旅立ち
2話目投稿完了
「父さん、母さん、俺、冒険に出たい!」
家族3人で夕飯を食べていた時、俺は思い切って今の気持ちを両親に打ち明けた。
とある小さな村のホルト家という平凡な農家に生まれついてから早15年。ついに明日が俺の15歳の誕生日だった。
この異世界のヒト族は、15歳になると成人の儀式を執り行うきまりがある。それを終えると晴れて1人前の大人であると認められる。
俺はその話を知って、15歳になってからこの村を出ていこうと決めた。そのために15歳までにこの世界の常識はあらかた頭に入れ、初級魔法も必死になって全部覚えて、剣術も元冒険者の父さんに鍛えて貰ったのだ。
そして今に至る。
俺は問いかけた。
「父さんも、15歳の時に家を出たんだよね?」
すると、父さんはやや困った顔で言った。
「うむ、まぁ、確かにそうなんだが……いざ父親側になって考えてみるとだなぁ。何故あの時、俺の父さんと母さんは、俺のことを引き止めてくれなかったのだろうか……」
父さんの言葉に便乗して母さんも言った。
「うーん。確かに、少し早すぎる気もするわね」
どうやら父さんと母さんは、俺が冒険に出ることにあまり乗り気ではないらしい。
だがこの流れはマズイ。二人ともまだ俺をこの村から出さない気だ。
くそっ! こちとら15年間も耐えに耐えて、何とかここまで生きてきたんだッ!
この村から早く出たい! 早くモン娘に会いたい! もう一押し、もう一押しだ! 俺!
その思いをぶつけるために、俺は椅子から勢いよく立ち上がって、テーブルに手を着いた。そのまま父さんと母さんに熱弁する。
「俺は! 父さんのようなカッコイイ冒険者となって世界中を冒険したいんだ! そして母さんのような素敵なお嫁さんを見つけたいんだ!」
すると、父さんも母さんも次第に頬を赤らめ、
「ま、まあな! 俺は世界中を冒険したカッコイイ冒険者だからな!」
「ま、まあね! 私は世界一美しいお嫁さんだからね! パパの!」
ふふ、二人ともチョロイな。あと母さん、俺は素敵なとは言ったが、世界一美しいとは言ってないぞ。
その後も俺は二人をヨイショしまくり、何とか許可を得ることができた。
「もう分かったわ、そこまで言うのなら行ってきなさい。でもね、疲れたり危なくなったら何時でも帰って来ていいのよ?」
「俺もママもずっとこの村にいるからな。安心して行って来なさい」
「ありがとう! 父さん! 母さん!」
その後、明日の儀式が終わったら直ぐ出発できるように、いろいろ荷物を準備してもらった。父さんからは片手剣と長持ちする保存食を、母さんからは旅先で必要になるであろう生活用品を貰った。
「あとこれも持って行って!」
「俺達二人からだ」
荷物を背負えるように紐を通した布袋に荷物を沢山詰め込んでいく。
全てが詰め終わり最終確認をしていると、父さんと母さんが俺に1つ袋を渡してきた。その袋を受け取り中身を見てみると、なんと大量の硬貨が入っていた。
「これはお金!? それもこんなに沢山…」
「そうよ、いつかスタンが冒険に出る時のことを考えて貯めておいたんだから。冒険先で少しでも負担を減らせたらと思ってね!」
「もちろん、それも使い続ければいつかは無くなる。それまでに安定した収入を得られるように頑張れよ」
俺は硬貨の入った袋を大きな布袋の奥の方に入れて、口をしっかり結んだ。
「父さん、母さん、さっきチョロイとか思って本当にごめんなさい。マジ愛してる」
こうして俺の14歳最後の1日が終わりを迎えた。
明日の成人の儀式が終わったら、ついに俺の俺による俺のための冒険者ライフが始まる。
だから今日だけは、父さんと母さんの家族3人で一緒に寝た。
*
朝1番。
ここは村の教会。成人の儀式はこの教会でやることになっている。こんな小さな村でも教会はあるのだ。
「スタン殿、貴方に神のご加護があらんことを」
そこで村の神父さんが目を瞑り、祈りのポーズをしたので俺もそれに習って目を閉じた。
すると周りの音が遠のいていくのを感じた。
「へいへーい、ほら少年、目を開けなよ! 俺っちだよ! 神様だよ! 久しぶり、少年!」
「アンタか……まあ、なんだかんだ言って15年ぶりだな」
目を開けると、そこは15年ぶりに見た何も無い真っ白な空間だった。そこに神様と俺がぽつんと立っている。
「それで? 俺に何の用だ。俺はこれから村を出て、モン娘ハーレムを築くべく冒険に出かけるのだが。用事があるなら手短に頼む」
「お? 何だか冷たいなー。ちょっと前までは、『あなたは神か!』とか言って俺っちを崇めていたじゃあないか。いきなりどしたん?」
「いやそれ15年前の話だから、あれから長かったんだぞ。普通ゲームなら冒険に出るところからスタートだろ」
「それは無理な相談さ、例え神といえど生命の始まりと終わりにしか干渉できないんだ」
どうやら神様だからといってなんでもできるわけではないようだ。
「ふーん、で用が無いならさっさと戻してくれ」
「君はだんだん冷たくなっていくね……じゃあ本題に入ろうかな」
そう言って神は自らの手を俺の頭に乗せた。すると頭に1つの情報が流れてきた。
「今のは?」
「君のスキルだ。この世界では生きとし生けるものは皆修練、又は突発的な出来事によりスキルを習得することができるんだ。ただし君には転生特典&成人記念としてユニークなスキルを授けたよ!」
【魔心伝心】モンスターの気持ちが分かる。
なるほどな、いいスキルだ。これがあれば俺の育成術も更に磨きをかけられる。少しぐらい神様にお礼を言わなければならないようだ。
「それでは少年! 行ってこい! 君の目指すモン娘ハーレムとやらへの旅へ!」
「……ああ、ありがとう。神様」
「え? 今ちょっとデレた? ねぇ、もっかい言って!もっか──」
その言葉とともに、俺の視界は真っ白に染まった。
気が付くと元の教会に戻っていた。
目のまえには未だ祈りのポーズをしている神父さんがいる。どうやら時間は経っていなかったらしい。
少しすると神父さんが目を開けた。その後成人の儀式は特に問題無く進行していき、無事終了した。
儀式の後は父さんと母さんと一緒に、村の人達に挨拶して回った。そして自分の家に帰って来る。
まずは着替える。冒険者に合うような動きやすくて丈夫な服だ。
そして昨夜準備した布袋を背負う。これにはこれからの冒険に必要な物が詰まっている。
最後に腰に片手剣をさす。これで完璧だ。
「父さん、母さん、行ってきます」
「「いってらっしゃい」」
俺は家を出た。そして村を出た。
ついにここから始まるのだ。俺の俺による俺のための冒険が!
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