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カノン  作者: 朱咲カホル
4/6

act.4 やっぱりかっこいいなあ…

 バタバタと廊下を全力疾走する生徒が二名。

 逃げる花音と追う響だ。

 そんな彼らを生ぬるい視線、もしくはあきれまじりの苦笑で見守る生徒たち。そして、

「おーい。廊下は静かに走れー」

 のんびりと注意するのは、生徒会の顧問である井戸畑圭介。けれど本気で止める気はないらしい。

 彼のズレた注意に二人は、

「すみません!」

 声をハモらせて謝るが、走る速度は落ちない。

 そんな二人に井戸畑は肩をすくめる。

「それにしても井上花音、意外と足が速いな。これは新発見だ」

 そのつぶやきを本人が聞くことはなく、花音はひたすら走った。

 井戸畑の言葉どおり、運動が苦手そうに見える外見に反して、かなりの俊足だ。小柄な体型を十二分に発揮して、人のすき間を縫うように駆け抜ける。響も運動能力はある方だが、こちらは長身が仇となって思うようにすり抜けられない。距離を離されることはないが、縮まることもない。

 やがて、階段にたどり着いた花音は、勢いを殺すことなく駆け下りた。

 が――

「ひゃっ!」

 思い切り踏み外した。

 バランスを崩す。

 体が傾き、そのまま下まで転がり落ちそうになって。

 ぐいっと力強い腕に支えられる。

 投げ出された足が視界に入る。

 心臓がバクバクとうるさい。

「あ、ぶねえ」

 深みのある低音が耳元で聞こえ、心臓がより一層大きく跳ねた。

(せ、先輩が……背中に先輩のぬくもりがっ)

 少し視線を上げるだけで、響の整った顔が間近にあって、慌てて視線を戻した。

 顔が一気に熱くなっていく。

 時折、首筋をかすめる吐息に意識を奪われそうになって。

 と、ふわりと体が浮き上がり、投げ出されていた足が床についた。

「怪我はないか?」

「はい。ありがとうご――っ!」

 ガシッと肩をつかまれ、お礼の言葉が途切れる。

 これはもしや絶体絶命?

 たらり、と冷や汗を流す花音に、

「やっとつかまえた」

 唇の端をわずかに上げた響を見上げ、

(やっぱりかっこいいなあ)

 思わず惚れなおした花音だった。

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