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糧 02


 暑い盛りの昼を過ぎ、勇者支援協会の薄暗いロビーの中には、どこか間延びした空気が漂う。

 時折入口から吹く風にスイングドアが揺れ、火照った身体を冷やしてくれた。

 そんな協会に在るバーカウンターの上に、20数枚の硬貨が一斉に音を立てて散らばる。

 ボクとサクラさんはその硬貨を凝視し、息を呑んで一枚ずつ数えていく。



「クルス君、これはどう捉えればいいのかしら。まだちょっとこちらの物価に疎くて」



 腕を組み硬貨を眺めるサクラさんは、視線も合わせることなく問いかけてくる。

 一度お金を預けて買い物をしたとしても、まだ少々貨幣の価値を計りかねているようだ。



「協会の宿でしたら、食事付きで5日か6日は泊まれるくらい。ってところですかね」


「それってつまり、初回にしてはそこまで悪い成果ではないということ?」


「"むしろ上出来に過ぎる"、ってところです。普通はもっと苦戦するそうですから」



 訓練すら経ていない勇者と、人よりずっと体力が劣る新米召喚士。

 ボクとサクラさんというそのコンビは、初めて行った狩りで得た素材を協会に持ち込み、すぐさま現金化を行った。


 普通サイズのウォーラビットと、少し小さいのが1羽ずつ。その際に消耗したのは、矢がたったの2本。

 それで5日分の宿泊費に相当する額になったのだから、上等も上等、しっかりとした黒字だ。

 元の宿代が格安なので、比較対象としては少々あれではあるけれど。



「やっぱりもう少し狩りたかったですよね。帰り際に見かけたウォーラビット、あれを持ち帰れていたら……」


「アレはかなり大きかったもの、きっとそれなりの額になったでしょうね。でも持てる量が限られていたし」


「いっそ次は荷車でも持って行きますか? それだともっと長い時間狩り続けられますよ」



 初めて得た報酬が、それなりの額になったおかげか。

 ボクとサクラさんは上機嫌で、あれやこれやとやり取りを行う。


 ウォーラビット2羽を狩った時点で、まだ時刻は昼に達してもいなかった。

 なので本音ではもう少し続けたかったのだが、生憎と持ち帰れる重量には限りがある。

 頑張っても精々が、中程度のウォーラビットを2羽程度。これ以上成果を上げようとするならば、一度町へ戻らなくてはならない。



「いっそ人足でも雇いますか?」


「悪くないわね。でもその人への報酬で、いったいどれだけ飛んでいくのかしら」


「……ですよね。やっぱり難しいかぁ」



 荷運び専任の人を雇い、勇者が魔物の狩りに同行させるという話はよくある。

 ただこの辺りでそれをしてしまうと、たぶんウォーラビット2羽を狩って得られる額と、とんとんな報酬が必要となってしまう。

 サクラさんは物価の知識が薄いながらも、すぐさまそう考え疑問をぶつけてきた。

 荷車にせよ人足にせよ、あまり現実的な話ではない。あくまでも浮かれ気分の中でした、冗談の話だ。


 そんなボクらのやり取りを眺めていた協会のおじさんは、一区切りついたところで割って入る。



「んで、お前らこの金をどうするつもりだ? このまま受け取るか、それとも銀行へ預けておくのか」


「あー……、どうしましょう。足りていない装備を買い足したいし、万が一のためにも貯めておきたいです。それに借りてる防具も……」


「宿泊費として前払いって手もあるぞ。その場合は一泊分オマケしてやろう」



 カウンターの上に置かれた、素材売却のお金を見下ろす。

 少々悩ましいところだ。より安全に魔物と戦うべく、装備を整えるのは非常に重要。

 かと言ってそこにばかりかまけていては、不測の事態になった時に困る。例えば怪我をした時などに。


 おじさんの言うように、宿泊費に当てるというのも悪くはない。

 などと考えていると、サクラさんはボクの顔を覗き込んでくる。



