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第2話 運命の出会い?

「僕、運がないんです」


いかにも運のなさそうな男性が今日のお客様である。


うちは完全予約制である。

ただし、一見(いちげん)さんの予約は土日しか取れない。

それは、私、理真は高校生だし、妹、麻美は中学生だからである。

私たちは三人で一人前である。

とはいっても、それだけでは商売にならないので、祖母が残してくれた常連さんも定期的に霊視する。それらももちろんリサーチ&アフターフォローをするが、慣れているので姉が一人でもお客様の対応は可能である。そういうわけで、平日は常連さん専門で、土日は一見さん専門ある。



一見さんには、ネットで多少の情報を入れてもらってからオフィスの場所をメールで案内する。

そして、今回のお客様の情報も前もって得ている。

男性の名前は、『鈴木 剛史』

年齢『31歳』

住所『東京都江戸川区△△1-2-3-102』

職業『会社員』

趣味『なし』

特技『なし』

好きな女性のタイプ『優しい人』

相談内容『運気をあげたい』


「遠足では、必ず下痢になりました」

いた。いた。いた。そんな運のないやつ。

「修学旅行前日には盲腸になりました」

いた。いた。そんな運のないやつ。

「年に1回は車にはねられるし、予防接種をしても毎年インフルエンザにはかかるし、蚊を手でつぶしても必ず血を吸われた後だし、銀座で蜂には刺されるし…」

いた。いた…

「何より、悔しいのは、好きになる女の子は、必ず僕の友人を好きになるんです」

いた…。

「彼女いない歴、31年です」

痛い…。

イケメンとは言えない顔で鈴木さんは肩を落とす。


私と妹は別室でその様子をモニターを通して見ている。

妹が呟く。

「マリエおばちゃんの出番かもしれませんね」

マリエおばちゃんとは、親戚ではなく、うちと業務提携している結婚相談所『マリエーヌ』のおばちゃんである。

こんなことがあると、マリエおばちゃんにちょうどいい人を見繕ってもらうのだ。

もちろん、お見合いさせるわけではない。

そして、私たちがすることは違法らしい。

麻美が渋い顔で、個人情報保護法がなんたらかんたらとぶつぶつ言いながら、マリエおばちゃんに連絡し、絵里(ねぇ)が鈴木さんからそれとなく聞き出した女性のタイプをマリエおばちゃんに伝えている。

