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野盗の末路

「馬鹿者!慌てるでない。」


 洞窟の入り口に飛び出してきたのは野盗の首領、鎧は身につけていないが剣と盾を持って十分な臨戦態勢を取っている。首領の一喝が響くと慌てて飛び出してきた野盗達が落ち着きを取り戻した。


「よく聞け。獣人は魔物だが獣にすぎない。見ろ、炎を恐れて近寄ってくる気配がないではないか。」


「おお、流石ボスだ。伊達に前の大戦を潜り抜けていないぜ。」


 首領の判断を頼もしく思った手下達が手に松明を掲げる。広がった光が林の方まで照らし出した。獣人の群れは洞窟を遠巻きにしたまま近付いてこない。


「飛び道具を持ってこい。追い払うぞ。」


「へい!すぐに持ってきます。」


 野盗の手下が再び洞窟内に走る。しばらくしてたくさんの武器の入った箱を持って戻ってきた。


「よし、最初は私が撃つ。私が合図したら一斉に撃て。」


 首領はボウガンが渡されると崖の岩壁を背にして、林の中に光る双眸に照準をつけた。周りにいる野盗達もボウガンを手に取り、首領と同じく林の方に向ける。首領の一撃を待つ。


「ぐわっ!」


 矢が飛ぶ音、当たった者の悲鳴、野盗達の視線が首領に集まった。そこにはなぜか岩壁に矢で縫い付けられている首領の姿があった。左肩、鎖骨の下辺りに矢が刺さっている。あまりの出来事に野盗達の動きが止まった。


「ぎゃああああぁぁぁぁぁ、痛い、痛い、痛い・・・お前達何をしている。早く抜け、早く抜かないかっ!」


「うわぁぁぁ、ボス、大丈夫ですか!?」


 手下達が持っていた武器を放り出して首領を助けようとする。だが首領を串刺しにしている矢は全て鋼で出来ていて切ることも出来ず、岩に刺さった鏃は抜くこともできない。さらにご丁寧に矢羽まで鋼で出来ていて首領の身体を抜くこともできなかった。


「今だっ!全員突撃。いいか、手足は千切ってもかまわないが、全員生かしたまま捕らえよ。」


「「「了解!」」」


 林の中から大きな人の声、それと共に狼の毛皮を羽織った兵士が武器を手に突撃、さらに崖の上から黒装束を纏った兵士が飛び降りてきた。混乱の中、迎撃に出た野盗達が一人また一人と切り倒されていく。命は取らないように手足の腱が切られていた。


「くそっ、町の奴等め。人質の命は要らないのだな。誰かっ!人質を殺せ。それとこれはまだ抜けないのかっ!」


 首領が叫ぶ。野盗の一人が洞窟の中へと駆け出す。黒装束の男がその後を追った。洞窟の前でも戦闘が繰り広げられている。


 -----------------------------------


 洞窟の前を制圧するのにそれほどの時間は必要としなかった。10分もしない内に手足の腱を切られた野盗30人程が地面に転がってうめき声を上げている。洞窟から飛び出してきた野盗の何人かも、首領と同じく岩壁に縫い付けられていた。


「やっぱり副隊長の矢はすごいですね。どうやったらこんな風に岩に突き刺さるのですか?」


「弓矢がすごいだけだ。この弓さえあれば誰にでもできる。」


 部下に褒められたゲオルグが照れ隠しに怒鳴った。その手には2mを大きく超える大弓、背中には特別製の矢の入った矢筒が背負われている。


「またまた~、そんな弓を射ることができるのは副隊長だけですって。謙遜しなくてもいいですよ。」


「うるさい、テオッ!まだ作戦は終わっていないぞ。」


「ほ~い、では中に入って人質を救出してきます。副隊長殿、ここはお任せしますよ。」


 小隊長のテオは軽口を叩くと部下を連れて洞窟の中に入っていった。エーリッヒの小隊も後に続く。残されたゲオルグの部下三人が転がっている野盗達を縛り上げていく。ゲオルグは矢をいつでも撃てるように構えたまま、その姿を見ていた。


 ローザライン共和王国の兵士の頂点に立つのはジークフリート=アイゼンマウアー、これについては誰一人反論する者はいない。実力、戦歴、更に如何にもな風貌がそうさせていた。だが副隊長のゲオルグはそうではない。実のところ剣の腕ではゲオルグを上回る者は少なくない。力と耐久力はあるが俊敏性に劣る、それがゲオルグに対する評価であった。


