛みによってうずくまるターバン集団を背にしてノワールの元に向かう。



「あ、あははぁ~・・・・・流石だね」



少し引き気味に笑うノワール。同情するようにみ空色の瞳が向けられる。これでも0課の中では比較的優しい方なんだぞ?・・・据わった目で切り刻んでくる咲夜さんとか、原形が分からなくなるくらいボコボコに殴る篝とか、霊夢なんか、場合によっちゃ跡形も残さず吹き飛ばす時があるんだから。


因みに公安0課にもMI6の様に「殺しのライセンス」なるものがあるにはあるが、可能な限り生きたまま捕らえるのが鉄則だ。死んでしまっては、罪を償う事が出来ないからな。


別にそんな鉄則なんかなくても、好き好んで殺すような事はしない。

「誰も殺さない・死なせない」

が、俺のモットーだからな。



「戦〇無双を素手でやり遂げたノワールも同じようなもんだよ」



数発残ったライフルをそこら辺にポイ捨てした俺は、再び歩みを進める。ノワールは、もうおんぶの必要は無いようで、俺の隣をカツカツとヒールの音を鳴らして付いてくる。今思ったけど良くそのヒールであれだけの戦闘が出来たな。



長いような短かった様な「road of the (宝石の道)jewel」が終わりに近づいてきた頃になって「・・・あっ!」っとノワールが何か思い出した様に自分の内股を弄りだした。


本人は無意識にやっているんだろうが、俺の隣にいるにも関わらず堂々とスカートを捲るもんだから可愛らしい桃色のTバックとプリッとしたお尻が丸見えだ。


まぁ、それと一緒に太ももに巻かれた黒いベルトに収められてた純銀のガバメントが出現したのでセクシー感が台無しだけど。因みに、後から自分のやった事を理解したノワールが顔を真っ赤にして数分間道の端っこの方でうずくまってたのはまた別の話。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




あれから「road of the (宝石の道)jewel」を抜けた俺達は、大広間に着くまでの道のりは実にスムーズだった。さっきまでおぶられてたノワールが今までの失態を挽回しようと、ここぞとばかりに頑張ってくれたお陰だ。俺達の数倍の敵を相手にしても、ノワールが拳銃一つ持っただけで大体秒で終わるので逃げ回っていたあの時よりもかなり速く進めた。これがアヘヘェ~とか、ウヒョォ~とか言ってた酔っ払いとは到底思えない。


まぁ、そんなノワールの活躍で難なく大広間に辿り着いた俺達。そこに待ち受けていたのは・・・・


山の様に積み重なったターバン男達と、中心に集まる様にして固まる一般人。それを囲む様にして立ち並ぶ黒服たち。その中には当然篝の姿もあった。



「うっへぇ~・・・・・俺達が相手してきた数とは非にならねぇな」



「ターバンがちりつもだっ!ちりつも!」



ちりつも(恐らく塵も積もれば山となる的なあれ)になったターバン達を見て何故かテンションが上がってるノワールは置いといて中央に向かうと・・・・



「やっぱり生きてたか・・・・・」



「なんだその死んでいて欲しかったみたいな言い方・・・・」



「お疲れ様ぁ~!篝っ!」



すっかり酔いから覚めたノワールを見て少し驚いてる篝は、直ぐに冷静になると・・・・・



「丁度良かった。実は・・・・・」



と言って今の状況に関する事を教えてくれた。要約すると・・・・


衛星通信機で、何とか防衛大臣の四季映姫に連絡が取れたようだ。それで聞いた情報では、今この船、フリーダム・オブ・ザ・シーズはイスラム過激派組織「ISIS」によるテロの対象になっており、犯行声明も日本政府に出されてるようだ。特に要求は無かったらしいが、この船に近づく物を確認でき次第爆破すると脅しをかけてるらしいので、一切の救援を送る事が出来ないとのこと。もちろん衛星通信を使って連絡を取ってる事が悟られると爆破される可能性があるので要点だけ伝えて通信を終えたようだ。


防衛大臣である四季映姫から俺達に向けて伝えられたのはたった一つの命令。


船内にいる者だけで総理大臣及びアメリカ大統領の安全確保し、フリーダム・オブ・ザ・シーズ内にいるテロリスト達の無力化。そして所在不明の爆弾解除。


その際、どんな手段を取ろうと構わない。全責任はこちらが持つ。


という何とも無茶な要求をしてくれた。


この船を襲う理由は分かる。なんせ国のトップが二人も集まり、尚且つ何かあっても逃げ場の無い海だ。トップが死んだ場合の国に対するダメージも尋常じゃない。大統領を殺そう物なら戦争沙汰になるが、過激派のあいつ等には大した問題じゃないだろう。


だが、恐らく「ISIS」の目的は他にある。トップ二人を殺すだけならさっさと爆破してしまえばいいのにそれをしないという事は、それ以上に大事な何かがこの船にはあるという事だ。


それが何なのか・・・・結局分からずじまいだ。



「と、いう訳で・・・・俺は大統領達の護衛があるからここから動けん。だから代わりに頼むわ!」



顔面凶器はこんな大ごとをまるで「俺今日用事あるから代わりにシフト頼むわw!」的なノリで俺に押し付けようとしてくる。



「おいおいッ!ちょっと待て・・・・いくら何でも俺一人で全員無力化、おまけに何処にあるか分からない爆弾まで解体しろっていうのかよっ!そりゃいくら何でも身が重いって!」



「ならノワールも連れて行けばいい。丁度そこの酔っ払いは万能兵士のデルタフォースだからな。爆弾解除もお手の物だろ」



そうしてサラッと無茶難問な任務に道ずれとして任命されたノワール。だが意外な事にあっさりとした様子で・・・・。



「そういう事なら私は全然いいよ?どうせどうにかしないとみんな命が危ないし・・・・・爆破なんてされて船が沈んだらショッピングの約束も果たせないしねっ!」



ショッピング?・・・と首を傾げている篝に、俺が補足を入れるとこれまた哀れむ様な目で俺を見つめて「お前もう刺されるだけじゃ済まねぇぞ・・・ホント」なんて意味不明な事を言ってくる。


実際篝や他のSP達は大統領達の護衛をしなきゃいけないし、自由に動けるのは俺ぐらいだからな。引き受けるしかない。幸い、爆弾解体の経験が無い俺の為にノワールも来てくれるみたいだしな。



「はぁ・・・・分かったよ。俺も一応公安0課の一人だからな、犯罪者が目の前にいるのに見す見す逃すような事はしねぇよ。ただ、客室の206号室に一人民間人がいるからソイツの保護を頼む」



それを聞いた篝は、数人のSP達と話をすると、そのSP達が客室のある階段へと向かっていた。今向かっていったであろう彼らに保護を頼んだようだ。それなりに武装しているし、ちょっとやそっとの相手には引けを取りはしないだろう。因みに会話しながらスマホでカメラを確認すると今度はL字になってた。そろそろZとかFとかになりそうな勢いだ。



