森へ行こう
朝食を済ませ宿を出ると、サクラと一緒に真っ直ぐにギルドに向かった。
ギルド内は昨日と同じく既にそれなりの数の冒険者がいて、特に掲示板周りに人が多かった。
『なんか昨日よりもヒトが多いねー』
「みたいだな。何かあったのかな?」
うーむ?と2人(1人と1匹)で首を傾げていると、前の方から大量の書類を持ったユリさんが歩いて来た。
俺が気づくとちょうど向こうも気づいたようで、早歩きでこちらに向かって来た。
「おはようございますユリさん」
「はい、おはようございますスタン君」
「なんか昨日より人が凄いですけどなんかあったんですか?」
「そうなんですよ!フォイニル森林の初心者殺しが昨日討伐されたんです!お陰様で私は朝から忙しいくて忙しくて...」
手に持つ多量の書類を憂鬱そうに見つめるユリさんに心の中で同情しつつ、ユリさんが発した言葉について考える。
MGOにおいて初心者殺しはMGOプレイヤー全員で倒すレイドボスのようなモンスターであり、初期エリアに出てくるにしては莫大なHPと課金勢ですら数回で殺す異常な攻撃力を持ち戦闘で一定以上HPを削るか一定時間逃げ続けるかの2つしか勝利方法が無いという中々鬼畜仕様の存在だった。
ただフォイニル森林内に1匹しか存在しないし、一度討伐されれば再ポップまで一定期間の時間がかかる。
フォイニル森林で手に入る素材は中々汎用性が高いものが多く、初心者殺しとまともに戦えないプレイヤーはこの間に森の探索に繰り出していた。
だが、再ポップなんて概念がこの世界に存在するのか分からない為安易にゲーム知識で進むのは危ない。
「えっと、初心者殺しは1度討伐されたら暫く出現しない...んでしたっけ?」
「ええ、そうですよ。最近はそう言った事を調べない人が多いんですけど、スタン君はちゃんと勉強してるんですね。偉いですね!」
『スタンはえらいんだね!』
「い、いやぁ...俺はちょっと慎重なだけですよ」
ゲーム知識で聞いて予想外に褒められ少し恥ずかしくなったが、おかけで初心者殺しはゲームと同じ設定だという事を確認出来た。
昨日のグリーンウルフは割と楽に勝つ事が出来たので、フォイニル森林に挑戦するのもありだろう。
「じゃあ、今日はフォイニル森林に挑戦してみます」
「はい。初心者殺しがいなくても毒を使ってくるモンスターがいるので気をつけてくださいね」
『わたしはどくは治せないもんなー』
「ちゃんと毒消し持っていきます」
「それなら大丈夫です。でも「ユリー!さっさと書類持ってこーい!」うへ!?す、すいません副長!すぐ行きまーす!じゃあ、スタン君頑張って!」
ギルド内に響いた大声に慌ててユリさんは走って行った。
悪い事したかな?
そう思いながらも俺は掲示板に向かい『』森林の依頼書を探し始めた。
フォイニル森林。
昨日向かったホルトュナ大草原とは逆方向に位置する森で、その特徴は場所によって明るさに差がある事だ。
暗い所にモンスターが潜んでいて初めて訪れ奇襲を受けたという話はMGOでもよく聞いたし、俺自身それで驚いた記憶がある。
そんな森の中を俺とサクラは音を出さないよう慎重に、かつ素早く奥へ進む。
今回の依頼はコレだ。
森鹿の角が欲しい
適正ランクF以上
フォレストディアの角を入手。
フォレストディアは黒い1本の角が生えた鹿で、気性は穏やかだがこちらから攻撃すると蹴りやら角やらで容赦なく反撃してくる。
また、グリーンウルフ程では無いが足が早く基本的に群れで行動している。
ドロップアイテムは角だけでなく鹿肉が出る事がある。
個体数は多くフォイニル森林の中ならどこでもエンカウントする珍しく無いモンスターなのだが...
『いないね』
「いないな」
森の中を既に30分近く捜索しているが、未だに1匹もフォレストディアが見つからない。
受付の人がフォレストディアはすぐに見つかると言っていたので、ゲームと違うという事でもないだろうが何故か見つからない。
ポイズンビーは何匹か見つけたので、軽く腕試しで戦ったが、1度毒を受けたくらいで特に苦戦も無く勝利した。
毒になると若干気分が悪くなるようだし、毒消しは前世で飲んだ事があるドクダミ茶の様な味わいだった。
出来ればもう飲みたくないので毒耐性のスキルが欲しいです。
「ホントどこにいるんだ?サクラなんか見える?」
『うーんとね......さっきのはちは見えるよ。あと、何だろあれ?クマ?』
「あー、うん。多分デビルベアだな俺達じゃ無理だ。ちょっと迂回して進もうか」
デビルベアは初心者殺し程ではないにしろ、この森では上位の存在であり、今のメンバーと装備じゃまず勝てない。
頭の上に乗せたサクラの言葉でそそくさと別方向へ顔を向けると、その方向へ移動するフォレストディアが目に留まった。
「『......いた!?』」
俺とサクラは発見に驚きつつも、大急ぎで後を追った。
幸いにもこのフォレストディアはたいして足が早くないようで追跡は容易だった。
このまま追いかければきっと群れにたどり着けるだろう。
そしたらあとは隙を突いて1匹づつ仕留めればOKだ...ってこれだと冒険者と言うよりも暗殺者みたいだ...
そんな事を考えながら暫く追いかけていると、少しだけ明かりがさしていた場所で不意にフォレストディアが立ち止まり、そのまま地面に倒れた...倒れた?
『あれ?倒れちゃったよ?』
「...みたいだな。弱ってたのか?」
不思議に思いながらも、仕方ないと倒れたフォレストディアにトドメ刺そうとして妙な感覚に陥った。
あれ?俺なんかこの状況知っているような......あぁ、そうだ。ゲームで初めてこの森に来た時も...そうだフォレストディアが倒れて...そんで...初心、まずい!
足元にあった俺の影にさらに巨大な影が覆いかぶさったのを見て、咄嗟にバックステップをした。
直後フォレストディアを潰すようにソレは現れた。
『え、な、何このモンスター!!?』
「は、はは...昨日討伐されんじゃねぇのかよ...!」
サクラの悲鳴を聞きながら俺は目の前の巨体を睨みつける。
曰く「運営のミス」、「生きた絶望」、「全ロスの不条理」、「廃課金泣かせ」。
「グギギ!!ゴガガガァァァ!!」
初心者殺し『アラクネロス』。
フォイニル森林の死が降臨した。
はい、どーもこんにちは!13話担当の欠陥少年です。
夏だと言うのに最近暑かったり肌寒かったり、地球温暖化酷くなってるなぁと日々感じています(本編には全く関係ありません)。
さて、初心者殺しと対峙したスタン君。彼は生き残る事が出来るのでしょうか!?
次回に乞うご期待!!
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