僕の蓋然性
「お待たせしました」
注文した料理が目の前に並ぶ。僕は見届け、店員に感謝を伝えた。
「相変わらずにやさしいね」
料理越しに座る彼女が小さく笑うと、僕は照れ臭さを隠すように、さっきの続きと促した。
「好きになる異性って、どんな人?」
彼女の近況や恋愛のこと、すべての話が聞きたかった。
「そうね……たとえば、お店の店員の人にもやさしい人。話をちゃんと聞いてくれる人。あと、正直な人かな」
僕はうれしい気持ちを抑えて、嫌いになる異性も聞いた。
「それなら……お店の店員の人に失礼な人。話をちゃんと聞いてくれない人。あと、嘘をつく人かな」
満足のいく解答に、僕は今だけの時間を存分に味わった。
それから、店を出る間際に彼女の前で店員に難癖をつけた。帰り道では彼女の話をあしらい、僕らは別れ道に着いた。
「あの頃にはもう戻れないんだね。私たち……ううん。あなた、変わった」
別れ際。さようなら、と彼女の最後の一言は哀しそうだった。
僕は彼女の後ろ姿を見送り、初恋の人との再会を終えた。
「これでよかった」
朝を待つ夜のなかで言葉が消える。
僕はまだ彼女のことが好きだった。それでも、いまの彼女には大切な人がいる。
僕の初恋に捧げる、最初で最後の嘘。
これだけ嫌われる異性になれば、僕への可能性はないだろう。