「お前の連れのお嬢さんに関してはこっちで任せておけ」



「そんじゃ頼む・・・・さて、俺らもさっさ動こう。ノロノロしてたら夜が明けちまう」



そうして今ここにアメリカ&日本の最強チームが結成された。たった二人しかいないのにチームと呼べるのか・・・というツッコミは受け付けない。俺がチームといったらチームなんですぅ~。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




いつ爆破されるか分からない以上、早めの解体が望ましいと判断した俺達は、操舵室を目指す事にした。ノワールいわく、船は貯水ダムと同じ様に解体する事を前提に作られているんだと。ダムの場合、解体する時の為に予め簡単に解体出来るようにいくつかポイントを作っておくらしい。


そのポイントにダイナマイトを仕掛ける事であの馬鹿デカいコンクリートの壁を簡単に解体できる。船もそれと同じで少量の爆弾でもポイントさえ抑えれば木端微塵とまでいかずとも、簡単に沈める事が出来るらしい。


ノワールはそのポイントを船の見取り図さえあれば分かる様なのでそれがあるであろう操舵室に向かっていると言う訳だ。



「さっきからここ行き来きしてんな・・・・俺ら」



「だねぇ~・・・・もう見飽きちゃったよ」



いい加減飽きてきたレッドカーペットの感触に若干虚になりながら客室の廊下を進んでいく。操舵室は船内で最も見渡しのいい場所、いわば船のてっぺんにあるのでそこに向かう為に今まで散々通ってきた客室を進まなきゃならない。念の為エレベーターは使わず、地道に階段で上の階に向かっていく。


面倒な事に、ジグザグに階段が配置されているので上に上がるには一々客室の廊下を進む必要がある。メヌエットやノワールを連れていた時は、エレベーターを使っていたので移動に苦労しなかった。


途中でプールサイドから操舵室までスパ〇ダーマン見たいに壁を伝って登って野郎かと思ったが流石の俺でも少々リスキーなので大人しく上に続く階段を踏みしめる。



「使った事ないし、流石に試し撃ちの1回や2回はしておきたいな・・・・」



手中に収められた拳銃は、黒色の光沢を放ってギラギラ輝く。武器を持たない俺の為に、篝が貸してくれた拳銃。



_SIG SAUER P226



装弾数は15発+1発。俺が普段使用してるBerettaと同じ9㎜の弾丸なので感覚的には近いんだが、弾は同じでも反動が違う。


俺の戦い方は、主に拳銃を使った芸当がメインだ。その為に使用する銃の事を理解していないと致命的なミスを犯す。特に俺の場合、人に当てると言うより弾に当てる事の方が多いからな。計算がちょっとでも狂えば最悪死ぬ。


因みに武装強化したのは俺だけではなく、ノワールも同じだ。


元々持って来ていたらしいノワールの愛銃、P90をアメリカ側のSPから受け取っている。今の彼女は、細かい所を除けばほぼ完全武装なので戦闘力は今までの非にならないだろう。


まぁ、その愛銃P90を器用にクルクル回してるせいでカッコ付かないけど。



道中何度か邪魔が入ったものの、操舵室前まで難なく辿り着くことが出来た。一応入る前に聞き耳を立てたが特に物音はしない。



「・・・・それじゃ、3(スリー)カウントで行くよ?」



P90を持つ手の反対で鉄製の扉に手を掛けるノワール。俺はP226を手に、静かに頷く。それを合図にノワールが静かにカウントを始める・・・・3・・2・・1・・・。



_バンッ!



扉が勢い良く開かれるのと同時に操舵室に突入する。その瞬間、中の光景に思わず目を見開いた。


操舵室は縦横10m程の一室になっている。照明は消えており、月明かりだけがこの一室を照らす。壁一帯は全面ガラス張りで、肉眼でもこの巨大な客船の全貌が確認できる様になっている。


部屋の中央には木製の舵輪、その付近に数多くのスイッチらしきものがズラーっと並んだ操作盤が設置されてる。灰色の床は、仄かな弾力性があるフローリング。そして、その床には海軍の制服を着用した船員の遺体が血だまりを作って転がっている。


他にも弾け飛んだ様に赤黒い血が透明なガラスにベットリと付着していたり、頭部を潰された様に脳漿をまき散らした遺体など、悲惨な最期を遂げた事が見て取れる。


そして、鮮血に濡れた一室の中心で立ち尽くす様に外を眺める一人の少女を視界に捕らえる。


スポットライトの様に月明かりで照らされたその少女は、漆黒のドレスを纏い、妖艶な雰囲気が止めどなく溢れていた。


夜空の様な曇りき黒髪は、緩やかな川の様に滑らかで、その毛先は小ぶりなお尻にまで至る。釣りあがった目尻から除く瞳は、辺りに広がる鮮血の様に赤く、小動物程度なら視線だけで射殺せるんじゃないかと思える程鋭い。その鋭さがまた、妖艶雰囲気を醸し出す要素の一つでもあるが。


透き通る様な乳白色をした肌と対照的な漆黒のドレスがなんとも言えないコントラストを生み出している。


柔らかな窪みの鎖骨の下には、片手にピッタリと収まりそうな乳が滑らかな曲線を描く。さらに下に向かえばキュッと引き締まったウエストがあり、更にさらに下には程よい大きさをした可愛らしいお尻が・・・まさに小ぶりのボンキュッボンを具現化した様な容姿をしている。


銀のバラが装飾されたティアラを付けるその少女は、まさに・・・・・


_闇のシンデレラ_


自分でも何を言っているのか分からないが、そう表現するのが一番しっくりくる。俺も何だかんだ多くの美少女を見てきたが、彼女の様なタイプの女の子は初めてだ。


あまりの美しさに言葉を失って立ち尽くす俺に、ゆっくりと振り返った少女は、鋭利の様に鋭く、冷たい視線を俺達に向ける。


何か口に出す訳でもなく、ただただ俺の瞳を覗き込む様に見つめてくる少女に、何とか動く口を開く。



「____これは・・・・アンタの仕業か?」



絞り出す様に出た俺の言葉に、少女は小さく微笑むと透き通る様な美声で・・・・



「私の仕業なら・・・・どうするの?」



意地悪なお姉さんの様な顔でそう問いかける彼女に__カチャっと金属と金属が噛み合った音と共に持ち上げたP226の銃口を向ける。



「その時は署でゆっくりと話を聞こうじゃねぇか」



「熱心なお巡りさんなのね・・・・でも、そんな時間は無いから・・・・」



これまたドキッとくるような美しい笑みを見せ、漆黒のドレスと同じアームカバーに包まれた右腕を持ち上げる。次の瞬間、半径30㎝程の大きさの黒い魔法陣が出現する。



「___()()()()()



