表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

戦闘開始

三話目投稿完了

 雲一つない晴天の下。

 俺は王都を目指して、隣町へ続く木々に囲まれた道を歩いていた。

 さすがに石畳とまではいかないが、この辺りは割と整備されていて人通りも多い。

 そのためかあまり魔物も近寄らず、出てくる魔物といえば、スライムやはぐれゴブリンといったような冒険者一人でも倒せる魔物しか出てこない。

 まあ、この辺でドラゴンといった強力な魔物が出てこられても困るのだが。


「それにしても……」


 思わず口からため息とともにそんな言葉が出る。

 今は昼時だが、魔物どころか俺以外の人は全く見ない。

 俺の村は割と辺境にあるため、定期的な契約をしている商人以外はめったなことでは来ない。

 それに今、村から遠出しているのは俺だけのはずなので行きかう人など皆無である。

 だからスライムの一匹ぐらいは出るだろうと思っていた俺には、この状況はあまり好ましくなかった。


 神様からの特典も気になるところだし、とりあえず初心者向けと有名なスライムにでも遭遇して魔心伝心の具体的な効果を確かめてみたかったのだが、今のところ何も出来そうに無い。


 それにしてもおかしい。

 父さんには、最近スライムが異常発生してるから用心しろよ、と言われていたのに此処まで一匹も遭遇しなかった。

 もう隣町までの道のりを半分ほど来てしまった。既に半分諦め気味である。

 そんな矢先。ガサガサと何かがこっちに飛び出てくるを音がした。


「お! ようやくお出ましか!」


 茂みから出てきたのは、先程まで話題になっていたスライムだ。

 ぴょこんと出た頭の謎のとんがりに、着色料をふんだんに使ったような濃い水色。そして子犬くらいのほど良い大きさ。まさに典型的なスライムの風貌である。

 確か成長する場所でいろいろな種類に分かれるのが特徴だと言われている。

 それにMGOでスライムは序盤で簡単にテイムできる魔物なので、あのゲームをやっていたやつでは知らない者はいないだろう。

 その定番な感じと初期の成長のしやすさから多くのプレイヤーに愛された魔物でもある。

 かく言う俺もスライムでスタートした一人だ。もちろんこの人生でもスライムから始めたいと考えていたので、出会えて良かった。


 そんなことを考えていると茂みからもう一匹のスライムが出てきた。


「まいったな。さすがに二体は連れて歩けないなぁ」


 どちらを連れていこうか悩んでいると、また一匹のスライムが同じ茂みから出てきた。


「マジか」


 さすがにゲーム内最弱といわれた魔物でも、初戦闘の俺に三体は厳しいかもしれない。


「ま、まあ! これぐらいなら一人で倒せない範囲じゃ無いな!」


 誰も聞いていないが、何故か強気に出た俺氏。


「え」


 臨戦態勢に入ろうとした俺は、自分の目を疑った。

 またスライムが出てきたのである。しかも三匹同時だ。その三匹はなぜかおびえた様子でこちらを見ていた。


 そのスライム達と目が合った瞬間、



 彼らの気持ちが俺の心に伝わった。



「……何かから逃げて来ているのか?」


 なんとなくだがそんな気がする。

 そう言えば、最初のスライムたちはどこだろう。いつの間にかいなくなってしまった。それと、なんとなく感じていたのだが何かにおびえるような感情がさっきのスライムからも伝わってきていた。まさか、これが魔心伝心の能力だろうか。

 そうこうしているうちにまた一匹、二匹と茂みからぴょこんと顔出しては、逃げるように去っていくスライム。


 なんだこのスライムの大移動は、異常発生しているからといってここまでの数がいるものだろうか。ざっと数えただけでもすでに20匹は超えているし、まだまだ茂みから出てきている。


