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副隊長

「全員、整列っ!」


 牧歌的なアウフヴァッサーの町に武装した兵士が整列した。総勢16名、並ぶ兵士の前に立っているのはゲオルグ、ローザラインの兵士の副隊長その人と町の中に案内してきた門番ジャン。街の人々が遠巻きにその姿を見ているが、近づいてくる者はほとんどいない。


「いいか、お前等。ローザラインを建国してから3年、日々の訓練によってお前等には十分な強さがあることは承知している。だが今日は訓練ではない、実戦である。まずそのことを頭に叩き込んでおけっ!」


「「「はいっ!」」」


「兄貴、兄貴!その名前は口に出しちゃ駄目でしょ。」


「おっと、そうだったな。お前等も気をつけろよ。」


 ジャンが失言を指摘するとゲオルグが照れくさそうに並ぶ兵士に注意を促した。その姿が滑稽に見えたのか、皆が笑みを浮かべる。


「では本日の作戦だが、まず野盗に捕まった町の人の身代金を届ける。絶対に勝手な真似はするなよ。お前達の失態は即人質の生命の危機に繋がる。そのことを忘れるな!」


「「「はっ!」」」


 ゲオルグの激に皆が返事をする。ゲオルグの隣に立つジャンは誇らしげにその姿を見ていた。


「よし、では詳細を詰めるぞ。こいつはジャン、昔俺が鍛えてやったからそれなりの腕はあるが戦わせるつもりはない。今回は地理案内を頼んだ。他の案内役は後で紹介する。まず班を4つに分けるぞ。第一班8名は町長について身代金を運ぶ。10万ゴールド分の金貨だ。この役目はエーリッヒお前の班に任せる。ただし鎧は着ていくなよ。理由は分かるな?」


「勿論でさ、街の人に服を借りて行きますよ。」

 

「よし、後三つの班の内一つは俺の小隊だ。テオが第二班、ブルーノが第三班だ。第一班が町長の後ろ、二班が右、三班が左だ。各自敵に見つからないように動け。」


「「了解。」」


 ゲオルグに名前を呼ばれたのは小隊長で、自身を含めて4人で動くように訓練されている。今作戦には4個小隊、ローザラインにいる正規兵の半分を連れてきていた。


「身代金を渡してそれで終わりですか?」


「勿論終わるつもりはない。だがそれ以前の問題がある。大人しく人質を返してくれる保証はない。街長を人質にとって更なる要求をしてくる可能性もあるからな。まずそれを全力で阻止する。エーリッヒ、お前の役割は大事だぞ。」


「副隊長、分かってますって。返還された人質と合わせて副隊長が追いつくまで守ればいいんでしょ?」


「そうだ。人質が返されたら俺とテオの班を合流させる。それで野盗が帰ってくれれば、ひとまずは終わりだ。」


「だとすると私の班が後をつければよろしいですね?」


 ブルーノと呼ばれた小隊長がゲオルグの話に割って入った。見た目が地味で存在感がない、そんな連中が集められた小隊を指揮している。主に斥候を担っていた。


「よく分かっているじゃないか。だが無理はするなよ。奴等の根城を突き止めたらすぐに戻ってこい。相手の人数も分かってないからな。」


「承知しております。私の小隊は荒事には向いていません。」


「よし、他に何かあるか?」


「質問。」


 小隊長エーリッヒが控え目に手を上げる。ゲオルグが顎で発言を促した。


「もし人質の返還もせずに襲ってきたらどうしますか。人質に武器を突きつけて金だけ奪おうとすることも考えられます。もしくは更なる人質を得ようとする可能性も。」


「・・・・・・・その時は人質に構わず奴等を殲滅せよ、そう命令を受けている。」


「兄貴、そんな・・・。」


 あまりの答えにジャンが口を挟むが途中で言葉を失った。


「ジャン、お前が言いたいことは分かる。だがどこかで止めないと奴等の要求は際限のないものになる。町長が人質に取られたらある意味この町が終わるぞ。」


「だけど兄貴の知り合いも捕まっているんだぞ。」


「ああ、知っている。それでもやらなければならないことはやる、その為に傭兵という形で俺達が金で雇われた。この町の人にはできないことを俺達がする為にな。勿論できるだけのことはする。それだけは約束しよう。」


 ゲオルグの右手がジャンの左肩に置かれる。その手がしっとりと汗で濡れていることにジャンは気付いた。微妙に震えているような気もする。いや、震えているのは自分かもしれない、ジャンはそう思った。


「・・・分かったよ。それで俺は何をすればいいんだ?」


「お前の仕事は後だ。奴等の根城が分かったらその時に力を借りる。どう攻めるか、土地勘のあるお前の知恵が必要だ。それまではいつも通り門番をしていろ。怪しい奴を町に入れるなよ。」


「うん、分かった。じゃあ。」


 ジャンがゲオルグの下から走り去る。声が届かなくなってから小隊長の一人がゲオルグに声をかけた。


「副隊長、不器用にも程がありますよ。誰が見てもばればれです。」


「ふん、そんなことは命令を出した奴に言え!」


「ああ、そういえば宰相殿もこの町の生まれでしたね。」


「この町も何もあいつは町長の息子だ。この町の人のことなら何でも知っているだろうし、そんな町の人の死など望むはずがない。それでも涙を飲んで命令を出す。それがあいつの判断だ。だったら俺はそれに従うしかない。」


「承知しました。では最悪の結末を迎えないように努力しましょう。」


「そうだ、まだ最悪を迎えるとは決まっていない。やり方次第では誰も傷つかずに済むはずだな。よし、作戦開始までまだ1時間ある。30分の休憩をやる。短いがその内に鋭気を養っておけ。では解散!」


 ゲオルグが休憩の命令を出すと一人二人と隊列から離れて行った。ゲオルグは腕を組んだまま立っている。目は瞑られていて身動き一つしない。

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