「__ッ!!」



魔法陣を視界に捕らえるのと同時に俺とノワールは、左右に飛び込む様にして射線上から離れる。


俺が地面を転がるのと同時に魔法陣から黒い竜巻の様なものが出現し、さっきまで俺達が立っていた場所に着弾する。


__ヒュゴォオオオオオっと何かが爆発した様な暴風が一室に流れ、それに揉まれる様にしてガラス張りの壁に叩き付けられる。鈍い音が体に響くが、ただ叩き付けられただけなので大したダメージではない。強化ガラスなのか、俺がぶつかっても特にヒビが入った様子はない。


幸いノワールは、操作盤を壁にして持ち堪えた様だ。



__ここに来て魔術師が出てくるかッ!



世界の理を捻じ曲げ、暴力的なまでな力を生み出す魔術。俺やノワールが最も嫌いなタイプの相手だ。しかもよりによって動きが制限される室内。想像しうる中で最悪な状況だ。


彼女が腕を伸ばした直線状の床は抉れた様に削れ、俺達が入ってきた鉄製の扉は大きく凹んでしまって簡単には空きそうにない。


__完全に逃げ道が無くなった今、彼女を無力化する以外の道が無くなったぞ。


俺達が竜巻の様な魔術を回避した事に少々驚いた様子だが、直ぐに切り替える。ノワールのいる方向には右腕をかざし、左手で太もものホルスターに収められた一丁の拳銃を取り出して俺に向けて発砲する。


俺には銃撃、ノワールには魔術で追い打ちを掛けてきた。恐らく魔術と一緒に現代兵器をバランス良く使用するハイブリッド型の魔術師。大体どちらかに偏りがちの今の時代に珍しいタイプの敵だ。


何度か対峙した事があるが、こういう相手は状況判断が滅茶苦茶早い。ほとんどが現代武器で追い詰めて逃げられない所に高火力の魔術をぶつけてくるかなりメンドクサイ奴なのだ。


俺は、咄嗟に体を捻って初弾を回避、更に飛んでくる銃弾を打ち落とす為にp226の引き金を絞る。暗い室内に散る火花は、さながら花火の様に綺麗だが見惚れてる暇はない。


黒い槍の様な魔術に対してノワールは、女の背後に回る様に回避しながらP90をフルオートで発砲する。明らかに殺す事前提の容赦ない攻撃だが、それぐらいで死ぬ様な相手じゃないと分かってるんだろう。


案の定、ノワールの銃撃は地面を滑る様にして回避される。だが、女を開かなくなった扉側に追い詰める事が出来た。さっきとはポジションが逆になった今、地理的有利も、数的有利もこっちにある・・・・勝機はあるぞ!



「面白い事をするのねあなた達・・・ただのお巡りさんって訳じゃなさそう」



「分類的には間違っちゃいないぜ?・・・俺もコイツも」



俺が見せた銃撃に感心した様に小さく口角を持ち上げる。相手の()()()()P()3()8() ()の銃口と俺達の銃口が交差す

る中、質問を投げかける。



「アンタ・・・・下にいるターバン野郎達とは違うみたいだけど、何者だ?」



「・・・・・・そうね」



彼女は少し悩む様に顔を小さく傾ける。その姿がまた美しいく、思わず頬が緩んでしまった。そんな俺を横目で見ていたらしいノワールは、小さく頬を膨らませながらも、銃口は逸らさず_ゴスッと脇に肘を入れてくる。



「怪盗・・・・なんちゃってね」



「「は?」」



すまし顔でそんな事を言うので思わずそんな声が出てしまった。実はこんな顔して中二病拗らせちゃってる痛い女の子だったりするのか?


少し不機嫌そうな顔をすると、拳銃を放り投げて両手を突き出し始めた。放り投げた拳銃に一瞬意識が逸れたせいで反応が遅れる。



「___()()()()()



そう呟くのと同時に現れた黒い魔法陣。さっきの倍以上の大きさがあるそれを見た俺達は、操作盤を壁にするようにその場で伏せる。次の瞬間___


風を切る音と共に現れた黒い結晶が剛速球の如く飛翔する。吹雪の様に吹き荒れるそれは、まるで紙くずの様に強化ガラス貫き、空の彼方へと消えていく。姿勢を限界まで低くしていた事が功を奏してダメージを負う事は無かったが・・・・。


本気にさせてしまった彼女は、明らかにこの場で倒せる様な感じじゃない事を悟る。


__正直さっさと逃げてしまいたいが、出入口である扉は塞がれてるし・・・どうしたものか。


立ち上がった俺は、背中から吹き荒れる冷たい風に体を震わせながら・・・・何を思ったのか、魔術によって割れた窓からノワールを突き落とす。


これにはノワールは当然、目の前の少女さえ目をまん丸にさせて・・・・・



「___ギ゛ャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛」



ドスの利いたノワールの絶叫が響き渡るのと同時に俺もそれに続く様に飛び降りる。


最後に彼女の顔を横目で確認すると「え?・・・マジ何やってんのアイツ」みたいな顔しててちょっと面白かった。そんな顔も出来るんだなアンタ。


宙に放り出された俺は、先に落ちたノワールに追いつく為に直立にして一気に加速する。涙目・・・というか若干泣いてるノワールに抱きつく様にして合流する。


プールサイドがどんどん近づいてくる中、ベルトのバックルに仕込まれた返しを手に取ってそれを客室の窓に向かって放り投げる。


__ガキンッ!


っと返しが引っ掛かった感触がワイヤー越しに伝わると、振り子の要領で勢い良く下の階の窓にライダーキックをかましていく。


ガラスを粉々に粉砕しながら侵入した客室。ノワールはカーペットの上を勢い良く転がっていってタンスに突入して収納。俺は4Kの大きいテレビを間に挟んで壁に叩き付けられる。落ちてきた距離が距離だけに運動エネルギーも凄いな。


幸い、二人とも大したケガはしませんでしたっ!!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「死゛ぬ゛か゛と゛思゛っ゛た゛ん゛だ゛げ゛ど゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」



やっぱり泣いてたノワールは、震えた声と一緒に俺の胸にポコポコとハンマーブローを連打してくる。それを宥める様に苦笑いしながら俺は、まぁーまぁーっと言った感じで・・・・・



