告白
「待て、まだ話は終わってない。」
止める為に肩に伸ばした手が振り払われた。
「もう放っておいて下さい。この城から追い出されるなら、これ以上言うことを聞く必要もないはずです。」
「まだ追い出すとまでは言ってないぞ。務めるのは難しいと言っただけだ。それに、ここを出て何処に行くつもりだ?」
「分かりません。どうせ僕なんて誰からも必要とされてない。どこで野垂れ死にしようが誰もなんとも思わないでしょう!」
ヨシュアがそう俺に向かって怒鳴りつけた。目に涙が浮んで見えるのは気のせいではない。
「そう投げやりなことを言うものじゃないぞ。このまま放っておいて野垂れ死にされたら、少なくとも俺は後味の悪い思いをすることになる。」
「それは僕があの人の息子だからですか!」
「はあ・・・いちいち突っかかってくるな。お前さんが誰であろうと関係ない。目の前の人間に死なれて平気でいられる程腐ってないよ。」
思わずため息が出た。このままでは生半可なことでは納得しないだろう。その証拠に未だ俺を睨む目が逸らされることはない。
「分かった。この状況を作り出した責任者として説明しなくてはならないな。」
「この状況?どう言う意味ですか?」
「まあ待て。話が長くなるから茶でも用意させる。」
「茶なんて要りません!」
「お前が要らなくても俺が要るんだよ。とりあえずそこに座って待っていろ。」
ソファを指差して座らせ、部屋の外にいる者に指示して茶を運ばせる。自分のテリトリーのはずなのに実に居心地が悪い。茶が来るまでの数分が非常に長く感じられた。
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「さて、人心地ついた処でさっきの話をしようか。」
ティーカップを片手にそう切り出す。ヨシュアは茶に一切手を出していない。ずっと俺を睨んだままだ。
「この状況を作り出した責任者と言われました。あれはどういう意味ですか?」
「うん、まあなんだ、アイゼンマウアーが君達母子を捨てなくてはならなくなった理由は俺にある。」
「そんな適当なことを言って誤魔化そうとしても無駄です。だいたい当時近衛騎士隊長であったあの人と宰相様にどんな関係があったと言うのです。」
そこから説明しなくてはならないのか。やはり公式に俺の存在はなかったことになっているようだ。当時6才かそこらのヨシュアが知るわけもないか。
「まあ知らないだろうが俺は城に仕えていた。当時アレフガルドに現れた魔王を倒す為に派遣された勇者を支援する仕事だ。勇者のことは知っているか?」
「勇者ですか?僕が知っているのは魔王を倒す為に近衛騎士隊から選りすぐりの騎士を送り込んだということだけです。」
「これまた適当な嘘だな。じゃあ誰が魔王を倒したことになっているんだ?」
「嘘とはなんですか。魔王を倒したのは現近衛騎士隊長のハンマーシュミット公爵だと発表されています。」
嘘に嘘を重ねておかしなことになっている。サイモンが近衛騎士隊長を辞めて次に隊長になったのは、近衛騎士に残ったゴルトベルガー子爵でもオスマイヤー男爵でもなかった。従来通り爵位だけで選出されたらしい。それが魔王を討っただと・・・ノイエブルクはともかく他の町村で信じる者などいないだろう。
「あの腹の出た公爵に魔王が倒せるわけないだろう。実はノイエブルクを開放したのはうちの国王アレフ一世だよ。それに俺とマギー、ガイラの4人であの魔王の島に乗り込んだ。」
「そんな話は聞いたことありません。大体、宰相様にそんなことができるように見えませんが。」
「ヨシュア、お前もか・・・まあいい、そのことはいずれ証明してやる。とりあえずそんなわけで俺はノイエブルクの城にいた。陛下、当時は勇者55こと勇者アレフと勇者25のガイラ、そしてマギーとで魔物に捕らわれていたローゼマリー王女を救い出したんだ。だけどここで問題ができた。」
「あっ!」
ヨシュアが俺の言葉を遮った。なんやら心当たりがあるらしい。
「なんだ、何か思い出したのか?」
「ええ、あの時の凱旋、白馬に乗った王女様の姿を思い出しました。白馬を引く男と女の人、王女様を前に乗せて白馬を操る若い男の人、さらに後ろの馬に乗る屈強な男の人。僕もあの熱狂の観衆の中、見ていたんです。もしかしてあの時のは・・・・。」
「ああ、そうだ、俺達だよ。わざわざこっ恥ずかしい演出をした甲斐があった。」
あの凱旋が民の記憶に残っていてもおかしくはない。目的は違ったがヨシュアに対する証明になったのは予想外のことだ。
「それで問題って何ですか?」
「うん、これも公式には発表されていないことだが、実はローゼマリー王女は精神を病んでいたんだ。それを癒す為、当時近衛騎士隊長であったアイゼンマウアーに協力してもらった。それが彼に罪を犯させることになる、その程度のことも予想せずにね。」
ヨシュアが黙ったまま険しい顔で俺を見ている。お前は何をやらせたのだ、そう言っているような気がする。
「王女様に日常を思い出してもらう為、普段から使っていた寝具や衣服を秘密裏に持ってきてもらった。まさか盗み出すとは思わなかった。勿論そのこと自体は誰がやったか表沙汰になっていない。だから誰も罪に問われることはない。だがアイゼンマウアー自身はそうではなかった。己で己を罰した。さらにもしこのことが表沙汰になった時に君達に罪が及ばぬように別離した。これが真相だ、君が憎むべきはアイゼンマウアーじゃない、俺だ。好きなだけ罵るなり襲い掛かってくるがいい。まあ宰相としての責務が残っているからむざむざ殺されてはやらない。」
「卑怯です。いきなりそんなことを言われてもできるわけないでしょう。わずか5年でローザラインを立ち上げた立役者、この国でその名を知らない者はいない。僕は今まで宰相様を尊敬していたのですよ!」
「それは光栄だがね、俺はそんなに偉くも立派でもない。ただ手の届く範囲に手を差し伸べていたにすぎない。それが君には届いていなかった。いや、それ以前に君の存在すら知らなかった。今からでも手を差し伸べるのが遅くないなら言ってくれ。この身を差し出す以外のことなら大抵のことはしてやれると思う。」
「フフッ、宰相様でも命は惜しいのですか?」
俺の言い様が可笑しかったのかヨシュアは泣き笑いで問うた。
「勿論命は惜しい。なんせ俺の背中には10万の人間を背負っているからな。ここで簡単に投げ出すようなことはしたくない。それに新たに生まれてくる命にも責任がある。宰相という立場も君が思っているより楽ではない。」
「はあ、宰相様には敵わないな。分かりました、蟠りは捨てるように努力します、今すぐには無理ですが。」
「そうか、それで何かして欲しいことはないのか?」
俺の質問にヨシュアが首を捻って考えている。冷めた茶に口をつけて間を持たせる。
「そうですね・・・前にも言いましたがやはりこれからは武より文の時代です。どこかそれを学ぶことはできませんか?できればこの国以外で・・・。」
「難しい注文だな・・・それに何か誤解していることもあるような気がする。まあいい、何か考えておく。」
「そうですか・・・まだ仕事が残っているので失礼させてもらいます。それではっ!」
ヨシュアが笑みを浮かべて一礼すると部屋から出て行った。多少は鬱積された感情を解消することはできたと信じたい。いずれあの親子が笑って話せるようにする仕事が増えたがそれも俺の業の一つか・・・。




