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光の王、影の宰相

「さっきとは大違いだ。王座にいる時はもっと偉そうに見えたんだけどなあ。」


 無事に謁見が終わり、別室で談話をしているとサイモンがアレフにそう言った。玉座にいる時のアレフはなるべく威厳があるような服を着せ、入念なリハーサル通りの台詞しか言わせていない。今のアレフはラフな格好に着替え、普段通りの言葉遣いをしているのでサイモンが別人と言っても間違いではない。


「正式な特使との謁見だからな、礼節を持って迎えるべく練習したんだぞ。その苦労を理解して貰いたいものだな。」


「もう止めてください。何度王座から逃げようと思ったか、分かりませんよ。」


「“その方等がノイエブルクの特使であるか、遠路遥々ご苦労であった。”結構様になっていたぞ。」


 サイモンがさっきのアレフの台詞を真似した。それなりに似ていたので一同爆笑する中、アレフが憮然としている。


「もうその辺にしておいて貰おうか、ローゼンシュタイン近衛騎士隊長殿。」


 ひとしきり笑った後でアイゼンマウアーが嗜めた。


「お止めください、隊長にそんな言われ方をするとこっちが照れます。」


「私はもうノイエブルクの騎士隊長ではない。私はアレフ陛下に頼まれてここローザラインで隊長をしている。私と貴殿は同格と言えよう。」


「同格ですか、そんなことを言われると照れますね。一生頭が上がらない様な気がします。」


 サイモンが頭を掻きながらそう言った。まあその気持ちは分かる。


「いずれ慣れることだ。互いに立場がある、滑稽ではあるが必要なんだよ。それが分かっているから誰もが立場を演技している。普段は友人でも公式の場では国王と宰相、それに騎士隊長を各自がやっている。普段は国王と騎士隊長が畑を耕したり、家畜に餌をやったりもしているがな。」


「そうか?お前の宰相だけは演技のレベルじゃないな。この前のノイブルクでの立ち振る舞いは怖いぐらい似合っていたぞ。」


「何?ケルテン、何やってきたの?」


 サイモンの苦笑気味の言葉にマギーが割って入ってきた。


「恫喝に近い威力外交だ。敵に回したらやばいと思わせてきた、下手に出て舐められると後々まで困るからね。」


「そんなことをしてきたんですか?友好的な関係を結びたいと言ってたので許可したのですよ。」


「そう言うなよ、下手すると国家として認められない可能性もあるんだぞ。」


「どういう意味でしょうか、宰相殿。ここローザラインは紛れもなくアレフ陛下によって興された国家ですが。」


 アレフの質問をアイゼンマウアーが代弁してきた。この人は自らの役割を理解していて、あえて俺とは一線を画している。


「この国の民のほとんどが元々ノイエラントの民だ。だから民を返せだの、新たに開拓した地もノイブルクの飛び地だの、言いがかりは幾らでもつけることはできる。」


「いや、いくらうちの連中が恥知らずとは言え、そこまではしないだろう。」


 サイモンがアレフガルド側をフォローした。


「違う、違うぞ、サイモン。それはこちらが実力を示したからそう思うだけだ。こっちの人口、位置、軍事力、経済状況などどれか一つでも不足していたら、グレンゼと同じ扱いを受けかねない。」


「俺はまだグレンゼの話は信じていない。この目で見るまでは信じられない。」


「どういうことですか?僕はまだ報告を受けていません。」


「まあ報告していないからな。他の国の問題だから報告するまでもないと思っていた。」


「報告して下さい。何が起きているのですか?」


アレフが怖い顔をして問い詰めてきた。他の者も興味が湧いたようで俺の返答を待っている。


「仕方ないな。グレンゼとはこの地図で言うとここだ。始めはサイモン達騎士が開拓してできた地なのは間違いないな?」


「ああ、そうだ。正確には近衛騎士主導で行なった移民政策の一つだ。ある程度の目処が立った時点でカウフマン公爵の領地となった。」


「一応王家の一員らしいとは聞いている。まあ、それはどうでもいい。問題はその公爵による独裁だ。財の私物化、支援物資の横領、隷属の強要、公による私刑、それはもう酷いものだ。」


「ノイエブルクでは何もしていないのですか?」


「するもしないも知らないから何もできない。ノイエブルクからグレンゼまで船で一週間から10日、航路は決まっているから途中の島から報告を受けて、見られて困ることは事前に隠している。現に横流しした物資の買取要請もあった。」