「いやまぁ~悪かったよ。流石にいきなり突き落とすのは・・・・・悪かったってっ!だからガバメントの柄で殴るのヤメロォォォォ!!」



途中でハンマーブローからガバメントを振り回し始めたノワールから逃げ回ること数分。落ち着きを取り戻しつつあるノワールに話しかける。



「・・・で、どうする。結局操舵室から見取り図どころか、えげつない魔術師が出てきて逃げ出して来たけど」



「ああ、それなら問題ないよ?」



割と真剣な顔をする俺とは違ってケロっとした様子のノワール。え、ちょっと・・・ナニ。俺だけ真剣な顔してバカみたいじゃないですかヤダぁ~



「愛人くんが見惚れてる時、操作盤を壁に貼られた見取り図をちゃんと覚えたから。愛人くんがあの女に見惚れてる時に・・・・」



操作盤に貼られてたのか、相手の方にばかり意識がいってたから気付かなかったな。見惚れた事は否定しないけど。


ジト目を向けながら地味にガバメントの銃口をチラチラ見せてくるノワールをスルーして



「そりゃすごいな、あの状況で見取り図を見つけて更にそれを短時間で頭に叩き込んだのか」



「どこぞの誰かさんと違って私、頭イイからねぇ~!・・・・篝から聞いたよ!英語ペラペラ喋れるのにこの前のテスト32点しか取れなかったんだってねぇ~プークスクス」



「仕方ねぇだろ!!リスニングと単語が少なかったんだから。あと32点馬鹿にすんなよっ!超高得点じゃねぇか。俺にとっちゃ30点以上は100点同様なんだよ」



「それはそれでどうかと思うけど・・・・」



更に冷ややかな視線で見つめてくるノワールをまたまたスルーして、再び廊下に続く扉を開ける俺。なんかトラウマになりつつあるレッドカーペットを見て思わず苦笑いがこぼれる。今日程レッドカーペットを踏む日はきっともう来ないだろう。いや、来ないで下さい。




客室を通り、大広間より下の階までやってきた。客船で言うお腹辺りの場所だ。ここは、主に娯楽施設が固まってる。上にもプールやダンスホールもとい大広間があるがそれとは非にならない数の施設がここにはある。


子供用のゲームセンターや多くの遊具が集まった室内公園の様な物。もちろん大人も楽しめる様にお酒を楽しむバーやちょっとエッチなお姉さんがイイコトするパブだったり・・・特に一番の目玉は、2層の半分を占める巨大カジノだろう。


ポーカーやブラックジャックといったテーブルゲームは当然、スロットなどのゲームマシーンも豊富に揃えられてある。ただ、賭けに使うチップ一枚が最低でも10万からしかないので庶民には手が出せない、セレブらしいカジノだ。元々賭博に興味は無いのであまり魅力を感じる事は無いが、ギャンブラーからしたら楽園の様なものだろう。



「それで・・・どうして巨大カジノに向かってるんだ?」



高級ホテルの廊下の様な船内にやっぱりGのように現れるターバン野郎の相手をしながら進む俺達。実は船のエンジンやら大事な機械類やらが詰まった下の階に続く階段は見つけたのだが、何故かそれをスルーしてカジノに向かっているのだ。



「カジノにある船員用通路から下に行った方が効率が良いんだよ。さっきの階段から下に降りたら、道がごちゃごちゃしてるうえに、ポイントから遠いしね」



通路の角にカバーしてその先にいる敵に向けて発砲する。ライフルのマガジン、手や太ももといった所を狙い撃ち、無力化していく。俺は元々殺さない様に心掛けて戦っているが、デルタフォースは問答無用で敵を殺していく・・・という認識だった。実際イギリスで巻き込まれたショッピングモールでの銃撃戦はもちろん、逃走車両を追いかけた時も問答無用で射殺していたからな。


だが、ここまでノワールは、命を奪う事が容易い状況でも敢えて殺さず無力化していってる。俺と同じように銃や腕、脚といった部位を狙い撃ったり、ちょっと痛々しいが骨をポッキリ折っちゃったり・・・・たまに無力化した後、何か確認するように俺の方をチラチラ見て来るが俺には意図が分からない。まぁ、殺さないでくれるなら俺としても助かるので何も言わないが・・・・。


かくかくしかじかして辿り着ついた巨大カジノ。わかっちゃいたが実際に見ると尋常じゃない広さだという事が分かる。


虹色のライトで照らされたポールダンスのステージを中心にして囲む様にテーブル、スロットが並んでいる。中央に注目を集める為か、照明は少なめ。テーブルの上にもライトがあるが、手動なのか明かりは付いてない。虹色のライトとスロットが発する光だけがこの巨大カジノを照らしている。



「初めてこういう所に来たけど・・・・予想以上に凄い場所だな」



壁やテーブルの装飾、道具の配置、これらがカジノという賭場を一種の芸術にしているから凄い。スロットのカラフルな光と、巨大カジノに流れるクラシックがなんとも言えないハーモニーを奏でていて悪くない。



「ポール・・・懐かしいなぁ~」



虹色の光に照らされた一本の棒を見て、懐かしむ様に見つめるノワール。



「もしかしてノワール出来ちゃったりするのか?ポールダンス」



「少しだけね。まだ入隊したての時、隊長に良く連れて行かれたバーで良く見てたからその影響でちょこっと練習したり・・・」



えへへ~っと頬を緩ませながら昔話を話すその姿は、何処か楽しそうだ。そういえば、俺も0課に入ったばかりの時は、良く篝や咲夜さん、魂魄のおっちゃんに飯を食べに行くって居酒屋に連れていかれたっけな。もちろん酒を飲めない俺は適当につまみやらジュースを飲んで雑談や愚痴を聞いて、帰りには酔っ払った二人を俺と咲夜さんで連れて帰る事がしょっちゅうあった。



「それはちょっと見てみたい気がするけど・・・・やめておこう。その格好でやられると色々不味いからな」



美少女軍人のノワールさんがやるポールダンスに興味はあったが、流石にそのドレス姿でやられると本人はもちろん、見てるこっちが恥ずかしくなるからな。



「それじゃーまたの機会に・・・だねっ!」



そこら辺で話を切り上げた俺達は、薄暗いカジノの中心に進む。中央にあるポールの更に向こうにあるバー。そこに船員用の通路があるらしいのでそれを目指して歩みを進める。


だが、やっぱりそう簡単には行かないのがこの世の中。ゲームで明らかに一杯アイテムが落ちてたり、無駄に広い場所があるとボスらしきものが現れるのは現実でも一緒らしい。


スロットを潜り抜け、テーブル近くまでやってきたところで俺達と同じように反対側から来たであろう男が視界に入る。


俺達が視界に捕らえるのと同時にP226、P90の銃口がその男に向けられる。真っ黒なコートに包まれた2mを超える高身長の男、その怪しいコートの上からでも分かる程強靭な肉体に、尋常じゃない殺気からして一般人じゃないのは確かだ。



銃口を向けられているにも関わらず、歩みを止めずに近づいてくるその男から距離をとる様にじりじりと後退する俺達。フードを被っていて顔は分からないが、そこから感じる視線は完璧に俺達を捉えてるのが本能的に分かる。


重圧あるオーラを放ちながら近づいてくるソイツは、バイオ〇ザード2に出てくるタイラントそのものだ。

きっと顔色が悪かったら実物レベルになるんじゃないだろうか。



タイラントモドキは、ポールのあるステージ上に立った所で歩みを止めると、右ひじを折り曲げる。小学校の頃よくやった列車ごっこの片手バージョンが連想されるが、流石にこの状況で汽車ぽっぽぉ~なんて言わないだろうから何かあるんだろう。


その行動に警戒心MAXの状態で見守っていると・・・・_パカっ


ロボットの様に手首から先が直角に曲がったと思うと、腕の断面から三つの銃口が現れる。それは_キュィィィンっと音を上げてゆっくりと回転して行くと徐々に早くなって・・・・



「____危ないっ!!」



俺を押し倒す様に飛びついて来たノワール。仰向けに倒れる俺にがっちりと抱き着く様にしてテーブルの陰に隠れるのと同時に_____ババババババババババッ!


