悪巧み
「アイゼンマウアー近衛騎士隊長殿、一つお聞きしてよろしいですか?」
「何なりと。」
アイゼンマウアーの返事は短い。あえて弁明はしない。それが彼の生き様である。
「大王様の許可は得たと言われましたが、連合王国の他の王家には挨拶はお済みでしょうか?」
「勿論です。ロッキード家のヒックス卿、フェアチャイルド家のスチュアート卿、両王家でも最も権力を持つお二人に挨拶はしてあります。御両者とも快く協力すると言っておられました。」
「嗚呼、やはりそうですか。あの方々の言葉をそのまま受け取ってはいけません。面従腹背、良い返事をしておいて裏で足を引っ張るのが彼等、いや我が国のやり方です。申し訳ありません、予め伝えておくべきでした。」
リスター王子がアイゼンマウアーに頭を下げた。
「いえ、私の配慮が足りない故の失態です。王子のせいではありません。」
「まあその辺でいいでしょう。どちらが悪いと言うわけではありません。ですが、それだけでこれだけのことをしますかね?近衛騎士隊長殿、何か恨みを買うような覚えはありませんか?」
「はて・・・?どちらにもほとんど面識はございませんので、恨みと言われましても心当たりはありません。」
「そうですか・・・では調べさせて何か手を打つとしましょう。近衛騎士隊長殿は戻られて計画を続けて下さい。失った石材の分、それとその他諸々は私が補填しておきます。」
「ありがとうございます。今度こそ陛下と宰相殿の御期待に必ず応えてみせます。では失礼。」
一礼してアイゼンマウアーが出て行った。失った10万Gは惜しいがなんとか取り戻す方法はある。ただその方法を考えるのにアイゼンマウアーは相応しくない。
「宰相殿、何か悪いことを企んでいませんか?」
「ん、分かるか?」
「勿論です。執事たる者、人の心ぐらい読めなくてはやっていられません。これは主だけでなく、お客様についても同様のことです。」
「なるほど、脱帽だ。どうにかして10万Gを取り戻そうと考えていた。やはり失う原因を作った者から取り戻すのが相応しいだろう。」
被ってもいない帽子を脱ぐ真似をする。昔からシャッテンベルクには少々引け目みたいなものがあった。それだけに彼には分かり易いのかもしれない。
「それでどうなさるのですか?ヒックス卿にしろスチュワート卿にしろ一筋縄でいく相手ではありません。何か良案でもあるのですか?」
「まだない。それ以前に元凶が分かっていないから、調査の内容次第になるな。それよりシャッテンベルク、そっちは何の用だ?まさかそっちも金を寄越せって言うんじゃないだろうな。」
「違います。この間、職人達に提供した飲料についての報告です。まず報告書に目を通して下さい。」
シャッテンブルグに促されて報告書を捲る。いろいろと書いてあるが概ね好意的な意見が多い。
「お気付きだとは思いますが、酒類を提供を望む意見が多いのです。提供の許可を頂けますか?」
「う~ん・・・・止めておいた方がいいと思う。」
「何故です?ご自身が酒に弱いからではないでしょうね。」
「まあ、それもある。強い人間には分からないと思うけど、酒を飲んでから風呂に入るのはかなりまずい。最悪、人が死ぬこともあり得る。それともう一つ、酔っ払いは客としては遠慮した方がいい。トラブルの原因になる。」
「そうですか、なかなかいい案だと思ったのですが、宰相殿がそう言われるのなら仕方がありません。今回は諦めるとしましょうか。」
そう言いながらもまだ諦められないようだ。手に持つ書類に何か記しながらも、ちらっとこちらを見ている。
「そうだな・・・多分放っておいても勝手に提供される。だったらこちらからある程度誘導するか。」
「はて、どういうことでしょう?」
「建設予定地の周りに空き物件はあるかな?」
「ええ、ありますよ。騒がしくなりますので迷惑にならない場所を選びました。」
「よし、なら国務大臣にそれとなく伝えてくれ。近くに飲食、とくに酒を提供する場所があれば儲かると。」
「なるほど、シュタウフェン公の懐をさらに暖かくしてあげるというわけですか。でもよろしいのですか?こちらで提供すれば儲かりますよ。」
リスター王子が口を挟んできた。さっきの話で儲けることに興味が出てきたらしい。
「リスター王子、儲けることだけが目的じゃない。こちらも儲けて向こうも儲かる、今回はそれで目的だ。」
「なるほど、私にはまだ宰相殿のお心は計れないようです。」
「前にみんなの前で言ったけど、しばらくはネガティブキャンペーンをしない。こちらで全部やってしまったら現地で働く者の仕事を奪ってしまう。これもネガティブキャンペーンの一つになるから気をつけた方がいい。エグザイルでも同様のことに気をつけて下さいね。」
「承知しました。では連合王国に対しても同様にお願いします。いろいろありましたが、あれでも私の祖国です。何かあったらあなたを敵にして国の為に働かなくてはなりません。」
「承知しました。私も同士の一人を失いたくありません。心しておきましょう。ノイエブルクもエグザイル、どちらも計画を進めて下さい。本日はご苦労さまでした。」
一礼して二人が執務室から出て行く。残された俺に向かってドゥーマンが言った。
「あんな約束をしてよろしいのですか?これから何らかの報復をするつもりなのでしょう。」
「よくはないな。まあある程度の加減はする。カウフマンみたいに命までは奪わず、ちょこっと面子を潰す程度にしておこうか。」
「ちょこっとですか?」
「ああ、ちょこっとだ。」
しばらくぶりの悪企みに思わず笑みが浮んだ。
「ずいぶんと楽しそうですね。」
執務室の入り口から声が聞こえた。いつの間にか戻ってきたシャッテンベルクが立っていた。動揺を隠して声をかける。
「まだ何か御用でも?」
「ええ、多分宰相殿も興味がある話です。先日ヒックス卿の使いがシュタウフェン公の屋敷に訪れました。話の内容までは知りませんが一応伝えておきます。では失礼致します。」
再びシャッテンベルクが完璧な礼をして出て行く。わざわざ話を伝えに戻ってきたのは、リスター王子への配慮なのだろう。気が利いていて間が抜けている。いや間が抜けているのは俺か。




