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計画の発動

 執務机には公衆浴場建設の計画書が幾つか積んである。これから各都市ごとに責任者を呼んで段取りを説明する。ローザライン、メタルマ、グランローズ、グランゼ、ノイエブルク、連合王国、エグザイルの7都市を計画している。まずはノイエブルク担当のシャッテンベルクとライムント16世を呼んである。


「ノイエラント担当としてシャッテンベルク殿を推薦します。」


「そうか、まあそれは妥当だとは思うが、ならわしは何故呼ばれたんじゃ?」


「学院長にはノイエブルク国務大臣シュタウフェン公との交渉をお願いしたいと思います。あの国で何かするには絶対に必要なことだかと。」


「なるほどのう、外務官が直接陳情しに行くわけにもいかぬし、呼びつけるにはある程度の形式が必要と言うわけか。と、なるとわしが適任じゃな。」


「ご明察恐れ入ります。真に恐縮ですが先王の肩書きを利用させていただくことになります。他の何者にもできないことです。」


「宰相殿、困ります。私に陛下を補佐の様に使えということですか?恐れ多いことにございます。」


 シャッテンベルクがかなり困惑している。珍しく大慌てで両の手と共に頭を振っている。


「よいよい、わしはもう国王ではない。ここは喜んでそなたの補佐をさせてもらおう。」


「ですが・・・。」


 ちらっと俺の方を見てなんとか断ろうとしているが無視することにする。


「ではシャッテンベルク殿、お願い致します。まず先王ライムント16世の名前で国務大臣シュタウフェン公を招待、その席で今回の計画を説明して国務大臣にいくらかのうまみがあることを示唆して下さい。」


「もしかして賄賂でも渡すのですか?宰相殿はそういったことがお嫌いだと思っていましたが・・・。」


「ええ、大嫌いです。賄賂を渡すつもりは毛頭ありませんし、今回はその必要もありません。」


「どういうことですか?あの欲張りなシュタウフェン公が賄賂なしにこちらの言うことを聞いてもらえるとは思えませんが。」


「賄賂がなくても公にうまみがあればいいのです。まず建設する土地の貸与契約、場所の選定はシャッテンベルクにお任せしますがおそらく公の介入があるはずです。」


 シャッテンベルクとライムント16世がほうっと感心した顔をしている。


「次に実際に建設する業者を紹介してもらって下さい。意味は分かりますね。」


「分かります。“腕の良い業者に心当たりはありませんか?私どもはこちらの業者に伝手がありませんので公爵様に紹介して頂けると助かります。”とまあ、こんな感じですね。」


「そうです。まず間違いなく公爵の手のかかった業者が紹介されるでしょう。後は向こうからの要望はなるべく聞いて下さい。建物や設備に関すること、納品業者の指定など、この計画書予算の範囲内なら自由に使って構いません。多少投資が大きくなっても必ず帰ってきます。」


 ノイエブルクの計画書をシャッテンベルクに渡す。ぺらぺらと捲って目を通しているがあまりの金額に驚いたのか声が漏れた。


「これほどまでとは・・・・・いえ、失礼しました。必ず宰相殿の期待に応えてみせましょう。」


「はい。ではお任せします。学院長もよろしくお願い致します。」


 俺が頭を下げて話を区切ると、二人は一礼してから執務室を辞した。ライムント16世は飄々としたまま、シャッテンベルクはいつも通りピッと背筋を伸ばしたまま出て行った。


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 次はグランゼ、サイモンとホフマンス、クロウが並んでいる。


「グランゼには給湯器と冷蔵庫、そして洗濯機を貸す。建物や設備はそちらが好きなようにしても結構だ。」


「好きにしてもいいと言われてもよ、どうすればいいかよく分からん。」


「ならこれを見てくれ。」

 

