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狙い 10


 縛り上げられ、転がされた黒ずくめたち。

 その中で指揮を執っていた、まず間違いなくリーダーであろう男の前で、ボクとサクラさんは腕を組んで見下ろす。


 協会支部を襲撃し占拠。そしてボクとクラウディアさん、それに女性騎士を拘束した連中。

 けれど突入してきたサクラさん一人によって全員が昏倒、今は逆に拘束され床に転がっていた。

 もっともその中のひとり、最初から顔を晒していた男だけは、椅子に座っているのだけれど。



「で、どうするんです?」


「どうもも何も、手段は簡単よ。身体に聞く、丁寧に、優しくね」



 そんな襲撃者たちを眺め、サクラさんはニヤリと嫌な笑みを浮かべる。

 あえて説明するまでもなく、これから行おうとするのは取り調べ。あるいは尋問という作業だ。


 本来ならこういった行為、騎士団が専門的な人員を用いて行うところ。

 こいつらはおそらく野盗集団の人間で、上からの報復を恐れて口を割らない傾向があるため、そこから聞き出すノウハウを持った人員が担当するのだ。

 けれどそんな人が居るのは、大都市に駐留している騎士団の部隊くらいのもの。

 人口が徐々に増えているとはいえ、あくまでも地方の漁師町であるカルテリオに居るはずがなかった。


 そこでやろうというのだ、サクラさんが自ら。



「あー……。ごめんクラウディア、もう一度扉と窓を閉めてもらっていいかな」



 これからやるのは、少々荒っぽい手段であるのは間違いない。

 そのため他の人たちに見られぬよう、サクラさんは再び協会の建物を閉じるよう頼んだ。



「また?。……全部閉めればいいの?」


「そう全部。また暑苦しくなるけれど、ちょっとだけ我慢して」


「あまりやり過ぎないでよ。後で掃除する身にもなって頂戴」



 サクラさんの頼みにげんなりとした反応を示すも、とりあえず窓を閉めていくクラウディアさん。

 彼女はこれから何が行われようとしているのか、そいつが町の住民たちに、特に子供には見せられないというのを察していた。

 当人が言うように、協会の建物を汚されては堪ったものではないのだろうけれど、致し方なしと考えたようだ。


 クラウディアさんが窓と扉を閉め、女性騎士は壊れた窓のところに布を掛けて目隠し。ボクは壁の燭台に火を灯していく。

 そうして一応ロビー全体を照らす程度の明かりを確保すると、サクラさんは満足げに再び黒ずくめに向き直った。



「さーて、起きたらどうやって聞き出したものかしら」


「またそんなことを言って。手段はもう決めてるんじゃないですか」



 男たちを前に意気込むサクラさん。彼女はこいつらが目を覚ましたら、どうやって尋問したものかと呟く。

 けれど発されたその言葉はわざとらしく、ボクは彼女が手に持っている物を見て、ジトリとした視線と共に指摘をした。


 サクラさんの手には、ひたすら頑丈そうな木の棒が握られていた。

 こいつは見覚えがある。この協会支部は元来が宿屋であり、簡単なものではあるが酒場としての機能も備えている。

 そのため時折、協会内で酔っ払い手がつけられなくなる勇者も居り、そういった相手をお仕置きするためにカウンター向こうに置いていた代物だ。


 強度の強さに定評のある木材を使った棒だけれど、あくまでも普通の人であるクラウディアさんが、勇者に対し振うのであればちょっと痛い程度で済む。

 しかし相手が悪党であるとはいえ、勇者が普通の人間に振えばただでは済まない。

 一発で骨は砕け、二度と再生されることはないだろう。

 そして目を覚ました悪党どもも、そいつにすぐ気づくはずであった。



「そうこう言ってる間にお目覚めみたいね」



 手にされた木の棒を恐ろしく思っている内に、どうやら目を覚ましたヤツが。

