第1章 2節「知識は最大の武器」
もう殺し合いは始まっている。
撃鉄が起こされた拳銃の銃口が俺に向けられる。エアーガンではない、本物の拳銃。背中に冷や汗が滝のように流れ、心臓の鼓動が早くなるのがわかる。
「さっさと荷物を置きやがれ!」
ヤンキーは全体的に銃口を回し、脅してくる。全員恐る恐ると言った様子でリュックを地面に置いて1、2歩下がる。
{どうする?・・・・考えろ俺!!}
銃に対抗出来る道具もなければ武器もない、かと言って何も考えずに逃げ出そうものなら後ろから撃たれるのが落ちだろう。ヤンキーとの距離は5メートルあるか無いか程度、素人でもこの距離なら当てられない事は無い。出口までは20メートル以上ある、たったシャトルラン1回の距離が、今の俺には何十キロにも感じられる。
「あ、愛人・・・ここは言う通りにした方がいいわよ!」
声を絞り出す様にして霊夢が小さな声で警告してくれる。霊夢の言う通り、そうするのが一番安全だ。だが、この殺し合いで荷物を捨てるというのは、自分の命を捨てるのと同じ事。そうやすやすと渡す訳にもいかない。
どうすればあの銃撃を躱せるのか?今はその事しか考えられない。コルトSAAまたの名をピースメーカー、
平和の作り手。待たせたなぁ~で有名なゲームで出てくるので知ってる人も多かれ少なかれいるだろう。俺自身もそれで知った口だ。装弾数6発。つまり、あれ一つで最大6人殺せる。それが出来れば定員である2人まで持っていける。この殺し合いで最も強い武器と言ってもいい。そんな武器を持つ相手にどう挑めば・・・・。
その刹那、脳裏に一つの考えが過った。それと同時に俺は体を動かしていた。
「合図したら走れ霊夢!!」
「あッ!待てゴラぁ!」
ヤンキーが俺から銃口を外したタイミングで、手放しかけてたリュックを一気に引き寄せ、全身全霊で出口に向かって走る。だが、もう少しで外に出られるという所で再び銃口を向けられる。そのタイミングで立ち止まり、ゆっくりとその方向に振り返る。
「テメェ!マジで撃つぞゴラぁ!!」
「撃てるもんならさっさと撃ってみろよ!それとも、口だけのチキン野郎か?」
「なッ!。んだったらお望み通り殺してやるよ!」
俺の挑発を受けたヤンキーは、血相を変え、怒りに震える手で銃口を向ける。
そして、トリガーに力が込められる。
次の瞬間。薄暗い廃墟に響き渡る轟音と共に射出された弾丸は、明後日の方向に飛んで行き、
石柱に着弾する。
銃弾はコンクリートを砕き、石柱に大きな弾痕を残す。ネットで見るものと実際に見るのとでは違う。もしこれが自分に当たっていた時の事を考えただけでも恐ろしい。それだけ実際の銃撃はインパクトのある物だった。
だが、それが俺の狙いでもあった。銃弾が外れた事を理解した瞬間、俺は踵を返すのと同時に声を上げる。
「いまだッ!霊夢!」
本気で走るなんて何年振りだろう・・・そんな事を思いながら足を動かす。チラっと振り返ると、少し驚きつつも、何が何だか分からないといったような表情で追いかけてる霊夢を確認する。
問題のヤンキーはと言うと・・・・
「ど、どうなってんだよ!!何で弾がでねぇんだ!!」
SAAのシリンダーを回したり、銃口を覗いたりして戸惑ってる様子だ。次弾が出ない理由はいたって簡単だ。
リボルバーは、ハンマー、撃鉄と言う物を起こす事で撃てるシングルアクション。
ハンマーを起こさずとも、引き金を絞るだけで連射が出来るダブルアクション。
上記の二つを発射動作として必要な銃だ。シングル・ダブルでメリットデメリットは当然存在する。
シングルアクションは、射撃する度にハンマーを起こさなければならない。西洋の映画でカウボーイが使用しているタイプの銃がこれだ。メリットがあるとすれば、トリガープルがダブルアクションに比べて軽い事。
そもそもトリガープルと言うのは、引き金を引く時の重さの事を言う。これが重いと、引き金を引く事に意識しすぎて狙いがズレたりする。かと言って軽すぎても暴発に繋がるので、軽すぎず、重すぎない適度な調節が必要な部分だ。
そしてトリガープルが軽ければ、それだけ早く射撃ができ、なおかつ正確な射撃が出来るというメリットが存在する。ダブルアクションは、シングルアクションの欠点であるハンマーを起こすというアクションを省いたタイプ。ハンマーを起こさずとも、直ぐに射撃に移れる事がメリットだ。当然、シングルアクションに比べてトリガープルが重いといった欠点が出てくるが、最近はそのどちらも行う事が出来るのが主流になっている。
だが、ヤンキーの使用しているコルトSAAは、1800年後半に生産された銃で、まだシングルアクションしか出来ない時代の物だ。俺はそこを利用した。
言動や性格からして、銃に関しての知識は殆どなさそうな事から、自分が持っているものがシングルアクションでしか撃てない銃だと理解してない事を予測する。
後はヤンキーから出来るだけ距離を取り、軽く煽ってあげれば、怒りに任せて引き金を引く事は分かっていた。5メートルなら素人でも当てられる可能性がある。だから出来るだけ距離を取り、少しでも当たる可能性を下げた。そして10メートル以上離れたこともあってか、奴の銃弾は見当違いの場所に飛んで行ってくれた。
正直ここは運任せだったんだが、神は俺を見放してなかったみたいだな。
銃の事を知らないヤンキーに、1発だけでも撃たせる事が出来れば、とんずらするだけの時間は奴自身が作ってくれる。やっぱり知識が最大の武器だぜ!。知ってるのと知ってないのではこれだけ大きな差がでるんだからな。
そして俺達は廃墟から飛び出し、森林に向かって突っ走っていく。
「な、何考えてんのよアンタ!ホントばっかじゃないの!?」
「まぁーまぁーそんな怒んなって、せっかくの可愛いフェイスが歪んじゃうZE★」
「あ~・・・何でこんな奴について行っちゃったんだろ」
森林を二人で突き進む。遂に始まってしまった。漫画の世界だけかと思っていた殺し合いが。
それから俺達はただただ走った。出来るだけあの廃墟から離れる為に。
・・・・・
眼前に広がるパネルには、一人の少年が映る。それを眺めながらカラになったカップをテーブルに置く。
「本当に良かったんですか?彼だけ武器を入れずに・・・」
透き通った綺麗な銀髪を小さく揺らしながら、パネルを覗き込むその目は髪同様透き通った青色。キリッとした目に合った整った顔立ちに、メイドを連想させる全体的にフリフリとした服をこれもまたフリフリさせながら近づいて、追加の茶を注いでくれる。
「いいんだよ。そうでもしないと彼の真価は発揮されないだろうしね」
「そういう物でしょうか?」
「君もネイキッドでなければ得られなかった経験だってあるだろう?それと同じだよ」
「はぁ~?」
そう返答するも、苦笑いしながら茶を入れる彼女には伝わらなかったようだ。
「まぁーなにもともあれ、今回の選抜で全てわかる事さ」
茶が注がれたカップを手に、俺は思う。
「君が本当に彼の息子なのか。見極めさせてもらうよ」
パネルの明かりだけが照らす暗い部屋に、茶を啜る音が静かに児玉する。
to be continued
1節でもあった通り、改行などを意識してみましたがどうでしょうか?
不定期ですが、感想など頂ければ嬉しいです。