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魔の機械 03


 翌日の昼過ぎ。ボクとサクラさん、それにカタリナは宿の一角へ腰を降ろしていた。

 勇者支援協会のカルテリオ支部兼宿屋であるここは、この町で活動する勇者たちの拠点となる場所。

 ボクら含め、一部には町中に家を持つ者も居るけれど、それでも利用頻度の高い施設だ。


 ここへカタリナを連れてきた理由は、多くの勇者たちに彼女を見てもらうため。

 "黒の聖杯"によって召喚された、魔物と呼ばれる存在かもしれない彼女だけれど、だからこそ余計に関わる機会が多い勇者に周知して貰おうという意味も含めて。

 けれど勇者たちは一様に、危機感や困惑とは別の感想を抱くに至ったようだ。



「スゲェ……、マジで機械だ。つまりあれだろ、ターミネ――」


「いやいや、もっと相応しい例えがあるだろ。あえて名前は挙げないけど」


「ロ、ロボっ娘だと!? 胸からミサイルとか撃てるの?」



 これはむしろ……、喜んでいると言ってよさそうだ。

 話を聞き付けこの場へ集った勇者たちは、こぞってカタリナの失った腕の断面などを眺め、感嘆の声やら意味不明な言葉を発していく。


 現在カルテリオで活動する勇者は約10組ほど。一時よりはまた数を減らしているけれど、皆無だったかつてと比べればずっと多い。

 その勇者たちが興奮し言葉を交わす中、相棒たるボクら召喚士は少し離れた一角で、その様子を不思議そうに眺めるばかりだ。



「なんていうか、皆好きよね。ああいうの」


「おいらにはよくわからんぞ」


「そりゃ君はわからないでしょ。生まれてこのかた映画とかアニメとか、見たことないんだから」



 いや、勇者の中にもそこへ混ざらない者は居る。

 具体的には昨夜十分に見たサクラさんと、まだ幼く向こうの文化に馴染んでいなかったまる助だ。

 その一方でオリバーなどは、特に熱心に見入っているけれど。



「失礼な。ぺっとしょっぷのニンゲンが、休憩してるときに見てたのなら知ってるぞ」


「そういう場所で見る内容に、アンドロイドは出てこなさそうね……」



 まる助はこちらへ召喚された際に得た知能のおかげか、向こうでの記憶を掘り起し不満を口にする。

 そんな様子に苦笑するサクラさんは、まる助の鼻先を突いてからかうのだった。


 それにしても、勇者たちの様子を見る限りだけれど、たぶん誰一人としてカタリナの事を完全には理解していないように思える。

 というのも興味深そうに彼女の身体へ触れたりはするけれど、誰一人として詳しく調べようとはしていないため。

 おそらく勇者たちにとっても未知の存在であるため。サクラさんが言っていたように、あちらの世界においても理解の範疇が及ばない存在というのは、間違いないようだった。




「それで貴方たち、彼女をどうするべきだと思う?」



 しばしそんな光景を眺めた後、カタリナの周囲を囲み観察する勇者たちへと、今までまる助をイジっていたサクラさんは声をかける。

 すると彼らは振り返るも、一様に困った様子を見せ、判断しかねると言いたげな雰囲気を発していた。

 けれど何も言わないという訳にはいかず、その中の一人であるオリバーが一歩前へ出ると、後ろ頭を掻きながら率直な意見を口にする。



「ぶっちゃけ、手におえないと思うヨ。王都に連れて行った方が良さソウだ」


「一番期待したのが貴方だったんだけどね。魅せてやりなさいよアメリカ人、ハリウッドの底力とか」


「流石に無茶振りが酷くないカイ!?」



 結局はここいらが無難な選択なのだとは思う。

 王都の騎士団本部へと連れて行き、そちらの判断に委ねてしまうというのが。

 向こうであれば対処が出来るとは考え難いけれど、カルテリオで延々頭を悩ますよりはマシであろうと。



「……だそうよ、カタリナはどう考える?」


「自身に異論はありません。現状採れる対処法が存在しない以上、無難と思われる選択を推奨します」



 一応当人にも意見を求めるも、カタリナ自身もまた反対する理由はないようだった。

 彼女はそう言うと、ゆっくり椅子から立ち上がる。


 昨日は自力で歩く事すら儘ならなかったカタリナだけれど、現在は休んで多少回復したのか、歩く程度には動けている。

 金属の身体が回復するというのもいまいち理解が及ばないが、カタリナ曰く「自動修復機能は健在です」とのこと。

 こちらも理解の及ばない内容だけに、どう受け取っていいものか悩むけれど。



 ともあれカタリナがそう言うのであれば、こちらとしては反対することもない。

 集まった勇者たちは各々に納得した表情をすると、三々五々と散っていく。

 時間的にはもう昼を回り、今から魔物を狩るため外へ出るような頃合いでもないため、好きに過ごそうということだ。



「さて……、なら私たちは当初の目的を果たすとしましょうか」



 オリバーやまる助も、自分たちの家や部屋へ帰っていく。

 そうしてボクらとカタリナ、それに宿の主であるクラウディアさんだけが残されたところで、サクラさんは立ち上がりながら告げる。



「ほ、本当にやるんですか? そもそも見つかるかどうか……」


「なによ、言いだしっぺは君じゃない。発案者には先陣を切ってもらうわよ」



