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第十四話

 俺は、授業をそっちのけで手紙を読んでいた。

 ついこの間までの俺を取り巻いていた環境は、もしかしたら夢だったのではないかと、度々思う。しかし、紛れもなく、あれは現実だった。

 晶と真紀緒が旅立ったその日、ニカ子にその事を告げると二度と合う事の出来ないという、空虚感に涙を流していた。それ以降、ニカ子は、休み時間などに暇があれば、あの時さー、と思い出話をして、記憶をとどめておこうとしているようだった。俺にとっては、そのニカ子の行為が、あの不思議な一週間は現実だったのだと思わせてくれている。

 俺は、鞄の中に入れてあるDVDを思い出す。最後の日、俺が晶達にお願いした物だ。

 わがままを言わせてもらった。どうしても、二〇八五年に放送される俺の番組を見たい、と頼んだのだ。本来ならもちろん不可能なのであるが、たまたま、いやこれも必然なのか、父の立場を利用して、いつになってもいいから、父に渡しておいてくれ、と頼んだのだった。そして、今日の朝、中国の消印が押されたエアメールが、父から届いていたのを自宅のポストで見つけ、学校に持って来たのだ。DVDはもちろんまだ見ていないが、先に同封されていた手紙だけ読み始めた。

 印字されたものなので、字体はわからないが、文面からして晶だろう。そこには、俺の番組は二週に渡って放送され、一週目は、あのワンボックスで聞いた様に、高視聴率だったと書いてある。しかし二週目は、更にそれを超えるもので、俺の名が改めて有名になったと言う。どんな編集がされているのか、楽しみ、と言う所だ。お陰で、上司からも誉められた、と書いてある。それはよかった。

 そして、手紙の最後には、「まだ答えてなかったけれど」と繋いだ文章が綴られていた。

「まだ答えてなかったけれど、あの日、ユキ君が私に聞いた質問。私たちは、何が起こるのか全部しっているのか、と言う事。もし、あのときの私の質問に、ユキ君が「先に結果を知りたいから」と言っていたら、私は決してユキ君にこの話をする事はなかったと思います。でも、あのとき、ユキ君は踏ん張ったもんね。答えですが、私たちは、過去に起こった大きな事件は歴史として知ってはいますが、取材をする相手に起こる、日々の小さな出来事や変化までは、調べていきません。だから、私たちも何も知りませんでした。でも、分かっていた事はあります。それは、ユキ君が、きっと私たちを笑顔でこちらに返してくれるだろう、ということ。楽しい時間を、どうもありがとう。どうぞ、次に会う日まで、お元気で。 

 追伸、このDVD、これからの人生のネタバレあり、注意!」

 

 

 俺は死ぬまでこのDVDを見る事はなかった。

 でも、そのDVDの内容は、後に知ることになる。

 そして、俺が九三歳でゲストに迎えられた、歴史ドキュメント「田中雪広の軌跡(LOPの生みの親の青年期)」で、妻のニカ子とともに、まさか晶と真紀緒にもう一度会えるとは、もちろん、今の俺は知る由もないのだけれど。


                               完

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