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国交の条件

 サイモンが帰ってから二週間、やっとノイエブルクから国交樹立の使者がやってきた。ローザライン城の謁見の間にて使者を迎える。一応の社交辞令が終わって使者の口から本題が述べられた。


「此度はノイエブルク王国の代表として、貴国ローザライン王国との正式な国交をお願いに参りました。こちらとしてはこれだけの条件が認めていただければ、国交樹立はやぶさかではありません。」


 その使者は尊大な態度で封蝋された文書を差し出してきた。進み出た俺が恭しく受け取り封蝋を解く。皆の視線が痛い中、書面を開き目を通した。


「正式に国交を要請したいそうです。とりあえずめでたいと言ったところでしょうか。」


 おおっーと皆から声が漏れた。


「こちらとしても願っても無いことです。ですが、宰相、とりあえずとはどう言うことですか?」


「条件がいくつかあります。

 一、こちらの所有する船の技術供与、もしくは安全な航路の確立

 一、ノイエブルク開拓地、グレンゼへの技術協力及び、物資の供与

 一、双方向への転移魔法の供与

 一、農業、畜産、漁業、採掘技術の供与

 など、我が国からの様々な供与を望んでいます。」


 俺が読み上げる内容にノイエブルクの使者はさも当然といった顔をしている。対照的にこちらの面々の表情が険しくなっていく。

 

「なっ!それではあまりに一方的です。そのまま受け入れるのは耐え難いものがあります。」


「アイゼンマウアー騎士隊長殿、まだ続きがあります。ノイエブルク王国側からはローゼマリー王女殿下の降嫁を認めるとあります。使者のお方、これは如何なる意味があるのか、お聞きしたいですね。」


「意味も何も我が王国の王女殿下を差し出す。それだけのことです、別に他意はありません。」


 俺から見えるこちらの面子の表情からは幾つかの感情が透けて見える。アレフからは失望、アイゼンマウアーからは憤激、マギーからは侮蔑、ゲオルグ、クロウ、ドゥーマンからは嘲笑だ。


「なるほどよく分かりました。申し訳ないが、使者の方にはしばらく席を外して頂きたい。よろしいでしょうか?」


「結構です。ではより良き返事が頂ける様お願い申し上げます。」


 ノイエブルクの使者が形だけは礼式に則った様相で謁見の間を去った。使者の姿が消えて声が届かなくなった頃、とうとうアイゼンマウアーの怒りが爆発した。


「どこまでこちらを馬鹿にしている、我がローザラインはノイエブルクの属国ではない。いつまでもノイエブルクが世界の中心と思うなっ!」


「アイゼンマウアー騎士隊長、何に対して怒っておられるのですか?」


「はいっ?それは当然我が国が侮られたことです、陛下。」


「そうは聞こえませんでしたよ、ノイエブルクの行く末を心配している様にも見えました。」


「いえ、そんなことはありません。今の私の忠誠はローザラインにあります。」


 アレフにそう言われたアイゼンマウアーが顔を赤くして否定した。


「騎士隊長殿が忠義に厚いのは誰もが知っていますわ、それは誇ってもよろしいのではなくて?」


「まあまあ、みんなが敬愛するアイゼンマウアー氏のことは置いておこう。まずはこの要求が何を意図してなのか、それを考えよう。」


「未だ何も変わってないだけじゃないのか?平民が作った新興国、適当な爵位でもやればそれで済むとでも思っているんじゃないですか?」


 最近はドゥーマンが俺の問いかけに一番に答えてくれる。その答えは俺に常識的な考えを教えてくれていた。


「皆もそう思っているのか?」


 一同を見渡すと特に否定する者はいない。


「マギー、今日来た使者は誰だ?俺は知らないのだが。」


「シュタウフェン公爵、先王の姉か妹の子だったかしら?絶対的王政の支持者の一人ね。」


「なるほど、だとすると彼の中では正しい対応なのだろう。と、なるとなぜそんな人材を使者に送ってきたか?それが問題だ、いったいホフマンスは何を考えている。」


「向こうの思惑はこの際どうでもいいでしょう。こちらとしてはどこまで譲ることが出来ますか?」


 アレフの意見は常に前向きだ。


「そうだな・・・まずあの船の技術はどこの国にも教えるつもりはない。となると、安全な航路を確立するしかない。予定より早くなるが、例の海峡の岩礁に手を加えるしかないな。」


