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鉄壁の解答

「ふむ、竹竿であのような戦いができるとは・・・なんとも奇妙な武技であるな。」


 闘技場から二人の脱落者が降ろされている。脱落者の騎士一人は痛みに歩くこともできないようだ。結構時間がかかっている。中断された闘技を待つ間に大王ウィルフレッド5世が呟いた。


「あれは棒術です。」


「なんと、その方知っておるのか!?」


「ええ、ガイラから昔聞いたことがあります。彼の流派に伝わる武技の一つです。おそらく伝授したのもガイラでしょう。」


 俺の言葉に大王がアンナ王女といっしょにいるガイラに視線を向けた。その視線に気付いたガイラが軽く頭を下げる。頭を起こしたガイラは悪戯をした子供のような笑顔を見せた。


「どうやらそのようだな。それよりその方、博識とは聞いていたが武にも長けていると見た。どうだ、その方も試しの儀にて武を披露してみないか?」


「恥を掻きたくないので、遠慮しておきます。それより・・。」


「このっ、痴れ者がぁぁぁっ!たった一人に何をしておるか!」


 パーン!怒声とともに闘技場に大きな音が響いた。闘技場に目を向けるとヒックス卿の前に一人残った騎士が直立している。大きな音はビンタの音だろう、会場には微妙な空気が流れている。それでも一切の抗弁をすることもなく小声で何かを話す騎士はある意味すごいと思った。


 示し合わせたわけではないが、アイゼンマウアーとヒックス卿の騎士がほとんど同時に闘技場の中央へと進み出た。不思議なことにヒックス卿は自分の騎士の後ろで武器も納めたまま立っている。さっきまでは形だけとは言え剣は抜いていた。


 竹竿と鉄の剣が軽く合わされて闘技が再開する。技量ある者同士の戦いが繰り広げられている。脱落した二人よりは上の技量を持っているのだろう。アイゼンマウアーの攻撃を安定して捌き続けている。さらにそれだけではない。竹竿を鉄の剣の刃で受けたり、攻撃で体ではなく竹竿を削る。竹竿の破壊を目的とした戦術でアイゼンマウアーの積極性を奪う、それが作戦だと思われた。


『Parma Ignis!』


 後ろにいたヒックス卿から火球が放たれた。騎士が体を半身にして火球を通す。不意の火球がアイゼンマウアーの胴体に直撃、さらに騎士の鉄の剣がアイゼンマウアーを襲う。


 ガッ!必殺と思われた一撃が受け流された。騎士の顔に動揺が走る。慌てて跳び下がるが来ると思われた追撃はない。


「私にその手は通用しない。」


 火球の直撃を受けて動揺しない者などいない。ここにいるほとんどの者はそう思ったはずである。だがアイゼンマウアーは俺との勝負を経験している。多少のダメージは覚悟をもって受ける。ダメージより動揺の方が致命的だ。今の言葉は俺に向けて言われた気がした。いつの間にか握っていた手が汗で濡れている。


「ばっ、馬鹿な!火球を受けて平気な者などいない。やっ、やせ我慢だ。続けるぞっ!」


 ヒックス卿の声が震えている。それでも虚勢を張るしかない。卿の声に再び騎士がアイゼンマウアーの気を引く為に武器を振るう。その後ろで魔法を詠唱するヒックス卿の姿は、さっきまでと違って会場の視線を浴びていた。騎士とアイゼンマウアーの立ち位置に合わせてヒックス卿の立ち位置も変わる。ただの馬鹿と侮っていたがそれなりの才はあるようだ。


『Parma Ignis!』


 再び火球が放たれて騎士が半身になって火球を通す。アイゼンマウアーは軽くバックステップすると火球をあっさり避けてしまった。こうなると騎士は追撃しようもない。


「まぐれだっ!」


 ヒックス卿は甲高い声が会場に響き渡る。主が諦めない限り騎士は同じ戦術を繰り返すしかない。それから数度行なわれた攻防にて、それがまぐれではないことが証明された。


 俺は気づいた。何度も火球を避けていたアイゼンマウアーだが、その避ける間合いがより近くより近くなってきている。おそらく追撃をすることはできるのだが、あえてそうしていない。実戦で稽古をしているようなものだ。前には見られなかったことだが、闘いを楽しんでいるのではないか?そんなことを考えているとヒックス卿の違和感に気付いた。見物人の中には俺以外に気づいている者はいない。大きく放出された魔力にアイゼンマウアーは気付いているだろうか?


