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魔法の素質

「すまん、魔法を使える者が足りない。何人か派遣してくれ。」


 計画が発動して数日、突如宰相執務室に現れたサイモンがそうのたまった。俺もドゥーマンも唖然としている。


「おい、聞こえているのか?」


「あっ、ああ、聞こえてはいる。いったい何なんだ?」


「例の風呂やら冷蔵庫やら洗濯機を動かすのに魔法使いが足りない。元近衛騎士で魔法を使える者を総動員してなんとかしているが、それでもまったく足りないんだ。」


「そんなはずはないだろう。計算上は足りるはずなんだがな・・・・・あっ、もしかして無茶な使い方していないだろうな?」


「うっ!」


 何か心当たりがあるのか、言葉に詰まったサイモンが視線を逸らす。


「おい、どんな使い方をしているのか、ちょっと言ってみろよ。」


「いや、使い方と言っても普通だよ。そりゃあ、最初は張り切って洗濯機を動かしまくったし、風呂も一日中は入れるようにしていた。それが大変だったんで今は風呂は夜だけ、洗濯は朝だけと限定することにした。でもそれでも足りない、おそらく冷蔵庫に使う魔法量が多すぎるんだ。」


「なるほどね、最初に大盤振る舞いしたのはまあいいとして、冷蔵庫にそんな魔法量が必要とは聞いていないな。やっぱりおかしなことをしている可能性が高い。ドゥーマン、ちょっと見てくるけどいいかな?」


 俺の提案にドゥーマンが渋い顔をする。手元にあるいくつかの書類と睨めっこをしてから口を開いた。


「昼までなら結構です。それまでに文書を纏めておきますので、必ず戻ってきて下さいよ。」


「了解、じゃあ二時間で戻るよ」


 それからサイモンを引き連れて城から出る。空の見える場所で転移の魔法を唱えた。


 ----------------------------------


「なんだ、これ?」


「いや、食料貯蔵庫だが・・・どこかおかしいか?」


 グランゼに着いた俺はサイモンの案内で冷蔵庫を設置した場所に案内してもらった。驚いたことに食糧を貯蔵する大きな建物の中は、ひんやりを通り越して寒かった。


「もしかしてここ全部を冷却しているのか?」


「ああ、そうだ。食いもんを腐らせたくないからな。」


「はあ、そりゃあ魔力が足りなくなるはずだ。元々、こんな広さを想定していない。」


 倉庫の中を歩く。けっこうな大きさの倉庫に定感覚で置かれている容器の中の水が、冷蔵庫から送られた冷気で凍っていた。


「これを止めれば問題ないぞ。」


「いや、それは困る。魔法力さえ確保できるなら、このままにして欲しい。」


 倉庫の入り口から抑揚のないホフマンスの声が聞こえた。


「どういうことだ?」


「これまでこの村の食糧事情についてずいぶんと調べたのだが、一番の問題は高い気温で、貯蔵しておいた食糧が腐ってしまうことだ。それがこのアイテムでなんとかなるのなら、なんとしてでも使いたい。」


「それはグランゼの総意ですか?」


「ああ、当然だ。せっかく作った食糧が無駄になるのは耐えられない。俺もホフマンスもこの村に住む者全てがそう思っている。」


 サイモンがホフマンスに変わって答えた。


「分かった。なら魔法使いを増やすしかないな。じゃあ人を集めてくれないか、少し荒療治だが試してみたいことがあったんだ。」


「何をするのですか?危険なことならば聞くわけにはいきません。」


「危険・・・ではないかな。サイモン、魔法を修得するのに何が一番大変だった?」


「んな・・・まあ最初が一番大変だったかな。体の中から魔力を放出する感覚を掴むのに時間がかかった。一度分かってしまえば簡単だったけどな。」


「その通り、それが一番の問題だ。だから無理に放出させる。サイモン、ちょっといいか?」


「ああ、どうするつもりだ?」


 サイモンの肩に手を当てて魔法の詠唱を始める。


《俺は魔力を1放出する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ

  おお、万能たる力よ、見えざる手となりて、魔力を奪え!Magicae Latro(魔法泥棒)!》



「うおっ、なんだこれはっ?」


 サイモンが突然奪われた魔力に困惑している。


「次はホフマンスだ。」


 同じく魔法泥棒を使う。魔法が発動してもホフマンスは何も感じないらしく、平然とした顔をしている。


「うん、間違いない。サイモンは魔力が放出できる。そして残念だがホフマンスにはできない。」


「そんなことは分かっている。だが今のはいったいなんだ?」


「魔力を奪う魔法を使った。本人の意思に関係なく魔力を放出させることができる。この魔法を使えば素質のある者は分かるはずだ。」


「分かった。すぐに集めさせる。とりあえず100人ほどでよろしいですか?」


「いや、時間に制限がある。とりあえず20人でいい。」


 ホフマンスが一礼して外へを歩き出した。残ったサイモンがまだ納得いかない顔をしている。


「その20人の内、半分が魔法の素質がある者としても到底足りない。それにすぐにその感覚を自分の物にすることはできない。どうするつもりだ?」


「素質がある者には然るべく教育を、それまでは今の魔法を使って魔力だけ貰えばいい。」


「なんだ、お前、毎日来るつもりか?」


「冗談言うな、そんな暇はない。魔法は教えるから、後のことはサイモン、お前に任せる。」


「おい、いいのか?遺失魔法の一つなのだろう?」


「ああ、そうだ。使い方によっては無限に魔法が使えるようになる魔法だから秘匿していた。今までマギー以外には教えていない魔法だが、お前なら悪用することはないと信じている。」


「分かった。そこまで言われたら期待に沿えるようにしなくてはならないな。」


 しばらくしてホフマンスが村人20人を連れて戻ってきた。これから行なうことを説明しなくてはいけない。


「これから魔法の素質があるかどうか調べます。魔法の素質があると分かった者には魔法の学習をしてもらうことになりますが、現時点でテスト自体を拒否しても構いません。テスト自体に少々気分が悪くなる可能性があります。それでもよろしい方だけ残って下さい。」


 俺の説明に並んでいる者達がガヤガヤと相談している。


「すいません、魔法を習うのには大金が必要だと聞いてますが?」


「いや、魔法の学習に金をとることはしない。これからのグランゼに必要になることだから、そのことは俺が保証する。」


「分かりました。サイモン様がそう言われるなら喜んでテストを受けましょう。」


 サイモンの宣言に心配そうにしていた者達が目を輝かす。列を作り順番を待っている。


「ではこれから魔法の素質の有無を調べるテストを始めます。一人ずつこちらの陰に来て下さい。」


 一人を連れて倉庫の陰に移動する。たテストの結果、20名中6名に魔法の素質があると分かった。

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