 ではなぜゲオルグが副隊長なのか?それはゲオルグが最も地道に働くからであった。クロウ、ドゥーマンと組んでいた昔は力任せの荒くれ者にすぎなかったゲオルグだが、勇者支援官であったケルテンに負けて変わったのだ。あいつならどうするか?他に何かできることはないか?いつもそう行動していた。地道で繊細な内面を豪快な振る舞いで誤魔化してはいたが、周りの者からは周知の事実でそのおかげで慕われていた。それ故にアイゼンマウアーはゲオルグを副隊長に推薦したのだった。


 前衛に立って分厚い鎧で後衛を守る、それがゲオルグの役目であったがやはり自身も活躍したかった。そんな時に登場したのがミスリル製の大弓、上下非対称のその弓は引き絞れる者もおらず無用の長物となっていた。それをいとも簡単に引き絞ったのがゲオルグだった。想定外のことに喜んだリヒャルトとケルテンがその弓をゲオルグの専用とし、さらに専用の矢も作った。それからゲオルグの立ち位置が後衛になり、副隊長の任と合致することになった。後方で戦局に合わせて的確な指示と攻撃をする、それが副隊長ゲオルグの役目であった。


 しばらくして戻ってきた三人の小隊長が複雑な顔をしていた。部下によって保護された女性二人には意識がなく、全身が様々な物で汚れている。予想通りではあったがゲオルグの頭に血が登ったが、部下の手前冷静を装うことにした。


「エーリッヒ、綺麗にしてやってくれ。近くに泉があったはずだ。」


「了解です。」


 エーリッヒの小隊が女を連れて立ち去った。残ったブルーノがまだ複雑な表情をしていた。


「なんだ、まだ気になることでもあるのか?」


「それなんですがね、奴等を追って牢屋まで行ったんですが、途中で他の野盗に邪魔されて遅れたんです。」


「それがどうした。結果的に助けることができたんだ。それでいいじゃないか?」


「まあ・・・・そうなんですけどね。追いついた時には牢屋の前で奴等が寝ていたんですよ。まるで魔法で眠らされたかのように・・・。」


「そうか・・・そのことはいい。結果が全てだ。多分お節介な奴がいたんだろうな。」


「えっ?」


「いや、なんでもない。それより捕らえた野盗を何とかしよう。まず首領を尋問するから、壁から引っ剥がせ。」


 不思議そうな顔をするブルーノに次の指示をした。ゲオルグには心当たりがあったが口には出さずにいた。ゲオルグが見ている前で暴れる首領が縛られ、数人がかりで矢が抜かれた。


「おい、傭兵風情が私にこんなことをして無事に済むと思うな!」


「ふん、野盗にそんなことを言われる筋合いはない。野盗は野盗らしい最後を迎えるがいい。」


 偉そうに騒ぐ首領にゲオルグは何の感慨も湧かず、冷酷に判決を告げた。


「待て、身代金を払う準備はある。金貨で50万、それで私を解放してくれ。」


「貴族同士の戦争でもあるまいに金で解決できるものかっ!・・・・・待てよ、こいつ等をよく調べろ。言動にどこか引っかかるところがあると思っていたが、本当に貴族かもしれん。」


 顔色が青くなったゲオルグが命令すると、野盗の首領を上から下までひっくり返して調べられた。ほどなくしてそれを証明する物が見つかった。家柄を示す紋章の入った短剣、高価な装飾品等、調和の取れた装いは野盗の首領が身につけるには相応しくない。盗んだり奪ったりした物をただ身に着けているようにも見えない。


「これはなんだ?ことの次第によっては話を聞かないわけではない。正直に言ってみろ。」


 首領の目の前に短剣の紋章を突きつける。一旦目を逸らしたが、ゲオルグ側に交渉の余地があると分かったのか尊大に語り始めた。


「名は言えぬが私はノイエブルク王家に連なる者だ。お前達ごとき平民と交渉するものではない。湖上都市の長に会わせよ。」


「はあ・・・、実に残念だ。可能性の一つとは聞いていたがまさか本当だったとはな。」


「なんの話だ。いや、そんなことはいい。身分に相応しい待遇を要求する。」


 ゲオルグは思わずため息をついた。この命令を受け取った時に宰相から聞いていたのだ。収入に困った王侯貴族が非公式に私掠許可を得ている可能性があると。さらにその場合は二度とアウフヴァッサーが襲われることのないように、出来る限り残酷に殺せとも命令を受けていたのだ。