「宿代の前払いにしておいたら? ちゃんと帰れる居を構えていれば、無茶をしないと思うし」



 その日暮らしの状態になると、つい無理のある狩りに出ようとするかもしれない。サクラさんはそう言いたいようだ。

 一理あるとは思う。というよりも、そう言われては異論も難しい。

 ボクらはまずこの地で、魔物との戦いに少しずつ慣れていく段階。

 なによりも無事でいるのが第一で、ここで躓いていては話にならなかった。



「そうですね、では宿代に当てます。でも少しは現金としても貰っておきますね」


「いいだろう。ついでだ、今夜はウォーラビットの肉も出してやる。無事帰ってきた祝いにな」



 結局サクラさんの提案を受け入れ、僕は受け取った額のほとんどを宿代とすることにした。一泊のサービスも魅力的ではあるし。

 すると協会のおじさんはニカリと笑い、置かれた肉を指した。

 いかつい容姿に似合わず、初めての魔物狩りからの帰還を喜んでくれているようだ。

 これまで幾人もが最初の狩りに出て以降姿を見せなくなったのだろう。最初の関門をクリアした事へのご褒美だ。


 ただこういった肉は、絞めてすぐよりは少しくらい置いた方が美味しいもの。

 なので今日取ったウォーラビットを出すのかと思っていると、おじさんにはこちらの思考が手に取るようにわかったようだ。



「安心しろ、肉は前もって数日置いてあるやつを出してやる」


「こいつ、そんなに美味しいんです? どうにも凶暴だったもので、あまりそういった印象が……」


「美味いぞ、大抵の家畜よりずっとな。そいつは保証してやる」



 ただサクラさんは、ウォーラビットが食べられると知ってもなお、その味には懐疑的だった。

 しかしおじさんが自信満々告げる言葉に、サクラさんはすぐさま機嫌をよくしていく。

 彼女がこちらに召喚されて、今日で3日目。その間に食べたのは野菜ばかりで、ようやくありつける肉に、心躍っている様子が見て取れた。


 それにしても、異世界の人は普段どんな肉を食べているのだろうか。

 ボクの頭の中には、得体の知れないグロテスクな生物へとかぶり付き、口元を血塗れとしたサクラさんの姿が浮かぶ。

 いけないいけない、こんな想像をしていてはまた感付かれてしまう。




「戻ったっスよー」



 ボクらが協会のおじさんと話していると、不意に背後から軽い声が聞こえる。

 振り返ってみると、そこに立っていたのはソニア先輩とその勇者。

 二人は狩りから戻って来たばかりなのか、服や軽装の鎧を盛大に汚し、背には本日の成果と見られる獲物を背負っていた。



「ねえ、クルス君」


「なんです?」


「あの大きいの……、なに」



 そんな二人の姿を眺めるサクラさんは、ギョッとして細い金属の輪の向こうにある目を丸くする。

 彼女が指さす先には、ソニア先輩の勇者。というよりも、彼が背負っている獲物の姿が。



「ああ、清流大ネズミです。また出たんですね」


「ね、ネズミ!?」


「といっても、アレは魔物じゃないんですよ。時折発生するんですけど、少しばかり厄介な性質を持ってるんで、勇者に依頼して駆除しているんです」



 サクラさんが気味悪そうに指して問うたのは、1m弱の大きな体躯に灰色の毛並みを持った生き物。

 その清流大ネズミは、正確には魔物ではなく元々この世界に居る動物なのだが、その実下手な魔物以上にやっかいな存在だ。


 名前の通り水の綺麗な清流に住みつくのだけれど、……当然生物としての本能に従い出すものを出すのだ。その清流に。

 町の近場に流れる清流の水は、人々が日々使う水源ともなっている。ならば当然、早急に退治する必要があった。

 という訳で協会には、度々清流大ネズミを退治してくれるよう依頼が舞い込んでくると聞く。

 食べられないことはないそうなのだが、身は臭くあまり食用には向かないそうだ。



「おいタケル! そいつを中に持ち込むなと前にも行ったろうが!」



