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宿屋リッツ

ギルドを出て上を見上げてみると、既に空は薄い紫色に染まっており、月が昇り始めていた。

この世界でも元いた世界と同じように、太陽と月はちゃんと存在しているのだ。


大通りはまだまだ賑わいを見せている。

この辺りは光る魔具に照らされて、まるで昼間の様な明るさだ。


「よし、目的は達成したし、最後は宿だな」

『いつもアタシは森の中でねるよ!』

「野宿はさすがにキツイかなー」


ということで早速、教会のクロムウェルさんに教えて貰った宿屋リッツを探した。


「ようこそ、おいでくださいました。私はこの宿の主人のセリアと申します。旅のお方、お荷物をお持ちします」

「ああ、ありがとう」


宿屋リッツ。

城下町のメインである大通りから外れて少し歩き、周りと高低差のある丘のような場所に建っている。

外観はやや慎ましい感じであったが、中に入ってみると、まず吹き抜けのロビーの広さに驚いた。

暖炉には既に火が灯されていて、目の前には城下町を一望できるガラス張りのオープンスペースがあった。


『すごーい! キレーな景色!』


王都の夜景に目を奪われつつも、手早くチェックインを済ませる。

この世界では宿に泊まる時、冒険者カードの掲示だけで良いのでかなり楽だ。

その際に教会のクロムウェルさんからの勧めでここに来たとも伝えておいた。


「お客様、サービスのお飲み物でございます」


チェックインしてすぐ、新品のように綺麗な制服を着た可愛いお姉さんから渡されたのは、謎の薄いピンク色の飲み物。


ウェルカムドリンクか......ここってもしかして高級旅館だったりするのか?


『わあ! アタシとおんなじ色だ!』


サクラも俺の持っているドリンクに興味があるようだ。


とりあえず、ひと口飲んでみる。

最初に感じたのは、爽やかな酸味。そして後からくる優しい甘さで舌が包まれる。これは美味い!


「これは何という飲み物ですか?」

「こちらは、シマヒロ産レーモの実とヤマオカ産のモモモの実のカクテルでございます」


カクテル......え?


「お酒ですか!?」


この世界のほとんどの国では、15歳は成人の状態にあり、労働、飲酒などが可能であるのだが、俺はそういった機会に恵まれず、元の世界でも今の世界でも酒を飲んでいなかったのだ。


俺の驚愕に、セリアは慌てながらも謝罪をする。


「た、大変申し訳ございません! 冒険者カードを拝見しましたところ、既にスタン様はご成人なされていましたので......誠に勝手ながらカクテルをお作りいたしました。お口に合わなかったでしょうか......?」


彼女の謝る姿勢からの上目遣い、そして強調されるスタイルの良さ。

モン娘だけと心に決めた俺でさえもこのダメージである。

それよりも、女性に何時までも頭を下げさせるわけにはいかない。

俺は急いで理由をまくし立てた。


「いやいや! そんなこと無いです! ただお酒飲んだの初めてだったから......少しビックリしただけで」


俺の言葉に、セリアさんはようやく納得がいったようで、頭を上げた。


「そうでしたか......大変ご迷惑をお掛けしました」

「ああ、いやそんな迷惑だなんて思って無いです。スッキリしてて飲みやすかったですし!」


すると彼女は、ふふっ、と小さく笑った。


いま、俺が何か面白いことを言ったのか?


「すみません、私がスタン様の初めてを一つ、頂いてしまいましたね」

「えっ!? そ、それはどういう......」

「初めてのお酒のお味はいかがだったでしょうか?」

「あ......ああ! とても美味しかったです。また飲みたいなぁ」

「そうでしたか、それは良かったです♪」


そう言って、お姉さんは俺の手から空になったグラスを取り、去っていった。


『どんな味だった?』

「......甘酸っぱいなぁ」

『アマズッパイ?』


すると今度は別の人が来て、2階の客室に案内された。

中は和室で、ゆったりとできる空間だった。

ここの窓からでも充分に王都の夜景を堪能できる。

ここが元いた世界であれば、かなり良い物件だったと思う。


「1階には、温泉と食堂がございますのでどうぞご利用ください」

「わかりました。ありがとうございます」


持ってきてもらった荷物を置いて、お金だけ持って食堂へ向かう。

最初はやはり温泉から行くべきだと思ったが、食欲に負けてしまった俺とサクラであった。

素早く食べて、温泉に入ってしまおう。


『もー、お腹ペコペコだよー!』

「そうだな、王都に着いてからまだ何も食べて無いもんなぁ」


先ほど通ったロビーを抜けて食堂へ、適当な席に着いてメニューを決める。

すると、少し経ってから料理が運ばれてくる。


「こちら、旬の野菜とデーモンオックスの肉を使ったすき焼きでございます」

「おおー!」


「お連れのスライム様には、森の木の実の盛り合わせでございます」

『おおー!』


「『いっただっきまーす!!』」


こうして俺たち二人は、王都で初の食事を始める。


「『うっまーい!!』」


目の前の料理にひとしきり舌鼓を打つ。

お腹いっぱいになった俺たちは、休憩がてらに自室戻った。


ついでに教会でもらったステータス用紙も確認しておこう。


名前:スタン・ホルト

性別:男

種族:人間

クラス:テイマー

HP:120/120

MP:65/65

STR:F+

VIT:F

INT:E

MND:F

DEX:E

AGI:F

称号:初級魔法習得者、魔物と心を通わす者

スキル:テイム

    魔心伝心

犯罪歴:なし


なるほど、表記はゲームの時とあまり変わらないようだ。

MGOはスキル制だったので、レベルというよりスキルが習熟していくシステムだった。


それにしても、このステータスはひどい。

Fランクばっかりである。


MGOの基本ステータス表記は、STR(筋力)、VIT(耐久力)、INT(知力)、MND(精神力)、DEX(器用さ)、AGI(敏捷性)の6つに命を数値化したHPと魔力量を数値化したMPの合計8つだ。


上記の6つのステータスは、上からSS、S、A+、A、A-、B+……というふうにランク表記がされている。


つまり、Fランクが多数を占める俺のステータスがどれほど低いものかは一目瞭然だろう。


『ねー。私にも見せて!』

「ああ、いいよ」


まあ、これからどうなっていくか楽しみだということかな。

そんな感じで王都での一日目は過ぎていったのだった。

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