仕事は真面目に
教会前の大通りに出ると、肩に乗ったまま寝ていたサクラが起きたのか、声(実際にはモキュンという鳴き声だが)を上げた。
『あー! 寝ちゃってた!』
「寝ちゃってたな。スキルは二人で後で確認しよう」
『うん、わかった! それじゃあ次はどうするの?』
「次?そうだな、とりあえず、さっき[]さんに聞いたリッツって宿に予約を......あ」
サクラの問いかけに少し考えて、そもそもこの街に来た目的を思い出した。
「ギルドに登録に行かなきゃダメじゃん」
レアモンスターであるサクラを仲間にした事と、元いた世界での都会と言える王都に、初めて来た興奮ですっかり忘れていたが、俺は冒険者になりにここに来たのだった。
慌てて近くにいた人にギルドの場所を聞き、駆け足でそこへ向かう。
暫く大通りを進むと、大きくギルドの文字が掲げられた大きな酒場が見えてきた。
『ここ?』
「みたいだな」
入口をくぐり中に入ると、ガヤガヤと鎧や武器を背負った人々の騒ぎ声が耳に届き、賑わっているのが一目で分かる。
『すごーい! ヒトがいっぱいいる!!』
「なるほどまさしくギルドって感じだな」
そうサクラと話しつつ、多くの人が並ぶ依頼発注/報告と書かれた窓口ではなく、全く人がいない冒険者登録と書かれた窓口へ向かう。
早速登録をしようと窓口で声をかけようとしたのだが、
「くかー、もうたべれない......むはぁ......」
『あーれー? この女のヒトねてるね!」
「......そんなに暇なのか?」
俺の目の前、窓口の奥でギルドの係員統一の緑の制服を着た女性が、ぐうすかと寝言まで呟きながら寝ていた。
もしかして休憩中なのか? とも思ったが、だとしたらここで堂々と寝てるわけもないかとも考えて、女性を揺すって小声で声をかける。
「あのー、すんません。起きてください」
「むにゃー......うにゅ?」
『あ、起きた』
俺の声が届いたのか、ゆっくりと起き上がりボケーッとした顔をこちらに向ける女性。
顔を上げた際、必然的に体も持ち上がり、その豊満な胸の上にちょこんと乗っていた名札の文字が見えた。
ユリ。
どうやらそれが彼女の名前らしい。
「おわ! お、お客さん!? ね、寝てない! 私寝てませんよ!!」
「え、いやガッツリ寝てましたよね」
「寝てません」
先程までの顔はどこへ行ったのやら、垂れ流していたヨダレもきちんと拭き取り、キリッとした顔でそう応えるユリさん。
「あ、こっちに来たって事は登録ですよね! 私冒険者登録担当のユリです」
「あ、誤魔化した」
「誤魔化してません」
「......ま、いっか。登録お願いします」
再びキリッとした顔でそう言うユリさんに若干呆れつつも、冒険者登録の旨を伝える。
ユリさんは慣れた手つきで書類を取り出すとツラツラと説明を始める。
正直先程の爆睡してた人と同一人物とは全く思えない。
サクラも驚いたのか無言でプルプルと震えている。
......いや、これは普通にプルプルしてるだけか?
「〜〜〜ですので......って聞いてます?」
「あ、はい。聞いてますよ。ただちょっと驚いて」
「ふふん。私は寝てるだけの女じゃ無いですからね!」
「確かに......ってやっぱりさっき寝てたんじゃないか!?」
「しまった!?嵌められた!!」
「『自爆だよ!?』」
思わず俺とサクラのセリフがかぶり、ユリさんはアハハと誤魔化すように笑う。
その後はしっかりと話を聞き、渡された書類に名前、出身地、得意武器、習得魔法等の必要事項を書き込んで返す。
それを高速で確認していくユリさん。
一通り見直すとニッコリと笑う。
「はい。オッケーです。では、次にステータスを教会で調べてきて欲しいのですが......」
あ、そうなのか。先に教会行っといて正解だったな。
「あ、さっき教会で調べてもらっておきましたよ」
「そうですか?ちょっと拝見しますね」
ポケットからまだ自分でも見ていないステータスの紙を取り出してユリさんに渡すと、俺にちょっと待っててくださいと言って奥の部屋に入っていった。
数分して、出てきた彼女の手には手のひらサイズの銅色のプラスチックカード的なものが握られていた。
「はい。コレがスタン君の冒険者カードになります。身分証になるので無くさないように。再発行もお金がかかりますから気をつけて下さいね。ちなみに教会のステータスの確認でこのカードに書かれたステータスも更新できます」
「なるほど。便利な世の中ですね」
「そうですねー」
『ベンリなんだー......ベンリって何?』
首(?)を傾げるサクラを見て苦笑いしていると、ユリさんは立ち上がり綺麗なお辞儀をした。
「冒険者組合はあなたの活躍を心よりお祈りいたします。頑張ってください」
顔を上げた彼女は思わず見惚れる程の笑顔でそう俺に言った。
受け取った冒険者カードを握りしめ強く頷く。
「......はい。頑張ります!」
『アタシもー!』
「ふふ。期待してますよ?」
こうして俺は冒険者になった。職業はもちろんテイマーである。
ちなみに余談と言うかオチとして、ユリさんは俺の登録手続きが終了したと同時に上司と思わしき人に耳を引っ張られてどこかへ連れていかれた。
半泣きで助けを求めるかのごとく俺に手を伸ばしてたが、俺は笑顔で手を合わせた。
『なにしてるのー?』
「ん?合掌」
どーもこんにちわ。7話担当『欠ロボT』の欠陥少年です。
自称学生の自分も日々の授業で睡魔と戦っております(勝てるとは言ってない)。
それでは皆様、次のお話もお楽しみに!
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