あまりの連射速度に一発一発の銃声が聞き取れない。


_M134 ミニガン


6つのバレルが高速回転して放たれる銃弾は、1秒に100発撃ちだすバカげた連射速度を誇るが、あの男が使っているのは、ミニガンを更にミニにした改造版。


腕と同化している奴のミニガンのバレルは三つ。三角形を描いて配置されたそれは、数が半分になっても変わらず高速回転して1発1発が聞き取れない程の連射で俺達に銃弾の雨を浴びせる。


人に撃ったら痛みを感じる前に死ぬとまで言われてる機関銃。本来戦闘ヘリに付けるそれは、人間が持ち歩くには重すぎる代物。仮に持つことが叶っても消費する弾薬は尋常じゃないので弾持ちが非常に悪い。


本来1mを超える銃身は、奴の腕に収まる程度までカットされている。隠れてるテーブルを貫通する事が出来ない辺り、連射速度を保つために威力と貫通力を落としてるんだろう。威力が落ちようとも、この速さで撃たれてしまうとあまり関係ないので大したデメリットにもなってないけど。


いわば室内戦闘用に改造されたミニガンといったそれに、驚きを隠せないでいると・・・・



「しっかりしてっ!愛人くん!」



「__っ!」



轟く銃声よりもハッキリと耳に届いたノワール言葉に引き戻される。なんか警戒してるのにいつも斜め上の出来事ばかり起きて思考停止するな・・・さっきだってノワールがいなかったらハチの巣になってたかもだし。



「悪い。リアルターミネーターにちょっと感動してた」



「何だかんだ言っていつも余裕あるよね・・・君」



このバカげた銃撃さえなければ、テーブの下で男女がくんずほぐれつしてる大人のお遊戯っぽく見えなくもない状態に若干心臓の鼓動が早くなる。


互いの息が掛るほど近い顔。可能な限り姿勢低くするために限界までくっ付いているノワール。それによって押し付けられる水枕の様な美乳。


今日一日体験したラッキースケベがゴミレベルに感じる圧倒的おっぱい。むんにゅりと音を立てんばかりに押し付けられた胸に、そこらの女優が裸足で逃げ出すレベルに整った顔が目と鼻の先まで近づいているこの状況に・・・思わず・・・・



「・・・・?・・・・っ!!・・・・ちょ、ちょっと!愛人くんっ当たってるっ!!」



徐々に変化していった妙な感触に気付いたノワールは、さっきまで緊張感のある顔を真っ赤に染め上げ、あわあわといった様子で訴えかける。



「し、仕方ないだろ!こんな女の子の盛り合わせみたいな状況で勃たない方がおかしいだろっ!」



「だ、だからって状況を考えてよぉぉぉ!!」



「生理現象だから仕方ないねぇだろぉぉぉぉ!!」



押し付けられる美乳に眼前に迫る美少女。甘酸っぱいブルーベルの様な香りが鼻孔を擽り、もっちりとした太ももが俺の体に絡みつく。この状態で興奮するなと言う方が無茶というものだ。


今まで必死に抑えてきた物が爆発した様にビンビンなテントが股関に張られる。これだけならまだよかった。いや良くないけど・・・・。


最悪なのは、俺のピンピンに張ったテントがノワールの股にジャストミートしてしまっている事だ。これのせいでテントの先から感じるぷにぷにした感じの感触に変な妄想が加速する。


ちょっと動くと「・・・っん」なんて可愛らしい声を目を瞑ってあげちゃうもんだからテントが更に張っちゃうんですよ。


そんなご褒美の様な罰ゲームの様な時間も終わりが来る。


銃弾の雨がピタリと止んだのだ。弾の節約の為か、それとも様子見か分からないが、何とかこの状況から抜け出せそうな間が生まれた。


テーブルから頭を出さない様に覆いかぶさっていたノワールは、ゆっくりと離れてお互い膝立ちの状態に持っていく事が出来た。未だ元気なムスコを収めようと素数を脳内で数える俺に、顔が真っ赤なノワールが囁く様に耳元で・・・・。



「そ、その・・・収まるものが収まったらでいいから、あのミニガンどうにかしてくれないかな?」



俺のミニガン問題が解決したら今度は、向こうのミニガンもどうにかしてくれとのご要望。片手で股間を抑えつつ・・・



「そ、それは構わんけど・・・その後はどうするつもりだ」



「私がどうにかする・・・・・だからお願いね?」



そう言い残すと、まだ赤い顔で可愛くウィンクして隣のテーブルへと移っていく。中腰の状態でも異様な速さで移動するノワールに、中央で陣取るタイラントモドキはミニガンを発射するが、直ぐにテーブルに辿り着くノワールに当たった様子はない。


若干収まりつつあるムスコを確認した俺は、意識を切り替える。


ミニガンさえどうにかすれば、あとはノワールがどうにかしてくれる。どうにか出来るのか・・・という心配が無いと言えば嘘になるが、ノワールが自分で言ったのだ、「私がどうにかする」・・・・と。仲間がそう言うなら、信じるしか無いだろう。それがチームってもんだ。


ノワールの為にも俺は俺でやるべきことをやる。


とはいえ、アレをどうにかするのは簡単な事じゃない。ノワールの言うどうにかしてって言うのは、俺が散々やってきた精密射撃を見ての頼みだろう。どうにかしてあのミニガンの銃口に銃弾を叩き込む。


それは簡単そうでかなり難しい。


まず正面からの打ち合いじゃ絶対に勝てない。俺が一発撃つ間にあのミニガンは何十発も撃ちだすのだ。

バレルと同じ数を撃つ頃には、俺は何百という数の銃弾を食らう事になる。


なら、飛んでくる銃弾をそのまま撃ち返してしまえばいいじゃないか・・・そう考えるだろうが、それも無理だ。


なぜなら、P226の口径じゃミニガンの7.62㎜弾に押し負けるからだ。同じ口径なら真正面から当てても相殺や反射が出来るが、9㎜では軌道を逸らすのが限界だ。


それに、発射レートが違いすぎるのも問題の一つだ。


仮に狙い撃てるとしても高速回転するバレルに銃弾を撃ち込むのは、()()()には出来ない。そう判断した俺は・・・・一気に駆け出した。


幸い男はノワールを警戒して俺に背中を向けている。その隙に一気に距離を詰める。ミニガンは圧倒的連射速度を誇るが、それを実現する為に一秒にも満たないが予備動作がある。


たった10mの距離が何キロにも感じるなか、徐々に振り返る男・・・・その腕から姿を見せるミニガンの銃口は既に火が吹いてる。バレルが少ない分、予備動作に掛かる回転時間も短くなってるから引き金を引いてからのラグがほぼ無いのか!


