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ドラコの身体が高真空の宙を舞う。人造人間だと理解していても、人間と変わらぬ見かけにわずかだが闘志が鈍る。そういう効果を期待して人の形を模しているのだとしても、人を殺しているような気分がして何とも後味が悪い。
その時、虎鉄が被っていたロボ頭内部のモニターが赤く点滅し始め、続いて警告という文章が親切にも日本語で現れた。てっきりドラコに破壊されたと思ったが、死んだのは通信機能だけで、他の機能は生きていたようだ。
見れば、デジタル表記されたカウントダウンタイマーが、残り十分を示している。これを過ぎると、たとえ巡航研究船を爆破したとしても、破片が地球に衝突するのを回避できなくなる。
即ち、人類に残された時間――あと十分。
「やべっ、もう時間がない!」
目の前のモニターに気を取られていると、
「どうやらここまでのようですね」
いつの間にか、ドラコに間合いに入られていた。
ドラコは失った両腕の代わりに両足でがっしりと、蟹ばさみの体勢で虎鉄の胴体に両腕ごとしがみつく。強烈な締め付けを感じると同時に、頭部モニターが新たな警告を出す。
文言は『自爆装置、作動』。
「まことに残念ですが、シド・マイヤーと博士の始末は他の人に任せるとして、今回は貴方を道連れにという事で良しとさせてもらいましょう」
『自爆十秒前』。モニターに絶望的な数字が現れる。さすが宇宙連邦治安維持局。ちゃんと自分の手駒に自爆装置を積んでおくとは、どこかの間抜けな科学者に見習わせてやりたい。こうして分かりやすくロボ頭のモニターに表示させるのも、ドラコがわざとやってるに違いない。虎鉄が慌てる姿を自らの最期の手向けにしようとでもいうのか。人造人間のくせに性格の悪い奴だ。
だがこの時を待っていた。
虎鉄は賭けていた。ドラコを任務遂行不可能な状態に追い込めば、宇宙船を地球にぶつけて舞哉とスフィーを殺すという選択肢よりも、アペイロンを道連れに自爆するという確実な方を採るだろうと。そして宇宙連邦治安維持局がご多分に漏れず、ドラコに自爆装置を搭載しておくだろうと。
そのためにわざわざ両腕をもぎ取りつつも、とどめは刺さなかったのだ。とはいえ戦闘力の差がここまであるとは思わず、一度負けて心臓が止まったのは計算外だったが、途方も無く分が悪い賭けに、虎鉄は一度コンティニューしたとはいえ見事勝ったのだ。
「そうかい。けど道連れになるのは俺じゃないぜ」
「どういう事ですか?」
「お前のお供をするのはこの船さ」
返事を待たずに虎鉄は気合一発で蟹ばさみをこじ開け、手刀を一閃。ドラコの両足をいとも簡単に斬り落とす。
「…………ッ!?」
蟹ばさみから開放された虎鉄はそのままドラコの頭を掴み、野球のピッチャーの如く豪快なワインドアップモーションで振りかぶる。狙うは機関部中央、ダークマター駆動機関。残り七秒。
「き、貴様っ、最初からこれを狙って……!」
「ちょうど火種がなくて困ってたところなんだ。悪いがあんたの自爆、使わせてもらうぜ」
虎鉄としてはウィンクをしたつもりだったのだが、いかんせん変身した姿の上にロボット頭を被っているので、ドラコには伝わらなかった。
大きく振りかぶって全力投球。ドラコは一瞬でダークマター駆動機関のど真ん中に突き刺さる。残り六秒。
投げると同時に虎鉄は踵を返す。もはやドラコがどうなったかなど見もしない。それよりも脱出。当然エンジン全開フルスロットル。宇宙船内部に侵入した時に開けた穴に向かって、全速力で飛ぶ。残り五秒。
最初の部屋に到着した。壁に開いた巨大な穴を確認。気密シャッターを破れば、来る時に開けた穴がそのまま出口になる。あともう少しで脱出、ギリギリ間に合うか、というところでスフィーのロボットが視界に入り、思わず虎鉄の足が止まる。
このままロボを残して逃げる事に躊躇するが、よく考えたら中身が入ってないので考える必要なかった、と自己完結したところで時間はゼロ。完全にタイムロスだった。
この日、世界各地の天体観測所が宇宙での謎の大爆発を観測した。天体関係者は玄人素人、紙面ネット上関係なくそれぞれの揣摩臆測をここぞとばかりに語っていたが、当然の如く世界が救われたという記事は一つたりとも書かれなかった。