 見れば唯一椅子に縛り付けられた、最初から顔を晒していた男が唸り、瞼を開けようとしていた。


 見ていると男はしばし混乱した後に、蝋燭で照らされた室内を見回す。

 すると徐々に意識がハッキリしてきたのか、自身が拘束されているのに気づき、目の前に立っているサクラさんを見て息を呑んだ。

 ボクを人質に言うことを聞かせようとしていたのだ。当然サクラさんの顔くらいは把握している。



「要件は言わずともわかるだろうけど、一応伝えておく。誰の指示でやったか言いなさい、それとアジトも」



 目を覚ました男へとサクラさんは手を伸ばし髪を掴む。

 そして引き千切らんばかりに持ち上げると、淡々と要件を伝えていた。


 ただそいつは野盗のくせに、なかなか肝の座った輩であるようだ。

 一旦手を離され、椅子ごと地面に転がった男ではあるが、挑発的に笑い返してくるばかり。

 白状することによって、自身の上に立つ人間からされる報復が恐ろしいというのもあるだろうけど、まだサクラさんのことを侮っているように見える。



「参ったわね、完全に舐められてる。こういった状況に慣れてるのね」


「当然だろう。俺らを誰だと思ってる」


「悪党。それも妙なところで詰めの甘い、どちらかと言えば2流……、いや3流寄りのね」



 肩を竦めるサクラさんに、男はなおも余裕綽々といった態度を崩さない。

 けれどサクラさんが軽く鼻で笑いながら、男を3流と言い放ったところで、男はギラリとした視線をサクラさんに向けた。

 なるほど、ここを占拠してボクらを人質に取った手際には関心したけれど、こういった面を見ると確かに3流なのだと思う。



「あら、怒っちゃった? でも怒らすことは出来ても聞き出すのは難しそうね」


「ならどうする。その棒で殴りつけるか? だがお前は勇者だ、聞き出す前に俺が死ぬ方が先だろうよ」


「そんなことはわかってる。でもやりようによっては、上手く力の調整も出来るのよね」



 なおも互いに挑発を繰り広げる。

 たぶんこのまま続けていけば、最終的にはサクラさんが勝つのだとは思う。けれどそれで男が話してくれるかは微妙。

 となるとやはり実力行使しかないと考えたか、サクラさんは手にしていた棒を掲げる。


 彼女のゆったりとした動作にハッとし、男は歯を食いしばって痛みに備えた。

 ただサクラさんは棒で殴るのかと思いきや、どういう訳か勢いすらなく棒の先端を男の腹に押し当てた。

 そして反対側に指一本を添え、指先の力だけで押し込んでいく。ゆっくり、ジワリと。



「う……。グッ……」



 最初こそ困惑するばかりであった男だが、次第にその表情からは焦りの色が浮かんでくる。

 焦燥、混乱、動揺。それに苦しみだろうか。

 痛みというよりは、腹にかかる重みが次第に大きくなっていくようで、男の表情は次第に苦悶に染まっていく。



「どうかしら。前々から試してみたかったのよね、この方法」


「クソがっ! テメェ、こんな……」


「瞬間的に受ける傷は痛みにこそなれ、苦しみ自体は大したことない。ある程度前もって覚悟もできるし、人によっては身体を固めて備えることだって出来るもの。けれど……」



 サクラさんは男へと説明をしながら、指先に力を込めたり緩めたりを繰り返す。

 なんとか耐えられる範疇で、けれど耐え続けるのが困難な、非常に微妙と言える加減でだ。

 どことなく楽しそうにも思えるサクラさんの様子に、ボクは背筋を寒くさせてしまう。

 いったいどこでこんなやり方を覚えたのかと思っていると、それは彼女自身の口から語られる。



「ゆっくりと押し込めば、折角の覚悟や準備も水の泡。痛みはそこまでじゃなくとも、ひたすら苦しみが襲い掛かる。それにこれなら力の調整がし易い。つい最近遠方を旅した時、こういったことに詳しい人から習ったの」


