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魔の機械 02


 サクラさんが疑問を投げ、すぐさま女性は肯定する。

 それによって女性が人間ではないと認めたのだけれど、ボクには俄に信じることができなかった。

 確かに失った腕からは変な物が生えているし、血の跡もまるで見られない。

 けれど彼女の整った容姿は人のものであるし、言葉だってちゃんと最初から通じている。


 ならばいったい何者なのだろうと思っていると、その答え……、と言っていいかどうかわからないものは、サクラさんの口から告げられた。



「これは身体の一部じゃなくて、全身がこうだってことでいいのよね」


「仰る通りです。自身は人の身体を改造したものではなく、最初から製造された個体ですので」


「となるとアンドロイドの類ってことよね。……いったいどこの誰よ、こんなの作ったのは」



 両者には共通する認識が存在するらしく、サクラさんは困惑しながらも納得した様子を見せる。

 言葉の意味はよくわからない。けれど作った(・・・)製造された(・・・・・)という言葉から察するに、あの女性は人工的に生み出されたのだということだろうか。

 けれどもそんなこと、本当に出来るのだろうかとは思うも、ふと一つそれが可能そうな心当たりが頭をよぎる。



「もしかして異界の……、サクラさんたちの世界から?」



 これが最もありそうな話だろうか。

 あちらの世界について詳しくは知らないけれど、こちらより遥かに高度な文明や技術を持つとは聞く。

 なので人の手で命を作りだすことも可能で、彼女が召喚された勇者なのかと思うも、それはすぐさまサクラさんによって否定された。



「私と同じく勇者って可能性も考えたけど、たぶん違うわね」


「どうしてですか? ボクには他に考えられないのですが……」


「全身が人工物なだけじゃなく、人と遜色ない精巧さ。流石にここまでの技術、あっちの世界にもまだ存在しないもの」



 そう言ってサクラさんは、女性の失われた側の腕へ手を伸ばし、そこから生える金属の一つへ触れた。

 サクラさん曰く、"キカイ"とかいう物で構成されているというこの女性、向こうの世界にしても常軌を逸した存在であるらしい。


 となると本格的にこの人? の正体がよくわからない。

 そうであるのはサクラさんも同じなようで、女性を背負い外の荷車へ乗せながら、詳しく状況を尋ねるのだった。



「記録に一部、エラーが発生している箇所があります。その部分を挟んで、次に正常な状態で記録されているのは、あの横穴で倒れていた状態です」


「ようするに肝心な部分の記憶が、綺麗にすっぽ抜けてるってことね。気が付いたらさっきの穴の中だったと」


「肯定です。自身は軍の基地を警備していたはずなのですが」


「なんだ、貴女って軍用なの? そんな女の子然とした見た目なのに」



 荷車へ乗せ質問をしていくも、肝心要な部分を覚えていない。

 つまり彼女自身にも状況がよくわからないということか。



「それにしても、どうしてこんな場所に。もしかして誰かに召喚されたのかしら……」



 サクラさんは荷車を引きつつ、率直な疑問を口にする。

 この女性が、サクラさんの世界から見ても異質であることはわかった。

 けれどそれはこちらの世界から見ても同様で、まず間違いなく異界と呼ばれる地から来たことに疑いはない。

 けれど人の手で召喚されたとは思えず、ボクは後ろで荷車を押しながら否定の考えを述べた。



「たぶん……、召喚士がやったんじゃないと思います」


「どうして?」


「召喚を行うためには、規定の召喚陣を地面へ描かないといけないんです。でもあの横穴の広さで、到底描ける大きさではありません。貴女はこちらに来てから、一歩も動いていないんですよね?」



