第1話 霊媒師のお仕事?
うちは、『霊媒師』を生業としている。かっこインチキかっこ閉じる。
なぜかっこをつけたかというと、全く霊能力がない霊媒師なのだ。
霊能力のない霊媒師を『霊媒師』と言っていいのかわかんないけど、面白くもないのにコメディーとずうずうしく言ってのけるような…この話と同じようなものだ。
しかし、うちは結構当たると評判の霊媒師である。
その辺の面白くないコメディーとはわけが違う。
なぜ、当たるかって言うとインチキだからである。
おっと待て。
インチキだから当たる?当たらないのはホンモノ?
あれ?あれ?
当たるのは、インチキ?ホンモノ?
え?どっちだっけ?
インチキは霊能力がないから、当たらないし。
ホンモノは霊能力があるから、当たるはずである。
確かホンモノは、霊とお話ししたり、前世ってものが見えるのだから…
えっと、ですね。
つまり、当たるのは、ホンモノだ。
当たるのが、ホンモノだから、
インチキは当たらないってことになるのか?
インチキは当たらないのに、うちの霊媒師は当たると評判だ。
インチキにもかかわらず、霊と話せないにもかかわらず、当たるのだ。
うちの霊媒師の影のモットーは、完璧なリサーチ&アフターフォローである。
普通の霊媒師さんはそんなことしないはずだ。
そんなこんなで、つまり、うちは『インチキ霊媒師』屋さんである。
うちの家族は、姉と妹と私の三姉妹です。
私は、次女、瀬戸内理真。アフターフォロー担当。
長女、瀬戸内絵里。インチキ霊媒師の顔とも言うべき存在である。
三女、瀬戸内麻美。リサーチ担当。
たまに状況によっては、担当が変わることがありますのであらかじめご了承ください。
私たちは両親を早くに亡くし、育ててくれたおばあちゃんも一昨年亡くなった。
言っておきたいことは、おばあちゃんはホンモノの霊媒師だった。
しかも、当たるホンモノだ。
あれ?ホンモノは当たるものだから、当たるホンモノってのは、どういうことだ?
まぁ、いっか。
以前は、おばあちゃんが残してくれた常連さんにのみ『インチキ霊媒師』をしていた。
その後、いろんなことがあり…
…気が向けば、その時の話とか、こうなってしまった話もしようと思う。
とにかく、今は儲からない一見さん相手にも手広く『インチキ霊媒師』をしている。
あなたの運をひらいてみませんか?
まずは、このドアをひらきましょう!
そんなキャッチコピーが書かれた扉には、さらに、『貞子の孫』とある。
貞子は祖母の名前である。
その孫だから、『貞子の孫』らしい。
『新宿の母』とか『銀座の母』の真似である。
なんとなく意味を取り違えた微妙な名前である。
その『貞子の孫』の扉を開けると、まず衝立がある。
左に行くと暗幕があり、そこををくぐると霊視用の部屋がある。
衝立の奥には応接間があり、応接間の右奥に扉がある。
その扉には、手書きで「STAFF ONLY」と書かれた紙が貼ってある。
*
さてさて、本日のお客様は30半ばの女性のようだ。
そして、今日も絵里姉は霊媒師のコスプレでお客様の前に座っている。
「あの〜。タマを探してほしいのですが…」
最近のペットブームで、たまにある相談だ。
恐らく初めは自分で探し、その後、興信所などへ行き、そこでも見つからなかったなかったのでここに来たのかもしれない。
そう考えると、タマがいなくなって、かなり時間がたっていると考えられる。
絵里姉は、目を閉じてぶつぶつ口の中で言ってから、呟いた。
「タマは猫ちゃんですね」
昔から、タマと言えば、猫だ。
「え?どうしてわかったんですか?」
サザエさんの力だ。
「あなたの曾お爺様が教えてくださいました」
絵里姉は、お客様の曾爺さんとお話しする。
30歳過ぎ女性の曾爺さんは大概亡くなっている。
しかも、最低4人はいるのだ。
本当かどうか誰も判定できる人はいない。
大半の人は、半信半疑。
だが、その女性は驚いている。
結婚詐欺のカモの素質がある。
そして、その女性は一枚の写真を取り出し、絵里姉に見せた。
「まぁ、なんて可愛らしい…。早く探してあげなくては…」
絵里姉の芝居は大袈裟だ。
涙まで浮かべている。
その女性も泣いている。
「うぅ…、元彼からもらったんです。血統書つきの猫だって言ってました」
「血統書つき?ですか…」
「アメリカンショートヘアー」
私からは猫の写真は見えない。
アメショーにタマとはずいぶん思い切った名前をつけたな。
「…のクオーターって元彼が言っていました」
人はそれを雑種という。
「お願いです!タマを、タマを探してください!!」
私と妹の麻美は、「STAFF ONLY」の扉の奥にいた。
麻美はパソコンで何かを検索している。
パソコンの前には、モニターとスピーカーがある。
ここでは、暗幕の中の様子が手に取るように分かるのだ。
モニターでは、絵里姉が女性の曾爺さんと会話している。
「理真お姉さま。ちょうどいい猫がいましたわ」
麻美は落ち着いた様子で私に向きなおり、パソコンの画面を見せた。
「はい。はい」
画面には「仔猫の里親募集」文字。
タマによく似た仔猫が潤んだ目で何かを訴えている。
*
数日後。
『曾爺さんの言うとおりでした〜。公園であの子に生まれ変わりに出会いました〜』
電話の向こうで女性が泣いていた。
あの後、私は里親を募集していた人から猫を引き取りに行き、女性の家の前で『偶然、里親を探す女性』を演じた。
「本当のタマちゃんは、どこ行ったのかな〜?」
私は、勝手に絵里姉が「死んだ」ことにしたタマを思った。
「あの雑種?たぶん。元彼んところよ」
「なんで、わかるの?」
「女のカンよ。そうでしょ?麻美」
「はい。そのようです。元彼の自宅を調べましたから」
三女の麻美は溜息をついて言った。
「あれ?そこにはいないって言っていたよね。元彼が隠していたのかな?」
次女の私はごもっともの疑問を持ってみた。
「さぁねぇ…。本当のことはわかんないわよ。それに、彼女が本当に仔猫を探していたのかもわからないわ。ただ、彼女が、『タマの生まれ変わり』にあったのは、運命だったのよ」
長女の絵里姉は強引に話をまとめた。
最近のペットブームでペット探しの相談がたまにある。
いなくなったペット探しは興信所やなんでも屋の仕事だ。
では、インチキ霊媒師の仕事はなんだ?
私は『アメリカンショートヘアーのクオーター』の写真に目を落としながら無意識に懐かしのメロディーを口ずさんだ。
「迷子の迷子の子猫ちゃん〜。あなたのおうちはどこですか。名前を聞いてもわからない。おうちを聞いてもわからない。にゃんにゃんにゃにゃん。にゃんにゃんにゃにゃん。泣いてばかりいる子猫ちゃん。犬のおまわりさん。困ってしまって。わんわんわわん。わんわんわわん♪」
突然、麻美は不思議そうに呟いた。
「その童謡は種のコミュニケーションの壁を意味しているのでしょうか?遠まわしに人間とペットの関係性を皮肉っているともとれるような気がします」
「にゃーんとワンだふるな歌かしらん」
「絵里お姉さま。寒いです」
「にゃ、にゃ…」
「理真お姉さま。絵里お姉さまに対抗しないでください」
うちは、当たると評判の霊媒師、かっこインチキかっこ閉じる、である。