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第1章 4節「最初の1歩」

「どうしよう・・・・私のせいだ・・・」


霊夢とは幼稚園からの付き合いなので、コイツがどんな人間なのか俺にはわかる。

博麗霊夢という人間は、俺とは真逆の人間。


口数が少なく、友達と言える人間もごく僅かな俺に比べ、霊夢は誰とでも話す事ができ、常に笑顔を絶やさない。そんな人間の元には自然と人が集まっていくもので、友人は数知れず。人の前に立つ事も少なくなかった。


一言で言ってしまえば、学校に一人はいる委員長タイプなのだ。


そして、こういう奴程、失敗に弱い。


常に勝ち組の世界にいた霊夢は、これと言った大きな壁にぶつかる事なく生きてきた。だからこそ、失敗した時の起き上がり方が分からない。


失敗、後悔ばかりの人生で生きてきた俺は、それだけ起き上がり方を知ってる。だが、霊夢はそうも行かない。しかも、その失敗の原因が自分で、命に掛かるわる大きなものなのだから尚更だ。


卓也の逃走により、俺達は命と同じ価値と言っても過言ではないリュックを奪われた。

中には食料や衣類、日用品はもちろん。武器も入っているのだ。


その全てが奪われた今、俺達は文字通りの丸裸状態。


当然、責任感のある霊夢が何も感じないはずがない。


頭を抱え込んで俯く霊夢は、死人の様に顔を真っ白にする。きっと霊夢の頭の中には、自分がこの事態を引き起こした責任感と、今後どうすればいいのか・・・と言った絶望感でいっぱいだろう。


そんな霊夢とは裏腹に、俺は冷静・・・とまでいかないが、こうなる可能性を考えていた事もあってそれなりに落ち着いてる。


何はともあれ、まずは霊夢を落ち着かせることから始めよう。


「そんなに落ち込むな霊夢」


「だって!!・・・・私のせいで盗られたのよ?愛人があれだけ忠告してくれてたのに・・・」


確かに俺は、卓也を入れる事に反対だった。幼馴染同士の俺達とは違い、全く信用できない他人を一時的にとは言え、入れる事を。理由は至って普通。何をされるか分からないからだ。


だが霊夢は、それを了承して卓也を入れる事にした。信用できないからキッパリ切り離す俺とは違い、信用する為に・・・入れた。


「お前は自分の良心に従っただけで、何も悪くない。悪いのは全てアイツなんだよ」


「・・・・・でも・・・」


目頭に涙を浮かべ、頬を赤くする霊夢は、それでも納得できないと言った表情だ。


「間違うのはいい、大事なのはその間違いを繰り返さない事」


「・・・ッ!」


俺は中学時代、霊夢の家である神社で一緒に期末テストの勉強を教えて貰っていた時に掛けられた言葉を、今度は俺が霊夢に掛けてあげる。


「これは霊夢。お前が言った事だろ?・・・・・霊夢がどう思ってるか分からないけど、俺は早めにこの経験が出来て良かったと思ってる。」


「____え?」


洞窟の入り口に向かって歩き、雲一つない真っ青な空を見上げる。俯いていた霊夢は顔を上げ、不思議そうな顔を浮かべてる。


「卓也を入れる入れないでの討論では、口では割り切ったような事を言ってたけど、イマイチ割り切れてなかったんだ。今の今までは、俺も追い出す事には抵抗があったからさ。でも、今は違う。

俺と霊夢、俺達二人以外は敵。いい勉強になったろ?」


俺も霊夢も、意思を固める為のいい経験になった。


「・・・そうね。私達以外、誰も信用できない。今回の事で十分理解出来たわ。そして、今大事なのは、こうしてウジウジする事じゃなくて、次どう行動するべきか考える事・・・」