予想外の事に焦るが、今更引き返そうものならミンチされて終わりだ。このまま突き進むしかない。一応ダメ元でバレルに狙いを付けて発砲するが___キンッっと乾いた金属音を上げるだけで銃身に対したダメージを与えられた感じは無い。


___ババババババババババッ!



銃口から射出される銃弾は、あまりの速さでレーザにも見えるそれを男は、腕を横に振るって薙ぎ払う。


着弾点に土煙を上げながら迫りくるそれを俺は、カーペットの上をスライディングする様にして身を屈めると・・・・奇跡的に鉄で紡がれたレーザーは、頭上スレスレを通過して回避に成功する。


紙一重という言葉は、まさに今この瞬間の事を言うんだろう。実際つむじ辺りの髪の毛が数本消えた気がする。


薙ぎ払った腕で再び照準を合わせる頃には、もう俺と男は眼前の距離まで近づいている。渾身の蹴りを腕のミニガンに叩き込むと、腕が跳ね上がる様にして持ち上げられ、3つのバレルは「へ」の字に折り曲がる。


ミニガンを完全に使えなくした事に内心ガッツポーズ・・・・だが、威力ある攻撃にはそれなりの反動があるもので・・・・俺の本気の蹴り上げは、男のカウンターを受けるには十分すぎる隙が生まれた。


猛烈な勢いで振るわれた左フックが体を捉えると俺は、砲弾の様に吹き飛ぶ。テーブルを超え、無数に並ぶスロットに叩き付けられる。


無数のバネやネジ、コインをまき散らして凹んだスロットに体が埋め込まれる。脇腹から来る激痛と頭を叩き付けた事による脳震盪で体が動かない。


折り曲がったミニガンを分離(パージ)して腕を元通りにすると、追い打ちを掛けようと一歩踏み出す。その瞬間、何かを感じたのだろう。体を捻る様にして後ろから迫ってきたそれを回避する。


ロケットの様なノワールの飛び蹴りは、男の危機回避能力で避けられたが、そんなのお構いなしといった様子でボクシングに近い構えを取るその後ろ姿は、実に頼もしかった。



「・・・・・頼まれ事はやったんだから・・・後は・・・・頼むぞ」



どんどん遠のく意識の中、何とか出した言葉。それが彼女に届いたのか分からないが、少し振り返って見つめてくるその瞳は「後はまかせてっ!」と雄弁に物語っていた。


それに思わず頬を緩めた俺は、その光景を最後に意識を切れる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




愛人くんが落ちるその瞬間を見届けた私は、再び視線を目の前の男に移す。


私の為に体を張ってくれた彼の為にも、この男には負けられない。



「銃を使うことを推奨しよう。生憎俺に女をなぶり殺す趣味は無いのでな」



「あら、随分と紳士的なんだね・・・・でも、気にしなくていいよ」



初めて口を開いたと思ったらそんな事を言ってくる男の言葉に持ち上げる両拳に力が入る。


半身になって左手は顔から30㎝程離れた位置に、右手は顎に密着するかしないかの位置で固定し、一歩踏み出した左足は地面全体を踏みしめる様にベタ足で、逆に右足は踵を付けず、つま先で立つようにする。


元々肉弾戦でケリを付けるつもりだったので事前に邪魔になるハイヒールは脱ぎ捨てた。


足の裏でしっかりとカーペットの感触を感じながらその場で小さく_トントンと跳ねてリズムを取る。



「銃を使っちゃうとあなたを殺しちゃうかもしれない・・・・そうすると彼を悲しませちゃうからね」



「・・・・ほぉ?」



デルタフォースでは、歯向かう者全てが敵でそれを殺す事に何も感じなかった。そう教え込まれて来たからってのもあるけど、ある出来事を境に判断基準が上がった。


殺意を向ける敵は全て排除する。それがデルタフォースのやり方、でも今は違う。


私と愛人くんの二人だけのチーム。彼が「不殺」を貫くなら、私はそれに合わせるだけ・・・・・殺してしまうと愛人くんに嫌われるかもしれないし、彼の嫌がる事はしたくない。


でも、愛人くんの「不殺」は、実戦においてかなり大きいハンデになる。なぜなら、どんな強敵が相手でも手加減しなければならないから。


本来手加減というのは実力差があって初めて出来る。それにも関わらず、彼の場合自分と同等、またはそれ以上の実力を持った相手にも手を抜く必要がある。


RPGで例えれば常にデバフが掛った状態で戦っているのと同じなのだ。


もし愛人くんの「不殺」という枷が外れた時、どれ程の実力を持った化け物になるのか・・・・私には想像も出来ない。



未だ構えを取らない男にちょっとイラっと来た私は、姿勢を低くして一気に加速して距離を詰める。あっさりと懐に入れた私は、距離を詰める時の勢いをそのまま乗せて右フック。


_ゴスッっと鈍い音と共に私の拳が男の横っ腹にめり込む。私の一撃に驚きと苦痛で顔を歪ませる。


男の横っ腹に突き刺さる右腕を引くのと同時に回転する様に体を捩じり、右手による裏拳が男の顔面に炸裂するのと同時に_バッッツ!っと乾いた破裂音が鳴り響く。腕一本分の間合いを必要とする裏拳も、相手が高身長であることでゼロ距離でも問題なく放つことが出来た。


流石に2mを超える巨体にも響いたのか、大きく後退する。裏拳の衝撃によって顔を覆い隠していたフードが剝がれる。


鼻血を流す厳つい顔は、アフリカ特有の焼けた様な黒い肌色。髪掴みを警戒してか、髪は中央を残して剃られている。細い目から覗く鋭い瞳は、操舵室で見た少女と同じ鮮血の様に赤黒い。



「・・・・先程の甘んじた発言を撤回しよう」



そう言って今度こそちゃんと構えを取る男。相手の懐に飛び込んでガツガツ攻めるインファイターの私とは違い、腕のリーチを生かしたヒット&アウェーのアウトボクシングのスタイル。男の巨体にあったスタイルだ。



「__それじゃぁ、第二ラウンドといこっか!」



巨大カジノに流れるクラシックのシンバルが、二人の戦いのゴングとなった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



_________時は少し遡る。




割れた窓から血生臭い室内に容赦なく吹き付ける冬の風が肌を撫でる。冷たい風に長い黒髪がたなびく中で取り出した無線機。



「_____目標の(ブツ)は手に入れたか__黒き白鳥(ブラック・スワン)