「もういい!死ねっ、死んでしまえっ!『Incursu!』」


 ヒックス卿の手から電撃が放たれた。味方ごしに電撃の魔法を使用するなんて尋常ではない。それも鉄の鎧を着ている味方に当たる可能性は高いのだ。見切ることのできない速さで稲妻が騎士の脇をすり抜けた。アイゼンマウアーはその場に立ったまま、右腕を前に翳した。


 うっすらと光輝く盾が稲妻を跳ね返す。反射された稲妻は目の前にいた騎士に当たってその動きを止めた。竹竿が下から跳ね上がる。棒立ちになった騎士の剣が宙を舞った。アイゼンマウアーの動きは止まらない。


「あっ?・・・あっ、あっ!」


 予想だにしない光景に唖然としたヒックス卿にアイゼンマウアーが迫る。上段から大きく振りかぶられた竹竿を受け止めようと緩慢な動作で腰の剣が抜かれた。頭の上に横向きに差し出された鉄の剣に竹竿が当たる。全力で振りぬかれた竹竿が鉄の剣ごとヒックス卿の頭を振りぬいた。


「参りました。」


 アイゼンマウアーがなぜか膝をついて負けを申告した。アイゼンマウアーの目の前には腰を抜かして失神しているヒックス卿の姿がある。誰が見てもアイゼンマウアーの勝ちで間違いない。


 カラン、カランッ!闘技場に乾いた音が響き渡った。そこには綺麗な切り口を見せる竹竿の半分。


「そこまでっ!勝者は・・・・・・?」


 審判役の騎士が終わりを告げる。だが勝ち名乗りはしない、というよりできない。困惑した顔で大王の方を見ていた。


「これは困った。明らかに勝ったと思われる方が負けを申告しておる。その方はどう思うか?」


 困惑した大王が俺に裁定を求めてきた。


「勝負の前に宣言された敗北の条件は死亡、気絶、武器の損失でした。では双方が敗北条件に該当していますので引き分け、それでよいのではないですか?」


「そうか、わしとしてもどちらかが勝ったと言うことはできぬ。よろしい、この勝負引き分けとする。」


 王の言葉に会場にほっとした空気が流れた。アイゼンマウアーが王座の前に膝を着いて次なる言葉を待つ。部下に運ばれて退場していくヒックス卿の姿が対象的であった。これは卿の面目を保ったと言えるのだろうか?甚だ疑問である。


「よいものを見せてもらった褒美をせねばならぬな?何か望むことは在るか?」


「失礼ながら私は勝利を得ていません。故に頂く褒美はございません。」


「そうか、前にも同じことを聞いた覚えがある。なら、前と同じく褒美を受け取ればよかろう?」


「無用にございます。前回の引き分けと今回の引き分け、合わせて一つの褒美、それで十分でございます。」


 アイゼンマウアーは断固として固辞した。


「そうか、要らぬ物を押し付けるわけにはいかぬか。では前回と合わせて一つの褒美、そういうことにしておこう。」


「御意。」


「そなたは強く無欲だな。そなたの忠誠を得ているローザラインの王が羨ましい、そう思うぞ。次はそなたに勝てる者を用意させる。付き合ってもらえるか?」


「御意。」


「そうか。では次の機会を楽しみにしている。今日は大儀であった。」


 連合王国大王の言葉に、もう一度深く頭を下げるとアイゼンマウアーが退場していった。その後ろ姿が誇らしく思えた。

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