うちはアフターフォロー完璧「インチキ霊媒師」だ。

そして、恋の出会いもさりげなくサポートする。

「理真お姉さま。今回はどの脚本がいいと思います?」

麻美はパソコンの深い溜息をついて私にPCの画面を見せた。

フォルダ名『運命の出会い』には絵里(ねぇ)お手製の脚本が収められている。


『その(1) 月九的偶然てんこ盛り』

『その(2) 火サス的ミステリーは突然に』

『その(3) 昼ドラ的どろんどろん』

『その(4) 世にも奇妙的ありえない』

『その(5) フレンズ的キャサリン&ディラン』

『その(6) 24的ジャックバウアー』


「どれがいいですか?理真お姉さま」

「どれもこれもないよ。その(1)以外できないでしょ!」

「それもそうですね」

この脚本は増殖中である。

ほぼ絵里(ねぇ)の趣味である。

その(6)ではビルが爆破され、そこで愛が芽生える。

無茶苦茶だ。

その(1)では徹底した偶然を何度か作り上げる。

「マリエおばちゃんから連絡が来ました」

麻美はそう言いつつ、メールで送られてくる情報を読んでいる。

この情報から具体的な『運命の出会い』を作り上げるのは麻美の仕事だ。

絵里(ねぇ)は、イヤフォンをしている。

そこから、麻美の作った『運命の出会い』の情報を聞く。



数日後、私はとあるファミレスに来ている。

鈴木さんは休日にここで資格の勉強を始めたのだ。

資格を取るように勧めたのもここで勉強をするように勧めたのも、鈴木さんの(ひい)爺さんだ。

鈴木さんの(ひい)爺さんはインチキ霊媒師の口を借りて、鈴木さんに勧めたのだ。

本当に素直に言うとおりにしてしまう鈴木さんはいい人なのか、おバカさんなのか謎だ。

ちなみに、私は今日が初日の新人アルバイトになっている。

そして、アルバイトの先輩には、少しぽっちゃりした女性がいる。

その女性はマリエおばちゃんの結婚紹介所に登録している女性だ。

適齢期を過ぎ、親が心配して勝手に登録したらしい。

女性の名前は、『安藤 寛子』

年齢『34歳』

住所『東京都江東区△△5-6-9』

職業『日本語教師・ファミレスアルバイト』

趣味『ブログ』

特技『料理・英語・中国語』

好きな男性のタイプ『優しい人・頼りになる人』


今日のヒロインだ。

麻美がこの女性を選んだのは、「優しい」のキーワードと住所が近いからだ。

お互いの好みに合わせるより、物理的に近い方が重要であるというのが絵里(ねぇ)の持論だ。

確かに住所が近い方が偶然を装いやすい。

とにかく、寛子さんに鈴木さんの顔を覚えてもらうのが、ステップ1。


私はハンバーグセットを頼んだ鈴木さんにチョコレートパフェを出す。

取り換えるときには、フロアの責任者である安藤さんが謝罪に行くはず…

しかし、鈴木さんは何も言わずチョコレートパフェを食べている。

失敗。

次に、私は蠅を入れたコーヒーを出す。

しかし、鈴木さんは黙って蠅入りコーヒーを飲んでいる。

失敗。

次に、私はつまずいて隣の客のハンバーグセットを鈴木さんの頭からかけた。

「すみませ〜〜〜ん」

私は喜々として寛子さんを呼ぶ。

フロア責任者の寛子さんは深く頭を下げた。

「申し訳ございません」

成功。

「いいんですよ。僕、本当に運が悪いんです。よくあるんです。だから、気にしないでください」

鈴木さんはへらへら笑いながら、布巾で顔を拭いている。

「あのクリーニングを…」

寛子さんが申し訳なさそうに切り出すと、鈴木さんは首を横に振った。

「いいんです。どうせ安物だし…。僕の運の悪さのせいですよぉ」

へらへら笑っている。

笑う門には、悪運来たる。

運気を上げたい割には、その運のなさを受け入れているように見える。

悪霊すらウエルカムゥ。

今回の悪霊は絵里(ねぇ)だ…


「でも…」

ハンバーグの香りを放つ鈴木さんの笑顔を見ながら、寛子さんが困ったように唸った時だった。


ボン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


ものすごい爆音がキッチンから聞こえた。

「きゃっ」

「うわっ」

「何?」

客席がざわつく。

寛子さんは固まったまま、動けない。

すると、鈴木さんが、

「あのぉ…ガス爆発みたいですよ。早く従業員と客を避難させてください。僕が消防に電話します」

意外にも、落ち着いててきぱきと寛子さんに指示を出した。

「…え?あ…。でも…」

「早くしましょう」

鈴木さんがやっぱり笑顔で寛子さんに言った。

寛子さんはジッと鈴木さんを見つめてから、頷いた。

私は辺りを見渡す。フロアには被害はない。

「寛子さん!私はキッチンを見てきますから!」

「え?でも、危な…」


結局、ガス爆発は小さく、けが人も出なかった。

警察や消防署の人たちがウロウロしている中で、私は鈴木さんといた。

「鈴木さん…でしたっけ?ずいぶん落ち着いていますね。なかなかあの状況であれだけ的確に指示できる人っていないと思います」

「え?僕が?う〜ん。だって、僕、運が悪いから、よくあることだから…」

へらへら笑っている。

笑う門には、悪運来た…

「すみません!」

話を割ってきたのは、警察の取り調べを終えた寛子さんだ。

「あの、ありがとうございました。お礼をしたいので、連絡先を教えてもらえませんか?」



「…と、いうわけ」

私は、事の顛末を、絵里(ねぇ)と麻美に話した。

「初めて、『運命の出会い』がうまくいきそうですね」

「そう。初めてだよね〜」

私と麻美は絵里(ねぇ)をしらじらと見た。

そうなのだ。

今まで何度も『運命の出会い』を演出したが、せいぜい知り合い止まりだったのだ。

『偶然の出会い』が『運命の出会い』になるなど滅多にない。

絵里(ねぇ)は、ちょっとムッとしたように反論した。

「なによ〜。私はね。いつも、そこに素敵な出会いがありますよ〜って言っているだけ。恋人ができるなんて一言も言っていない。出会いがあったのは、間違いないでしょ。今回だって、ぼやぼやしていると、友達に取られちゃうかもしれないし。その出会いを活かすか殺すかは、その人の運次第よ!」

確かにインチキ霊媒師…じゃなくて、絵里(ねぇ)の言う通りだ。

『運』って何なんだろうか…

「それにしても、案外『その(6)』っていけるわね…」

絵里(ねぇ)の呟きが聞こえた。

その(6)ってまさか…『その(6) 24的ジャックバウアー』?

「ちょっと!あの爆発は、偶然…」

私の言うことなど聞かず、絵里(ねぇ)は不敵な笑みを浮かべた。

「運命の爆発…」


うちは、当たると評判の…テロリストだっけ?


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