無線機から聞こえる男の声は、ロボットがプログラム通りに話しているようで、声に感情が籠っていない。相変わらずの口調に苦笑いしながら側面にある送信ボタンを押しながらマイクに口を近づける。



「ええ。計画とは大分違ったけれど・・・・・。総理大臣と大統領による会議資料、一体何の資料なのかしら?」



手に取ったUSBメモリーを眺めながらふと思った疑問を問いかける。私の任務は、大統領室にあるPCから今回の会談による資料の奪取なのだが、その内容に関する情報は全く知らされていない。



「お前にそれを知る権利は無い・・・・・(ブツ)を回収できたのなら何でもいい。今から目標のポイントに迎えを寄越す」



冷淡にそう告げられる。私は今回もいつも通り奪ってくる物の内容すら教えてもらえず任務を行う。自分が何の為に奪い、破壊するのか、いつも分からない。それでも、一つだけ分かることがある。


それは、私の行いが国の為になること。それだけで私が動くには十分な理由だ。


いつもの様に繰り返される言葉にため息をつきながら・・・・



「・・・・・回収は少し待って。ここに来るまでに顔を見られたからその後始末をする。今は、フランクが向かってるけど、多分彼一人じゃ身が重いだろうから」



脳裏に過るのは、目つきの悪いスーツ姿の男と深藍色のドレスを纏った可愛らしい女の子。特に私の銃撃を同じく銃撃で相殺して見せたあの男は、フランクには身が重いだろう。


あの時見せた銃撃に私自身興味があるのもあるけれども・・・・彼の相手は、私が勤めよう。最悪二人同時に相手する事になるかもしれないがその時はその時で・・・。



「・・・・30分だ。それまでに排除して指定のポイントに向かえ」



その言葉を最後にプツリと切れた無線機。それを血まみれの床に放り投げる様に捨てて凹んだ鉄扉に向けて腕をかざす。


次の瞬間、黒い魔法陣が展開されるのと同時に槍の様な突風が炸裂して扉は大きく吹き飛ぶ。扉の先にある階段を降りていくと、レッドカーペットが敷かれた長い廊下に辿り着く。


警報が鳴り響く廊下で一人少女が艶やかに微笑んだ。



「貴方を眠らせるのは、この私よ・・・・お巡りさん」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



冷たい感触が頬に伝わり、徐々に鮮明になっていく意識。それと同時に体にまとわりつく痛みもまた強くなっていく。確か俺は、あのタイラントモドキの攻撃でスロットに叩き付けられて意識を失った所まで覚えてる。


____ッ・・・・痛ってぇ


今の状況に心中で毒づきながら重たい瞼を持ち上げる。視界に移るのは大小様々な大きさのパイプが行きかう天井・・・・鉄臭い匂いが鼻孔を擽る。


___あれ?俺は、カジノにいたハズ・・・・ノワールっ!



俺が最後に見た光景・・・それは、あの男と対峙するノワールの姿。彼女は無事なのか、そう思ったのと同時に震える様に飛び起きる。



「____ノワールッ!!」



「はぃいいいいいい!?」



横たわる俺に背を向けて何かを弄る様に地面を見つめていたノワールは、俺が叫ぶ様に飛び起きるとそれに反応する様にビクッっと体を震わせて変な声を上げる。



「い、いきなり大きな声を出さないでくれるかなぁ!?今ので手元が狂って雷管を刺激しちゃったら二人まとめて吹き飛ぶ所だったんだからねっ!!」



「わ、悪い・・・・まさか解体してるとは思ってなかったから」



み空色の瞳を潤ませながらギャーギャー叫ぶノワールに視線を移すが、その体に傷らしい傷は見当たらない。



「そういや、体の方は大丈夫なのか?」



「え?・・・ああ。うんっ!愛人くんが頑張ってくれたからね、とても戦いやすかったよ!」



満面の笑みを浮かべてサムズアップするノワール。なんと、あの巨体相手にノーダメージで切り抜けたらしい。この人マジで何者だ?・・・・そんな貴社な体で良くもまぁーあんなタイラントモドキと殴り合って勝てたもんだ。


もしノワールと素手だけの戦いをしたのなら、きっと俺はボッコボコのギッタンギタンにされるだろうから怒らせない様にしよう。



ある程度落ち着いたところで状況報告を聞くと、タイラントモドキをボコボコにした後、気絶してる俺を連れて船員用通路を通って船底に最も近い3層へと向かった。


今いるのは燃料タンクの隣にある第一発電機室という所らしい。何故なら、ノワールの言う船を沈める為の爆破ポイントの一つがここなんだと。


その解体作業をしていた所、いきなり俺が飛び起きて・・・・今に至る訳だ。



あらかた説明し終わると爆弾解体を再開したので、特にすることも無い俺は、後ろの方からその様子を見ていた。


手のひらサイズの箱の内部を、そこら辺から拝借したであろう工具を使って網のようにもじゃもじゃした内部をゆっくりとした手つきで分解していく。


解体の知識が無い俺からすると箱の中にドライバー突っ込んでる様にしか見えないが、きっと繊細な作業なのだろう。額から小さな雫の汗が流れてる。


15分程時間が経った後、ノワールは「ふぅ~」っと少し長めの息を吐くと、額の汗を腕で拭って満足したように笑う。



「これで一つ終わりっと・・・・次行こっか!」



「お疲れさん。そういや爆弾って全部でいくつあるんだ?」



工具を手に持って立ち上がり、薄暗い鉄の道を進む。正直、燃料タンクの中とか言われたら手の施しようがない・・・・なぜなら、生身で油の中を潜ろうものなら体が溶けるし、ダイビングスーツを着てたとしても酸素ボンベに繋がるレギュレーターが壊れるから宇宙服みたいな物でも着ない限りどうしようもない。


それに、油は引火するので爆発による被害は最も大きいハズだ。故に狙われやすい。俺が仕掛ける側なら間違いなく燃料タンクに仕掛けるだろう。



「さっき解体したのを除いて後5個だね・・・・解体していて分かったけど、ついさっき設置されたものだと思う。事前に設置したものなら、燃料の中に放り込むだろうけどその心配は無さそう。燃料タンクの内部に仕掛ける事が出来るのは外からしかできないからね!」


「そりゃ安心っちゃ安心だが・・・残り4個か。さっきの解体時間から計算して、大体60分だから1時間・・・それまでISISの奴らが痺れを切らして爆破しない事を祈るしかないな。」



燃料タンクの中に爆弾があって解体できないと言う心配していた事態にならなくてよかった。と言っても、あくまで最悪のケースを逃れただけで残りの爆弾を解体するのも簡単な事じゃない。


