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アンフェア

 連合王国の城の謁見の間に貴賓席なる椅子が用意されている。ローザライン国王の名代として来た俺に用意された席だが、大王の横と言うのがいただけない。


「うちの息子が迷惑をかけているようで、一度礼なりお詫びなりを言わねばならぬと思っていたところだ。」


「いえ、迷惑なんて、こちらこそお世話になっているぐらいです。」


「そうか、あれが役に立つようになったか。やはり礼を言うべきであろう。」


「私は何もしておりません。」


「ではそうしておこうか。いずれ帰ってくる時が楽しみだ。おやっ、なんだ、あの格好は?とてもこれから闘う者の格好とは思えぬが・・・。」


 玉座から乗り出すように俺に話しかけていた大王が、謁見の間に入ってきたアイゼンマウアーの格好に驚く。それもそのはずで晩餐会に出てもおかしくない礼服に、身の丈より少し長いぐらい竹竿を持っている。それに対するヒックス卿を含めた4人は、儀礼用の鉄の鎧に鉄の剣。さらに鉄の盾を装備していた。


「あれはこちらからの申し出ですので、御気になさらずに。なんでも新しい闘法を試したいそうですよ。」


「ほう、そうか。それは楽しみだ。」


 勿論、新しい闘法のことは嘘だ。無理にヒックス卿を引き出す為の条件とは言えないし、ここで大王が臍を曲げて相応しい装備をせよなどと言われても困る。適当についた嘘に納得したのか、体を慣らしているアイゼンマウアーを興味深そうに見ていた。


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「のう、本当にあの者がガイラの言うローザラインの宰相か?」


「ああ、そうだ。」


 玉座から少し離れた所に用意された別席にすわるアン王女が、すぐ後ろに立つガイラと話している。


「ふむ、なんかぱっとしない外見じゃな。こう才気に満ちた顔をしているとか、眼光がするどいとか、そういったものが全く見られぬ。正直がっかりじゃ。」


「ぷっ!まあそうだけどよ・・・・。」


 思わず噴出したガイラにまわりの騎士達の視線が集まる。誰一人として口には出さないが目で非礼を咎めていた。


「姫さんのせいで怒られたぞ。もう黙ってろよ。」


「怒られたのはガイラのせいじゃ、わらわは知らぬ。それより前にも聞いたがガイラとあの者、どっちが強い?」


「そうだな・・・十の内、九は俺が勝つ。だけどここぞという勝負だったら勝てる気はしない。」


 ガイラがしばらく考えて答えを出した。何も考えずに質問したアン王女は、思わぬガイラの真剣な表情に驚いていた。


「はあ?十の内、九勝てるのに、なんで負けるのじゃ?」


「それが分かれば十の内、十勝てるようになる。なんと言うか勝つ為の努力は惜しまぬ奴でな、実際に鉄壁がそれでやられたと聞いている。」


「なんと、ガイラと引き分けたあの者に勝ったのか、それはすごいのう。どうやってやったのじゃ?」


「分からん。魔法をうまく使ったことだけは分かっているが、鉄壁の説明ではどうやったのか全く分からん。それにたとえ分かったとしても教えることはできん。奥義とか秘伝は簡単に教えていい代物じゃない。」


「ガイラのケチ!教えてくれてもいいじゃろ!」


 感情をむき出しにしたアン王女がガイラに言葉で噛み付く。周りの騎士達はすでに諦めていて知らぬ振りをしていた。


「姫さんはまだその領域に達しておらんよ。せめて俺から一本取ってからだな。」


「むうう、それではいつになるか分からんではないか!」


「そうだな、できれば俺が死ぬまでにしてくれよ。おっ、そろそろ始まる様だぞ。」


 謁見の間に対戦する両者の名前を告げる声が響く。ガイラは話を打ち切るにちょうどいいと思った。


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「それでは本日の試しの儀式を始めさせて頂きます。まず本日の試しの儀式に挑戦なさるのはロッキード王家筆頭のヒックス卿で、達成の暁には王位継承権を得ることになります。」


 紹介されたヒックス卿が胸を張って王座の前に出てきた。後ろに三人の騎士を連れているこことが滑稽に見えるのは俺だけだろうか?当の本人にそれを恥じる感情が微塵も感じられない。


「続いて紹介致しますのは、ローザライン共和王国近衛騎士隊長アイゼンマウアー殿です。本来試しの儀式は魔獣と対戦するものでありますが、先日の陛下の御意を得ましてアイゼンマウアー殿かガイラ殿のどちらかと対戦することになり、アイゼンマウアー殿の了承を得まして今回の対戦となりました。尚、装備、人数などの条件はアイゼンマウアー殿からの申し出であり、他の如何なる意図もございません。」


 前に進み出てきたアイゼンマウアーの格好にざわめきが大きくなる。意図がないなどとは誰も思っていないことは明白である。


「此度は我が国の事情にローザラインの近衛騎士隊長殿の協力が得られたこと、まこと感謝しておる。さらに立会人としてローザライン共和王国王国王名代のアウフヴァッサー宰相殿に来て頂いておる。」


 大王の言葉に列を成している騎士達が俺に向かって軽く頭を下げる。返礼としてこちらも軽く頭を下げた。


「ふむ、しかしアイゼンマウアー殿、その格好で本当に勝算があるのか?我が国の者に遠慮してそのような格好をしておるのでは申し訳が立たぬがどうであろう?」


「騎士として勝敗を武器防具のせいにするなどあってはならぬこと、大王の心配なさることなど一切ございません。」


「そうか、その方の言や良し。ヒックス卿よ、そなた、気をつけた方がよいぞ。」


「御意。」


 アイゼンマウアーの言葉に大王が感心している。あまり表情に出していないつもりだろうがヒックス卿のこめかみがぴくぴく動いていて可笑しい。アイゼンマウアーは気付いていないだろうが、またヒックス卿に喧嘩を売ってしまっている。


「よろしい。では始めてよいぞ。」


「分かりました。ではこれよりアイゼンマウアー殿対ヒックス卿の対戦を始めます。尚、ヒックス卿側の人数が多いため、気絶、死亡は勿論のこと、武器を持つ手の負傷、武器の破損と脱落を持って戦闘不能と見なします。双方、それでよろしいか?」


「当方はそれでよい。」


「私も構いません。」


「よろしい、では双方、前へ!」


 アイゼンマウアーが前に、ヒックス卿は後衛のまま三人の騎士が前に出てきた。


「では始めよっ!」


 始まりの合図がかけられると、ヒックス卿の騎士が大きく動いてアイゼンマウアーを囲もうとする。アイゼンマウアーがすすっと背後を取られない場所まで下がる。さらに竹竿の半ばを両手で持ち、前後、左右、上下とくるくると回してからぴたりと止めて構えた。槍と違う構えに騎士達の動揺が伝わった。

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