 協会へ入ってきたソニア先輩らの姿に、おじさんがいきなり怒声を上げる。この人もこんな大きな声が出せたのか……。

 おそらくタケルというのが、先輩が召喚した勇者の名前。


 おじさんが怒鳴るのも無理はない。清流大ネズミの習性は、この地に住む多くの人が知るため、正直非常に印象が悪いのだ。

 この協会支部が宿と飲食店も兼ねている以上、そんな物を持ち込まれるのは勘弁して欲しい。



「でもさオッチャン、今回はホラ、こんなにキレイに仕留められたんだぜ!」


「やめんか、馬鹿者!」



 退治した清流大ネズミを見せつけるべく、おじさんに向けその死骸を押し付けようと近づくタケルと呼ばれた勇者。

 一方後ずさりしながら、近づかせないよう腕を振るおじさん。

 もしかして悪い印象の問題ではなく、単純にあれが苦手なのだろうか。

 横目でサクラさんを見てみれば、おじさん同様に気味が悪そうに自身の腕を抱いている。こちらもどうやら苦手なようだ。



「それにしてもソニア先輩、よくあんなの退治できましたね」


「タケル君は素早い相手は苦手なんだけど、清流大ネズミは硬くて力は強い代わりに、動きはゆっくりだからねぇ」



 困ったようにやり取りを眺めるソニア先輩へと、ボクは近づき率直な感想を口にする。

 度々姿を現す、そこまで珍しい動物とは言えぬ清流大ネズミだが、そこそこ手強い生き物だというのは半ば常識。

 生える毛は針金のように固く、適当に振るった剣程度であれば、いとも簡単に弾いてしまうという。

 それを貫くだけの力があるということは、タケルという勇者は思いのほか実力を持っているのかもしれない。



「タケル君ってば、この依頼が得意だから見つけたらすぐ回してもらってるんだぁ。依頼料とは別に、毛皮はこっちで好きにしていいって言われてるから、すごく助かっちゃう」



 のんびりとした調子で語るソニア先輩は、嬉しそうな表情を浮かべる。清流大ネズミの皮が、意外と高く買い取ってもらえるためだ。

 遠目で見る限りだけど、見たところほとんど傷もなく一撃で仕留めたようだし、それなりの値段がつくのかもしれない。

 刃物傷が1か所増える毎に、値段が半分になっていくなんてのも聞く話。ボクらも気を付けよう。


 丁度その頃、タケルさんはあまりにしつこくおじさんに見せようとしたせいだろう、拳骨を食らわされて撃沈していた。

 その様子すらも毎度の事なのか、先輩は気にする様子もなく聞いてくる。



「ところでクルス君の方はどうだったのかなぁ? 初めての狩りだったんでしょ?」


「そこそこですね、ウォーラビットが2羽。それ以上狩っても持ち帰れそうになかったので、昼前には終えて戻って来ました」


「大きいから嵩張るもんねぇ。でも凄いね、初日で2羽も仕留めるなんて。武器は結局何にしたの?」


「弓ですよ。武具店で色々試してみて、あれが一番気に入ったみたいで。でも良かったです、今日の様子を見てると、サクラさんにはあれが合ってるみたいですし」



 当事者のサクラさんへと視線を向けると、いつの間にやら椅子に座ってコップに口を付けていた。

 その横に置いてある陶製の容器から察するに、中身は果実酒。


 いつの間にあんなものを頼んだのだろうかと思っていたら、おじさんが「これもサービスだ」と言って、サクラさんのもとへ肴らしき小皿をテーブルに持ってきた。

 どうやら酒も祝いの一環であるようだ。

 彼女は丁寧におじさんへとお礼をし、背筋を伸ばして小さく口を開け、一口サイズに切り分けた肴を静かに食べ始める。



「カッコイイよねぇ。なんていうか、いかにも大人の女性って感じで憧れちゃうなぁ」



 ソニア先輩はその姿に見惚れ、憧憬の念を抱いているようだ。

 でも騙されてます先輩。あの人さっき帰る途中で、人目のないのをいいことに携帯食の干し野菜を、丸かじりして食い千切ってました。

 その後水を飲んだ時だって、遠慮なくゲップしてたんです。

