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第3話 バカ息子?

「おう。ごめんよ」


と、何となくそわそわ入ってきたのは、「倉田運送」と書かれた作業着をきたおじさんだった。

本日のお客様の名前は、倉田秀雄。48歳。

絵里(ねぇ)がにこやかに暗幕の中に通した。

きょろきょろを周りを見渡し、落ち着かない様子で椅子に腰かけた。


私は麻美といつものように別室で様子を見ていた。

ここには、似つかわしくない、が第一印象の無精ひげのガングロおじさん。

「あのよ。そのっ。コレがすすめたモンでよぉ。俺はこんなの信じちゃいねぇけどよっ」

小指を立てる。

その小指は女を意味します。知らない方のため。

「その…、なんだ。俺のバカ息子がよ…、ってか…。う〜ん…」

ごつい指で無精ひげをなで、そして、鼻水をすすった。

「…なんだ。そのなんて言うか。とにかく、バカ息子でよ…」

声が震えている。

話のまとまらない倉田さんを絵里(ねぇ)は静かに見守っている。

「…万引きだの、窃盗だの、散々悪さして…。やっと入った高校も入ってすぐに中退しちまうし。フリーターだの言ってプラプラしやがって。ガキの頃、母ちゃんが出てって淋しい思いさせちまったのは俺のせいだけどよぉ…。何もよぉ〜。死ぬこたぁ、ねぇだろっ」