涙を指で払った霊夢が立ち上がる。その顔には、先程の絶望の色はもう無い。


「ああ。その通りだ。そして、やる事はもう決まってる」


そう言って指さした先にあるのは、昨日の大雨で緩くなった地面にくっきりと残った足跡。


「行くぞ。俺達を裏切った事を後悔させてやろうッ!」




                   ・・・・・・・


雨で緩くなった事と、卓也自身が肥満体型で重量があったお陰で、山道にはくっきりと足跡が残っていた。


俺達はその跡を辿るように走っていく。今も所々ぬかるんでる地面に気を付けながら、前へと進む。


「彼がおデブさんだった事が幸いね。そこそこ時間が経ってるだろうけど入口からここまではっきりと残ってる。でもどうして私達を殺さなかったのかしら?」


霊夢の言う通り、眠っていた俺達を殺す事は簡単だったハズだ。卓也の武器は何か分からないが、それを使うなりなんなりして殺せば、相手を6人まで減らせた。それにも関わらず、奴は俺達を殺さずに立ち去った。


「殺す勇気が無かったのか、荷物さえ手に入れれば後は勝手に死ぬと思ったのか・・・そのどちらかだろうな」


「・・・・それで、卓也を見つけたらどうするの?私達は武器の一つも持ってない。それに対して卓也は3人分の武器を持ってるのよ?」


「・・・・いや、2つだけだ。卓也自身の武器と、霊夢の武器。まだ言ってなかったけど、俺は何も武器を持ってない」


「はぁ?・・・・運がいいのか、悪いのか分からないわね」


もし俺が武器を持っていたとすれば、卓也は3つの武器を使用できる事になっていた訳だから、俺が何も持っていなかった事は不幸中の幸いと見るべきだろう。


「そう言えば、霊夢の武器って何なんだ?」


「私のは弓よ。弓って言っても折り畳み式で、矢は8本」


「弓か・・・」


元々神社で弓道をしてる霊夢なら、扱えない事もない武器だ。逆に、経験のない人間が使うには気が引ける物でもあるから、もし敵対した時に使うのは、卓也自身の武器だろうな。


そして、問題はその卓也の武器が、あの廃墟にいたヤンキーの様な遠距離武器か、そうでないか。


拳銃とまでいかずとも、遠距離で攻撃できる武器を持っているとしたら、この戦いは絶望的だ。


何も持っていない、拳一つの俺達に勝ち目はない。仮に近接武器だとしても勝算は五分五分と言った所だが・・・。


足跡を辿る事数分、泥が一方向に延ばされているのを見つける。

そこは斜面になっていて、先程の山道に比べて狭い。大股一歩とちょっと程の広さしかない上に、大雨が重なって土が柔らかくなってる。


「ねぇー・・・・これって・・・・」


伸びた泥を見た霊夢は、俺と同じ事を思ったらしく・・・・


「ああ。多分霊夢が思ってる通りだろうな。ここからの足跡が無いみたいだし、この斜面を降りた・・・っていうより滑り落ちたって方が正しいか」


伸びた泥は斜面の方を向いていて、山道には足跡が残っていない。

となると、卓也はこの斜面を降りた事になる。簡単に斜面とは言っても、それなりにキツイ角度なので気を付けて降りなければ麓まで滑り落ちそうだ。


それから俺達は、所々生えている木を使って地道に斜面を降りていく。途中で細い木が何本か折れてるのを見つける。


予想通り、卓也は俺達の様に丁寧に降りてる訳ではなく、滑り落ちたようだ。それでも、そこらの木々が滑り止めになって何処かで止まっただろうから、麓まで滑ったって事は無さそうだ。




                     ・・・・・・




しばらくすると、さっきの道よりも更に狭い道を見つける。その近くにあった太い木の根元は、上の方で見つけた様に泥が伸びている。その泥が木の方に向かって伸びている所からして、この木がストッパーになったのだろう。その証に、すぐ横にはさっきまで辿っていた足跡が残っている。


