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魔法談義

 日の出と共にベッドから起き出し稽古場に向かう。ローザラインと一緒でメタルマにも稽古場はある。鉱山都市故に荒くれ者が多く、腕自慢の何人かが本気の模擬戦をしていた。


 まず体を慣らす為に素振り、さらに抜刀右斬り上げからの袈裟懸け、即納刀。これはずっと欠かすことなく続けている。


「相変わらず黙ってベッドから出て行くのね。」


「うん、起こしたら悪いと思ってね。」


 昔から変わらない挨拶、俺がいくら起こさない様に静かに出て行っても、いつの間にか横で鍛錬を見ている。一通りいつもの鍛錬を終えて刀を鞘に納める。ここからが本題だ、これから行なう試みを見られたくない為にわざわざメタルマに来たのだ。


『万能たる力よ、小さき火球となりて敵を撃て!Palma Ignis!』


 あえて口に出して詠唱する。かなり詠唱文を省いたせいか火球は出ない。何度も同じことを繰り返す。5回目にして始めて成功、そのあとは3回に一回は成功するようになった。


「何やってるの?」


「詠唱文の破棄、とりあえず前半の2行を破棄する。」


「そんなことできるの?てっきり思考詠唱しているものだと思っていたのだけど違ったのね。」


「うん、詠唱はしていない。と、言うか必要ないかもしれないんだ。」


「・・・どう言うことよ?」


 しばらく考えていたが俺の言ったことが理解できなかったようだ。


「どうも俺の魔力の放出の仕方はは他の人と違うみたいなんだ。なんと言うか、俺を除く君達は感覚で魔力を放出している。だけど俺はそうじゃない。」


「何言っているのか全く意味が分からないわね。」


「ん~、例えば小治癒の魔法を使うとするだろ、第一詠唱で魔力を3を放出して第二詠唱で融合を行なうものと習ったよね。」


「そうね、基本的なことよ。」


「その魔力の放出の仕方が違う。マギー、君の基本放出魔力はいくつだ?」


「私は6、お父様には千人に一人の才能と言われたわ。ケルテンは?」


「6か、それはすごい。千人に一人どころの才能じゃない、一万人、いや魔法を使えない者を入れると10万人に一人の才能だな。だけど実は俺の基本消費魔力は2、魔法を使う者としては最低ランクだったりする。」


「2!私の生徒にはいなかったわ。」


 俺の告白にマギーが驚いている。魔法の名門のヴィッセンブルン家に師事するならそれなりの才能が必要だったのだろう。


「だろうね。話を戻すけど、普通は一度に放出する魔力を決めている。例えばマギーが消費魔力3の魔法を使う時は基本の半分、12の魔法を使う時は2倍としているはずだよね。」


「そうよ、だから消費魔力の大きい魔法を使うのは難しいのよ。少ない方もね。でもやり方が違うって、どうやっているのか教えてくれない?」


「俺の場合は2ずつ放出する。積み木のように一つずつ積んでいく。奇数の場合は最後に基本の半分を放出して終わらせている。消費10なら5回、20なら10回、数えながら放出していく。」


 手振りでここにはない積み木を積み上げる。言うのは簡単だが拡散しようとする力を留めるのにかなりの苦労がある。


「はあ、なんか別物ね。やっぱりあなた天才だわ。」


「天才なんて言葉で片付けてほしくないね。ずいぶんと苦労したんだぞ。」


「そうじゃないわ、どんなことでも努力でやり遂げることができる。そのこと自体が天才なのよ。普通なら途中で投げ出すんじゃない?」


「なるほど、努力を苦としない天才か。確かに剣を振っている時も魔法を練習している時も辛いと思ったことなかったな。むしろ手応えがあって楽しかった。まあそれはいいや、それともう一点、効果の高い魔法を使うには起こす現象のイメージの構築に時間がかかる。小火球は一瞬だけど大火球はその何倍も時間がかかるはずだ。」


「そうね、だけどそれと詠唱破棄となんの関係があるの?」


「うん、今言ったように小火球なら一瞬でイメージができるだろ、それに俺は消費魔力2ならほぼ一瞬で放出できる。この2つを組み合わせると人よりずっと少ない時間で小火球を使うことができると言うわけさ。分かった?」


「なるほどね、なんとなく分かったわ。でもなんでそんなことしようと思ったの。あなたの言葉じゃないけどもう闘う技術は要らないはずよ。」


 やっぱり気付いたか、あまり言いたくはないが下手な嘘はすぐに見破られる。


「ガイラとアイゼンマウアーが試合をしたと聞いて、久々に俺の中の闘志が沸いた。ガイラではアイゼンマウアーに勝てなかった。俺ならどうするか考えてこの結論に至った。」


「闘う気ね。」


「うん、一度でいいから勝ちたい。ノイエブルクの城に始めて行った時に一本取られたことは忘れていない。」


「そう、多分止めても無駄なんでしょ。だったら悔いのないようにやりなさい。」


 マギーは俺を理解している。危険を承知で進む俺を後ろから押してくれる。それが分かったので悔いのない闘いができるように練習を再開した。10回20回と繰り返す。かなりの魔力を消費して辛くなってきた。まだ100%成功できるところまでは来ていない。これでは魔力が足りない。そう思った時名案を思いついた。


「マギー、魔力を貰っていいか?」


「ん?どうせ放っておいても出て行くだけだからいいわよ。」


 軽くそう言うマギーから今も少しずつ魔力が洩れている。手を伸ばして魔法を使い、漏れ出している魔力を吸い取った。


「本当に漏れ出しているんだな。何時からだ?」


「円卓会議の後ぐらいからよ。発火現象が出たのは一週間ぐらい前からね。流石に危険を感じたから無駄にでも消費することを考えたのよ。」


「ふ~ん、もしかすると人体発火とかの原因はこれかもしれないな。」


「えっ、何?」


「いや、何でもない。気にしないでくれ、ただの独り言だ。」


「なにか気になるわね。」


 こんなことを言って不安にさせることはない。ここは別の話題でマギーの興味を引こう。


「天然魔道士って知ってるかい?」


「生まれつき魔法が使える人のことね。それがどうしたの?」


「魔力の制御を習っていないから魔法の制御ができない、今の君みたいにね。だから漏れ出した魔力が様々な現象を起こす。人によっては触れるだけで人を癒し、水をワインに変えてみせた。傍からみたら神の奇跡にしか見えなかっただろうね。」


「そんな話聞いたことないわ。ただ治癒の魔法が使えただけじゃないの。」


「いや、この世界の話じゃない。その世界は魔法自体がないから余計に目立った。他には月を見て狼に変身して暴れまわった男の話、斬られようが突かれようが傷一つ負わない英雄の話など魔法でしか説明のつかない話があるんだ。どの話も結末は悲劇に終わる。」


「それがどうしたのよ。そんなことを言って私を不安にでもさせるつもり?」


「違う、君は魔力の制御ができるから問題ない。だけどお腹の子は違う。もしかすると今起きていることはお腹の子供が原因かもしれないから、今言ったことを頭の片隅にでも入れておくといい。」


「分かったわ。」


 適当に誤魔化そうとしていたら、自分でも恐ろしい可能性に気付いてしまった。気付いたのなら然るべき対処をすれば問題ないだろう。


 その後も無拍子、いや半拍子での小火球の魔法の行使の練習を続ける。ある程度納得するところで練習を終えてからローザラインに戻った。

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