「それ、は……。ヤな性格をしたヤツだ、な」


「私もそう思う。でも役には立ってるみたいね」



 どうやらこの方法、アバスカルで覚えたらしい。

 彼女にこれを教えたのはおそらく……。まぁたぶんこの想像は合っているのだろう。


 ともあれサクラさんがグイと木の棒を押し込んでいく度に、男は苦悶の声を漏らす。

 すぐ近くを見れば、さっきまで気絶していた連中も目を覚ましており、尋問の様子を青い顔で見つめていた。


 そんな連中は、手に剣を握った女性騎士が見張っている。

 騎士である彼女の立場からすれば、本来なら止めなくてはいけないのだろう。

 しかしこの雰囲気からすると、なかなかに大掛かりな野盗集団による計画なのは間違いなさそうで、一刻も早く情報を得る必要が。

 他の大都市や王都から尋問の専門家を呼んでいる暇はないため、仕方なく黙認することにしたらしい。



「三下の野盗にしては粘るわね。クルス君、ちょっとだけ痛みの方もいってみようか」


「いいんですか? たぶん今のボクだと、手加減は出来そうにありませんけど」



 ただサクラさんによる尋問だか拷問は、方法が付け焼刃なせいかあまり上手くいっていない。

 そこで彼女は振り返ると、ボクに手助けを求めた。


 きっとこの男は、サクラさんと異なりボクの方はかなり侮っている。

 なのでそんな人間からされた行為は、酷くヤツの心を折ってくれるに違いない。

 とはいえさっき腹に食らった蹴りをしっかり覚えているため、手加減をしてやれるかは正直自信がなかった。



「そんなに恨むようなことをされたの?」


「若干。それでもいいのなら」


「いいわよ、やっちゃって頂戴」



 ただサクラさんによる許可はあっさりと下される。

 そこでボクは男に近づくと、思い切り男の脚の脛を蹴り飛ばしてやるのであった。

 狙ったそこは、ボクの腹を強かに打った方。れっきした報復だ。


 歯を食いしばり、苦悶の表情と共に目を閉じる男。

 ついさっきボクを蹴った脚に逆襲を受け、男は小さな悲鳴を漏らしながら恨みがましく見上げてきた。

 ……どうにもこういうのは苦手だ。これといって気も晴れやしないことだし。



「どう、少しは話す気になった?」


「……クソったれ。このまま殺された方がマシだ!」


「なら仕方ないか。クルス君、続きをお願い」



 ボクの渾身の一蹴りだったけれど、残念なことにこれで折れてはくれなかったようだ。

 よほど野盗の親玉だかが恐ろしいのか、死を受け入れる方がよいとまで言い切る男。

 3流の悪党かと思いきや、意外にもこういった点ではなかなかにしぶとい。


 サクラさんもこいつばかりを相手とするのは時間の無駄と判断。

 続きをボクに任せると、目を覚ましたばかりな他の黒ずくめへと向いた。

 連中がビクリと反応するのを確認してから、ボクは女性騎士の方を見て首を傾げる。



「いいんです? 後になって怒られるのは勘弁願いたいのですが」


「構いません。……一応、野盗にはそういった配慮は必要ないとなっていますので」



 尋問のために暴力まで振っておいて今更だけれど、ちょっとばかり不安になったため確認。

 すると女性騎士は軽く首を振り、とりあえずは問題がないと断言した。


 まだ若干の不安は残るけれど、ひとまず安堵したボクは再びサクラさんへ視線をやる。

 そこでは「恨むならこの世界の法を恨みなさい」と、どちらが悪党なのかわからない言葉を吐く彼女が、恐怖に身をよじる野盗連中ににじり寄っていた。

 どことなくウキウキとした様子のサクラさんの姿に嘆息するボクは、さっきやっていたことを思い出しながら、彼女の置いた棒を拾い上げるのであった。


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