第1章 3節「信用」
跳ねる泥。
滴る雫。
濡れるおパンティー。
俺は今、全速力で山道を走っている。
「ホントあり得ないんですけど!ゲリラ豪雨にも程があるでしょ!」
「文句言ってないで雨宿りできそうな場所を探せぇえええ!!」
廃墟から逃げ出して数十分。雲一つない青空だったハズが、一瞬で真っ黒な雲に覆われ、滝の様な雨に見舞われる事になった。その時は魔界が近づいて来ているんじゃないかと錯覚する程だ。
叫びながら走り続けていると、洞窟の様な物が視界に入る。
「おい!取り合えずあそこに行くぞ。これ以上濡れたくねぇ!」
俺達は見つけた洞窟に飛び込むようにして入る。
中は思っていた以上に綺麗だった。いや。綺麗すぎた。
足元は舗装されたように平らで、少しの凹凸もない。天井や壁も自然にできたとは思えない程整えられている所から、人の手が加わっているのは見て取れる。
だが今はそんな事に気を止める余裕がない。
「もう最悪・・・・ブラまでびしょびしょなんですけど」
「うへぇ~・・・・パンツが張り付いて気持ち悪りぃ」
魔界の接近によってびしょびしょになったパンツは俺のパーフェクトヒップにぴっちりと張り付いて気持ち悪いったらありゃしない。俺と同じ位濡れた霊夢も、嫌な顔をしながら両手を服の内側に入れてゴソゴソしてる。
「ちょっと着替えるからこっち見ないでよ」
「そりゃこっちのセリフだ。俺のパーフェクトバディー見て興奮すんなよ?」
「誰がするか!!アンタこそ私のムチムチボディ見て襲わないでよ?」
「ムチムチ・・・プププ」
「なんだその目わぁああ!!これでもそれなりに育ってんのよ!」
そんなアホみたいな茶番をした後、お互い後ろを向いて支給されたリュックを開ける。
中には日用品と着替え、数日分の食事と・・・・本来なら殺傷武器が入ってるんだが、やっぱり何度見ても見つからない。
{無い物は無い。いくら後悔したって無駄だ、切り替えろ俺!}
そう自分に言い聞かせ、タオルと着替えを手に取って、勢いよくパンツを降ろした。
・・・・・・・
「で、これからどうすんのよ?」
支給された食料、キャロリーメイト(タコス味)を頬張る俺を余所に、霊夢は眉を寄せる。
「しっかしまっずいなこれ。タコスどころかタバスコの味しかしねぇんだけど。口の中の水分全部持ってかれるし」
「ちょっとアンタ!少しは真面目に・・・ってマッズこれ!」
俺と同じキャ(以下略)を食べた霊夢も全く同じ反応を見せる。この食べ物は、人類が食すにはまだ早すぎる。とは言っても、数少ない貴重な食料なので鼻を摘まみ、味を分からなくして嫌々口に運ぶ。
「んっぐ・・・・。んで、これからどうするかだけど」
水で流し込んでなんとか食べ終えた俺は、さきの話を持ってくる。そうすると、苦い顔をしていた霊夢も、俺の話を聞こうと真剣な表情になる。そうして俺が口を開いた瞬間。
「い、一緒に入れてくれッ!!」
髪は雨でぺったんこに潰れ、水を吸った服は肥え太った体に密着し、だらしない体のラインを明確に映し出す。息を荒げて入って来たのは、最初の廃墟にいた一人の男だ。
「・・・・・」
突如現れた奴に俺と霊夢は警戒した眼差しを向ける。
・・・・・・・
「....俺は反対だ。こんな殺し合いしてる状況下で全く知らない奴と一緒に居られるかッ!お前だって分かってるだろ!?この殺し合いから生還出来るのは2人だけ。2人しか助からないって分かってる状態で3人が一緒にいて何も起こらないハズが無い!」
「だからってこんな雨の中に放りだせって言うの?殺し合いうんぬん以前に、それって人としてどうなのよ!」
突如現れた、田中卓也と名乗る男の登場によって食い違う俺と霊夢の意見。
殺し合いをしているこの状況下で、信用出来ていない人間と共にいる事がどれだけ危険な事なのか、それが分からない霊夢じゃない。なのに何故霊夢は、そこまでしてこの男を止めようとするのか・・・・。
答えは簡単だ。引き入れる危険性よりも、霊夢の人としての善良な心の方がそれを上回っている。
だから危険だと分かっていても、放っておくことが出来ないんだ。
そこは霊夢の人の良さの表れなんだろうけどな・・・。