その足跡を辿っていき・・・・・奴を、見つけた。


肥満体型の体に張り付いたシャツは泥だらけで、枝か何かで付いたであろう無数のかすり傷。3つのリュックを背負い、1メートル程の棒を杖替わりにして歩いているソイツは、俺達の荷物を奪って逃げだした卓也で間違いない。


それを理解した瞬間、俺の胸の内に怒りの感情が渦巻く。今すぐにでも殴りかかってやりたい。

だが、奴の装備が分からない以上、殴り込みに行っても返り討ちに合う可能性が高い。まずは、卓也自身の装備が何なのか、それを見極める。


「霊夢はここで待っていてくれ。俺一人の方がやりやすい」


「わ、わかったわ。私が一緒に居ても足を引っ張りそうだし。でも約束しなさい」


いつになく真剣な表情で見つめる霊夢。


「死ぬんじゃないわよ?今アンタに死なれたら、この先色々困るんだから」


「もっとこう・・・あるだろ!?あなたが死んだら私!!・・・とかぁ~。愛人がいなきゃ私生きていけない!!とかさぁ~」


「な~んでそんなドラマみたいな事言わなきゃならないのよ。アニメ見すぎだ。ばぁーか!」


体をクネクネさせ、女声で言う俺を、ジト目で罵倒する霊夢。アニメの世界だけですかね、そういう事言ってくれるマイエンジェルは・・・。


「ちぇ・・・ホント可愛くない奴だな」


そう言って卓也の後を追う様にして細道を進もうとした時、顔を見る事は出来なかったが、何処か悲しそうに霊夢がボソっと呟いた。


「まぁ・・・・実際愛人がいなきゃ生きていけないってのは正しいけどさ・・・」


え?・・・それって恋とか好きとかそんなラブリーな感じの意味でですか?

それとも殺し合いしてるこの状況だからって事ですか?


まぁー多分後者でしょうね。丸裸状態だから、俺が荷物の奪還に失敗すれば、食料がないから二人仲良く餓死する訳だから。そもそも俺が生きてるかすら危ういけど。


少し複雑な心境で卓也の後を追う様に歩みを進めた。



                    ・・・・・・





カーブを描く様になっている細道を上手く使い、卓也が見えなくなるギリギリのラインで追跡する。卓也が後ろを振り返る度に心臓が飛び跳ねそうになるが、今の所問題ない。


特に気を付ければならないのは、段々と下り坂になりつつある道で足を滑らせない事だ。何故なら、隣はさっきよりも急な角度になっているからだ。


謝って足を滑らせでもしたら命が危ない。その場で滑っても卓也にバレるだろうから、どの道油断できない。まだ地面がぬかるんでるんだしな。


追跡する事数十分。卓也は休憩する為にその場で腰を下ろした。道幅は多少広くなったものの、周りはほぼ断崖絶壁に近い。もう滑るとかじゃなく、落ちるのレベルだ。


問題の卓也の武器だが、さっき腰を下ろした時にポケットから見えた。人の手で握るのに丁度いい黒のプラスティック状の持ち手から伸びる銀の輝きが見える。それも1本や2本じゃなく、5本もある。


ナイフだろうか・・・・。FPSゲームとかでよく見るものとはまた違う、そもそも峰の部分に凹凸がない時点でサバイバルナイフの類ではないだろう。となるとなんだ?フルーツナイフって訳じゃないだろうし。


だが、それで十分だ。ナイフは接近戦で使う物。つまり遠距離で使用できる武器は霊夢の弓以外ない訳だ。取り出した形跡が無い所からして弓の存在すらまだ知らないのかもしれないな。


完全な1本道で地面もぬかるんでる為、体格差を使った機動力も生かせない。距離にして10メートル前後。




チャンスは一度だけ・・・・・


覚悟を決めた俺は、殺し合いに身を投じる為の1歩を踏み出した。




to be continued







 















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