 騙されちゃいけない、あの人は外用に鉄の仮面を被っているだけなのだ。



「で、クルス君たちは今日から協会に泊まるんだよねぇ?」


「ええ、やっぱりここが一番安いですから。魔物狩りにも慣れて、お金が貯まるまではここに居ます。装備も揃えたいですし」



 先輩はその言葉を聞くと、嬉しそうに微笑む。

 聞けばここを拠点としていた勇者たちもほとんどが去り、寂しさと取り残されてしまった焦燥感を感じていたようだった。

 後輩とはいえ仲間が増えたのが嬉しいのだろう。その喜びようは、先輩に尻尾があったなら盛大に振り回しているだろうと思わせるほどだ。



「しばらくまたお世話になりますね、先輩」


「うん、よろしくねぇ」



 そう言い合い、ボクらは柔らかな握手を交わした。




 殴り倒されたタケルさんが目を覚ますと、ボクらは4人で集まり夕食を共にすることとなった。

 その最中に自己紹介をしたのだけれど、タケルさんという人物、どうにも異世界の常識なのか何なのか、よく判らない知識を前提にして話す癖があるらしい。


 ただ話をしてみると、なかなかに気の良い人であるのがわかる。

 ボクと齢も近いこともあって、言動の不可解さという点はあるものの、あまり嫌いにはなれそうもなかった。

 もっともサクラさんは少々苦手なようで、度々テンションの上がりすぎる彼へ向け、鋭い視線を向けては撃ち落としていたのだが。



「それじゃあ、お先に失礼しますねぇ」


「また明日な、クルス! 次回はオレ秘蔵のコレクションについて話をしてやろう!」



 夕食として出されたウォーラビットを平らげ、ボクらはそこで解散することにする。

 ソニア先輩とタケルさんはそれなりに楽しんでいたようで、上機嫌となって各自の部屋へ戻っていった。


 そういえば教官は、協会の食事はマズイと言っていたはずだが、今日の食事はとても美味しかった。

 もしや最近になって改善されたのだろうか。

 どちらにせよこの美味しさが、今日だけではないのを祈るばかりだ。



「サクラさんはどうします? もう少し飲むなら取って来ますけど」


「そうねぇ……。明日も出なきゃいけないし、そろそろ切り上げた方がいいのかも」


「別にいいですよ、あとちょっとくらいなら。ボクにとっても今日は記念すべき日ですから」



 自重するべきと考えたか、手にしていたカップを置くサクラさん。

 ただ今日は初めて一緒に魔物を狩り、それなりに成果を上げ、怪我の一つもなく帰ってこれた。

 ボクとて内心では興奮しているのだ、もうちょっとくらいであれば浮かれてもいいはず。

 もっともボクはそこまでお酒に強い方ではないため、もっぱら飲んでいるのは果実水だけれど。



「それじゃ、もう一杯だけ頂こうかしら。魔物退治の成功を記念して」


「そうですね、成功を記念して!」



 クスリと笑むサクラさんの頬は上気し、漂う色気に少しばかりドキドキとしてしまう。

 そんな心情を誤魔化すように、ボクは手にしたカップを彼女の物へ合わせ鳴らした。



 しかしボクはさきほどの発言を、すぐ後で後悔することになる。

 なぜならそこからサクラさんが飲んだ一杯だけでは済まず、テーブルの上には空になった酒壷が、いくつも散乱する破目となったのだから。

 協会のおじさんも、浴びるように飲むサクラさんに呆れ、サービスはここまでとばかりに引き上げていった。

 本当にごめんなさい、終わったらちゃんと片づけておきますから。



「だからさ、私は言ってやった訳よ。これ以上新人の女の子にセクハラするなら、もっと上の人間に報告します! って。証拠だってちゃんと録画してやったんだから」


「は、はぁ……」


「あんの禿げ部長、私が新入社員の時にもさんざん尻触りに来やがって。それでもなんとか我慢して頑張ってたら、後輩が入った途端に今度はその子。そりゃキレるってもんよ、エロおやじが下手に立場強くなると洒落になんないわ」


