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王者の風

「兄ちゃん、いい女連れてるじゃないか。俺達もご相伴に預からせてもらいたいものだな。」


 一度宿屋に戻ったアレフとローザは夜食までにまだ時間がある為、公衆浴場予定地にアイゼンマウアーを探しに出た。その途中、人の流れが少なくなった頃、通りがかった柄の悪い連中十数人にからまれることになった。


「先を急ぎいでいます。失礼。」


 ローザを抱き寄せたアレフは素っ気なくそう言って立ち去ろうとするが、ごろつきはそれを許さない。行き先を遮るように両腕を開き、通せんぼをした。


「そうつれないことを言うなよ。知らないかもしれないが、女連れでこの辺を通るには通行料が必要なんだぜ。」


「お金ですか?」


「金なんかですむわけないだろう。女を置いていけばお前は半殺しで済ませてやる。」


「分かりませんね。言われなきものを払うつもりも半殺しにあうつもりも一切ありません。」


 アレフの目がすうっと細くなり相手を睨む。右手が当然の様に腰の剣に伸びていることに気付いたごろつきが跳び下がった。


「なんでい、この数とやろうってのか。」


「数は関係ありません。それにこんな狭いところでは数を揃えても利点になりませんよ。この先に空き地があります。そこに行きましょう。」


 アレフは身構えているごろつきを無視して歩き出す。アレフの殺気にごろつき達の人垣が割れ、素直にアレフの後ろをついて行く。


「ローザ、魔法三面鏡を。」


 アレフは小声でローザに指示する。


「魔法三面鏡ですか?見たところ魔法を使う方はいないと思いますが?」


「いいから早くっ!」


 アレフの剣幕にローザは慌てて魔法の詠唱を始めた。歩きながらなので詠唱速度をそれほどは早くできない。


《私は魔力を18消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ

  おお、万能たる力よ、不可視の鏡となりて我が身を囲え!Magicae Tres Speculum(魔法三面鏡)!》


 たどたどしくもなんとか詠唱を終え、空き地につく頃には見えない魔法の鏡を展開することができた。立ち止まったアレフとローザを距離を空けてごろつきが囲む。


「わざわざこっちが有利な場所に連れてくるとは、お前馬鹿だろう。」


「馬鹿ですか?私にそのつもりはありませんが。」


「もういい、これだけ舐めた真似をしてくれたんだ、今更半殺しで済むと思うなよ。野郎ども、かかれっ!」


 ごろつきのボスの命令で各々が武器を抜く。それでもアレフは少しも慌てることはない。余裕の見せるアレフの迫力に前に出ることを躊躇っていた。


「ローザ、危ないから僕にしがみついて。」


「はい。」


 ローザはアレフの腰に手を回して抱きつく。それを確認したアレフは勇者の剣を天に掲げた。


『来たれ、王者の風よ!』


 パワーワードを発声した次の瞬間、アレフを中心に竜巻が起きた。囲っていたごろつきが宙に巻き上げられ、地に叩きつけられる。アレフとローザは魔法障壁によって護られている為、竜巻の影響を受けていない。魔法障壁が風を弾く度、七色に光り輝いた。


「綺麗・・・。」


「綺麗・・・ね、まあそうだね。この竜巻は1分ぐらい続くからまだまだ楽しめると思うよ。でも今の内に魔法の盾と身体強化の魔法をかけてくれると助かるかな?」


「はい、アレフ様。」


《私は魔力を4消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ

  おお、万能たる力よ、魔法の盾となりて我等を守れ!Magicae scutum(魔法の盾)!》


《私は魔力を3消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ

  おお、万能たる力よ、内なる光となりて我等と駆けよ!Corpus confortans(身体強化)!》


 やがて竜巻の風が弱まると、周りはうめき声を上げ地に伏せている者でいっぱいになっていた。竜巻の影響の外にいた者達が武器を構えたまま、恐る恐る近づいてくる。


「まだやりますか。これ以上怪我人を増やすことは本意ではありません。」


「うるさい。ここまでやられて黙って帰れるかっ!」


 やけくそになったごろつきがアレフに襲い掛かってくる。しかし本来のアレフの力量と強化魔法のおかげでほとんど止まって見える。アレフは勇者の剣を数度振ると襲い掛かってくる者の得物を全て切り落とした。剣やナイフの柄だけ、槍の柄だけ、棍棒の持ち手だけにする。鉄だろうが銅だろうがオリハルコンでできたこの剣で斬れない物はない。


「次は腕を斬ります。それでもよければ続けましょう。」


「ばっ、化け物だ・・・。」


 まだ動けるごろつき達はもう武器の役割を果たさなくなった物を投げ捨て後退りする。地でのた打ち回っている仲間を見捨てて逃げ出そうとしたごろつきにアレフが一喝した。


「お待ちなさいっ!」


「「「ひいっ!」」」


 アレフの一喝に足がピタリと止まる。動いたら殺される。ごろつき達にそう思わせる迫力があった。


「仲間を見捨てて逃げてはいけません。」


「だけど・・・。」


「戦意のない相手を斬る気はありません。怪我をした仲間を連れてどこにでも行くといいでしょう。」


 アレフは剣を鞘に納める。そしてローザの手を引いて空き地を後にした。


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「失礼、陛下と王妃殿下はこちらにおわすでしょうか?」


 珍しく息を乱したアイゼンマウアーがマクダネル家の門を叩いた。出てきた使用人は要領を得ないので怪訝そうな顔をしている。


「失礼しました。私はローザライン共和王国近衛騎士隊長アイゼンマウアーと申します。本日我が陛下がこちらを訪問しておられると聞きましたがまだ滞在しておられるでしょうか?」


「申し訳ありませんが、お客様について申し上げることはありません。お引取り下さいませ。」


 まだ納得できないのか使用人は訝しげな顔をしたままだ。これは当然のことで重要な客人の情報を軽々しく口にすることはできないのだ。


「では、ベックフォード殿を呼んで下さい。私の名を伝えてくれれば分かるはずです。」


「分かりました。ではしばしお待ちを。」


 使用人が屋敷の中に引っ込む。5分と待たずにアーサーが出てきたが、アイゼンマウアーにはその5分が1時間にも感じた。


「これはアイゼンマウアー殿、どうなされましたか?」


「訳は後で話します。陛下はどこですか?」


「アレフ陛下は30分ほど前にこちらを辞されました。宿に向かわれたと聞いています。」


「分かりました。急ぎます故、御免!」


 挨拶もそこそこにアイゼンマウアーは駆け出した。しばらくして行く先の向こうに立ち上る竜巻が見えた。

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