大体の事情はわかっていた。

このおじさんの『コレ』がネット予約の際に、詳しい情報を書いたのだ。

別室の麻美が静かに言った。

「正確には死んでいませんが…」

すると、モニターに映るおじさんも、

「死んでは、ねぇんだ。そうなんだ。ケンジはまだ死んでねぇんだ」

そう言うと、一枚のカードを「倉田運送」と書かれた作業着の胸ポケットから出した。

黄色のカードには天使がにっこり微笑んでいる。


おじさんの息子は盗んだバイクで走行中に電柱に激突した。

ヘルメットを被っておらず、激しく頭を打ちつけ、彼は脳死と判定された。

その息子は、万引きや窃盗などくりかえしては、警察にお世話になるような息子である。

しかし、その息子が「臓器提供意思カード」を持っていたのだ。

もし、本当なら息子の最後の願いを叶えてやりたいと思うが、一方で、どうしても信じられないのである。そうして、『コレ』の勧めでここに来たわけである。

脳死が『死』であるなら、息子も霊となっていて話せるのではないか、というわけだ。



数日前。

この仕事を引き受けることにした絵里(ねぇ)は、私に調査を命じた。

そして、私は、妹の麻美と絵里姉ちゃんに調査結果を差し出した。

ICレコーダーである。

ここには、私と息子であるケンジの友人たちの会話が入っている。


ケンジの友人たちは、今時の若者にしては、リーゼントとかスカジャンとかボンタンとかが似合うどこか懐かしい風貌の方々だった。


友人Aの声

『えぇぇぇぇ?ケンジの生き別れの妹ぉ???』

ちなみに、話を聞き出すために私は生き別れの妹になった。

まぁ、世の中、テレビのような出来事は多いはず。

真実はナントカより奇なり…って言うし。

私の声

『お兄ちゃんを探し出した時には…、うぅぅ…だから、お兄ちゃんのこと、何でもいいので教えてください〜うぅ…』

涙が出るほど演技派ではない私は目薬を使う。

友人Bの声

『そんな話。ケンジは一言も言ってなかったけど』

私の声

『お兄ちゃんは知らなかったんです。お母さんが家を出て、すぐに妊娠がわかって…、でも、お父さんにもお兄ちゃんにも、何も言わないで…、うぅぅ(目薬)』

友人Aの声

『なんて、かわいそうなんだ。ケンジにこんなかわいい妹がいたなんて…』

かわいい?!友人Aいいやつ。だから、ケンジもいいやつ。

よって、臓器提供意思表示カードは本物。


「理真お姉さま…独り言がはいってます」

「理真ぁ?ちょっとぉ〜。これで終わり???」

「…続くよ」


私の声

『あのぉ…。父には内緒にしてください。お母さんの立場もあるので…』

友人Aの声

『わかってるって!まかせとき』

私の声

『うぅ〜(目薬)』

友人Cの声

『あいつも、ついてねぇよな。こんなんで死んじまうなんて。17歳だぜ?ちょーついてねぇ。死んでも死にきれねぇ…から、まだ死んでないのか?なぁ、脳死って何?』

私の声

『おにいちゃんは、いい人だったのですか?』

友人Aの声

『いいやつ。だったぜ〜。チャリの鍵とか外すのうまいし、バイクの直結とか…』

友人Bの声

『ヨッシー!』

友人Aの声

『…あ。いや。まぁ、漢字も書けないけど、いいやつだったよ〜』

友人Cの声

『なぁ、脳死って何?脳が死んでるってこと?ちょー意味わかんねぇ』

友人Bの声

『ねえちゃんよ。何が知りたいんだ?』

私の声

『思い出、ばなし…?主に、いい感じの思い出話を中心に…なんて、あれば…』

友人Aの声

『略して、イイオモバナ〜?何がでるかな?何が出るかな?』

友人Cの声

『なぁ、脳が死んでないなら、何が死んでるんだ?』

友人Aの声

『ケンジのイイオモバナ〜。イイオモバナ〜』

友人Cの声

『なぁ、脳以外は生きてるのか?体は動いているのか?』

友人Aの声

『イイオモバナ〜。えっと、ケンジはタバコは二十歳からって決めてるし。すげえよな。二十歳まで3年も我慢するって。すげえいいやつ』

友人Bの声

『いい話ね。そう言えば、ケンジさぁ、捨てられた犬を見て、ずっと泣いていたよな。自分と重ね合わせているのかなって思ったけど…。もともと涙もろいやつだったな』

友人Aの声

『あ〜。それ、チョーイイオモバナじゃん!!そう。そう。そういうのに弱かったよな。テレビとか感動モノに弱いんだよ。同じシーン見ては泣いていたなぁ〜』

友人Bの声

『そうだったな。最近、ハマっていたのって、あれ、何だっけ?“じゅんパパ”だっけ?』

友人Cの声

『体が動くって事は、ご飯は食べてるのか?なぁ?』

友人Aの声

『そう。そう。オレたちにも勧めていたよな…』

私の声

『“じゅんパパ”…?』

友人Bの声

『あれ見て、ずっと泣いていたよ』

友人Cの声

『ケンジって動けるのか?じゃあ、今、何してる…』

プチ



「…ここまで、ですか?理真お姉さま」

「ちょっと!理真?」

「ここまで、だよ」

私は、そう言ってから、携帯を取り出した。

「“じゅんパパ”ってのは、ケータイ小説だったの。ここに答えがあったの。ココにね!」

『ココ』を見て、麻美が頭をひねった。

「腸?浣腸?」



そして、時は戻る。

今、倉田ケンジの父の前で絵里(ねぇ)がぶつぶつと何かを唱え、そして、ケンジの霊が絵里(ねぇ)にのり移った!ことになっている。

「…オレは、ずっと、悪いことばっか、やってきて、超反省してます。親父にも心配ばかりかけて、ホントに悪いって思っているし…、いいこと、しなきゃって思うよ。でもさ、いいことって何かぜんぜんわかんなかった。でも、誰か助けたい。とりあえず、ドナー登録をする。盗んだバイクも返してくる。オレは、親父に謝る。そして、親父の会社で働きたい」

と、呟いた。

倉田さんは、絵里(ねぇ)を見て、目をぱちくりさせた。

「…ケンジだ。ケンジの言い方にそっくりだ」

「ふぅ〜。これがケンジさんの本心です。お父様に謝っています。お父様と働きたいと言っています。でも、それは叶いません。ならば、ケンジさんのもう一つの望みを叶えてあげてください」

倉田さんは黄色のカードの中の天使の微笑みをじっと見つめたまま、無精ひげを抑え何度も頷いた。



倉田さんを見送り、絵里(ねぇ)は黒のサリーを脱いだ。

「はぁ〜。脳死って微妙だよね。体は生きているんだよね。死んだって言われたって、信じたくないよね」

「現在、一般的には心臓停止が人としての死とされています。でも、心臓が止まっても細胞はしばらくは生きています。どこで死の線を引くか。見た目では心臓の停止がわかりやすいですから仕方がないですね」

麻美はジッと携帯を見ながら言った。

「麻美。もしかして、“じゅんパパ”更新したの?」

「…はい」

「ちょっと!教えてよ!」

“じゅんパパ”はケータイ小説の一つだった。

正式な題名は、「じゅんのパパでよかった」。

簡単に説明すると、

『小学生のじゅん君は、心臓移植が必要なほどの心臓病を患っている。日本では子供の心臓移植は認められていない。じゅん君の両親はアメリカへ行くために必死で募金を募るなどして頑張っている。そして、もう少しで、アメリカへ行けるってところで、じゅん君のパパが事故で脳死となるのだ。ママは泣きながら、「臓器提供意思表示カード」を医者に提示する…』

と、話は連載中のため、その後の展開はまだわからない。

ケータイ小説には、読者が感想を書き込める。

そこに本名で感想を書いていた人物がいた。

「くらたけんじ」

『腸、浣腸した。オレは、ずっと、悪いことばっか、やってきて、腸反省してます。親父にも心配ばかりかけて、ホントに悪いって思っているし…、いいこと、しなきゃって思うよ。でもさ、いいことって何かぜんぜんわかんなかった。でも、何かこれ読んでちょっとわかった。誰か助けたい。とりあえず、ドナアになる。盗んだバイクも帰してくる。オレは、親父に誤る。そして、親父の会社で働きたい』


腸、浣腸した…? 腸、浣腸した…? 腸、浣腸した……? 超、感動した……?


うちは当たると評判の…なんだっけ?


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