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 ミサイルはあれから五分おきに、まるで虎鉄が方角を見失う頃合を見計らったかのようにやって来て、彼を導いてくれた。


 結論から言うと最初のソ連製ミサイルは、虎鉄に気づかせるために打ち込んだ一発で、その後飛来したミサイルは命中したのを除き、どれも馴染みのある国のものばかりだった。


 事実、虎鉄も一番最初にあのミサイルが来なければ、気にかける事も深く考える事もなく見過ごしていただろう。たぶんどこかの国が軍事衛星で何かをやっていて、その流れ弾がやってきた、程度にしか思わなかったはず。もしその後五分おきにミサイルがやって来ても、「おいおい危ねえな。宇宙戦争でもやってるのか?」とかアホな事を言って終わるのがオチだったであろう。虎鉄の事をよく知るエリサだからこそ、この計画を立てられたのだ。そして見事にその目論見は当たったのである。


「ヒャッハーッ!」


 ブースターから噴き出る推進剤が光の羽根の如く輝き、その羽ばたきで漆黒の闇を煌々と照らす。神話の中に出てくる大天使のような出で立ちのアペイロンは、光の速度に近づく勢いで地球に向けて猛進していた。


 今の虎鉄は前にも増して絶好調。何故なら、自分の事を信じて待っている人たちがいる。自分を助けようと、知恵を絞ってくれている。これで魂が燃えなきゃ男じゃない。そして魂が燃えれば燃えるほど、アペイロンに不可能はなくなるのだ。


 ただ欠点も大きく、虎鉄の魂が燃えなければアペイロンはただの甲冑プロテクターと化し、無敵の装甲もネオ・オリハルコンにエネルギーが供給されなければ本来の機能を発揮できなくなる。さらに士気が下がれは変身すらできなくなるという困った問題もある。


 この兵装としてあるまじき不安定さが、スフィーあたりに言わせれば未完成品かつ気に入らないという事になるのだろう。たしかに気分によって動いたり動かなかったりする兵器など、リスキー過ぎて実戦で使用できるわけがない。


 事実、宇宙最強を謳っていた舞哉ですら、今は変身不能となっている。アペイロンユニットは可能性が無限大という利点はあれど、稼動に条件がつくという点ではまだまだ難ありといったところか。


 そもそも舞哉が自分で作ったくせに変身不能に陥っていなければ、虎鉄がここまで出張る必要はなかったのだが、考えてみればそのおかげで念願のアペイロンユニットを手に入れられたと思うと複雑な気分になる。


 今になって思えば、舞哉が虎鉄にアペイロンユニットを渡したのは、変身できなくなったせいで地球を救えない彼なりの罪滅ぼし――または餞別みたいなものだったのかもしれない。


 もしかすると彼は、あえて虎鉄にアペイロンユニットを託したのだろうか。自分の地球ほしは自分で守れ、と。それだと多少辻褄は合わないが、理由としてはもっともらしいし、何よりカッコいい。だが、


「……なワケないか」


 宇宙人のくせに祭りと喧嘩が三度のメシより大好きという江戸っ子みたいなあの男が、こんな大暴れできるチャンスをふいにするわけがない。もし変身できるのなら、絶対虎鉄なんかに任せず嬉々として自分でドラコを倒しに行ったはずだ。そして圧倒的強さで勝利し、ついでに宇宙船も爆破してほくほく顔で「いや~、久々にいい汗かいた」とか言いながら帰って来るに違いない。それがなかったという事は、やはり本当に変身できないのだろう。


「師匠も年かな~」


 本人が聞いたら鉄拳が飛びそうな事を言っていると、ようやく地球が見えてきた。思えばずいぶん遠くに飛ばされたものだ。


「さて、問題は大気圏再突入か……」


 飛行機では離陸よりも着陸の方が難しいように、スペースシャトルなどでは大気圏突破よりも再突入の方が難易度が高く危険度が増す。何故なら大気圏突破は、乱暴な言い方をすれば推進力にものを言わせればできるが、再突入は突入の際に機体の角度がずれると、機体の表面温度が限界以上に上がる危険だけでなく、着陸地点が大きくずれるという問題が発生するからだ。わずかなずれが大事故を起こす可能性のある、何かと気を遣う作業なのである。


 そんな針の穴にラクダを連続で通すような、神経を遣う細かい作業が虎鉄にできるか――などと地上の面子が思うはずもなく、当然事前の手が打ってあった。


「何だあれは?」


 青く輝く母なる星、地球。その前には無数の人工衛星の整列によって描かれた矢印が、標識のように虎鉄を導いていた。


 そしてその矢印の先には、一基の人工衛星が出番を今か今かと待っていた。虎鉄は知るはずもないが、この機体こそが爆発に巻き込まれて地球から離れて行くアペイロンをその自慢のレンズで捉え、スフィーたちに情報を提供した命の恩機“神の眼”である。今もまた、彼女らの立てた作戦通りに虎鉄が無事戻って来た事を、地上の聖セルヒオ教会の客室に伝えているはずである。


「あれに乗れってか」


 虎鉄はスフィーたちの意図を即座に把握した。きっとあれが自分を無事地上へと届けてくれるはずだと。そしてその予測は間違いではないと告げるように、虎鉄が機体に取り付くと、“神の眼”はゆっくりと地球に向けて動き出した。大気圏再突入ラストダイブの開始である。

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