「もしかして購入したのですか?」


「ああ、買ったさ。こちらも常に食糧が足りているわけじゃない。ローザライン5万の民を食わせる為なら当然のことだ。ノイエブルクで買うよりずっと安かった。」


「誰かが不幸になってできた物など要りません。以後不正に得た物資の購入は禁止します。これは国王としての命令です、よろしいですね。」


アレフが俺を睨みながら命令してきた。他の全員が息を呑んで俺の返事を待っている。


「分かったよ、もうやらない。」


「嘘だ!グレンゼには俺も何度も行っている。そんな酷い状況なら誰かが直訴するか、話が漏れてくるはずだ。これはお前の作り話だ、そうやって俺を騙そうとしているに違いない。」


 憤激したサイモンが声を荒げた。


「なんでお前に嘘ついてまで、陛下のご不興を被らなければならないんだ。だったら教えない方がよかったのか。」


「・・・・済まん、それでも俺は信じることができない。もう魔物も出なくなって誰も理不尽に死ぬことは無くなったはず、そんな状況で私欲に走るなどあってはならないことだ。」


「だったらすぐに調べることだ。魔法の翼を使えばノイエブルクにはすぐに戻れる。」


「そうさせてもらう。国交のことは俺に任せろ。少なくとも敵に回していい相手ではないと陛下に伝える。」


 サイモンが時間が惜しいかの様に立ち上がった。


「ああ、それで構わない。ノイエブルクの大使館に連絡を取れる者を置いておくから返事はそこにしてくれ。公式の締結はその後でもいい。」


「分かった、じゃあ俺はすぐに戻る。俺以外は適当に帰してやってくれ。」


 サイモンと強く握手を交わす。手を離すとサイモンが飛ぶ様に外へ出て行った。しばらく重々しい無音の時間が流れる。


「済みません、生意気言って。多分必要だったんですよね。」


「ああ、必要だった。食えなくなった民の怖さを考えると買わざるを得なかった。俺も勝手にやったのは悪かったと思っている。だからこれからそうならない様に備蓄に務めよう。農場、牧場、海産物の養殖場から安定した供給ができる様にする。いずれこちらから輸出できる様にしたい。」


「分かりました、宰相殿。ではいずれそうなるように務めましょう。」


 アレフが国王としてこの場を締めくくった。各自が己が職場へと戻る、俺も宰相の執務室へと足を進めた。


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「書類が貯まっています、宰相殿でないと決済できないことがあるんです。まったく、二週間も留守にするなんて考えられませんよ。」


「済まん、ドゥーマン。だけど俺でないとできないことだったんだ。」


 憤慨しているドゥーマンをなだめて、差し出された書類に目を通した。ほとんどがどこかで何かが足りない、そんな書類ばかりだ。


「帰りの船に物資を積んできたから順次運ばせる、それで足りるはずだ。」


「例の場所からですか?」


「ああ、そうだ。さっき陛下に怒られたからもうこの手は使えないぞ。」


「そうですか、もうばれましたか。もうちょっと我々の苦労も理解してほしいものです。」


「そう言うな、真面目で素直なアレフだから皆ついて行くんだ。俺達はその影でいい。」


「ずいぶんと積極的な影です。宰相の提案から行なわれた事業でいっぱいです。」


 そう言いながらドゥーマンが幾つかの書類をまた俺に差し出した。


「そろそろ学校を作り始めないと駄目だな。最初はほとんど成人だったが5年もすると子供も大きくなるか。」


「当たり前です。しかし子供に何を教えるのですか?ノイエブルクでも極限られた者しか学校に行ってませんが?」


「とりあえず文字の読み書きと算数だけで構わない。そこから先はまた考える。」


「誰か教師の適任者はいますか?」


「市井にいないか募集してくれ。足りないならマギーの一族に頼むとしよう。」


 俺が何か言うとドゥーマンの手が動き、手元の書類に何か書き込む。この男をスカウトしたのは正解だった。表も裏も全て呑むことのできる者は必要だ。


「話は変わりますが、ゲオルグから転作とやらの意見書、クロウから養殖場の意見書が届いてます。」


「意見書?悪い結果でも出たのか?」


「数字を見るとそうでもありませんが、面倒臭いだの意味が分からんだの言われて困ってます。」


「分かった、説明が必要なら出向こう。しばらくはローザラインにいる。他には何かあるか?」


「魔道研究所から報告、転移基準石の研究が進んだそうです。後は魔法の宝玉の研究は滞っているので一度相談したいとのことです。」


「了解だ。すぐにでも行く。」


「駄目です。これだけの書類は片付けてください。」


 俺は今すぐにでも行きたいのだがそれは許されないようだ。仕方なくドゥーマンから出される書類を片っ端から処理していく。机の上の書類の山からすると2~3日はここから開放されそうに無い。

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