僕とシャーレと春の雨
実験室からシャーレがなくなった。
「シャーレ、なくなってしまった。これじゃ、実験進められないよ。」と、僕(土井 康夫 あだ名はどやる)はため息混じりに呟いた。
近くで実験をしていた山田先輩が、僕のため息に気がついた。
「どやる君どうしたの?」
「あ、山田先輩!実はシャーレが実験室からなくなってしまって…。」
「シャーレなら、外の倉庫にあるよ。ダンボールの中に入っているから、その段ボールごと運べば良いよ。」と山田先輩は優しく僕に教えてくれた。
「先輩、ありがとうございます。でも今日は雨ですよね…。」僕は春になったばかりの外を見ながら、またため息をついた。
「どやる君、元気だして。今は雨強いけど、天気予報によるともう少ししたら弱くなるらしいよ。」
「山田先輩、そうなんですか。なら、その時にダッシュで倉庫まで行ってきます。」
「そっか気をつけてね。シャーレはあまり雨に濡らさない方がよいから、無理はしないでね。」と優しく僕に言い残し、山田先輩はお弁当を買いに出かけた。
もう少しでお昼時で、僕のお腹の音もなっていたが、僕は山田先輩が言い残した「もう少ししたら雨は弱くなるよ」という言葉を信じ、その時を待っていた。
ー数分後ー
山田先輩が予言した通り、雨が弱くなった。
「今が攻め時じゃー」と僕の中のどやるが僕に語りかけた。
次の瞬間、僕は外の倉庫を目指し、廊下を走り始めた。
(廊下を走ってはいけません!雨の日は特に…)
そして、僕はなんとか外の倉庫にたどり着いた。
僕は、シャーレが入ったダンボールを探し始めた。
探しているものはすぐに見つかった。
僕は、ダンボールをしっかりと持ち、倉庫から出た。
不幸にも僕が倉庫から出たと同時に、弱くなっていた雨がまた強く降り始めた。
「まじかよ、こんなことになるなんて…」と僕は僕自身の運のなさを感じつつ、雨が弱くなるまで倉庫で雨宿りをすることを決めた。
しかし、雨が弱くなる気配は一向になく、お腹が減っていた僕は、この強い春の雨の中、シャーレが入ったダンボールを持って実験室まで駆け抜ける事を決意した。
「僕の全力で君を守るよ」とシャーレが入ったダンボールに僕は誓った。僕はダンボールを雨から守ろうと必死になって走った。
ー数分後ー
ようやく、僕は実験室までシャーレが入ったダンボールを運ぶ事ができた。僕は無事にたどり着く事ができた。しかし、「守るよ」と誓ったシャーレが入ったダンボールは雨に濡れてしまっていた。
「う、う、うああああああ…」と僕は思わず泣き叫んでしまった。
その僕の声を聞き、山田先輩が駆けつけて来てくれた。
「どうしたん?」と聞いてくれた山田先輩に、僕は一連の出来事を語った。
僕の話を聞いた山田先輩は僕にそっと話しかけた。
「どやる君。君は確かにダンボールを守ることはできなかった。けど、ダンボールの中にある、大事な大事な物を守る事はできたんだよ。」
その日食べたお昼のお弁当は、凄く美味しく感じた。
ーおしまいー