「可能なのですか?そこまでの工事をする金も人材もないはずです。」


 とっさに答えたのはドゥーマン、この国で使える予算と人員を俺の次によく知っている。


「そんなに金も人もいらない。俺とマギー、魔道研究所の何名かが現地に行けば不可能ではない。」


「ではそれでお願いします。次はグランゼへの援助の件です。現地で困っている人がいるなら我が国としても助けるべきです。」


「陛下、それは正論ですが我が国にそこまでの余裕はありません。私はその意見には反対です。」


「陛下もアイゼンマウアー殿の言われることも正論、我が国は開拓者が起こした国ですから、同じ苦しみを持つ者を助けないわけにはいかないでしょう。ですので、これは例の海峡を通れるようにしてから着手すると答えておきます。おそらく向こうもそれで納得してくれるでしょう。」


「何か企んでいる顔をしています。無茶をしてはいけませんよ。」


「くっくっく、うちの国王陛下も人の心を読めるようになったみたいだ。じゃあ今考えていることを教えましょう。我が国が援助した後、その地が彼らのものであるとは限らない。」


 俺の言葉に一同が唾を飲み込む音が聞こえた。


「まあそのことはいいでしょう、次を考えましょう。双方向の転移魔法、宰相殿、これは公表しても構いませんね。」


「仕方ないですね。いっそのこと他の国との転移もできるようにしましょうか。そろそろ研究の成果が出る頃です。」


「それ本当、私聞いてないわよ!」


「まだ試作だが転移基準石が出来たと報告を受けたばかりだよ。」


「結構です。全ての都市がそれに賛成するなら使えるようにする、そう伝えましょう。最後の技術供与はどうしましょうか?」


「これは簡単です。限定的に供与すれば済むこと、どうせ全てを理解することなど不可能ですよ。それに爆発的に人口が増えます、食糧をいくら増産しても困ることはない。」


「これでノイエブルクからの全ての条件は呑むことができます。皆、これで如何でしょうか?」


 アレフはこれで納得できたようだ。皆の意見を纏める、これがこのローザライン共和王国のやり方だ。皆で意見を言い合い、できるだけ皆が納得いく意見を採用する。


「向こうからの条件はそれで構いません。ですが降嫁を許可する、この一文だけは削る必要があります。我が国はノイエブルクの属国ではありません。その意志は示すべきです。」


「私も騎士隊長殿の意見に賛成だわ。一国の王女を盾に人の国を奪おうなんて許せない。」


 意見は決した。マギーの言にその場にいた者全てが頷いた。


「ではこの条件を持って我が国の返答とします。細かい交渉は宰相にお任せします。ではノイエブルクの使者を呼び戻してください。」


 使者を謁見の間に呼び戻し再度の交渉を行なった結果、ノイエブルクの使者はこちらの条件変更をあっけないほど簡単に呑んだ。


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 ノイエブルクの使者が帰っても、またいつもの宰相執務室にて書類仕事をしている。いつも通りドゥーマンが俺を叱り付けながら書類を差し出す。その書類の合間にドゥーマンが聞いてきた。


「あの使者はなんだったのでしょう。あれじゃあ交渉役として何の役にも立ってませんよ。」


「まあね、初めに無理な条件を突きつけて互いに詰め寄る。それはすでに書面で終わっているとホフマンスは判断したんじゃないかな。」


「なるほど、ではあの王族を使者に寄越した理由は?」


「深い意味はないね。もしかするとローザライン王女が王位継承権を失った後、次の権力者は彼等だと教えてくれたのかもしれません。」


「そこまで分かりますか。宰相殿もあっちの大臣も凡人の私には理解不能です。」


「この交渉がうまくいけば、表向きには交渉役の手柄になる。その役を買って出たのがあの王族なんだろう。」


「なるほど、それなら分かります。王族の面子も大事なんですね。」


「ドゥーマン、これは俺がそう思っているだけで正解とは限らない・・・でももしその通りだったらホフマンスやサイモンが今の地位でいられるのは長くはないだろうね。」


「ではこちらが磐石である為に頑張りましょう。今日のことで仕事が増えました、内案で構いませんので教えてください。」


「案を纏めるからちょっと待ってくれ。しばらく一人にしてほしい。」


 ドゥーマンが書類の束を抱え、一礼してから部屋を出て行った。手元の白紙にペンを走らせる。


ー、海峡の浅瀬はメタルマの鉱山と同じく、爆発系の魔法で岩礁を破壊する。ただし要実験。


ー、海峡が開通に伴い、海峡を挟んだ地を新たなる開拓地とする。


ー、転移基準石を快速船に設置して実験する。安定した運用が確認次第、各国に設置する。


ー、供与する技術の限定、まずこちらにしかない植物の種の供与。あとの技術は随時教えることにする。


 無意識に近い感じで俺のペンが紙の上を走る。これら全てが成った時、さて世界の中心は何処にあるだろうか?


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