琥珀の存在証明
残念だなぁ、と彼は嗤った。言葉とは裏腹に、その声色には、或いはその瞳にさえそんな感情は見当たらなかった。ただ、嗤っている。楽しそうに、詰まらなさそうに、無感情に、嗤っている。飾り気のない前髪から覗く鳶色のそれは、此方を見ている様で、どうも違うらしい。そんな瞳をまともに直視することもできずに、只阿呆のように引き伸ばされた影に目を落とした。目は口ほどに物を言う。それは果たして、誰の弁だっただろうか。明確な真意を読み取ることは当然のように能わず、半分自失の様な体で推測する。しかしそれも、どう騰いた所で推測でしかない。舌打ちの代わりに、若しくは何かを堪える様にその拳を固く固く握り締めたのは、果たしてどちらの左手だったか。ぎち、という音まで聞こえるようだ。もう片方の手で鈍色を弄びながら、小さく息を吐いた。どちらの気管が?―どちらの其れも、だ。推測の結論は出ない。当然だ。どちらの思考回路の、どの問いに対しても未だ結論は出ない。当然だろう?胸の内で首肯。不用意に口を開けば、張り詰めた糸に鋏を入れるように。そんな錯覚さえ抱く無音の空間。否、証明のように幽かな呼吸の音が響いている。幽かな。その原因となっているであろう、それに視線を移した。心地好い、とは言い難い香りが鼻腔を刺激する。
―まるで生き物のように、吐き出される朱だ。
琥珀の皮膚を、真白の床を、喰い千切り嘗める様に這う。それはお互いの刀創から、銃創から、一呼吸毎にまるで等しく伝っている。散らばった薬莢、仄かに火薬の匂い。自分のものではない溜息が漏れた。それが意味するのは何だ、随分前にぽつりと発せられたあの言葉だろうか。相変わらず此方を、此方よりずっと遠くを見据えている双眸から答を導き出すのは無謀だ。痛みなど片鱗も窺わせない表情、彼はまだ嗤っている。その瞳の奥底で、胸の一番深い所で、飽いたように、無感情に、嗤っている。或いはそれは、泣き出す直前の幼子のような表情だ。まるで感染源。痛い程に伝う、押し殺された感情は、しかしそれでも真に理解することなんてできやしないのだ。釣られた様に視界に薄く膜を張る水。不本意だ。それはもう、非常に。なんて不条理な世界だろうか。なんて不条理な、不確かな物質だろう。仕方が無いな、と思った。救えないな、と。そう思った。それでも、救えるのは只一人しかいないだろう。行き過ぎた自意識、優越、ごちゃまぜになったそれが刺すように急かす。再び差し出した右手は
、その御手を気取って。鈍色が輪郭のない光を反射した。
「――――。」
乾いた音。それは、救済と云うには余りに汚れきっていた。ぱたりと、思い出したように証明する朱。不安定なそれを、不安定なそれが今更ながらに彼の存在を焼き付ける。肯定する。嗤っていた、否、微笑っていた。錯覚さえ覚える程に。残念だなぁ。嗤う。嗤う。泣きそうに、笑いそうに、或いは憤り、涙を流しながら、嗤う。