だが、その優しさは自分の首を絞める事にもなる。だから俺はその考えをやめて欲しいと思ってしまう。
それを思うのと同時に、自分の考えに失望する。
自分の生死に振り回されず、己の良心に従える優しい霊夢に対して俺は、自分が生き残る事しか考えられないクズ野郎だ。そんな自分に嫌気が刺す。
「・・・・・いいんだな?」
「な、何がよ?」
「お前はそれでいいんだな?こんなクソみたいな状況で、メリット所かデメリットしかない生まれないソイツを助ける事が・・・だ」
「当たり前よ。人を助けるのにメリットとか、デメリットなんて考えないでしょう?」
「・・・・そうかよ」
真っすぐ俺の瞳を見て言う霊夢から顔を逸らす。
自分を信じて疑わないその真っすぐな瞳は、俺には眩しすぎて直視できなかった。
「あ、あの・・・・僕はここに居ていいのかな?」
「あ?・・・ああ。好きにしろ。ただ、今日だけだ、雨が上がったらどっか行けよ」
「もちろんだよ。・・・ええっと・・・」
「高原愛人。愛人でいい」
「わかった、愛人!僕は卓也でいいよ」
「私は霊夢でいいわよ。」
「霊夢・・・霊夢ちゃん。君のお陰だよ。ありがとう!」
「私じゃなくて愛人に言ってあげて?実際、愛人の言う通りだし、怒る気持ちだってわかるもの。
ありがとね。わがまま聞いてくれて」
さっきの言い争いでの熱気はどこへ行ったのか。霊夢の可愛らしい笑顔が俺に向けられる。
それを見た俺は恥ずかしさに真後ろを向く。
「別に・・・礼言われる事なんか何もしてねぇっての」
「やぁ~ねぇ。照れてるのぉ?かっわいい♡」
「うっせぇな!!それより早く火作んぞ!」
既に丸石で囲まれた枯れ木の山に、支給品のマッチを放り投げる。主催者側も洞窟を拠点にされる事を見越してか、あらかじめ準備してあるので楽だ。
奴らの手の平で踊らされてる感じで嫌だけどな。
・・・・・・・
バチバチと音を立てる焚き火を子守歌を聞きながら、リュックを枕にして横になる。寝るには少し早い時間だと思うが、休める時に休んでおくべきだろう。次はいつ寝れるか分からないからな。
俺と卓也が最初に休み、見張りは霊夢に任せる。数時間後に霊夢と俺が入れ替わり、最後は卓也と交換っといった感じのローテーションで睡眠を取る。地面が固い事もあって中々寝付けないが、目を瞑って眠れるまで待つ。
徐々に意識が朦朧としていき、切れた。
・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
トントンと肩を叩かれ、朦朧とした意識のまま体を起こす。そこには頭をコクン、コクンと揺らす眠そうな霊夢の姿があった。
「もう時間か。見張りごくろうさん」
「ええ。もう無理。寝ないと・・・し・・・ぬ」
喋っている途中で限界が来たのか、そのまま俺のリュックに倒れこんで寝息をたて始める。
小さな寝息をたてて眠るぶんにはとても可愛いらしいんだが、恐ろしい事に可愛い顔していいパンチしてくるから恐ろしいったらない。
「ご注文はウナギですか?のキャラみたいにもう少し大人しかったら良かったのになぁ~」
「んぅ・・・・むにゃむにゃ」
「・・・・・っていかんいかん。いくら何でも寝てる子を襲うとかあり得ねぇ。そもそも俺は3次元に興味ない。そうだろう高原愛人!」
眠っている霊夢を見ていると頭の中で想像が膨らんであらぬ事を考えてしまったが、その考えを振り払うようにして洞窟の入り口に向かう。
真っ暗な外は、今だ激しい雨が地面を打ち付けている。この殺し合いが始まって数時間、本格的な戦闘は今の所起こっていないが、これから先なんど生死を掛けた戦闘が始まるかなんて想像もつかない。
そもそも、今の俺には生きる為とはいえ、人を手に掛ける度胸はない。そんな俺がこの殺し合いを生き抜く事が出来るのだろか・・・。
そんな負の感情が頭を支配し始めた時、背後から声を掛けられる。
「お疲れ様。後は僕に任せて!」
「ああ。後は頼む」
そんなに時間が経っていたのかっと思いながら、焚き火の近くに向かう。
霊夢は寝返りを打って大の字になってグガーといびきをかいて寝ている。可愛いと思ったあの感情を返せ!