 ボクは少しだけ不安に思い、おずおずと口を開く。

 けれどもサクラさんはこちらの頭をガシリと掴むと、どこか懐かしくも思えるような指の食い込みと共に、逃亡を許さぬと宣言するのだった。


 今日の午前、宿へと来る前にカタリナを交え話したことがある。

 もしもカタリナが元の世界へ帰るのを善しとするなら、彼女を召喚した黒の聖杯を探そうではないかと。

 このような話になったのには、先日サクラさんと共に王都の王城へ滞在していた時、偶然に見つけたとある書物が切欠。



「君が見つけた文書が正しければ、カタリナを召喚した黒の聖杯が戻るための鍵になる。ってことでいいのよね」


「その説が正しければですが。なにぶん随分と古い資料でしたし、あまり有力とは言えない物だったようなので……」



 王城への滞在時期、これも良い機会だと考えたボクは、時間を見つけては書庫を訪ね勇者や召喚に関する資料を読み漁った。

 依頼もあったため限られた時間だったけれど、大量にある書架の中でも誰も近寄らないような、隅っこへヒッソリと佇むそこで、埃にまみれた一冊の本を見つける。

 たぶん碌に手に取って貰えてはいないと思われるそれは、何十年か前に綴られた勇者召喚に関する考察の資料。



「けれど内容そのものは、おっさんも否定しなかったんでしょ」


「ゲンゾーさん自身は、初めて見た本だって言ってましたけど、書かれている内容そのものはある程度納得していたみたいです。"どうしてコイツが今まで埋もれていたんだ"と言ってましたし」



 見つけた資料に綴られていた内容は、各地へ存在する黒の聖杯が、それぞれ異なる世界と繋がっているという説。

 故に地域毎に似通った魔物が召喚されるという仮説に基づいており、黒の聖杯は対となる世界とを繋ぐ、"意志を持った門"ではないのかと書かれていた。

 あくまでボクの経験則だけど、それを書いた人間の主張は、あながち間違ってはいないのではと思えてならなかった。



「なんにせよ、元の世界へ帰りたいなら黒の聖杯を探せってことよね」


「他に手掛かりが無い以上、この説に縋るしかありません」


「どうやって調べるかとか、そもそも捕獲できるかとか考えることは山ほどあるけどさ。……でも帰りたいんでしょ? カタリナ」



 サクラさんはいつの間にか近くへ来ていたカタリナの隣へ立ち、指を立て彼女の胸元へと突き当てた。

 最終的な意志を確認するようなその仕草に、カタリナは迷うことなく頷き告げる。



「この身は旧式なれど、まだ数年は使用に耐えます。可能ならば帰還し、任務への復帰を果たそうかと」



 表情を変えるというのが可能かどうかは知らないけど、ほんのちょっとすら動かぬ表情のまま、カタリナは決意を示す。

 彼女を生み出した国で、軍に属しているという身であるためか、戻って本来の役割に従事しようという意志は固い。

 そんなカタリナの言葉を聞き、サクラさんは突き付けた手を引き問い続ける。



「ただこれが無理だと判断したら、さっき言ったように王都へ送ることになる。それでも構わない?」


「十分です。助力に感謝を」


「黒の聖杯なんて、そう簡単には見つからない。だから過度には期待せずにいてね、ちゃんと協力はするから」



 そう告げると、サクラさんは宿から出るべく入口の扉を押し開ける。

 けれど流石に今から町の外へとはいかず、実際に黒の聖杯を探し回るのは明日から。


 ボクはそんな彼女の姿を追う前に、振り返ってカタリナへと会釈した。

 昨夜は我が家に泊まったカタリナだけれど、今夜はここクラウディアさんの営む宿に部屋を取ることになっている。

 一緒に家へ連れ帰ってもいいと思うのだけれど、カタリナ自身がこちらに遠慮したのか、当面は宿に泊まると申し出たためだ。

 ただカタリナは当然お金など持っていないため、宿代はクラウディアさんの好意でタダとしてくれた。



 ボクは軽く手を振るそのクラウディアさんにも礼をし、サクラさんを追って通りへと出る。

 そして少し走って追いついたところで、彼女は振り返りもせず、淡々とさきほどは吐露しなかった感想を口にした。



「おそらくだけど……、カタリナは向こうの世界に戻ったら、破棄されてしまうと思う」


「えっと、それはどういう……」



 突然に発された言葉に、ボクはビクリと身体を震わせる。

 そんなまさかと思いつつ、いったいどのような根拠でと思い尋ねてみると、サクラさんは半ば確信を持って告げるのだ。



「カタリナは軍に属していて、与えられた任務の最中だった。そんな状況で行方を眩ましたんだもの、当人も自分を型遅れだって言ってたし、修理されずにそのまま破棄されても不思議はない」


「なら帰らせるわけには……」


「自分自身でわかってるはずよ。それでも戻るって言ってるんだから、こっちが口を挟む余地なんて」



 たぶんサクラさんは、帰還の可能性に話が及んだ時点から、ずっとこの事を考えていたのだと思う。

 けれどこの結論に至っても、カタリナの前でそれを言うのは気が咎めていたのだ。


 少しだけ、不甲斐なさを噛みしめるように呟くサクラさんの視線。

 ボクにはそれがとても遠い先、カタリナを通じて自身の故郷を見ているように、思えてならなかった。



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