act.2 見つけた…
響たちのバンド「アカボシ」はある危機に直面していた。
文化祭が間近に迫ったこの時期に、バンドの要であるボーカルが抜けてしまったのだ。
『みんな、ごめんね……こんな時期に転校なんて……ほんとごめん』
涙ながらに謝る彼女に、誰もなにも言えなくて。
なんとかするから、と彼女を見送ったのが数日前。そしてまだ彼女以上のボーカルは見つかっていない。
他のメンバーたちも必死になって探しているが成果は芳しくない。
「まいったな……」
練習室に深みのある低音がぽつりとこぼれた。
このままでは文化祭のステージに出られない。
焦りが響の心を支配する。
と、歌が聴こえてきた。
(いったい誰が……)
ボーカルの入っていない曲に合わせて聴こえてくる歌声は少女のもので。
ふり返る。
風を入れるために少しだけ開けられた窓からそれは聴こえてきていた。
魅力的な声だった。声量も申し分ない。けれどなによりも――
響の唇に笑みが浮かぶ。
ガラッと窓を全開にする。
「っ!!」
歌声が途切れる。
驚きで目を見開き、こちらを見上げている少女は見覚えがあった。
「おまえ――」
名前を言おうとして、できなかった。少女が脱兎のごとく逃げ出したからだ。
おとなしそうなイメージからは程遠い俊足ぶりに、響はただその背中を見送るばかりで。
しばし呆然としていると、練習室にギターの丹下洸が「おつかれさまでーす」と入ってきた。
「先輩? どうしたんですか?」
「見つけた……」
「え?」
そのつぶやきに反応した洸は、わけがわからず首をかしげるのみだった。