ショートケーキに気をつけて
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蓮ちゃんが飛び降りたのと同時、愛知県警に1本の通報があった。それは、高速道路での交通事故。
下っ端の警官達は外を走り回っていた。
蓮ちゃんがたまたま落ちたところは、愛知県警の駐車場近くだった。だから、警官達の喋り声が聞こえてくる。
「場所は都心環状線。現在交通事故が起こった側に車が入った形跡はない。……今すぐ都心環状線の警備担当に連絡して通行止めしてもらえ!急ぐんだ!」
そんな声と共に、サイレンの音は遠ざかっていく。
意識が朦朧とする中、それらだけは確かに聞こえてきた。
--早く行かなければ。
--赤犬が……。
--組織から守らないと……。
まだ交通事故の車が公安のものだとはわからない。だが、蓮ちゃんは感じていた。ただ、感じていた。
体のあちらこちらから血を滴らせながら、駐車場に止まっていた車の近くに寄る。
鍵がない為動くはずがない。
だが。
蓮ちゃんが言い放ったその言葉とともに、バイクはエンジン音を出し始めた。
「…………動け、バカ」
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確かここを曲がれば近道のはず。
愛知県警を出発した蓮ちゃんはインターチェンジに早く着く道を走っていた。
今走っているのは道の狭い路地裏。
もちろん、スピードはバイクが出せる最高速度。
だが、今入った路地裏は行き止まりがあった。
それに気付いた時にはもう遅い。
「くっそおおおおおお!」
蓮ちゃんはそのまま壁をぶち破る。
壁の向こうは崖。高さは約100メートル。下は完全な住宅街。木1本すらない。
--どうすんのよこれ!
と作者は言ってます。はい。
しかし、蓮ちゃんは歯を食いしばるだけ。何か策はあるのだろう。
蓮ちゃんが目をつけたのは、ある小さな路地。そこに降りれば約300メートルぐらいは直線の路地で、滑走路の役割を果たしてくれる。
やるしかないそうね……。
「さぁて。やりますか!」
だんだんとその路地が露わになってくる。
揺れるバイク。バイクの体勢を保つのに精一杯のはずなのに、蓮ちゃんは笑っていた。
いっけえええええええええええええええ!
着地するのと同時に反動的に跳ねるが、なんとか体勢を持ち直し、そのまま走っていく。
そして何本かした先の道を右に曲がる。そして左。右。右。
何回か左右に曲がっていると、ある大通りに出た。
大通りだけあって、車通りが多く、名古屋特有の『名古屋走り』がたくさん見られる。
そして、その大通りの上には高速道路がある。これが都心環状線だ。
蓮ちゃんは数多の車両の隙間を通り抜けて、高速道路のインターチェンジを目指した。
後ろから警察のサイレンが聞こえてくるということは、どうやら追い抜かすことは出来たようだ。しかし、インターチェンジが見えてきたと思ったら、近くを警備していたであろう警察官が入口を封鎖していた。
このままじゃ通れない。
よし、強行突破しよう。
そう決意した蓮ちゃんはさらにスピードをあげていく。
インターチェンジは右側に隣接されている。しかし、蓮ちゃんは右側を走っていたのにも関わらず、わざわざ左側に行って走った。
インターチェンジの反対側には公園がある。そして、道路側に滑り台がある。滑り台は、登る方を道路側にし、滑る方を住宅街側に向けている。
みんなももうお気づきであろう。そう。多分君達の考えてることあってる。うん。
蓮ちゃんは「ブブン!ブブン!」と音を鳴らして、公園にいた人達を公園から遠ざけた。
そして公園に入っていき、公園を1周するかのように円を描きながらカーブし、そのまま滑り台に突っ込んでいく。
滑り台ならぬ、登り台。
ジャンプ台と化した滑り台を生かし、バイクごと盛大にジャンプする。
そのままインターチェンジ内に入るか、と思われた時。名古屋走りをしてきた大型トラックが一般道を通行しようとする。
この高さが大型トラックに衝突する。
遅いかと思われた時。蓮ちゃんはバイクごと前転し、ギリギリのところで大型トラックを避けた。そしてそのままインターチェンジ内に着地した。
「おい君!待ちなさい!」
そんな警察官の言葉を背に、蓮ちゃんは走り去っていく。
仕事が早いようで、高速道路は反対側も含めて車は1台も走っていない。蓮ちゃんは安心して最高スピードを出して走る。もしこの場に警察がいたら現行犯逮捕されているだろう。いや、逮捕されればいいのに(作者の心の声)。
しばらく走ったところで、車が数台走っているのが見えた。事故に遭った車ではないだろう。止め損ねた車、でもないだろう。
考えるとするならば……
「組織……かな」
公安の輸送に他の公安がマークしていないはずがない。そして距離を置いて後ろと前を走っているだろう。だから、事故に遭った車の後ろはだいぶ空いているはず。そして、名古屋の警察は仕事が早いから、空いている間に通行止めしているはずだ。
どこから来たのか。それはもちろん、空からしかない。
「組織も馬鹿なことするのね」
うん、アホだね、アホ。空からわざわざ車を運んできて走らせる理由がない。
理由……?
「まさか……赤犬ッ!?」
車の集団の後に着いたとき、事故に遭ったらしきトラックが見えてきた。そして、赤犬が立っていた。
つまり、組織は赤犬ごと証拠を消すつもりなのだろう。これだけの車が突っ込んで爆発したら、高速道路が持つかどうかわからない。そして下は都心部。只事では済まない。
何か策はないか、そう考えた時。
ある物を持っていたことを思い出した。