円卓会議③
「僕としては他の国とは言え、下の者に迷惑をかけたくありません。これらの道具は封印する、もしくはしばらくは限定して使うべきです。」
「うちには全部は要だ。他の国はともかくうちはまだ十分な人数が揃ってない。人手を少なくできる道具はのどから手が出るほど欲しい。汗と泥で汚れた連中を風呂に入れてやりたいし、食料を無駄にしなくてすむのは魅力的だ。それに洗濯している女どもからの陳情がダニエラを通して俺の耳に入ってきている。」
「ダニエラか、いつの間にそんな関係になっていたのかは知らないが悪くない話だ。」
「いやっ、そんなんじゃねえよ。」
ちょっとかまをかけるとサイモンが赤くなって否定した。ホフマンスを除く全員がその顔をにやにやして見ている。
「サイモン、誰も責めてないから心配するな。リスター王子、連合王国としてはどうですか?」
「そうですね。やはり一国の長ともなると女性の一人や二人いるべきですね。いや、冗談ですよ。」
台詞の途中でサイモンに睨まれたリスター王子がサイモンの怒気を笑って受け流す。
「連合王国だけを考えると絶対に必要な物はありません。どちらかと言うと無駄に人手を使わせることに贅沢や見得を感じる風潮がありますからね。おそらく宰相殿が心配されるような影響は大きく無いでしょう。」
「学院長はどうですか?ノイエブルクの王族についてよく知っていると思いますが。」
「ふむ、そうじゃな。今残っておる王族の奴隷に対する強制力や独占欲は半端ではない。たとえ便利な代物が出回ったとて一度手に入れた奴隷を解き放つことなど考えられぬな。それよりその下の貴族の動向の方が問題だろう。ホフマンス、そなたはどう思う?」
「はっ!私が思いますに昨今のノイエブルクは食料の高騰に苦しんでいました。それゆえにほとんどの貴族が農奴の維持に苦労をしていました。初期投資さえ可能ならこれらの道具を買って、人員の整理をするかもしれません。ただし、彼の地の魔法修得率は10%以下、それも農奴で魔法が使える者は1%もいません。となると魔法が使える貴族の子弟がその役を担うことになるでしょう。」
ライムント16世とホフマンスは長年の癖でまるで主従のように話している。
「なるほど、ここでは魔法を使える者が結構いるから忘れていたな。この円卓だと魔法を使えないのはゲオルグぐらいか。」
「いえ、私も使えません。若い頃に修得を試みましたが素質がなかったようです。」
ホフマンスが手を上げて申告した。予想外だったが力がなくても魔法が使えなくても使える人材はいるものだ。
「と、なると魔法を使える者を育成する必要があるか。学院長、学院の生徒で魔法を使える者はいますか?」
「う~む、まだ報告は受けてはおらぬな。10歳に満たぬ子供で魔法を使える者などそうはいないのではないか?」
確かにそうだ。生来、魔法を使える者など一万人に一人もいない。まず魔力を放出することを修得する為に誰かに師事しなくてはならないのだが、習ったからと行って必ず修得できるわけではない。ホフマンスが言ったように無駄になることも少なくない。それ故に金に余裕のある者でないと魔法は修得し辛いのだ。
「ドゥーマン、お前はどうやって魔法を覚えた?」
「父に習いました。我々のような平民は親族に魔法使いでもいないと覚えることはできません。クロウには私が教えました。」
「うちの家系は代々魔法使いだから英才教育を受けていたわ。ケルテンはどうやって覚えたの?」
「まず町で魔法が使える者に習った。その後は南の島の賢者に師事した。何度も追い返されたけどしつこく押しかけたら向こうが根負けした。」
「「「嗚呼、なるほど。」」」
何人かのため息が一斉に聞こえた。なぜか納得したらしい。
「話が外れました、魔法に関してはまた考えましょう。ここで出てきた情報を纏めます。これらの装置が流通して困るのはエグザイルとノイブルク。どうしても欲しいのはグランゼで、連合王国はどっちでも構わない。」
「メタルマも必要よ。まだ人が足りないし、鉱山の仕事はかなり汚れるから風呂や洗濯機は必須ね。それにその二つに人手やお金がかからなくなったら、その分食事にお金がかけられるわ。」
「OK、マギー。では全員で決を取る。これらを流通させることに賛成か反対か。まずは賛成の者・・・。」
サイモン、クロウ、マギーの三人が手を上げている。少し遅れてシャッテンベルクが手を上げる。
「では反対の者・・・・。」
アレフ、アイゼンマウアー、ライムント16世、ホフマンスの4人が手を上げる。
「他の方は保留でよろしいですか?」
ドゥーマンが何か言いたそうに手を上げている。手で発言を促した。
「無理にはいといいえだけで決めることはないでしょう。私は限定して流行させればよいと思います。先日温度調整機については理由を付けて断りました。同じことができるのではないですか?」
「私も同意見です。せっかく作ったのですから何とか生かしてやりたいものです。」
「リスター王子、無責任な意見は言わないで下さい。それができればこんな会議はしていません。一度放った矢は戻ってはこないのですよ。」
「では矢を放つのは止めましょう。矢を手に持ったまま刺せばいいのです。」
リスター王子がなんとも言えない笑顔をしてみせる。謎かけのような言葉に答えを見つけた。
「なるほど、商品として売るのではなく施設として貸せばいいのですね。皆さん、改定案を提示します。他国の町に公衆浴場を作ります。さらに食堂を併設して冷たい飲み物でも提供する。国内でも同様にしますが、国内に限って大勢の洗濯物を洗える設備も作りましょう。」
「俺はそれで構わん。他の国のことはどうでもいいからな。」
「サイモン、グランゼはノイエブルクの一部です。思慮のない発言は控えて頂きたい。」
「まあいいじゃねえか。一切の援助もしてこない本国など他所の国みたいなもんだ。」
サイモンとホフマンスの会話を横に座ったクロウが笑って見ている。いつも通りのことなのだろう。
「私も賛成、グランゼと同じくメタルマはそれらの設備を欲しているわ。」
「リスター王子、連合王国や他の町はどうでしょう?」
「そうですね。連合王国に作ったら面白いことになりそうです。できれば現地で人を雇ってもらえると助かります。これは他の町でも同様ですね。」
「検討してみます。装置に関わる所はこちらから派遣した者でなくてはいけませんが、それ以外ならなんとでもなります。」
大体の方向性は決まったが、さっき反対していた者の了承は得たい。
「ノイエブルクはどうしましょうか?」
「そうじゃな、わしとしても離れたとは言えかつての民が不幸になるのは本意ではない。それにその公衆浴場とやらは誰でも利用できるのであろう?」
「勿論です。まだ計算していませんが入場に10G程度もらえれば運営できると思います。」
「ではそれで構わぬ。うまく両国が繁栄できるよう取り計らってくれ。」
ホフマンスがライムント16世の発言に頷いている。後はアレフとアイゼンマウアーだが・・・。
「私は陛下の御意に従います。アレフ陛下、いかが致しましょうか?」
「そうですね。ぼくもそれで構いません。ただしあらゆる方面で十分な対策をしてからにして下さい。このことによって誰かに迷惑がかかるのはできるだけ少なくして下さい。」
「分かりました。ではこれから入念な計画を練り、各国には事前の了承を得ます。その結果、賛同を得られる国、町にのみ計画を実行します。では決を取ります。賛成の方は手を上げてください。」
円卓に座る者達の手が上がる。上がった手は11本、全員の賛成をもってこの事案は決定した。




