第一話
晴れた空。浮かぶ雲。澄んだ空気。暖かな太陽。
梅雨前の、気持ちのいい日曜日。何かしないともったいないと思わせるような、そんな日。
俺は、窓から見える住宅街をゆったりと見ていた。一軒家の二階にある自分の部屋からは、近所の家の屋根ばかりが見えるが、その上に広がる眩しい大空は目を潰すほどだ。
「絶好の行楽日和、だな、ホンとに」
昨日のテレビで見た天気予報のお姉さんが、やけに自信ありげにそう言っていたのを思い出す。まさにその通りになったようだ。
窓枠にもたれかかって、思いっきり伸びをする。
伸びってなんでこんなに気持ちがいいんだろう、と答えの出なさそうな疑問を頭で考えながら、もう一度空を見上げる。
こんな日は気分がいい。やるか。
注ぎ込まれる日光を惜しむ素振りは全く見せずに、あっさり窓を閉め、カーテンも閉める。部屋のドアの鍵も閉めておこう。突然親に入って来られたりしたら、興ざめする。
瞼に残る太陽の残像が薄れていくと、次第に見慣れた部屋の風景がはっきりしてくる。
真っ暗になった部屋には、パソコンのディスプレイと、テレビの画面の明かりだけが浮かび上がる。六畳のこの部屋には、意外にそれだけでも不便さを感じないものだ。
部屋の鍵を閉めてから、布団を踏んづけて部屋の奥にある座布団に向かう。床にひいたその座布団は潰れきっていて、なんだか一年中湿っぽいし、長時間座っていると尻が痛くなるけれど、なぜだろう、捨てる気にも、取り替える気にもならない。愛着があるというほど可愛いものではないが、言うなら、俺の癒しアイテムの一つなんだろう。その座布団を囲むように、パソコンとテレビが直角に置いてある。二つの画面から放たれる明かりの交わる場所、そこが俺の低位置だ。その中にあぐらをかいて座り込む。
まず、パソコンのデスクトップにあるアイコンをクリック。ウィンドウが開くまでの間に、テレビの下に閉まってある弁当箱大の箱を取り出して、開ける。ケースからディスクを取り出して、テレビに繋がるDVDプレイヤーに入れる。DVDが読み込まれる間に、またパソコンのディスプレイに向き直り、表示されたログイン画面が現れる。いつも通りの手順でパスワードを入れて、エンター。
テレビからはお気に入りのアニメの主題歌が流れ始め、パソコンには今やり込んでいるネットゲームの世界が広がっている。
趣味? アニメ見ることと、ゲームすること。
学校? この辺ではそこそこ頭いいって有名な学校に在学中。今一年生。
オタク? 世間から言わせればそうなのかな。
もし俺がオタクと呼ばれる人間でなかったら、この一連の出来事はきっと存在しなかったのだろうか。