モンスターとの対話
さて、tsukiのターンです。
つたない文章ですが、よろしくです。
「ここが王都か......」
目の前にそびえ立つ門の奥には、俺が住んでいた村とは比べ物にならないくらいの大規模な城下町が広がっていた。
「田舎者だって思われないようにしなきなゃな」
「モッキュン!」
ここは王都、俺が住んでいた村ではない。10分もあれば1周できるショボイ村ではないのだ。
スライムイーターとの戦闘、そしてサクラとの出会いから更に数日。
俺とサクラは隣町を経由して、無事王都にたどり着いた。
「迷子にならないか心配だな。ちゃんと付いて来いよ~」
俺は後ろから付いて来るピンク色のスライムに声をかけた。
「モキュン!」
そのスライムは発声器官も無いのに、謎の鳴き声をあげて、俺から離れすぎないように後を付いて来る。
改めて紹介しよう。
こいつの名前はサクラ、名称はスライム科スライム属ブロッサムスライム。
通常のスライムは水色をしているのだが、突然変異によって薄いピンク色に変色したスライムの亜種らしい。
見た目は色以外普通のスライムと特に変わりはない、とMGOのモンスター設定に書いてあった。
確かに見た目で言えばそうなんだが、サクラの行動を見ていると、ゲームの時のブロッサムスライムの性能が適用されていないような気がする。回復魔法も使えるし。
そんなサクラと俺は、とりあえず王都まで来てみた。
門番にサクラが完全にテイムされているのかを確認された以外は特に問題は無く、通行料を払って門を抜けることができた。
どうやらこの町には、テイマーが大勢いるらしく、特段珍しいわけではないらしい。
改めて見ると普通に魔物を連れて歩いている人もいた。
「さて、俺たちも行くか!」
「モキュ!」
門を抜けてそのまま真っ直ぐ歩くと、城下町の中心を通る大通りに出た。
そこには見渡す限りに人、人、人。
通路の側には所狭しと出店が並んでおり、うるさ過ぎるほどに賑わっていた。
「モキュキュ!」
さすがにこの人混みの中を進めば、サクラも踏まれてしまうかもしれない。
サクラもその危険を察知したのか、いち早く俺の肩に飛び乗った。
そのまま人の波に流されながら歩いていると、この町の中心の大きな広場に出た。
ファンタジーではお決まりの大きな噴水が目印だ。
人の多さから逃れるため、近くのベンチに座るとサクラも俺の肩から降りて隣に着地する。
「さて、王都に来てみたものの、これからどうするかな~」
「モキュキュ~」
「まずは寝泊まりできるところを探そうかな?」
「モキュ......『それが良いと思うよ!』
「そうだよな~」
『うん!』
「それにしてもさ~......ん?」
『どうかしたの?』
「いやなんか.....」
『なに?』
「ん?」
『なになに?』
「え?」
『もう! さっきからどうしたの?』
「す、スライムが喋ってるぅぅぅぅ!?」
『え? アタシ喋れてるのー!?』
俺は驚きのあまり、ベンチから後ろに転げ落ちてしまった。
周りからの突き刺さる視線が痛い......。
恥ずかしさのあまり、急いで上体を起こすと、目の前ではサクラが心配そうにこちらを見ながらぷるぷると震えていた。
俺は確認の意味もこめてもう一度サクラに問いかけた。
「お前は俺の言葉が理解できるか?」
『うん!』
「お前の名前は?」
『アタシはサクラ! スタンに付けてもらったの!』
「あ、ああ。そうだな......」
『それよりねー、今のいたくなかった? 回復する?』
「いや、このぐらい大丈夫だ。ありがとな」
『うん!』
サクラはベンチの上でぴょんぴょん跳ねた。
な、な、なんということでしょう!
私スタン・ホルトはたった今、種族の壁を超えて、モンスターとの対話に成功した模様であります!
俺はサクラと話すことができた喜びを全力で声に出して表現しようとしたが、ここが公共の場だということを思い出し、そのはやる気持ちを何とか抑えた。
それに改めて考えてみると、モンスターが人間といきなり会話ができるようになるなんてゲームの時のMGOでも聞いたことがない。
流石に病気ではないと思うが......。
ひとまず俺は、サクラの様態が他に変わったところが無いか、観察することにした。
しかし、
『ねーねー、なんでアタシをジロジロ見てるの?』
「い、いやっ、ごめん! そんなつもりじゃ!」
多分サクラは純粋に質問してきただけなのだろうが、なんとなくいけないことをしてるみたいで俺はすぐに観察を止めた。
外見は特に変わりないが、喋り方からしてメスなのだろう。
これが進化して人化するかと思うと、心の底からメスで良かったと思う。
ゲームだった時は、全体的に筋力が高いオスをパーティに入れて、メスは進化後のグラフィックがいいモンスターだけをテイムしてマイホームに預けていたっけなぁ。
一応オスも最終進化前に全ストーリーをクリアして、あるイベントを起こすとゲーム名通りかわいい女の子にすることができる。
しかし俺がカッコ良さ優先で育てたオスのモンスターたちが、かわいい女の子の姿に変わってしまった時の複雑な気持ちを想像した結果、イベントを発生させずに最終進化させたのはいい思い出だ。
と言うか、今はそんな話をしている場合ではない。
この状況、不思議でもある。
今までは【魔心伝心】のおかけでサクラの気持ちが分かるようになっていただけだったが、今は話せている。
一体どういうことなのだろうか、スキルが関係しているのは間違いなさそうなのだが......。
「これは確かめに行くしかないな」
『どこに行くの?』
「ちょっくら教会に行こうかと」
『分かった!』
ゲームだった頃は、自分の取得しているスキルをステータス画面で見ることができていたのだが、この世界にステータス画面はなさそうだ。
代わりにどこの村や町にも教会があり、そこでスキルの確認や取得ができるようだ。
確かそんな感じのことを父さんが言ってた気がする。
サクラが再び俺の肩に乗ったのを確認して、大きな十字架が目印の教会を目指して歩き出した。
「サクラの好きな食べものはなんだ?」
『チェリの実が好き!』
「へぇ、じゃあ今度買ってあげるよ』
『ほんと!? スタン大好きー!』
サクラは俺の顔に体当たりをしてくる。
もちろん本気ではない、サクラなりの愛情表現なのだろう。
側頭部に当たるスライムの感触が気持ちいい。若干ひんやりしてるところが尚更良い。
俺はその感触を楽しみつつ、周りを歩く人達を観察しながら歩いた。
道行く人は俺とサクラが話している言葉がどのように聞こえているのだろうか。
俺が一方的に話してるように聞こえていたら、俺がかなりヤバイ奴に見えるな。
そんなことを思っていると、いつの間にか教会の目の前までやって来ていた。
「さて俺のスキルはどうなっているのかな?」
『強くなってるといいね!』
「そうだな~」
何だか久しぶりに人と話した気分だ。
まあ、正しくは人では無いのだが。
そんな感じで、ゆる~く教会へと入っていく俺とサクラだった。
この時の俺は【魔心伝心】のスキルがどれほどチートであるのか、まだ知る由もなかった。
誤字脱字報告よろです。