 その時、突如として茂みの向こうから響き渡る甲高い声。これはスライム特有の仲間に危険を知らせる警戒音だったはずだ。


 何かあったのだろうか。確かめようと思い、恐る恐る慎重に音をたてないように様子を伺った。

 そこのいたのは目も疑うような光景だった。辺り一面に転がっている青い塊。ピクリとも動かず生気が感じられないそれは、スライムの死骸だった。もうすでに魔石だけになっているものもいた。

 この世界でもモンスターの死は、あのゲームと同じようだ。モンスターの生命が尽きて数秒経つと、死骸がエフェクトと共に消え去り、ドロップアイテムが残る。現実とは違う、何とも呆気ない生の終わり方である。


 しかし今は、そんなことを考えている暇は無い。

 既にそこには、スライムではない別の何かがいた。

 大きさはスライムの二倍程度。体色は緑で、そのフォルムは蜂に近い。下腹部には針はなく、顎には蜂のような顎ではなくセミのような口が付いていた。

 スライムイーターだ。個体の戦闘力としては、スライムに負けない程度で頑張れば子供でも倒せる。

 しかし、こいつらは常に2~3体で行動し、連帯して攻撃を仕掛けてくるので下手すると命を取られかねない。だが、こいつらはゲームで言うならこのあたりの敵ではない。この世界では分布が違うのか。それとも、この異常発生によりこの辺りまで来たのか。定かではないがこの状況は少しまずい。

 俺の今の装備は父さんからお下がりのボロ剣に簡素な皮の鎧しか装備していない。ゲームでの初期装備よりはましだし、簡単な魔法も使える。でも、こいつらと戦うにはまだ心もとない。せめて、スライムの二匹程度は欲しいし、欲を言うなら一回進化した魔物で戦うのが得策だ。


 ここはゲームの世界に似ている。

 しかし、ゲームではないのだ。生きた人がいて、村があり、国があり、人がそれぞれ人生を営んでいる。

 プログラムなんかで決められた行動しかできないゲームとは違い、この世は可能性に満ち溢れている。

 ニート生活も楽しかったが、この自然あふれる世界で汗を流し働いた経験をした俺は命が惜しかった。

 それに、モン娘でハーレムを作る前に死んだら死んでも死にきれそうに無い。

 そう思いスライムたちには悪いが、この場をあとにしようとしたとき俺は、視界にピンク色の物体が入った。

 今にもイーターに食われそうなスライムの色違いみたいなやつがそこにはいた。


 まさか……? いや、間違いない。あれは、ブロッサムスライムだ!


MGOの初回限定版購入特典で手に入った伝説の魔物、それがブロッサムスライムである。

 このスライムは特殊な進化過程を持っていて、最初はスライムと変わらないものの進化するたびに強くなる。何百年に一匹の割合で出現し、最終的な進化先は不明であり、いまだかつてその最終進化を見た者はいない。という設定があり、ゲーム内では魔王クラスの魔物にも進化できるようになっていた。

 だが、別に魔王までに進化できるのは、スライムと全く変わりがなくステータスも普通のスライムと同じである。ただ通常と色違いなだけで、大会でも普通に使えるし、ほんとにただの特典だった。

 俺はちなみに抽選ではずれ限定版を手に入れることができなかった。大会でブロッサムの進化後を使ってくる奴は本当にうらやましいと思っていた。


 欲しい。そう思ったら体が勝手に動き、今にも食い掛かりそうなスライムイーターに、ボロ剣の一太刀を浴びせていた。


 なんという自殺行為をしてしまったのだろうか。

 やってしまった後に後悔したが、もう引き下がれない。


 引けた腰に力を入れて、俺はブロッサムスライムとスライムイーターの間に割り込んだ。


「……言葉が通じないと思うが、言っておく。このスライムは、今この瞬間から俺のハーレムの一員となった! お前らには悪いが、ブロッサムは諦めてもらう」

 スライムイーター達からは敵意の念が、ブロッサムからは驚愕の念が飛んできた。

 そして、イーターの羽音がひときわ大きくなるとともに戦いの火ぶたは切って落とされた。

感想、批判お持ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