「それは……、大変ですね」



 完全に泥酔状態となったサクラさんは、ひたすら頷くだけの人形となったボクへ、延々愚痴をこぼし続けていた。

 どうやら元の世界において、サクラさんが上司の嫌がらせに辟易していたであろうことは理解できる。

 だが単語の意味が所々判らない。とりあえず相槌は打っておくけど、ロクガとかシンニューシャインというのはいったい何なのだろうか?



「クルス君も、偉くなった時に女の子が嫌がるような事しちゃダメよ?」


「ええ、それは確かにそうですね」


「お、一応偉くなる気はあるのね。男の子はそうでないと!」



 途端に矛先が向いたボクが返す言葉へ、満足そうに頷くサクラさん。

 ボクにだって、多少の欲というやつが無い訳ではない。

 サクラさんと一緒に旅をし人々を助けていけば、その結果として一定の地位や名誉といったものが自然とついてくるはず。

 召喚士というのはそういうものだし、男として生まれからには相応の野心というものがある。



「そうよね、男の子はひと皮剥けたら急に成長するって言うし。まぁその前に、別のトコを剥くのが先だろうけど」



 カップに入った酒を一気に煽り、サクラさんはそう言ってゲラゲラと笑い始める。

 ……これはダメだ、何というか最低すぎる。

 立場の強くなったエロ親父だけでなく、酔っぱらった下ネタ好きなお姉さんも十分洒落にならない。

 少なくともボクの手に負える存在ではなさそうだ。


 ソニア先輩が部屋に戻った後で良かった、こんな姿を見たら卒倒していた可能性もある。

 まだ僅かな交流ではあるが、彼女はサクラさんに若干の憧れを抱き始めている節があった。

 せめて先輩の前でくらいは、その夢を壊さないでいてあげて欲しい。



「はいはいサクラさん、そろそろ部屋に戻りましょう」


「えー? もうちょっと飲んでいいって言ったじゃんかー」


「もう終わりです。もうちょっとの範疇を越えてるんですから」



 まだ飲み足りないとばかりに渋るサクラさんの腕を引っ張り、協会敷地内に立つ離れの部屋へと連れて行く。

 これ以上は流石に酒代を請求されてしまうし、おじさんに迷惑が掛かりすぎてしまう。


 どこがその部屋だろうと探していると、扉へかけられた札に「サクラ・クルス」と書かれている部屋を見つけた。

 若干の違和感を感じながら扉を開けると、部屋の中にはベッドが二つ。それぞれの横に各自の荷物が置いてある。

 ということはまさか、つまろそういうことなのだろうか。



「あ……、相部屋!?」



 夜中だというのに、驚いてつい大きな声で叫んでしまう。

 確か荷物を預けた時は、おじさんが部屋に運んでくれると言っていた。なので部屋そのものを見るのは初めて。


 これはいったいどういう訳だと動揺する。

 ただ叫ぶ声に反応したサクラさんが呟いた一言に、ボクは奈落に叩き落とされたような気分に陥った。



「おじさんに相部屋でいいって言ったわよ。その方が安いし」



 軽く言い放つサクラさんの言葉に、ボクは唖然とする。

 ボクとて男だ、普通善からぬ考えを起こしそうになったりするのだろう。だが今のボクには、それ以上に思うものがあった。


 お師匠様……、ボクはこんな狭い空間でこの最低な酔っ払いに、延々と絡まれ続けるはめになるのでしょうか。


お手数ですが、誤字にお気づきになった場合には指摘していただけると非常に助かります。

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