「今の話は聞かなかったことにする。お前は野盗の首領として死ね。」


「馬鹿な!伯爵であるこの私を平民が裁くとでも言うのか!」


「うるさい。野盗風情が伯爵を詐称するな。これ以上戯言を聞く必要はない。舌を切り取って二度と話せなくしてやれ。」


「止めろ、止めてくれっ!もがっ、むぐぐううううう・・・・・・・うぐあぁぁぁぁ!!!」


 喚く首領を数人がかりで抑え、強引に口を開かせるとその舌が切り取られた。治癒の魔法で止血をする。ゲオルグはそれを吐き気を堪えて見ていた。


「よし、こいつ以外にも何人かは町に連れて帰る。いい装備を持っている奴を探せ。」


「はっ!他の者はどうしましょうか?」


「手足を切って山の中に捨て置け。」


「副隊長、本気ですか?」


 ゲオルグらしくない言動に命令が聞き返された。


「こいつ等を生かしておく理由はない。二度と同じことをする者が現れないように見せしめにする。こいつらの仲間が残っているならこちらの意図は分かるはずだ。」


「分かりました。そのように取り計らいます。」


 険しい顔をして話すゲオルグに部下達はゲオルグが本気だということを察した。すぐに命令通りに動く。ゲオルグはまず自分の手でその不愉快な刑罰を執行した。


 --------------------------------


 翌朝、アウフヴァッサーに戻ったゲオルグは町長に作戦の終了を報告した。保護した二人と奪われた金品を返還した。元々この町に死刑の刑罰を執行する者はいない。捕らえた者の処罰は一任させてもらった。野盗の首領を含む5人は湖の浅い所に木を十字に組んで晒した。岸辺には投げつけるにちょうどよい大きさの石を置いた。街の者から憎しみを込めて石が投げつけられる。


「もう死なせてやって下さい。これ以上苦しめることはないでしょう。」


 磔にして三日、ゲオルグに町長が寄ってきてそう言った。もう石を投げつける者もおらず、磔にされている者もたまにうめき声を上げるだけでほとんど動くことはない。


「そうしたければ倒して湖に沈めればいい。俺はこいつ等が死ぬのを見届けるだけだ。」


 そう言ったゲオルグはげっそりと痩せて眼が鋭く光って迫力があった。ここ三日、ずっと動かず見ていた。食事も睡眠も禄に取っていないようである。


「分かりました。町の者と相談してみます。今回は嫌な仕事を押し付けてすまなかった。」


「爺さん、頭を上げてくれ。俺達は金で雇われた。それだけでいい。」


 ゲオルグは力なく笑みを浮かべた。


「そうか、疲れたら何時でもわしを訪ねてくるがよい。ドゥーマンとクロウにもそう伝えておいてくれ。」


「ああ、必ず伝える。」


 ヨハンはその場から立ち去った。その背中にありがとう、そう聞こえたような気がした。しばらくして集まった町の人の手によって罪人は湖に沈められた。それを見届けたゲオルグは町の人々に一礼すると魔法の翼を使ってローザラインへと戻った。


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「任務完了の報告に来ました。兵士に被害無し、人質になった女性の一名が死亡、捕らえた野盗は全て処刑しました。以上です。」


 宰相執務室に来たゲオルグが沈んだ表情で報告した。


「一人、死んだ?どういうことだっ!」


「町に戻ってから湖に身を投げた。俺のミスだ。」


「そうか、身体は助けられても心までは助けられなかったか。そのことを咎めるつもりはない。嫌な仕事を押し付けて悪かったな。しばらく休暇を取れ。」


「余計な気を回さなくていい。それより礼を言っておくべきかな?少なくとも一人は助けることができた。」


「なんのことだ?俺は知らないぞ。」


「そうか、なら忘れてくれ。なら話は終わりだ。」


 ゲオルグが退室していった。どうやら俺が混乱に紛れて忍び込んだことはばれていたみたいだ。

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