第4まである発電機室とエンジンルームに仕掛けられてると踏んだノワールの予想は見事的中した。


発電機が発する騒音と熱で蒸し暑くなった室内でも、問題なく解体を成功させるノワールの腕は、爆弾に無知な俺でも相当な物だというのが分かる。


そこら辺の知識なんて液体窒素で冷凍状態にしてどうのこうのするって位しか知らないが、かなりの腕なんだろうな。銃の扱いや対集団戦闘に格闘術、おまけに爆弾解体まで出来るとか・・・分かっちゃいたがデルタフォースは飛んだ超人の集まりだな。


ズラーっと一列に並べられた発電機の一つに設置されていた爆弾の解体を終えた俺達は、いつ爆発するか分からない恐怖に駆られながら次の爆弾へと向かった。



発電機室以上の騒音と熱気でサウナ状態になってるエンジンルームに辿り着く。うるさいわ、油臭くて止めといわんばかりの熱気。30度を超えるであろう室内に入った俺達は、ただただ憂鬱になる。


元々解体で集中していくつか汗をかいていたノワールからは、女の子特有のフェロモンがムンムン出て妙に色っぽいし、火照てってる顔がまたドキッと来ると言いますか・・・・いや、こんな事思ってる状況じゃないのは自分でも分かってるんだが、どうしてもそういう所に目や鼻が行っちゃうもんでね、伝説の女たらしの異名は伊達じゃないって事だなっ!


真剣な表情で爆弾を解体するノワールの姿を見ていると、唐突に4角形の箱から音が鳴りだした。


__ピピピピピピッ!


不思議と警戒させるそのブザー音に、顔を真っ青にしたノワールが振り返るのと同時に耳をつんざく様な爆発音が振動と共に轟く。


音からして少し先にある第4発電機室からだぞッ!


1回目の爆発から少し間をあけて・・・更に大きくなった爆発音と振動。第3発電機室かの爆発だ。それが耳に届く時には、もうノワールに手を引かれてエンジンルームから出る所だった。



「____ど、どういう事だっ!?」



「もう見切りを付けたのか分からないけど、ISISが起爆し____」



___バゴォォオオオオオンッッ



ノワールの言葉を遮る様にしてエンジンルームが爆発する。部屋を区切る壁をも破壊して迫る爆風に押し出される様にして吹き飛ぶ。体に伝わる熱風による焼けるような熱さ、人を軽々持ち上げる爆風に揉まれる様に吹き飛ばされる。


壁や床、天井に張り巡らされたパイプなどに体を打ち付けながら地面を転がる事数秒。


飛びかけた意識を意地とか気合とかその他もろもろで何とか踏ん張ってギリギリの所で繋ぎ止める。気絶とまでいかなかったものの、激しいめまいと爆発音によるキーンと鳴り響く様な耳鳴りで立ち上がれずにいると、所々から金属の軋む音や、水が噴き出る様に船内に流れ始める。


タイラントモドキに殴られた時に感じた脇腹の痛みが、ここに来て更に強力な物になる。



___クソッ!ヒビで済んでたものがさっきの爆発でポッキリ折れやがったッ!



動く度に激痛が走る脇腹を抑えながらズルズルと立ち上がる。辺りは爆発で焦げた様に所々黒く変色している。天井に張り巡らされたパイプは、ほとんどがへし折れたり、穴が開いたりでプシューっと音を上げて白い煙の様な物が噴き出している。


たった数mm程度であるが、床全体に海水が行き渡る。あの爆発で一気に吹き飛ばすのでは無く、船体にダメージを与えてある程度時間を掛けて沈没させる為のものだったのだ。


本来ならもう3層が沈んでもおかしくない浸水速度のハズだったのだろうが、事前にノワールが爆弾を解体してくれた事もあって、この浸水速度で済んでるのだろう。このスピードなら今から救命ボートを準備しても船内にいる人全員を乗せて脱出する事も十分可能だろう。俺達も余裕とまでいかないが、脱出は難しくないはずだ。


所在不明の爆弾解除という任務は失敗したが、大統領達の安全は篝達が何とかしてくれるだろう。後はここから上に目指して歩みを進めるだけだッ!



「___っ・・・・全く、今日はとことんツイてないな。おいノワール、さっさとここから脱出するぞ」



揺ら揺らと立ち上がった俺は、壁際で横たわるノワールに近づいて体を起こす様に肩を掴む・・・・が。



「・・・・ッ!!おいっ!しっかりしろノワール!!」



首に力が入っておらず、頭はダラーンと力無く垂れさがっている。良く見ると後頭部から出血してる。幸い息はしてるが、出血の量からしてちゃんとした治療を受けないと後遺症どころか、命の危険もある。



___死ぬにはまだ早いぞノワール・・・・あの「road of the (宝石の道)jewel」を一緒に歩くっていう約束は、守れそうにないが、その埋め合わせとしてアレに負けないくらい綺麗な場所が日本には沢山あるんだ。この無茶難問な任務が終わる頃にはがっつり臨時収入と休みを貰って日本三大夜景の一つ「100万ドルの夜景」でも見せてやるさ。むしろあのセレブ専門店ロードのあそこよりお財布に優しそうだし、そっちの方が助かる。



半ば強引におぶって 来た道を戻る。先の方にある階段は、爆発による倒壊で進めそうにないので巨大カジノに通じる船員用通路を通って上に向かう。少し遠回りになるが仕方ない。


本来4機の発電機を稼働させて船に電力を供給していたが爆破によって半分が破壊された今、半分の発電機で船全体に電力を送ってる状況だ。そのせいか、明かりの点滅が激しい。場所によっては全く明かりが点かない場所もあり、元々薄暗かった廊下が更に暗くなる。


しかも爆発によって足元が不安定になっていて何度もつまずいて転びそうになる。


それでも前に進み続ける事数分。ようやくカジノに繋がる通路が見えてきた所で、それは現れた。


俺の足音とは別に聞こえてくる_カン_カンっと金属の上を歩く音が耳に入る。思わず足を止めた俺は、音のなる方を凝視する。


薄暗い鉄骨が入り組む廊下の先から現れたのは・・・・二人の男女。



「___本当にタイミングが悪いったりゃありゃしない」



漆黒のドレスを身に纏った美少女と、高身長の黒人。俺にとって、絶望を具現化したようなその姿に大きなため息が漏れた。






いかがだったでしょうか?


お見苦しい所も多々あったと思われますが、最後までご愛読ありがとうございます!


少々強引な終わり方になってしまいましたがそこは文字数に文句言って下さい(まとめられない自分が悪い)


前書きの方でも書いた通り、後編は今現在制作中なのでもうしばらくお待ちください

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― 新着の感想 ―
[一言] もし愛人くんの「不殺」という枷が外れた時、どれ程の実力を持った化け物になるのか・・・・私には想像も出来ない。 なお不殺をやめただけで飽きたらず、常時オーバーロードと新能力のネクロマンスとか…
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