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去りし者達

 ローザライン大陸の西に位置する鉱山都市の港に寄港する。まだ建設砥粒の城壁に囲まれた鉱山都市が見えてくる。整備された港、街道、城壁にサイモン達特使が驚いていた。


「ここが鉱山都市メタルムだ、採掘で余った岩を利用して城壁を作っている。城や町の施設はまだ工事中だが、採掘と精錬関連だけは十分機能している。」


 あちこちで工事をしているメタルムの町を歩きながら、俺が説明している。かなりうるさいが活気があるのでここは見せておきたい。仮の城に辿り着いた俺は、これまた仮の執務室に入りそこで書類仕事をしている男に声をかけた。


「姿が見えないようだが、マギーはどこだ?」


「ああんっ!誰だ、姐さんを呼び捨てする奴はっ!」


 机に顔を伏せていた男が急に顔を上げて怒鳴りつけてきた。


「俺だよ、自分の妻を呼び捨てて何が悪い。」


「しっ、失礼しました、宰相殿。区長殿はこの時間だと第4鉱区にいらっしゃるはずです。」


「そうか、大変だな。そうだ、こちらがノイブルクからの特使一行だ。しばらくは街中を見てもらうからマギーが戻ったら教えてくれ。それと今日の宿の手配はできているだろうな?」


「当たり前です。できていなかったら区長殿に殺されます。」


「そうか、ではよろしく頼む。それと無理に敬語を使わなくていいぞ。」


 すっかり小さくなっている区長補佐に軽口を叩いて執務室を後にした。後ろで全てを聞いていたサイモンが俺に質問してきた。


「おい、なんで女性のマギー殿が採掘に携わってる?危険じゃないのか?」


「まあ安全ではないな。だがマギーはここの責任者だし、彼女にしかできないことがある。」


「彼女にしかできないこと?なんだそれは?」


「秘密だ。今のところ我が国でしかやっていない技術だからな、友好的な国交が結べたら教えてやってもいいぞ。画期的かつ斬新な採掘技術だ。」


 メタルムの鉱山では爆発の魔法を使って採掘をしている。大まかには大爆発の魔法で山を破壊する。日によっては数をこなさなければならないことと、時には同時発破の必要があるので遅延魔法のできるマギーが最適なのだ。もちろん簡単に他の国の者に教えるわけにはいかない。


「善処する。船だけでなく港、街道、街、採掘といろいろ我が国にない技術があるみたいだな。もしかして5年以上前から考えていたことか?」


「まあ構想はあったかな。ここローザラインでは俺の裁量で自由にできるんでな、思いついたことは何でもやっている。」


「そうか、我がノイエブルクは惜しい人材を失っていたんだな。」


 サイモンが意味深な言葉を呟いた。同行していた文官が少々嫌そうな顔をしていたがあえて無視する。


「さあ、ここがメタルマ自慢の鍛冶工房リヒャルトだ。」


 そう言いながら工房の扉を開いた。中ではここの工房主のリヒャルトが多くの職人とともに働いている。ここでは少量ながらミスリルも採れる、それが分かったのでリヒャルトをここに呼んで工房を任せていた。


「おう、学者か。船の調子はどうだ、何かおかしなことはないか?」


「万事順調だ、心配いらない。それよりノイエブルクからお客様だ、機密に触れない程度に質問に答えてやってくれ。」


「そんなことはそっちでやってくれ。職人は語る言葉を持たない、ただ作品が語るのみだ。」


 リヒャルトは頑固だ、こうなると梃子でも動かない。それが分かっているからあえて言ってみた。


「済まんな、サイモン。そういう訳だからここは見物だけにしてくれ。」


「構わんさ、詳しいことを聞いても分からんからいい。それよりリヒャルト、お前こんな所にいたのか。ノイエブルクの大工房では一文字が苦労しているぞ、それでもいいのかよ?」


「一文字は鉄の新しい技術を磨く、俺はここで新しい金属の技術を磨く。これは二人で決めたことだ、誰かに文句を言われる筋合いはない。」


「いや、お互いに納得しているなら俺に文句はない。そうだ、最近ノイエブルクでは錆びない鉄でできた日用品が売り出されるようになった。きっとあいつも見て欲しいと思っているはずだ。」


「それならもう持っている。少し前に学者が持ってきてくれた。俺の作品も見てくれたと思う。」


「お前の作品?」


「はい、そこまで!それ以上は我が国の軍事機密になる。」


 ノイエブルクにあの船で行ったのと、帰りに一度砲撃をしたのは一文字に対するデモンストレーションでもある。城の連中にはこちらに強力な力があるのを知らせ、一文字にはリヒャルトの集大成を見せることができたはずだ。


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 翌日、ノイエブルク特使を連れてローザラインの城へと向かうことにした。昨日の夜遅くに戻ってきたマギーが合流した。


「なんだ、特使ってサイモンだったの。似合わないことするのね。」


「ずいぶんとひどい言われようだな。確かに似合わない仕事をしているのは自覚している。そうだ、結婚したんだってな。おめでとう、ヴィッセンブルン男爵。いや、アウフヴァッサー夫人と呼ぶべきかな?」


「何よ、マギーでいいわよ。この国では全ての人が新しい姓をもらっているけど、何かいい姓を思いつくまではヴィッセンブルンのままでもいいそうよ。」


「そうか、どうやら不幸にはなっていなくてよかった。俺達は事実上ヴィッセンブルン一族を追放してしまったと思っていたよ。」


 サイモンが少し辛そうな表情で語った。


「馬鹿ね、サイモンが気に病むことはないのよ。追放されたのじゃなくて、私達が見限ったのよ。その証拠に私も一族も皆この国で重く用いられているわ。だって、この国には儀礼、礼式を知る者はいないから誰かが伝える必要があるの。」


「そうか、マギーはここで必要とされているのか。よかった、本当によかった。」


 なぜかサイモンが涙目になって喜んでいる。


「馬鹿、何であんたが泣いているのよ。そうだ、あまりメタルムを留守に出来ないから跳ばない?」


「ああ、いいよ。そう予定が組んである。サイモン、今から魔法で跳ぶから大人しくしていろよ。」


 何か言いたそうなサイモンを手で押さえ、マギーに合図を送る。しばらくして俺達は風となって空を駆けた。降り立った地にはノイエブルクをはるかに上回るローザラインの城、その周りには巨大な農場が広がっている。サイモン等特使の開いた口は閉じることを忘れたようだ。


「サイモン、いつまで呆けている。歓迎の式典の用意ができているはずだ、さあ城に入るぞ。」


「おっ、おう。こんなに大きな城とは思わなかった。この城は前からあったのか?」


「いや、新築だ。まだ完成したばかりで、ノイエブルクの特使が最初の賓客だ。」


「そうか、光栄と言うべきかな。」


 街を囲う城壁の正門をくぐると城へと続く大通りがあり、そこには賓客を迎える人々がずらりと並んでいる。並んでいる人々の表情には優越感が浮かんでいた。

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