 三部作ってあるブランゼ用の資料を渡す。そこには簡単な仕様しか書かれていない。


「こんな適当でいいのか?俺は風呂と言うともっと豪華な物を想像していたのだが・・・。」


「今のグランゼにそんな物要らないだろう。大きめの池と体を洗う場所、それらを囲う建物があればいいさ。いずれ余裕ができてから作り直せばいいだろう。」


「二度手間ではありますが、現時点では選択肢はありませんな。豪華な建物を作るには金も時間もありません。」


「さすがは元国務大臣、そこまで計算できると話は早い。冷蔵庫や洗濯機もお任せして良さそうですね。」


「ふん、つまらぬ世辞は要らぬ。まあ貴国に全てを依存するわけにはいかぬ故、好きにやらせてもらう。」


 ホフマンスが面白くもなさそうに話す。昔からそうだが表に感情を表すことはほとんどない。


「それで十分です。クロウも二人をよく補佐してやってくれ。」


「了解、またローザラインに戻るのが遅くなりそうだな。」


「嫌なら他の者を当てるがどうする?」


「おいおい、勘弁してくれ。今更返せと言っても駄目だぞ。クロウはこっちのものだ。」


 サイモンが茶化す。本気でそう言っているのが分かるのか、クロウが困惑しながらも喜んでいる。


「まあそれはクロウの判断に任せる。あとはいいか?」


「俺はこれでいい。ホフマンス、お前はどうだ?」


「現時点ではない。疑問があったら随時連絡させてもらう。」


 ホフマンスが席を立つ。釣られるようにサイモンが立ち上がり、続いてクロウも立った。


「じゃあ、俺達は行く。また何かいい物があったら教えてくれ。」


 サイモンが部屋を出て行く。その非礼な態度を詫びるかのようにホフマンスが一礼を残して去り、クロウが同席していたドゥーマンに目で挨拶をして出て行った。


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 アレフ、アイゼンマウアー、ゲオルグ、リスター王子が並んで座っている。最初立ったままだったアイゼンマウアーとゲオルグもアレフの一言でやっと座ったのだ。


「ノイエブルク、グランゼのことは決まりました。ここにはいませんがメタルマはマギーに一任します。残った6人で担当する都市を決めましょう。」


「僕が思うに、連合王国のことはリスター王子にお任せすればよろしいのではないですか?」


「残念ながらそれはお勧めできませんね。私が表立って動くと残りの二家の反発を受けると思います。だれか然るべき方を立てるべきだと思います。」


 アレフの提案にリスター王子が異論を述べた。説得力があるので文句を言う者もいない。


「然るべき方とはどういうことでしょうか?」


「連合王国は伝統と建前を大事にします。そう言った意味で然るべき方と言いました。」


「となると、陛下か宰相殿しか適任者がいませんな。私やゲオルグでは余計な反感を買うことになりかねません。」


「そうですか、では私が行くしかありませんね。」


「いえ、ここは僕に任せてもらえませんか?対外的なことを全て任せているのは忸怩たるものがあります。」


 アレフが何時になく強い口調で話す。飾りのような王の座を居辛く感じていたらしい。


「陛下、なりません。もし御身に何かあったらどうするのですか?」


「何もありませんよ。敵地に行くわけではありませんから。」


「ですが・・・。」


「アイゼンマウアー、だったら補佐としてついて行けばいい。国王に何かないようにするのが近衛騎士の仕事だろう。」


 本当は俺も反対なのだが、ここはアレフの意思を尊重する。俺は自由にやらせてもらっているが、立場に雁字搦めになっているアレフの気持ちも分かる。ここはアレフの成長を期待して任せたい。


「分かりました。では不肖アイゼンマウアー、陛下の補佐を務めさせて頂きます。」


「よし決まりだ。連合王国の三王家の扱いはリスター王子に聞いてうまくやって下さい。」


「それはお任せください。我がマクダネル家は問題ありませんが、フェアチャイルド家、ロッキード家は十分に注意した方がいいでしょう。」


 リスター王子がそう言うとアレフとアイゼンマウアーが敬意を込めて一礼した。


「リスター王子にはもう一つお願いがあります。」


「なんですか?」


「エグザイルをお願いします。王子は連合王国やエグザイルの商人に信頼がありますから適任だと思います。我が国のことに他国の王子を頼るのは筋違いでしょうがここは聞いて頂きたい。」


「ええ、構いませんよ。私だけ仲間外れかと心配しておりました。それで私には何か助言はないのですか?」


「特にありません。計画書の範囲なら好きにやってもらって結構です。」


「分かりました。なにか困ったことがあったらまた相談します。」


 なにかとても嬉しそうだ。頼りにされたことが嬉しいのか、任された計画への期待感かは分からない。


「ではローザラインとグランローズは残りの三人で担当しよう。主にローザラインはゲオルグ、グランローズはドゥーマンに任せる。それでいいか?」


「おう、任せろ。ローザラインは何処の誰に見せても恥ずかしくないものを作らせてもらう。」


「グランローズか、いずれ港湾都市とするからには船に携わる者の助言が必要でしょう。すぐにトラーフゲンガーを呼び戻さねばなりますまい。」


「任せる。各自良いように話を進めてくれ。随時相談に乗ろう。」


 これで全てが決まった。後はメタルマに跳んでマギーに説明すればいい。

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