 ボクが単純な理由を口にし問うと、彼女は軽く頷く。

 勇者召喚に用いる陣は、描くのに数人がかりでそれなりの時間を掛けねばならぬ大きさで、とても広い空間を必要とする。

 それに平たい場所でなくてはならず、天然の横穴なんていうゴツゴツとした場所では、到底作ることが叶わなかった。



「私が召喚された時、部屋には無かったと思うけど」


「召喚が実行されると消滅するんですよ。理屈はよくわかっていませんけど」



 もしあの場で召喚が叶うとしたら、こちらが知らぬ未知の手段が存在するということ。

 けれどもし仮にそうだとして、召喚士は何処へ行ってしまったというのか。

 そこを彼女に問うてみるも、やはりそれらしき人物の姿はなかったらしく、ボクが現れるまで一人だけだったという。


 となるとボクには、とある可能性が頭へ浮かんでいた。

 けれどもそれを口にしようとするも、サクラさんは言葉を被せ話を余所へ振る。



「ですので、ボクの予想としては……」


「そこらへんは家に帰ってからにしましょ。ねぇ貴女、名前とかあるの?」



 きっと、サクラさんも同じことを考えていたのだと思う。

 だからこそあえて話を逸らし、家路に着こうというのだ。この件は、女性が居ない場で話そうという意図で。


 サクラさんがした問いに、女性はほんの少しだけ逡巡する。

 名を名乗るのに不都合があるのかと思いきや、それは単純に彼女の名が、こちらにとってどう受け取ってよい物か悩むからだったらしい。



「型式番号でよければお教えできます。しかしそれでは呼称するのに、不都合があると推察しますが」


「ならとりあえず呼びやすい名前が要るわね。……カタリナとかでどう」


「問題はありません」


「決まりね。近所の家で飼われていたネコの名前で悪いけど」



 早々に代わりとして出した名に、荷車で運ばれる女性はアッサリと了承する。

 ただ発した名前はどうやら、サクラさんがあちらの世界へ居た時に馴染んだ猫の名。

 まる助の時もだけれど、どうやら彼女は名付けに関して適当をする癖があるようだった。



 ともあれ名前が決まったことで呼びやすくなり、その後もいくらかの質問を続けながら移動する。

 正門をくぐり、こちらへ怪訝そうな視線を向ける騎士や住民たちをやり過ごし、路地裏を通って市街中心部にほど近い我が家へ。

 家の庭先でカタリナをおろし、彼女を背負うサクラさんは真っ直ぐに2階へ。

 部屋はとりあえずアルマのを使ってもらうとして、ベッドは小さすぎるため使えず、ひとまず床へ幾枚もの毛布を敷いて休んでもらう事にした。



「自身は人ではありません、そこまで気にされずとも良いのですが」


「そう言わず使って頂戴。ただ床へ座らせるなんて、こっちが気にしてしまうもの。少しの間ここで休んでいて」


「了解いたしました」



 アルマの部屋へ座らせ、しばしの休息を告げる。

 するとカタリナは頷き、床へ腰を降ろしたままで瞼を閉じた。


 ボクとサクラさんは扉を閉め、揃って1階へと降りていく。

 さてこれからカタリナの扱いをどうしようかと思うも、それはきっとボクらだけで判断が付くような話ではないはずだ。

 もし想像が正しければ、国の中央へ伺いを立てる必要もある。



「片腕で支えるには少々酷な子ね。割と限界」



 1階のリビングへと移動し、置かれたソファーへと身体を放り投げるサクラさん。

 彼女はグッタリとした様子で、疲労を露わとしソファーの布へ沈み込んでいた。


 見た目だけでは判別し辛いけれど、どうやらカタリナは身体全体が金属で作られているらしく、当然相当な重量を持つ。

 金属の身体と言えば、そういった類のゴーレム型魔物も存在すると聞くけれど、それらが人の形を持つという話など聞いたことがなかった。

 けれど現に、ボクらの目の前へ現れている。



「魔物……、なんですよねきっと」


「魔物の定義が何かにもよるけれど、"黒の聖杯"に召喚されたモノってのがそれなら、間違いないんだと思う」



 リビングの椅子へ腰かけ、ボクもまた息をついたところで、ソッと感想を漏らす。

 するとサクラさんは迷うことなくそれに同意したのだった。


 この世界のモノでも、サクラさんら勇者の故郷から来たモノでもない。となればカタリナは、それらと別の世界から召喚されたことに疑いの余地はなかった。

 となるとこちらが知らない未知の手段による召喚が行われたか、"黒の聖杯"によって召喚された存在、つまり魔物であるという可能性のどちらか。

 けれど召喚直後に召喚士が居なかったということは、きっと後者なのだとは思う。



「意思疎通の可能な魔物……、ってのは今までに居たの?」


「王都で交通手段として使われていた生物、あれは一応魔物に分類されます。人の手で御することが出来ますから、意思疎通可能と言えば可能なのだとは」


「……つまり会話が可能な魔物は居ないってことね」



 魔物とは、そのほとんどが人間にとって敵となる存在。

 一部王都に居た巨大な騎乗魔物などの例外はあれど、基本飼い慣らしたりするような対象ではなかった。

 ましてや言葉を交わすなどありえない。



「明日にでも、何人か勇者を呼んで見てもらうとしましょ。たぶんこっちの世界の人たちよりは、ああいった存在に免疫があると思うから」


「それがいいと思います。正直ボクらでは何がなにやら」



 普通の魔物であればともかく、身体が金属で構成されている上に、人の言葉まで解す存在など理解の範疇外。

 ただどうやらサクラさんを始めとし勇者たちは、カタリナのような存在に関し僅かながら知識があるようで、大人しくそちらに判断を委ねるしかないようだった。



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