既にリュックから離れていたので、中からタオルを取り出してそれを枕替わりにして横になった。
2度目という事もあってか、次はすんなり眠れそうだ。
・・・・・・・
「あー。あー。マイクテストぉ~」
無機質な声が聞こえる・・・・というよりも、直接脳に語り掛けられているのだろうか、朦朧とした意識の中でもはっきりとわかる。
「えーっと。今日のお昼0時に救援物資を投下するよ!何処に落ちるかはランダム。もちろん速い者勝ちだから気を付けてね!」
それ以降、頭に響く謎の声は途切れた。声質は機械音なのでどうしようもないが、喋り口調からして最初に現れた主催者である事は容易に予想出来る。そしてこれは、その主催者がこの殺し合いを始めるに至って説明を始めた中にあった救援物資。
今の俺達には食料があるにはあるが、配布されてるのは2日分。それも昨日食べているから1.5日分しかない。次の投下がいつになるか分からない以上、確実に手に入れて置きたい。
そして、何よりも大事なのが武器。何も殺傷武器を持っていない俺には、この救援物資から手に入れられる武器が喉から手が出る程欲しい。たった8人とはいえ、この島の大きさからしてばったり出会っちゃう、なんて事もあり得ない話じゃない。
もしそうなってしまっては武器の持ってない俺が明らかに不利だ。今後の為に武器は絶対に手に入れたい。
あらかた考えをまとめた俺は、救援物資確保について話し合う為に目を開け、体を起こす。
外はすっかり晴れ、雨で濡れた木々に滴る雫が反射して少し眩しい。
霊夢を起こそうと洞窟内に目をやると、違和感に気付く。
卓也の姿がないのだ。いや。それ自体はいい。雨が上がったら出ていけと言ったのは俺なのだから、晴れた時に洞窟を出て行ったのだろう。問題は・・・・。
「クソッ!やっぱりこうなるんじゃねぇかッ!!」
考えられる中で最も最悪な状態に陥った。
霊夢の言葉もあって、卓也を信用した昨日の俺をぶん殴ってやりたい。こうなるとは予想出来ていた。いや、こうなるかもしれないと分かっていてなんの対策も取らず、卓也を安易に信用した事が間違いだった。
「霊夢!早く起きろ霊夢!!」
一分一秒が惜しい俺は、血相を変えて霊夢を起こす。
肩を掴まれてゆらゆらと揺さぶられた霊夢は、ゆっくりと瞼を開け・・・。
「んぅ・・・・どうしたのよ」
「盗られたんだんだよ!」
「何がぁ~?」
「俺達のリュックをだよ!!」
すっかり寂しくなった洞窟内に、湿った風が通り抜けた。
to be continued
最後まで読んで頂きありがとうございます!
今回も読者様のコメントを参考にスペースを空ける事を意識したのですがどうでしょうか?
他にも「こうした方がいいよ!」と言った事があればコメントの方で言って頂ければ幸いです。
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